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能力アフター  作者: 佐藤同じ
27/55

03話011

梅雨前線と

台風のコンボは、

やめて下さい。

翌日、日曜日、

天宮学園、第一高、四階、生徒会室に二つの影があった。


「でゅふ、でゅふふ。」

交通事故で、ムチ打ちを起こし、首にギブスをはめたビア樽のような男が、あぶら汗を垂らしながら、目の前でモッチャモッチャとドーナツを食べている。


「今回のような事は、これで最後にして欲しいでござるな。生徒会長どの。」 


三年、エレクトロテスターDクラス、ダブりのコンピ研、部長、玄岳 良夫だ。


彼の前には、会長のイスに座った、どんよりとした、目の不知火あらたがいる。

その死んだような瞳からは、なんの感情も読み取れなかった。


七号土手駅、

赤い電車から、杖をついた茶髪メガネが降りる。

改札には、白衣の少年が待っている。


イブの見物がしたい。と言うので仕方なく迎えに来たのだ。


「おい、しん。知ってっか?お前の超研部の回りの部活、ほとんどが、生徒会の手が回ってて超研部の監視してたって。」

右足を引きずりながら、友樹。

軽い捻挫で済んだそうだ。すぐに松葉杖も要らなくなるって話だ。


「まーな。天文部以外は、ほとんど、そうだろ。公然の秘密みたいなもんだ。クロ兄に聞いたよ。」

「なんだ。知ってたのか。」

残念がる友樹。

大方、治療中にクロ兄に聞いたのだろう。


特にイブ関連の情報は、会長自身が出張るほど、食い付きがよかったらしい。あのヒョロ長ノッポ、ロリコンだろうか。


しかし、そんな事はどうでもいい。


あの後、イブとしずく、二人の事でてんやわんやだったのだ。

特にイブ、彼女の事が、世界的に平和理に収まって見えるのは、ひとえに、ハドリア師匠の卓抜とした政治手腕によるところが大きい。


各国上層部に情報開示を行うと共に、イブに日本の国籍を与え、アルカ国際条約のもと、東アルカで保護することを決めてしまう。

いくら、月のイブの所有権を各国が主張しようが、彼女個人の人権は別問題と、区別した訳だ。

これにより、迂闊に手を出せなくなる、諸外国。


ほぼ、全領域を起動させ、活動を開始するイブ。

この宇宙、全ての森羅万象を、演算可能と言われる無限の叡智は、その全能力を一人の少女に集め、注ぎ込んでいる。

それが一体何を意味するのか、どんな事態を招くのか。

世界各国が戦々恐々として、固唾を飲んで注視していた。



「でゅふふ、生徒同士を監視させる管理方法は、健全な、学生生活には、そぐわないものでござる。

たとえ、権力に弾圧されようと、断固、意を唱えるでござる。」


依然、生徒会室にて、あらたに、しんの監視を辞めさせようと、頑張るクロ兄。


「、、、、、、、、」

無言のあらた。


だんだん顔色が、ドス黒くなっていくクロ兄。

「でゅふふ、、、、さては、、、、意にそぐわぬ者を粛正するるで、、、ござるるぅか!」

ろれつも回らなくなっている。苦しそうに、膝をつくビア樽。


「我は、、、屈せぬでぇござるるぅ、、、、自由はぅ、、、、決してぅぇっ、、、、」

ドタン、

と倒れ伏すクロ兄。


「、、、、、、、、、」

ピクピクと痙攣する、ガマガエルのような玄岳を、見下ろすあらた。

彼は特に何もしていない。


緊張とストレスで、脳梗塞を再発したのかもしれない。

暴飲暴食を見る限り、摂生しているようにも見えなかった。


自業自得と言える。


「、、、、立夏。救急車を呼んでくれ。」

携帯で話しながら、片手で巨漢を脇に抱えて、階段をおりる。

130キロオーバーを楽々とだ。


こんな所で死なれても迷惑なだけだ。

さすがに、日曜日に、智由保険医はいない。

病院に任せるしかないだろう。


『10分で到着します。昇降口へ向かってください。』

感情がゴッソリ削げ落ちた声が、答える。

アンバーをバックアップする研究施設から中継され、イブの内部の、彼女のプログラムにアクセスできる。


驚いた事に、アンバーの秘匿プログラム、立夏の人格は消えていなかった。

どういうつもりか、気付いていながらイブは、彼女を見逃しているらしい。

理由は、立夏にもわからないそうだ。


どうあれ、あらた達には、選択の余地はない。

7月のターミナル コア開設記念式典まで、現状が続くのを祈るばかりだ。


救急車で運ばれていく、玄岳良夫。

その事を、しん達は翌日、月曜日に知ることになる。


ありがとう。クロ兄。

さらば!コンピ研の勇者よ!

私たちは忘れない。あなた勇姿を、その笑顔を!

空の彼方から、ずっと見守ってください!


別に死んではいないけど。


果たして彼は、今年、卒業できるのだろうか!


どうでもいいけど。


日曜日、山下宅。

家に戻ると、背もたれの無いオットマンチェアを二つ引っ張り出してきて、

リビングにて、リンがイブのアッシュブロンドの長い髪をサイドテールにして、遊んでいる。

「ど、どうかの?主人どの、、、」

「おー!かわいーぞ。イブ。」

「う、うむ!」

真っ赤になってフニャフニャする少女。


ドン!

ローテーブルに片足をかける那智。

正面三人掛けソファーをひとり、占拠している。


「いい!?リン!しずく!なんで、こんな変態が、こんな、いたいけな少女を預かる事になったか知らないけど!一致団結!協力して彼女を守るわよ!」


彼女はアンバーだが、紫煙から自分達を助けてくれた恩人だ。

よくわからないが、恩義には最大応えなければならないと、仲間、保護対象として、イブを受け入れる那智。

そこらへんは柔軟のようだ。


いや、だが、しかし、いい加減、帰れよ、お前。と思う。


昨日、なんやかんやと、一泊した那智とリン。合宿のように、二人とも、楽しそうだった。

ラッキースケベを狙うが、中々隙のない両名である。残念。


「私、、、、どうしたんでしょう、、、、どうなっちゃうんでしょう、、、、」

那智の左となり。シングルソファーで頭を抱えている、みず希しずく。


その脳裏に響く声。

『しずく姉〜〜〜あさっては、私が学校行く番ね〜〜〜〜!』

みず希 紫煙だ


彼女は正式に、しずくの第二人格として、しずくの14才の妹ととして、イブと一緒に天宮学園一高付属中等部に通うようになった。

しずくも紫煙も頭がいいので、交代交代でもとくに問題はなさそうだ。


昨日は、あれから、しずくのメデカルチェックや心理テスト等、大騒ぎだったのだ。


まあ、これもハドリア師匠の計らいで、すべてつつがなく、平和理に事態は終息する。


イブは、オレの遠い親戚のいとこ。山下イブとして。 

紫煙はみず希しずくの妹として、日本国籍、アルカのIDも獲得した。


しずくの母親は、あらあら、まあまあと、事態をノホホンと認め、しずくの中等部時代の制服や洋服を用意する。

日本の主婦、恐るべし、だ。


ついでに、イブの服や、色々世話まで焼いてくれた。ここ数年、白衣の少年もかなり世話になっている。山下少年の理想の母親像といえるだろう。

彼の実際の母は、フルメタルジャケッOの、ハートマン軍曹みたいな鬼教官だが。


面白いのは紫煙の変わりようだ。

彼女は、イブに対して絶対の服従を誓っている。

本能的な恐怖を刷り込まれているらしい。彼女がイブの中に何を見たか知らないが、

イブの目が黒いうちは、大人しくしているだろう。


呼び名もイブ様、イブ師匠を経て、イブちゃんに落ち着いたらしい。縮こまる彼女にイブも閉口している。


那智とリンにはちゃんと謝罪させた。二人はまだ警戒しているが、そのうち慣れるだろう。


そして、イブの事で残念な事が一つある。


「世界征服とかできないんだとー。」

イブとリンが用意した、お茶をすするしん。


彼は、那智の右側のシングルソファーに座っている。隣にもう一つオットマンチェアーを出してきて友樹が茶を飲んでいる。


「当たり前じゃ。わらわが、そんな悪行、看過するわけがないであろう。」

茶をすすりながら、イブ。

融通が利かない事、極まりない。


「お前は、どんな性格設定をイブちゃんにしたんだ?」

何気なく、友樹が聞く。


「清廉潔白!品行方正!晴天白日!夢見がちな乙女、だ!!」

ビシ、

と変なポーズを決める、白衣の少年。


「無い無い、ないわ〜。どんだけ夢みてんの。お前。正直引くレベルだぞそれ。」

白い目を向ける茶髪メガネ。


「ぐぬぬ、、、、」

うるさい!友樹のくせに!

人の理想の女性像にイチャモン付けやがって。


とか思う少年だが、そのご都合的、理想像が彼の犯罪志向の、強烈な抑止力になっているのだから、皮肉な話だ。


ともかく、しずくと紫煙。

イブと立夏。


二つの人格を秘めた少女達が東アルカに、現れた事になる。

それが何を意味するのか、

知る者はまだいない。


東京湾の人工島。

東アルカの上空を舞う、多目的汎用ヘリコプター、ベル206。


オフィス街と商業区の境にある、5200平方メートルのハドリアの豪邸の上をホバリングする。

敷地内のプールが中央で割れ、激しい水流と共に、地下ヘリポートが現れる。


バラバラとローターが風をかくはんする中、降りて来る長身の白いマントの男。


「おとうさま!」

美しい金色のウエーブしたロングヘアを手で押さえながら、瀬里奈Sフィールズがハドリアに近づく。

「ホントにいいのですの?あの子を山下しんに預けるなんて!」

ハドリアはヒマでは無い。

単刀直入に疑問を問う。


「問題ない。アルカでバックアップするさ。」

笑顔を見せるハドリア。


「イブは、テレスティアでも私でもなく、しんを選んだのだ。口惜しい話だがな。」

「理事長!」

秘書のマツリが、彼を即す。車の準備が出来ている。


ハドリアは、香港での、緊急8カ国会議からの帰りだ。秘密裏だが、イブ関連の調整だ。

今から、アルカの政庁で国内会議がある。


彼はアレからマトモに寝てはいない。移動の最中にうたた寝するのみだ。

タフと言っても限界はある。


「お嬢さま。」

小柄な秘書は、些末な事に関わる暇はないと言外に、瀬里奈に伝える。

しかし、だ。


「しずくの事も!」

彼女の二重人格は、突然のAクラス能力、覚醒による、精神不安定がその理由とされている。

「二つのAクラス能力を持つ、極めて珍しい、デュアル能力者になるわけですわよ!」


「若いのさ。」

「おとうさま!」

茶化しているのかと思うが、その後、彼女は聞いたことのない事柄を耳にする。


「北海道事変の当事者だからね。それぐらいの事はありえるのさ。」

車に乗り込むハドリア。


遮るように、おじぎをする、美人秘書。


彼にしては、地味な黒い公用車が地下スロープを上がっていく。


「お嬢さま。」

残る瀬里奈に心配そうに、美貌の書記、椎名葵が声をかける。


「、、、、、、、、」

判然としない不安が、暗雲のように広がっていくのを感じる瀬里奈。

事件はまだ、始まったばかりなのかも知れない。


END

また来週。

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