03話010
暑くなったり、寒くなったり
大変ですね。
話は少しさかのぼる。
「那智殿の声、何かおかしかったの。」
彼女から、連絡があった直ぐ後だ。
海底トンネルの車上、イブが言う。
こんな騒音の中、聞こえるものなのか。そもそも、彼女達の説明をイブにしたわけではない。
自分の人間関係は、完全に把握されているらしい。
嫁に首根っこ押さえられててるのだから、いい事ばかりとは言えないだろう。
「どーゆーこった!」
「少し待て。彼女の端末にアクセスして、モニターする。携帯で、会話が聞けるぞ。」
自分の携帯から、集音、イコライズされた、明瞭な会話が聞こえる。
那智の携帯をリモートで立ち上がらせ、周囲を探っているのだ。
当たり前のように、アダム一層を突破するイブ。
「すげーな。お前。」
あきれるしかない、白衣の少年。
「た〜〜やすいことじゃ〜〜〜。うむぅふ〜〜〜。」
受け答えが変だ。ほめられて、嬉しいらしい。
「Aクラス能力者を、ハックするだと、、、、」
つぶやく、しん。
自宅の彼女達のやり取りは、とても、信じられない話だった。
「先のハッキングといい、総合するに、電子戦特化の電気使いじゃな。しかもAクラス相当。戦闘力も侮れないじゃろう。」
正確に分析していくイブ。
話しを盗み聴きした限り、敵はしずくの、第二の人格らしい。
彼が、みず希しずくの声を聞き違えるはずはない。
全く別の人間が、彼女の声で話す。非常に不愉快な話だ。
「いいか、主人殿。肝心なのは、いかに奇襲を成功させるかじゃ。」
再三再四、繰り返すイブ。
それほど、紫煙の戦力は圧倒的と予測できるのだ。
スキを付いたとしても、あの二人を制圧したのだ。普通ではない。
車をオートで走らせ、囮にし、イブのディセプション、リピーターで、紫煙のレーダーを欺瞞してかわし、背後から撃つ。
コレが唯一無二の作戦だったのだが、那智を痛ぶる紫煙を見て、奇襲のマージンを投げ打ってしまった、白衣の少年。
そして、現在に至る。
「てめーーー!!」
許せるものではない。しずくの姿と声での、横暴非道。少年にとっては、二重の意味で許し難い状況だった。
未熟さを、露呈、キレてわめくしん。
しかし、これは完全な、悪手。失策だ。
一瞬のウチに体制を立て直し反撃に移る紫煙。
「死ねぇっ!!」
グアラアアッバキィィイイイン、
問答無用、まばゆい致死の稲妻が少年を直撃する。
まずい事に、ネコ耳リン撮影後、那智に白衣の内部装備を引き剥がされていたため、ほぼタダの白衣に雷サージプロテクト機能はなかった。
白煙をあげて、屋根向こうに吹き飛ばされる少年。
(しん!?)
絶望の那智。
「キサマッ、、、、、、!!!」
総身を巡る煮えたぎる激怒に、赤光を放つイブの瞳。
衝撃波を放ち、彼女が消える。
ドカ、
メキメキメキ、
正確に、紫煙の心臓を穿つイブ。
「ガッはぁっ!」
血反吐を吐く紫煙。能力強化が遅ければ、あばらを砕かれ、心臓をえぐり取られていただろう。
能力の行使は感じられない。サイボーグか、強化人間の類か。
攻撃の優先順位の過ちを悟る、紫煙。
最初に潰すべきは、しんではなくこの、銀髪の少女だった。
ドカアアアアン、
地響きを立てて、家の前の土手に激突する二人。コンクリートのブロックが吹き飛び、土壌が抉られる。
凄まじい運動エネルギーだ。
両手でガードする紫煙を、容赦なく力任せに殴り付けるイブ。
速攻あるのみだ。那智を加勢に呼ばれたら、万に一つも勝ち目は無いだろう。
その効果は、有った様だが、Aクラス能力者の地力はやはり、卓越している。
グアラッバリバリッ、
紫煙の周囲に集まる電荷エネルギー。
ズドン、
上空に吹き飛ばされるイブ。
軽く上体をひねり、土手の向こうへ。
稲妻が狂った様に彼女を追撃する。
「テメェ!何かやってやがるな!!」
血へどと鼻血を拭いながら、土手に立つ紫煙。
完全に頭に血が昇っている。
辺り構わず、900メガジュールの落雷を撒き散らす。
好天の土曜日の昼。河原の土手、緑地公園でジョギングや、公園で子供を遊ばす人々が、
悲鳴を上げて逃げ惑う。
高速移動で攻撃を散らすイブ。
「クソ、、、、!」
なにかが、おかしい。自身もブーストムーブに移行しながら、奇妙な違和感を感じる紫煙。
落雷のエネルギーが減衰しているのを感じる。
さっき銀髪を捉えたイナズマも、白衣の変態を撃ち抜いたそれも、奇妙な手応えの無さを感じていた。
多分、山下しんも生きているだろう。
銀髪が何か小細工をしている。
ならば、それごと打ち砕くのみ。
グワバアアン、
最大出力のイナズマが銀髪の白衣を撃ち抜く。ボロボロになって焼き尽くす。
「やっっっ、、、、、」
バッカアアン、
ドゴアッ、
「ぐはあっ!!」
手術着のみの少女が、紫煙に延髄蹴りをぶちかます。
後頭部に殺人級の衝撃を受け、公園の隣り、五面のテニスコートに墜落。大穴を開ける紫煙。
白衣を使った、古典的なフェイントだ。
「この、、、」
額から出血しながら、すぐさま跳ね起きる紫煙。
ズガアアアン、
イブ、追撃の急降下蹴り。
大穴がクレーターに変わる。凄まじい砂ぼこりが周囲一帯を巻き込む。
巻き込まれた一般人は、パニック状態だ。
「テメェ、、、、PDCE避雷針か!」
やっと、相手の能力に思い至る紫煙。
紫煙の稲妻といっても、プラスとマイナスをもった、電気エネルギーには変わりない。
消イオン容量型避雷針は、そのプラスとマイナスの電荷をコントロールして中和してしまう。
彼女が感じていた、力の減衰はそのせいだろう。
つまり、相手もかなりの電子戦能力の持ち主という事だ。
紫煙の能力に合わせて、ジャミングをかけるなど、並の技量では不可能だ。
「しゃらくせぇえええーーーーーーーーーー!!」
グワバアアン、
まばゆい、エネルギーの光球の輝きが、辺りを圧する。
「ぬう、、、。」
牽制にばら撒かれる稲妻に阻まれ、接近ができないイブ。
紫煙が作る巨大な光球、あれは、誘導結合プラズマだ。
電極に左右されない、高エネルギー。1万Kのプラズマが辺りを破壊し焼き尽くすだろう。
避けなければ、ひとたまりもない。
「死ね。」
ヴァゴオオオオッ、
イブが、川の方向に誘導したせいで、人的被害は無い。
しかし、テニスコートと公園の半分が消え去っていた。
広大な河川が蒸発し、隣の橋梁を走る自動車が次々と衝突事故を起こす。
激しい水蒸気爆発と衝撃波に流され、隣の野球グランドまで飛ばされるイブ。
「なんて事を、、、、」
うめく彼女の背後を取る、紫煙。
「つっかまえた♡」
「しま、、、、、」
バチ、
銀髪の後頭部を掴み、能力を解放する紫煙。
巨大プラズマは囮だったのだ。目的は銀髪の少女のみ。
まんまと、イブを手中に収める紫煙。
が、しかし、彼女は致命的な間違いを犯す。
単に倒すのではなく、自分の手駒として、支配しようとしたのだ。
彼女の戦闘能力をみれば、そうしたいのもわかるが、相手は、、、、、
「なんだ、、、、ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
イブの内部に潜った紫煙を襲う、果てのない情報の渦。
それは、幾千、幾億の宇宙の記憶。
10の−34乗の情報爆発。インフレーションを経て、ビッグバンへ。
折り重なる、あまたの、平行宇宙。
素粒子、反物質が陽子、中性子、電子、ニュートリノ生み、水素とヘリウムの原子核のプラズマ、電子のプラズマを生む。
すべての始まりから、この間180秒。
その後の3万年の原始の時代を経て、1億年の恒星の時代。
そして、10億年の銀河の時代、80億の太陽系の時代。
138億の人がある宇宙の時代。
全ての時代、次元、存在
その全ての情報を網羅、管理する、強大な記憶と思考。
紫煙が認識出来たのは、ほんのその一端、ごく限られた一部に過ぎない。
しかし、彼女の精神崩壊を招くには充分すぎた。
人類初めて、イブの本質に触れた少女は、彼女の前に、廃人と化して倒れ臥していた。
「愚か者が、、、」
ポツリとつぶやく、アッシュブロンドの少女。
「イブーーーーーーーーーーー!」
バタバタと土手を駆け降りて来る、白衣の少年。
屋根から吹っ飛ばされたにしては、中々、元気である。
「うげ〜〜。派手にやったな〜〜〜。」
広い河川敷の半分は削り取られ、残った公園、テニスコート、野球グランドも、ボコボコになっている。
イブは軽々と、、しずく?いや紫煙を抱いて歩いてくる。
「それで、どうするのじゃ主人どの。」
アッシュブロンドのロングヘアーの少女がたずねる。
「今ならば、この厄介な第二人格、キレイに消し去る事も可能じゃ。」
しずくのためには、それがベストかもしれない。
「ん〜、、なんなのコイツ?」
とりあえず、聞いてみる。
「うむ。一言で言えば、子供じゃな。
ひどく不安定な精神。自己顕示欲が強い、いびつな劣等感の塊。」
まるで、何かをさぐるように、少女はたずねる。
「未来の危険性を考えるならば、もう一つの心なぞ、消した方が後顧の憂いはあるまいに。のう、主人どの。」
「うん、、、、」
少し考える少年。
パパンに連れられて、全国津々浦々、果ては海外と色々、巡って来たが、意外にポロポロと人の命は消えていくものである。
しかし、だからと言って、ないがしろにしていいモノなど一つもないだろう。
簡単に消す、という彼女の言葉がひどく引っかかる。
「それは違うぞイブ。間違っている。」
不合理極まりないと思いながら、しんを見る少女。
「意味もなく生まれる心はないし、ないがしろにするもんでもねー。出来ちまったもんはオレは認知するぞ!」
訳の分からない事を言い始める少年。
なぜかは知らないが、紫煙というのも、しずくの一部のような気がする。
まだ騒然としている、河川敷。
喧騒にまぎれ、紫煙とイブに注目する人間はあまりいない。
ほぼ、高速戦闘状態だったので、騒ぎの元が分からなかったと言う事もあるだろう。
転んだ子供が母親に、抱きつき泣いている。
それをよく分からない表情でながめる、白衣の少年。
「なあ、イブ。そんなさみしーこと言うなよ。お前の心だって、オレには唯一無二のモンなんだ。」
不合理の極みが、イブの心を生んだとも言える。そして、心を置き去りにした世界は、多分、ひどく味気ないものだろう。
「うむ、、、では仕方がないの。」
ほほえむイブ。何故かそれは、少しホッとしたような安堵が見える。
「まー正直、そいつには、ムカついたけどな。」
イブに白衣を掛ける少年。
ボロボロの手術着だけの少女は、エロすぎる。見たいけど、衆目にさらすのは抵抗があるのだった。
「子供だってんなら、しょーがねー。叱って、教育すんのが、年長者役目ってもんだ。」
いや、紫煙だって、彼だけには言われたくないだろう。
「子供と言っても、これだけの力があると、叱るのも骨が折れるのじゃがの。」
難儀そうにこぼすイブ
破壊寸前の紫煙のパーソナリティも、イブならば復元が可能だ。
しかし、この人格は、ひどく人工物っぽさが感じられた。
それを彼女は、少年には伝えなかった。
その行く先、未来の運命をイブは知っていたのかも知れない。
家に戻ると玄関付近でブラウンのフワリとしたセミロングの少女がへたり込んでいる。
少年の無事を確認し、何か口をパクパクしている。
まだ、精神支配の影響が残ってるらしい。
「大丈夫か?那智。遅れて悪かった。」
しゃがんで覗き込む。
普通なら、何を偉そうに。と悪態が来るのだが、睨み返すくらいしか出来ないようだ。
そうなると、ただの普通の美少女だ。
それも飛びっきりの。
黙って大人しくしてるなら、超高校級美少女。
意識を失っているなら、ミス ユニバースダントツ一位
と、さもありなん、一部で、さんざんな評価をされる彼女だが、
確かに大人しい那智は、メチャクチャ可愛い。
つい、手が伸びて乱れた髪を、直していた。
ヤバイ、後が怖いと思った矢先、彼女の手が彼の手に重なっていた。
ポロポロポロポロ、
その頬伝う涙。
彼を殺さずに済んだ、安堵がやっと彼女を包んでいた。
「お、、、おい、、、、那智。」
ドギマギと、意外と対応不能な少年。
玄関にもたれる、リンがその様子を見ながら複雑な、ため息をもらす。
一連の騒動は、やっと終息を迎えたようだった。
また、来週。




