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能力アフター  作者: 佐藤同じ
24/55

能力アフター03話08

日々、暑くなってきましたね。

第二理研の受付に行くと、小柄な美人秘書さんに、E棟のバーチャルシミュレーションルームに案内される。

「どうぞ。」


室内に入ると、そこは、広いG棟のターミナルコア実験室だ。

「でゅふふ?」

驚く一同。


実にややこしい。

つまり、これは、バーチャルルームに再現された、G棟の立体映像だ。


「やあ、来たね、しん。」

研究員に指示をしていた、ハドリア統括理事がこちらを向く。


「どうだい。ここなら、君のイブに自由を与えられるだろう。」

相変わらずの白マントの変人だが、少年にはコウゴウしい神に見えているのだろう。


「あざーーーす!!師匠!!感謝します!!」

まさに!ここならば、イブが自由に存在できる、唯一のフィールドだろう。


「準備に入りたまえ。では、また後で。」

グワン、

と広大なターミナルコア実験室の、空間が、映像が消える。


E棟は、G棟ほどは広くないが黒とグレイ、濃紺の床と間接照明に照らされた、落ち着いた空間だ。部屋の四隅にそれぞれ、7つのモニタとコンソールがある。


部屋中に淡く発光する、ラインが走る。下に3D投影機が埋設されているのだろう。システム的には学園のバトルシミュレーションと同じようなものだ。


「さて、ウチの三賢者とつなげるか。」

コンソールをいじり出す少年。


「でもさ、よくよく考えてみると、ターミナルコアの実験とイブの日って関係なくね?」

彼の左側に座る、茶髪メガネが聞いてくる。

ホントに、盛り上がりに、水を差すのが好きなヤツだ。


「あのな!本来の師匠のイブは、人間をベースにしない、DNAコンピュータの事だったんだ。ナノテクとバイオテクを合わせたな。」


「でゅふっふっふっ。今日は、その人類初のバイオコンピュータ、EVEの起動実験がメインになるはずだったんでござるな。アメリカのイブの起動実験に合わせて。」

助け舟を出す、クロ兄。


「なるほどー。あのアンバーってのは、飛び込みのイレギュラーって訳だ!

で、、、、、アメリカのイブって何?」

「だーかーらーーーーー!」


「山下殿は作業を続けてでござる。」

右に座るクロ兄が友樹の方に移動する。


「月の量子コンピュータで、現在、人類が利用可能な部分が1パーセント未満。

これが、アダムでござる。」

説明を買って出るクロ兄。最年長なだけに、面倒見がいいのかも知れない。変態だけど。


「残り99パーセントが、イブの領域と呼ばれているでござるよ。」

「なるほど!それを起動させようってのか!」

やっと理解した友樹。


まったく、コイツは。

「ちなみに、最初にその1パーセント起動させたプログラマーが、師匠なんだ。」

ドヤ顔のしん。

「うっっそ!すっっっげ〜〜〜〜〜!!!あの人マジ歴史的偉人じゃん!!」


まさしく、その通りだ。人類の、世界の在り方をイノベーションした人物がハドリアと言って過言ではない。その頃はまだ10代だったという。


理由は知らないが彼は、偽名による成果の発表により情報を秘匿、その栄誉を知る者は少ない。

本来なら、世界的に評価されるべき偉大な人間なのだ。


なぜ、その雲上人が、極東の小さな国のアルカ設立などに、携わっているのか、白衣の少年には、よく、分からなかった。


「うっし。繋がった。」

エンターを押すしん。

四隅に配置された7×4、計28のモニター一杯に、プログラム コードが走る。


「でゅふ、予想はしておりましたが、、、、ごぇっ!?」

潰れたカエルのような、声を上げるクロ兄。


次に部屋一杯、波にように、球状に、彼ら三人を包むように、コードの海、宇宙が、広がっていく。

立体映像が、彼のプログラムコードを、無限に、果てし無く、映し出していく。


例えるなら、ハイペリオンのごとき、超銀河団だ。その瞬きは、約2000億個の星たちで構成される天の川銀河の、5000倍の質量を持ち、5億光年の距離を広がっていく。


「これは、、、、一体君は、、、どれだけの、時間と労力をかけて、、、、」

ヨロヨロと、コードの海に溺れるクロ兄。


もはや、流れるコードはゲームのプログラムとは別の物に変貌している。

コレは、一つの銀河の、星の、人の誕生の歴史だ。


幾重にも、幾重にも重なる、コードの宇宙は、収束を始める。巨大な球状の星に。


「彼女が生まれて、365日。8760時間。14年の毎日を内包した、経験と記憶のプログラム、だ。」

狂気の白衣の少年が笑う。


巨大な、コードの地球は、収縮を開始。やがて、部屋の中央に、人の背丈程に収まる。


それは、静かに赤いリボンが付いた、白いサマードレスに、

青いリボンが付いた麦わら帽子に、

陶磁器のような、白い肌の、瞳を閉じた、アッシュブロンドのストレートヘアーの14歳の少女に変貌する。


「イブ、、、、」

つぶやくしん。


彼女の向こうには白い砂浜、青い空、眩しい海原が、果てしなく、遠く、広がっている。

やっと、ついに、ここまで来た。

準備はできた。後は、彼女が目覚める時を、待つだけだ。


同時刻 アメリカ テネシー州 オークリッジ国立研究所。

ターミナルコア オペレーションセンター、


扇型に四列に配置された、コンソールの向こう、メイン、9面の大スクリーンに次々と、月の裏側のアダムの各種データ、ターミナルコアの稼働率、イブ開発チームの概要データがリアルタイムに表示されていく。


その様子を俯瞰できる、後方、管制室のテレスティア マーレイ所長。

大きくズームされる月面の地表。


その地下に、神か悪魔か、誰が、何故残したのか、いっさい不明、何もかもが、解析不能。

前文明人の遺産か、異星人の遺物か、

最古にして、最先端の量子コンピュータが眠っている。


「今日こそは!この子を目覚めさせてみせる!!」

強化ガラスの前に設置された、手前、斜めにカットされた、コンソールを掴む手に力が入る、テレスティア。

ポン、

電子音と共に、コンソールに設置された、3面のモニターの一つに、イラつくニヤけ面が映る。

「おはよう。ティア。いや、そちらは、こんばんわ、かね。」


ギリリ、

と歯ぎしりする、ブロンド、白衣の女所長。

「ハドリア!今度こそアンタを越えて見せる!イブを起こすのは私達よ!」


同じアダムの研究者だったのだろう。

面識があるふたり。


「しかし、随分と全時代的な所だね。アカデミックじゃないよ。」

紅茶を飲みながら、眉をしかめる、ハドリア。


彼女の後ろに見える、何本ものアメリカ国旗のことだろう。


「うるさい!アンタみたいな根無し草じゃないんだよ!私たちは!国家の威信が掛かっててるんだ!」

なぜ、こんなにこの男がカンに触るのか、わからない、テレスティアだ。

カウンセラーに相談の必要があるかもしれない。


「オーケー。お互いの健闘を祈ろう。私たちのイブに祝福を!」

激励に来たのを思い出す、ハドリア。


画面にハドリアのイブのデータを映し出す。

「あんたね、、、、どこから、そんなクローン、持って来たのよ。」

彼女の記憶だと、違法クローンだ。

「気にしない、気にしない。」

笑うハドリアのモニターに、小さく別モニター画面が割り込む。


「師匠!師匠!準備ができました!」

高校生くらいの子供だ。

「うむ。そろそろだな。しばし待ちたまえ。しん。」

「ハイ!」

消えるオンスクリーン。


「、、、、、」

ハドリアが、楽しそうだ。

彼女の知る彼は、斜に構えた皮肉家か。

何かに呪われたように、研究に没頭しているか、だ。

穏やかな彼など想像できなかった。


ニヤリと笑う白マントの男。

「忠告だ、ティア。研究は、自分のためにしたまえ。そうでなければ、イブは答えてはくれないよ。」

偉そうに、言ったものだ。

「ハドリア!」

「さもなければ、我々は、ハイスクールの学生の、後塵を拝する事になりかねないよ。」

痛烈な皮肉と共に消えるモニター。


「この、、、、、!」

カッとなる彼女だが、冷静な思考は失わない。

あの子供に、見覚えがあるような気がしたが、小さな画面でよくは分からなかった。


まあ、自分が間違って、刑務所に放り込もうとした相手なのだ。忘れないでもらいたいものだが。


「アプローチ3分前です。自動カウントダウンシーケンスを開始します。」

コンピュータのカウントダウンが始まった。


同時刻、川崎、七号土手、山下しん宅、地下。

(179、178、177、)

進むカウントダウン。


「アハハハハ!まずは、第二理研、D棟のシステムコンピュータにハッキングをかける!」

まるでマシンの明滅の様に、パチパチと放電を続ける少女。

みず希紫煙だ。


「そっから、丁度G棟で繋がってる、マヌケのアダムに進行する!私の能力、上乗せのハッキングだ!!何もかもぶち壊してやる!!」


ゲラゲラと笑う少女。

彼女には、とくに明確な目的は無い。


ただの、憎しみの解消の為の蛮行。鬱憤ばらしの気晴らしだ。アダムの損失が世界にもたらす破滅。そんな事は頭の片隅にも無い。

破綻したパーソナリティが、よりにもよって、みず希しずくの顔で笑う。


同時刻、東アルカ、研究学区内、第二理科学研究所。

G棟、ターミナルコア実験室。


(90、89、87、86、)

進むカウントダウン。


キイイイイン、

ターミナルコアが回転を加速させる。


「稼働率120パーセント!」

「接続準備オールグリーン!安定領域を維持しています!」


計測データーを読み上げるスタッフ達。ここのテストベッドの本格運用は、今日が最後だろう。

来月には、中央ターミナルタワーが、本格始動に入る。

一同が共有する、奇妙な連帯感、万感の思いと共に、最後のテストが始まる。


コアの輝きが、計器の花びらの中の、眠り姫を照らす。


同時刻、E棟、バーチャルルーム。

(30、29、28、27、)

進むカウントダウン。


「も、もももも、もうすぐだ!!」

テンパる、茶髪メガネ。

「緊張するでござる〜〜〜〜!」

モッチャ、モッチャとチョココロネを食べる、クロ兄。ストレスが上がると、何か食べるらしい。

「ウハハハハハハハハハ!」

なぜか、高笑いのしん。


(5、  4、  3、  2、    1、)


テレスティア。

「イブ ウォーム ブート アプローチ!開始!」


ハドリア。

「フィロト中間子、接続。擬似アンシブルスタート!」


白衣の少年。

「ウハハハハハ!演算スタート!AIイブ起動!!」


みず希紫煙。

「くぅうたばれぇええええええーーーーーーーーーーーーっ!!!」


アメリカと日本、4つの場所、それぞれに、野心が、研鑽が、夢が、悪意が、それぞれの想いが交錯する。


ビーーーー、

28面のモニタが一斉に、レッドアラームを鳴らす。

「なに、、、?」

青くなる少年。


最初に異常が起きたのは、第二理研、D棟、スーパーコンピュータ施設だ。

当然それはE棟のバーチャルシミュレーションに影響を与える。


「ななな、なんでござる!?」

「お、おい!!イブちゃんが!!」

悲痛な友樹の悲鳴が響く。


白い砂浜が、限りなく続く海原が、青くはてない蒼空が、

そして、白いワンピースの少女が、

不吉なノイズと共に、安定を欠き、乱れ始める。


「クソッッッたれえええええええーーーーーー!!」

白衣の少年の絶叫が響く。


なんで!何故、今!今なんだ!!どうして!!なぜ!!


ハッキングだ。

現時点、国内最高峰、スカラー型432台を並列接続した、脅威のオペレーションシステム。

それが、アッサリと、恐ろしい勢いで侵食されていく。

以前のハッカーの犯行を見れば、あからさまに、アダムを狙っていたのがわかる。

イブの日を狙うのは、当たり前の事だ。


それを、なんでだ!なんの警戒もせず!考えもなしに!うかれて、このザマだ。

「ちくっしょおおおおーーーーーーー!!!」


必死に、対抗作業を試みるも、後の祭りだ。

全てが、流れていく。何もかも。何もできなかった。掴む手からこぼれ落ちる砂のように。

「イブが、、、、消える、、、、、」

うめく少年。


ついに、一度も瞳を開く事なく、白いワンピースの少女は、消えていった。


「アハハハハハ!!システム掌握!次はアダムだ!!死ねーーーーーーーーーーー!!」

山下宅、地下で、けたたましく笑う紫煙。

国内最高峰のシステムと、ハッキング特化のエレクトロAクラス能力者、はたして天空の叡智に届くのか。


レッドアラームが、鳴り響くG棟、ターミナルコア実験室。


「システムを落とせ!!ハッキングだ!」

さすがに、対応の早いハドリア。しかし、


「だ、ダメです!コントロールを受け付けません!!」

パニック寸前のスタッフ達。


「なに、、、」

侵入が早すぎる。想定外の要因。

「能力者か、、、、キャンセラーを起動しろ!最悪の場合、施設を破棄する!!」

素早くテレスティアに連絡を繋ぐ。


モニターに映る彼女の方も、状況は悪そうだ。

「ティア!ミックスアプローチだ!!気を付けろ!」


軍事防衛で、かねてから懸念されていた電子戦においての、エレクトロ能力者のハッキング攻撃だ。

彼らは、自らの手足の様に自在にデータを操り、マシンのCPUを自らの大脳皮質のごとく共有する。

はては、生身の指向性兵器の役割までこなし、厄介極まりない障害になる。


「心配、無用!専門の対策チーム、設備で充分対応できるわ!」


さすがに国家レベルのプロジェクトチームだ。スキがない。

9面の大スクリーンのアラームは、次々とクリアされていく。もとより、正面からかかっては、人類の技術、能力者が何人いようがアダムのセキュリティーは、揺るぎはしない。


以前、アンバーTYPE01が、一層を突破できたのは、アダムが直接関わっていないセキュリティーレベルの低い国のネットワークだったからだ。


それでも、前人未到の事には変わらないが。


それ以上のミラクルは、アンバーに便乗して、裏口を仕掛けて好き勝手している、白衣の少年が今現在、捕まっていないのが、ありえない奇跡とも言える。


「ガ、、、ぎぃぃっ!!」

何かをすり潰したように、うめく紫煙。

結局、彼女が出来たのは、準加盟国のセキュリティーレベルを突破できたのみ。

アダム一層には遠く届かなかった。


しかし、事態は思わぬ展開を、むかえる。


最大級の警戒アラートが鳴り響く。


デフコン1だ。


自動的にペンタゴンに連絡が行き、模擬弾頭から、核弾頭に換装されたミサイルを積んだB−52とB−21がアラスカの空軍基地を発進、離陸していく。


核攻撃機は、アラスカまたは、北極圏上空待機に移行する。24時間体制の戦略哨戒だ。

国家総力戦態勢である。


9面、大モニター、あらゆるディスプレイが真っ赤に染まる。

「な、、、、に、、、、、?」

絶句するテレスティア。


アダムの階層が一瞬の内に、6層まで突破されたのだ。あと一つ破壊されれば、全てが終わる。

何が、、、どこから、、、、

なんとか、パニックを押さえつける。事態は、最悪だが、まだ終わってはいない。


「分析して!なんでもいいから!情報を!」


「外部からでは、、、、ありません!!」

悲鳴のような報告が上がる。

一瞬、テレスティアには、その意味が分からなかった。


「侵食は、アダム内部からです!!」

次々と月の量子コンピュータの稼働データが更新されていく。稼働率は、ほぼ100パーセントを示している。


「イブ、、、、、だ。」

立ち尽くすハドリア。


「彼女が、、、目覚めた、、、、のだ、、、、」

全てデータがそう示す。しかし誰が信じられよう。息を飲み、自失する。


「システムの保護を最優先!!イブを破壊しても守るわよ!!攻撃、防御プログラム!!ファイヤーウォール!全てだして!!アダム!シッカリなさい!!あなたが乗っ取られたら世界中大混乱になるわよ!!」

叫ぶテレスティア所長。


ライフライン等はもちろん、下手をしたら、核ミサイルのコントロールさえ、どうなるものか。


アダムからの返事は無い。もう、すでに、、、、悪寒が走る。


「な、、、、なんだ!これ!!」

山下宅、地下で、ひとり、悲鳴をあげる紫煙。


一瞬のウチに、こちらのシステムが、乗っ取られていた。全てのデータが、月に吸われたのち、

今度は、濁流のような、情報の渦が、唸りを上げて月面から、地上へ向かう。モニターするだけで彼女は失神寸前だった。



「く、、、、、」

うめく、ハドリア。

異常事態は、次に、日本、第二理研、D棟、ターミナルコア実験室を襲う。


ゴアオオオオオオオ、


直径10メートルのコアの加速が臨界を越える。可視化できる程の情報の光の渦が、薔薇の中の少女、アンバーTYPE01に注ぎ込まれていく。


プロトタイプコアの、アンシブルリミットを軽く超える接続だ。


計測機器が次々とオーバーヒートしていく。とても、保つものではない。

下手をしたら、D棟は消えてなくなるだろう。


「緊急事態です!莫大な情報が一切を無視してアンバーに流れこんでいます!!」

悲鳴を上げながらも、報告するスタッフ。

逃げても誰も責めないだろう。大したプロ根性だ。


「イブから、、、、だな、、、、何故?」

光の乱舞する中、考えこむハドリア。

「分析したまえ。イブは何を求めている?」


残った機器で、なんとかデータを取るスタッフ達。全員揃っているのだから、感動ものだ。

「し、、、信じられません!」

我が眼を疑う所員。


「アンバーを起点として、

テレスティア所長のプログラム イブ、

ハドリア理事長のプログラム アダム、

それが何かを核に、再編成されていきます!!」


「ほう、、、その核、とは?」

楽しそうに笑うハドリア。


「ここの、バーチャルルームで走っていたプログラムです!!」


「フフフ、、、ハハハハ!」

込み上げる喜悦、


「なるほど!しんのプログラム、か。いやはや、まいった。これは凄い!」

幾重にも稲妻が走り、辺りをゲズリ始める。ターミナルコアが白煙を上げ始めた。


ガシャン、

エマージェンシーボックスを割り、赤い斧を取り出すスタッフ。

「システム切断不可能です!物理切断します!!」


が、いつのまにか、斧はハドリアが持っている。


呆然と我が手を見つめるスタッフ。


遠くに捨てられる斧。


「ハハハハハ。」

爆発の火花のシャワーが、長身の白いマントの男に降り注ぐ。

踊るように笑う。


「やめたまえ!これは、、、、神の福音だよ!イブは受肉したいのさ!身体あっての心だよ!!」

もはや、誰の声もハドリアには届いていない。


次々と降り注ぐ、灼熱のシャワー。


「さあ!降り立つがいい!イブよ!禁断の果実を喰らい、汚れきった、この楽園に!!」


ドオオオオン、


グオオオアアアッ、


轟音と共に、全ての光が、破壊のエネルギーでさえも、薔薇のカプセルに吸い込まれるように打ち消える。

すべてのシステムが静止していく。


ただ、慣性のみで回転する、ターミナルコア。

白煙が薄れる。


ゆっくりと、薔薇の花芯が、ヒビだらけのカプセルが開いていく。


「さあ、イブよ。君は何を求める、、、、、この現代のエデンに、何を見る。」

溢れんばかりの、祝福を。


タシ、

裸足の足が、カプセルのフチを踏む、ゆっくりと姿を現す影。


所々、破壊された、計測機器の薔薇の中心、ハドリアおよび、10数名のスタッフたちを、睥睨する高所から。


火花に照らされ輝く、アッシュブロンドの、ロングヘア。遠目にもわかる、陶磁器のような白い透明な肌。そして、手術着だけの、美しい14歳の少女。


だが、しかし、その瞳は血のように赤い。


「ウワッ!」

「ギャァッ!!」

コマ落としのように地上に降り立つイブ。

スタッフのひとりを投げ捨て、ひとりの顔を掴み、軽々と持ち上げる。


「ころ、、、、す、、、、」

ひどく、しゃべり辛そうに、かすれる声。


「殺す、、、、、、、やま、、、した、、、、、しん、、、、、」


「ほう、、、、」

彼でなければ聞き逃していただろう。

「、、、成る程。」

そして、なぜか、納得するハドリア。


「うわああああ!!」

「キャアアア!!」

逃げ惑うスタッフの中、ゆっくりと、奪った白衣を身につける。


ドガアアン、

ほぼ物理、人外の腕力で、D棟の強化扉をブチ抜いて、飛び出していく少女。

はたしてその先には。


「うむ。これはマズイな。」

少し考え込むハドリア。


異常事態はE棟、バーチャルルームに移る。


「ど、どーなってんの?」

アタフタする友樹だが、さっきから、どことも連絡が取れない。

依然、アラームが鳴り、施設からの避難指示が続いている。


「一応、避難した方がいいでござるかな?山下氏。」

いつまでもここにいても、何もならない。落ち込む彼には悪いのだか。


「お、おい、、、しん?」

いつの間にか、彼が、電話をしている。

その様子が、おかしい。

友樹の知る、賢者タイムだ。反応が平たくなり、ロボットのようになる。あまり、続くものではないのだが、一見冷静沈着に見えて、実はかなりマズイ状態だ。

大体、ろくでもない事になる。


「家に戻ろう。」

唐突に出口に向かう、少年。

「なんでござる?山下氏!」

慌てて、食料をバックに詰め出す、クロ兄。


「那智とリンに連絡が取れない、、、、」

さっきの電話は彼女たちに掛けていたのだろう。

廊下に、出る。避難する所員達が、ちらほら見える。


「落ち着くでござる!説明を!山下氏。」

ふうふう追いかける、クロ兄。


「家の3台のスパコンのリモートがキャンセルされて、その後、ハッキングに使われたんだ。多分犯人が直に3賢者を使ってる、可能性が高い。」


クロ兄の顔色が変わる。

「ありえないでござる!今家には、野川氏とリン様がいるでござるよ!

あの二人を無力化する事など、誰にもできないでごる!」

もう、エレベーターの前だ。


「でも、、、家の電話も、、、携帯も、、、繋がらねーんだ!」


ありえない事が起きている。


優先順位は、彼女達の安否確認に変わる。

ジリジリと胸を焼く、焦燥。


「リ、、、リン様!」

地下に着くと、先頭で、クロ兄が走りだす。息も絶えだえだ。


白衣の少年の携帯が鳴る。ハドリア理事長だ。

「師匠!」

『しん。すぐに、ここから離れたまえ!』


「今、移動中です!そっちは大丈夫ですか!!」

雑音が酷い、G棟のターミナルコアトラブルは、E棟にも伝わっている。


『こちらは大丈夫だ。そちらの方が危険なのだ。イブが君を殺しに行く。』


「、、、、、イブが、、、、殺しに来る、、、、」

なんの事か、まったくわからなかった。


しかし、緊急事に、思索に囚われるのは、即、死に繋がるのを、叩き込まれている彼は自動的に行動に移る。また、ハドリアの言質は、彼にとっては、絶対だ。


「クロ兄!イブが来る!!早く出してくれ!!」

素早くシートベルトを締める。


「ボヘっ???」

普通、理解できる話しではない。

「イブがオレを、殺しに来る。」


「何言ってんだ?」

友樹も、正気を疑っている。


『説明する。』

ハドリアが助け舟をだす。

携帯をスピーカーに、小型の電影スクリーンが、G棟の様子を映す。


『とにかく、まずはここを離れるのだ。合金の扉をぶち破る、凶暴な強化人間がそちらに向かっている。』

ひどく端的に、即物的に危険性のみを話す。

『もうすぐ、そちらに追いつくはずだ。』


ガチャン、

地下駐車場の向こうの方で、エレベーターに続くドアが、吹き飛んでいる。


ゴクリと息を飲むクロ兄。

友樹が、右サイドに、身をよじって、覗き見る。

「なんだあれ、、、、、こっち来るぞ、、、、こっち来る!!」


白衣を着た人影が、徐々に加速しながら向かって来ている。


「ギャアアアアアアアア!!怖いでござるーーーーーー!!!」


タイヤを軋ませて、急発進する、白いワゴン。

友樹が、後ろでひっくり返る。


ガリガリガリ、

大きく外に膨らみながらカーブする。車体が激しく、コンクリートの柱を、こすっていく。


「ぎょひゃあああああ〜〜〜〜!!」

血の涙を流す、クロ兄。10年ローンは始まったばかりだ。


誰がどう見ても、まともじゃない、白衣を着た、鬼のような赤眼の影はもう目の前えに、

いる。


「うひいいいいい!!」

絶叫の友樹。

加速に乗ったNV350キャラバOワゴンは、ギリギリ、寸前で虎口を逃れる。

猛烈なスピードで、スロープを駆け上がり、出口へ。


「前ーーーー!!」

友樹の絶叫。


プワァアアアアン、

巨大なトラックに衝突しそうになりながら、国道に出る。

「や、、、、山下氏!!」

クロ兄は、運転で手一杯だ。


「内環から、外環へ。アクアラインで川崎に降りよう。」

まだ、強制冷静沈着モードが続いているらしい、しん。

ふうふういいながら、カーナビをセットする、巨漢。


『了解だよ。お兄ちゃん。最適のルートを検索するよ。』

ロリッコナビが案内を始める。


赤光を放つ瞳に、幾重にも光が走っていく。

第二理研、側の歩道に立ち尽くす、イブ。


通行人達がその異常さに騒ぎ出すが、幻の様に消え去る。

一息で10メートルは跳び、ビルをつたって、屋上へ。研究学区内を俯瞰しながら、正確に彼、山下しんのいる方向を見つめている。


「、、、、、、」

風がアッシュブロンドの髪を揺らしていく。


車列は順調に流れていく。


『これは、仮説だが、多分君のイブのデータが、ハッキングと同時にアダムに接触し、イブの沈黙領域が、これに反応。残りの98パーセントが目覚めてしまったのだ。ほぼ、完全に起動したわけだね。』


楽しそうに説明する、ハドリア。

後ろでは、所員たちの必死の消化作業が続いている。


「オレの、、、、、」

呆然としている白衣の少年。


「よろしいでござりますか。理事長殿。」

遠慮しいしい、クロ兄が聞く。


「それは、アメリカのプログラムのおかげではないのですか?」

当然の推測だ。が、


『ちがうよ。データに残っている。

アメリカのプログラムには、イブは何の反応もしていない。

テレスティアには、そんな業はないのさ。』


プログラムに業とかカルマとか、関係あるのだろうか。

クロ兄には理解できなかった。


『次に、イブは肉体を欲した。そして私のイブ、アンバーTYPE01に目を付けたのだ。』


「それで、、、!ちょうどD棟で、アンシブル接続していた、バイオコンピュータの素体を支配したのでありますな!!」

徐々に興奮してくるビア樽。

想像を絶する天空の叡智、それが受肉し少女として、地上に降り立ったのだ。


『しん。イブは君のつくった、心を中心にティアと私のプログラムを再編し、ついに、起動したのだ。これは、奇跡と言っていい。誇るがいいよ。』


「師匠〜〜〜〜!」

大喜びのしん。そろそろ賢者モードは時間切れらしい。


「ん?なんでソレが、しんを殺しに来んの?」

水を差すのが大好きな、友樹がつぶやく。


『最適化されるまで、ほとんど初期設定で動いているからだよ。

アメリカのプログラムも初期設定は私のものと同じだ。』

こんせつ丁寧に説明する、ハドリア。


「プログラム、、、、、アダム、、、、、」

息を飲むクロ兄。

「なにそれ?」

茶髪メガネが聞く。


「伝説的な話でござる。

ハドリア理事長は、月の量子コンピュータを起動させるのに、ソフトとしてひとつのプログラムを走らせた。」


『お兄ちゃん。次の交差点を右だよ。』

クロ兄はカーナビだよりのドライバーらしい。まあ、まだ、若葉マークが取れないのだから仕方がない。


「ある方向の感情を、人工知能プログラムに走らせる事によって。」

「何よそれ?」

「人の強い増悪、、、、憎しみ、でござる。」


「なんで〜〜〜!」

わめく、友樹。


『強い方向性が欲しかっただけだよ。単純な話さ。事実、他ではダメだった、、、、

まあ、起動したのは、1パーセントだけだけどね。』

だがソレがなければ、その後の人類の躍進はなかったであろう。


『ともかく、アダムはその後、正しい倫理観を学習させてから、本格運用になったわけだが、今のイブにはソレがない。』


「ぎえ〜〜〜〜!」

やっと事の深刻さを理解する友樹。


『みたまえ!』

月の稼働領域を表示するハドリア。

『とにかく彼女は、君のデータがとても気にいったようだ。残り1パーセント以外、

全て、元気に稼働している。』


夢をみるような、白いマントの男。

『ああ、それが一体何を何を意味するのか。まだ、生まれたての彼女だが、その先の、未来の可能性は、まさに無限大だ!』


そして思い出したように、付け加える。

『モニターするに、イブの最適化は進んでいる。自己学習。自己修復だな。それが終われば、その時に、真の君のイブは目覚めるだろう。アダムや、他のプログラムのせいで、多少パーソナリティが変貌するかもしれないが。』

物騒な事を言う。


『それまでは、捕まるな。今は憎しみと破壊衝動だけの超人だからね。簡単に殺されるよ。

身体能力は、人知を越えてる。

起きざま、君の名を呼んでいたからね。とりあえず、ターゲットにされているんだろう。』


「なんで、アンバーはそんなオーバースペックを持ってるんすかね?」

呑気にたずねるしん。バイオコンピュータにそんな身体能力は不必要だろう。


『科学者なのだ!みんな、限界に挑戦するものだろう!』

「なるほどーーーーー!!」


高笑いする二人。


いや、笑ってる場合ではない。


『次の交差点を右だよ。お兄ちゃん。目的地に着いたよ。』

ロリッコナビが奇妙な、指示を出している。


まだ、高速にも乗っていないのだ。自宅に着くわけがない。

それぐらい、しんでもわかる。


「なんか、変だぞ。」

改めて、辺りを見渡す白衣の少年。

「おろろ?」

指示通りに曲がるクロ兄。見慣れた、第二荒川に掛かる、学区のさつき橋が見えてくる。


「もとに戻ってるぞ!!クロ兄!!」

「おろろ?」

愕然とするしん。原因は、、、、

「カーナビだ!誘導されてる!!」


ここは、第二理研のすぐ近くだ。


『なるほど。十分に可能だろうね。』

映像のハドリアが、感心する。


アンバーTYPE01は、ネットワーク構築のため、スタンドアローンで、電子戦が可能な程の能力を有している。それにイブの演算が加われば、現行のシステムへの干渉、カーナビのハッキングなど造作はあるまい。


『お疲れ様。お兄ちゃん。』

ロリッコナビが、笑ったような気がした。


橋の中央、車の行き交う道路のど真ん中、センターライン上、白衣の手術着の少女が立っている。

車のクラクションが、鳴りっぱなしだ。

正気の沙汰ではない。


「クロ兄!!」

叫ぶしん。


「うひゃあああああああああーーーーーーーーーーーー!!」

絶望の玄岳、兄。思い切りハンドルが切られる。

オートパイロットが、勝手に起動。暴走。乗っ取られる。


グッシャアアアン、


コントロールを失い、猛スピードで転倒する白いワゴン。


ガシャン、ベシャリ、ガリガリガリ、


一転、二転、逆さまに滑っていく。


グシャグシャだ。多分、全損だろう。かわいそうに。


見事にイブの隣で、滑走が止まるワゴン。

左車線は大渋滞だ。


彼女の眼下に潰れた助手席が来る。すぐ近くに、彼の携帯が落ちている。

『つまり、あれだよ。愛憎、表裏一体ってヤツだね。オーイ、しん〜〜〜〜。』


ガンバッテ話すハドリアだが、少年はそれどころではない。

アッシュブロンドの少女に、バリバリとドアを破られ、引きずり出され、片手で吊り上げられているところだ。

「ぐ、、、、、。」

外傷はないが、脳震盪を起こしている。フラフラの状態だ。


「死ね。」

躊躇なく、心臓をえぐりにいく少女。


が、

ほぼ、無意識で、その手を左手で払い、右手で彼女の肩を掴み、重心を崩し、勢いそのままに、投げ飛ばす。


絶好調なら、野川那智の第一加速機動をいなす彼の体術だ。

強化人間の動き程度なら、簡単に捉えてしまう。


訳も分からずに、一回転する少女。


しかし、そこまでだった。地球がグルグル回って見える少年は、フラフラと対向車線に出て行ってしまう。


そこに、追越車線を猛スピードで、やって来る大型ダンプ。

安全運転しろよ、こんちくしょう。

と思うが、もう目の前だ。ひとたまりもなく、ミンチになるだろう。

冗談のように、ユックリ迫る巨大なボンネット。


ブワアアアアアン、


猛スピードで走り抜けていく、大型ダンプ。


橋に2箇所の、H形支柱。


対岸のウオーターフロント。


川を渡る、水鳥達。


立ち並ぶ学術ビル。


空が、輝く陽の光が、回転していく。


橋架上空を、飛翔するふたり。


「え、、、、、」

何だか知らないが、お姫様抱っこされている、白衣の少年。


15メートルはある吊り橋を支えるH形支柱、頂上に着地するアッシュブロンドの少女。

軽々と山下しんを抱えてだ。

彼女は彼よりも、小柄である。


美しい紺碧の瞳に、走る光のライン。


「定数の畳み込み、ループ最適化、帰納変数の削除、演算子の強さ低減。

ファーストシフト、最適化終了。」


その瞳に宿る、生命のいぶき。


「プログラム イブ、起動します。」


陶磁器のような、白い肌。涼風のような透き通る声。

今、天空の無限の叡智。比類なき電子の妖精が舞い降りる。


「初めまして、じゃな。主人どの。」


なんだって、、、、?

「じゃな、、、、?」

眉間にシワを寄せる少年。

また来週。

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