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能力アフター  作者: 佐藤同じ
2/55

能力アフター1話02

シュミレーションによる当社比、比較。

彼女は、かなり強かった。

対岸に視点を移すと、これもまた、豪華なメンバーが事件を目撃していた。


「風紀の那智さんですわね。」

ゴールドの髪がゆるやかなロールを巻いて、水しぶきに輝く。

ロシア系の血が入った透き通る様な碧眼、その美貌は芸術の域に達する

瀬里奈.S.フィールズ。

天宮、生徒会、副会長である。

「ハイ、お嬢様。もう少しお下がりを。」

長身、黒髪、並の女性では霞んでしまうほど美しい男子学生がさりげなく、少女をガードする。

生徒会、会計補佐、椎名 葵である。


その向こう、やや離れた所に、巨大な体躯、武骨そのものの学生。

もう1人の副会長、風祭 塔也

そして、しっとりとした、小柄で控え目な美少女

書記補佐である、凪 早苗

二人の姿がある。

奇妙な事に二人の視線は、事件より、瀬里奈と葵。

正確には瀬里奈を捉えて続けている。


4人はもちろん、他にも高レベルな能力者はいた様だが、

この事件の本質を理解していた者は、多くはない。


「あの子、、、どうして、、、」

瀬里奈はここまで、ていねいな能力の行使を見たのは久しぶりだった。


『しつれいしまーす!』

先輩に連れられ生徒会室にやって来た、元気な少女。

高位能力者は生徒会の役職持ちになる習えで当然彼女、野川那智も

風紀委員に抜擢されたらしい。


輝く様に明るくほがらか。能力は本物だが、少し短気で、直情傾向。

もっというと、結構おちょこちょいな所がある。


失礼な話だが、その彼女が、ここまで繊細かつ、デリケート。計算され尽くした能力行使が可能とは思ってもみなかった。


瞬時に生み出された炎球達は、それぞれに、指向性を持たされ、水流の運動エネルギーをコントロールし、一時的排除のみを可能にした。

とはいえ、那智にもリスクがない訳ではない。

イレギュラーな水流に呑まれる事だってありえるのだ。


簡単な方法は、高機動で被害者を退避させる事だ。

能力ブーストされた那智ならば、可能なはず。


しかし、一般人がそのスピードにさらされた場合ケガをする可能性がある。最悪、骨折くらいするだろう。


となると、要救助者のために、彼女はそのリスクを負ったわけだ。


ゆっくりと、虹を渡る少女。

あつかいは、雑だが、えり首を掴まれ運ばれる少年。


瀬里奈には、

その姿が、ひどく、やわらかく、やさしいものに、見えた。


が、次の瞬間、信じられない事を聞く。


「山下、、、、しん、、、、どうして、、、、」

近くの少女がつぶやくのが鮮明に聞こえる。


白銀のショートボブ、小柄で華奢だが、スタイルはいい。

冬木リン。

那智とよく、行動を共にする、風紀委員の一人だ。


彼女はAクラスの受信型テレパス。

あの少年の身元をサーチしたのだろう。ヒドく無口な少女だ。

瀬里奈は彼女の声を聞いたのは初めてかもしれなかった。


しかし、今はそれどころではない。

「山下しん、、、?」


『瀬里奈!』

木漏れ日の中で満面の笑みを浮かべる男の子の姿が

フラッシュバックする。


「捕えます、、、」

制服の袖から、琉球古武術の武器。サイが滑り出る。

「ま、待ちなさい!葵!」

何故か瞬時に完全戦闘モードに移行する生徒会書記。

普段、冷静沈着な彼がここまで感情を剥き出すのは珍しい。相当、苛立ってるようだ。


ここは、防波堤の少し高台にある、通学路に面した水上公園、

路肩には瀬里奈と葵が乗ってきたリムジンが止まって待っている。

かなりの野次馬が集まって来ていた。


其処へ上空より降りてくる那智、リンがいるからだろう。が、当然、拍手、喝采の大騒ぎになる。

学生やサラリーマン達。写真を撮る者。ネットにあげる者。今の天変地異を興奮して話あう者。収拾がつかない。


が、お構いなく少年に近づく葵。一撃入れて拉致るつもりだろう。

(あなたの一撃は死んじゃうから。)

「やめなさい!あお、、、」

必死に叫ぶ瀬里奈だが、時すでに遅し。

高速機動に突入する葵。


「え、、、なに?」 

ア然とする少女。

人混みに紛れて、なぜか山下しんは、那智からかなり離れている。

そこへ襲いかかるカゲ、

彼女だからこそ、かろうじて、その姿を認識できる。


手首のスナップで回転する、奇妙な武器。それが滑らかに、少年の首筋を打つ。

流石にグリップの方の打撃だ。


しかし、その身体はゆっくりと方向を変え、こちらへ


ダン!


「この、、、!」

大の男が吹き飛んで来たのだ。少女が身体強化を駆使しても、エネルギーを相殺できるわけもなく、後方へ。人々にもつれあって、尻もちをつく。


那智に抱き抱えられた葵は、状況が把握できない。

「なん、、、だ、、、、」

何かの体術だろうが、はるかに自分より遅い相手に、武器と腕を掴まれ

いなされたのだ。

実際相手の動きは止まって見えていた。

わけがわからない。

凄まじい自分の速度のまま、崩され投げられる。


人々がパニックになる。いきなり、男が飛んで来た様に見えただろう。


「野川氏、野川氏!」


葵と人々に絡まる那智に声をかける少年。

「サンキューな!助かった。礼は後で必ずな!」


そして、おそろしく素早く人混みに紛れていく。

「ま、、、待ちなさい!」

ジタバタするが、どうしようもない那智。


あいつは、自分を知っていたたようだが、わかっているわけではない。

「もおーーーーー!」


《はい、そこまでですわ!》

パンパンと手を叩く瀬里奈。


《みなさん、すみやかに学校、職場に向かって下さい。遅刻しましてよ。》

瀬里奈.S.フィールズ。

彼女は発信型テレパスのAクラス。


その気になれば、大群集、大軍隊も意のままに煽動できる。

ある意味もっとも恐ろしい能力者だ。


公園内の人々が何事もなかった様にゾロゾロと移動を開始する。

不気味な光景と言える。


彼女の力に対抗するには、同じくAクラスの精神強度を持たなければならない。


これは冬木リンにも当てはまる、Aクラスの心はサーチできないのだ。


「なにをやってますの?葵!あなたらしくもない。」

「す、、すみません。お嬢様。」

那智に謝罪し、なんとか立ち上がる葵。顔面蒼白である。

彼女が受け止めなければ、ケガのひとつもしたはずだ。


「上等じゃん。あのバカ。人をクッション代わりにして〜」

腕まくりの那智。追撃戦である。


「お待ちなさい!」

「ギャフ」

今度は少女がえり首を掴まれる。

「波力発電所、警察、モロモロ関係機関に事情説明ですわ。」

「副会長〜〜〜。」


ズルズル引きずられてく那智。

彼女でも苦手の人間はいるらしい。



天宮学園

広大な研究教育設備地区にあって最大規模を誇る教育機関

中心に天宮中央大学を置き

東西南北に中高一貫の天宮第一から第四の学園がある。

カレッジハウスと呼ばれる学生寮を完備し、生徒をサポートする。

公的研究機関、研究工業施設。ハイテク部品工場など、

能力リテラシー研究の最先端を行く学園である。


天宮第一学園 生徒会室

「那智君が波力施設の増水を吹き飛ばした、、、、」

小刻みに肩が震える。笑いをこらえている様だ。

ヒョロリとした長身。後ろで無造作に括られた黒の長い癖毛。

生徒会長、不知火あらた。


瀬里奈には、この人物が、今ひとつ理解できないでいた。

一見すると生気のない死んだ様な目の冴えない青年だが、ポイントを押さえた発言。

リーダーシップ。時折りみせる才覚は、周囲を魅了する。

学力優秀。能力はかなり特殊な炎熱系のAクラスらしい。この立場に遜色はない。


しかし、

自分には冬木リンほどのサーチ力はないが、それでも、底の見えない違和感が

彼から感じるのだ。それは、1年の時、生徒会で初めて出会ってから今まで、いまだ拭えてない。


「フフフ、すごいな。それは、みたかったね。」

4階の窓には、左に校舎、グラウンド、向こうに緑豊かな公園。様々な研究棟。

住宅区。そして海を挟んだ川崎側の対岸が霞む。


「笑い事じゃありませんわ。一歩間違えば、大惨事です。」

「人助けだろ、大目にみようよ。」

ゆっくりと窓辺を離れ、執務用の机にすわる。


その前に瀬里奈。左後方に葵が立ち

その後ろ、大きな会議用のテーブルにそれぞれ、風祭と凪が座っている。


「それより、その不法侵入していた不心得者。逃げたんだって?

君たち4人がいて。」

面白そうに笑う、あらた。


「え、、、あ、はい。」

いいよどむ、瀬里奈。

言われてみればそうだ、ありえない話なのだ。

自分は彼の存在を知って動揺していたのだろうか。

いや彼の逃亡を助けたかったのか、、、、

わからない。


「く、、、、」

葵にいたっては、まったく立つ瀬がない。


「この学園は、面白いね」

楽しそうな生徒会長。


数日後、

部活練3階、化学室のとなり、使われていない準備室

「フン、フン、フフ、、、、、、、」

その後ミッションコンプリートして部室をゲットした

少年の後ろで楽しそうな鼻歌がきこえる。


「今日も元気だねー。」

暖かな窓辺に並んだプランターに話しかける少女。

向ける手の先に細かな水玉が霧の様に植物達に降り注ぐ。

みず希しずく。

水流操作能力者だ。Dクラス。ささやかなもんだ。


オレの家、川崎の七合土手のお隣さんの少女。

越して来た中1くらいからの付き合いだ。

オレより少し背が高い。前髪が長く、瞳が隠れ、表情がよくわからん、ポニーテールの

妙にオドオドした、地味子さんだ。


となりの天文部からよく遊びにくる。

部室が殺風景だと、植物栽培を始めた。バジル、タイム、ラベンダー、とハーブ系を育てて料理に使うと言う。


モンスターとバトルを繰り広げる

目の前のパソコンがなんとなく、しっとりとして来る。湿気は精密機械には百害あって一利もない。

やめて欲しいものだが、彼女にこの準備室の存在を教えてもらった手前あまり文句も言えない。


「しっかしお前、よく逃げられたな〜」

前の方、並べられた長テーブルの左側にちゃっかり、自前のパソコンを持ち込みネトゲに興じる友樹がいる。

先に逃走したクセに。と思う。一応、オレが助けられたのを確認はしたらしい。

「余裕よ、余裕。」

画面のモンスターは意外と強い。


とは言え、あの時、襲いかかってきた男。

たまたま、上手い具合に思考ブーストが掛かっていたため、偶然さばけたのだ。普通なら脊髄に致命傷を喰らっただろう。

生徒会には随分凶暴な人間がいたもんだ。

椎名葵、自分にしては珍しく男の名前を覚えている。


「ねえ、しん。それで、ここは何の部活なの?」

手を拭きながら思い出した様にたずねるしずく。

右手前に座りながら、頼まれもしないのに持って来たティーポットセットで入れたミルクティーをすする。


「よくぞ聞いてくれた!!」

ドカン、

と立ち上がりついでにパイプ椅子に、乗り上げる少年。

「わ、わ、」

驚いて紅茶をワタワタする少女。


「全てを含み、内包する所!何をするも自由!

オールラウンドクラブだ!」

ビシ、と訳のわからないポーズを決める少年。華麗に白衣がひらめく。


全く興味なさそうに友樹

「ああ、オーランサークルね。」

パンと手を打つしずく。

「行き場のない人が行き着く終着点。」

妙にナットクしている。


(ううう、うるさいよ!地味子さん!変な事にくわしい奴だ!)

変なポーズのまま硬直する少年。

「ウハハハハハ!と、、、言うのはウソだ!」


「誤魔化した、、、、」

ボソリと友樹。


「ここは、超能力の輝く未来を考察、探求する

超能力研究部だーーーだーーーだーーー」

別の変なポーズに変わりながらのセルフエコー。


「それなら、能力アカデミー部があるだろ。」

にべも無い友樹。

「いい〜〜〜〜だろーーが!昔はこの手のウロンな部活が一杯あったろーが!」

ちゅどーん、

モニターのマイキャラが息絶えている。

「あああ!フォローしろよ!友樹!!あああーーーー!」

デスペナルティーが恐ろしく厳しいゲームなのだ。

「知らんわ。」

鬼畜な茶髪メガネだ。


「そういや、能力アカデミーったら、まあた、性懲りもなく生徒会に挑戦したらしいな。」

とくに気にした風もなく、話題を変える友樹。

「バトルゲームか。」

渋々座り直し、ゲームキャラの蘇生を始めながら応える、しん。


なんだか、超すごいコンピュータによって、超能力者をスキャン。

そのデータを使って仮想空間で、超能力バトルをシミュレーションするのが、バトルゲームだ。

もとは米国の軍事戦闘シミュレーションがベースになっていて、

3D映像環境があれば、映画さながらの迫力の観戦ができ、世界的な人気を誇る。


各国、国民的なスターを有し、最近、遅ればせながら、日本でも始まった。

学園のカリキュラムにも当然、組まれ、推奨されているが、

有名なのは、年に1回開かれる、中高合同天宮四高戦だ。

去年の大会、生徒会は参加がなかったが、中坊で出場した、野川那智が個人戦だが優勝し、その高いポテンシャルを見せつけた。


「ムダなこったな。」

つまらなそうに、しん。

「能力の高いのが、生徒会に集まるようになってんだ。能力アカも悪かないが、相手になんねーよ。」

「それでも、善戦できりゃめっけもんだろ。内申も部の評価も。見てみよーぜ!」

いそいそと、3Dプロジェクターを3台、用意しだす、友樹。

フル3Dで観戦する気らしい。


なぜか、クッキーを出してくる、しずく。分けてはくれないが。


長テーブルを二つ並べたテーブルの先に、3メートル四方の映像が構築される。


ワアアア、

学園、第一アリーナにはかなりの生徒達が集まっている。100×100とサッカー場が収まるフィールドに、巨大な立体映像が抽出される。

スーパー凄いコンピュータによる、シミュレーション映像だ。


フィールド設定は廃墟のようだ、焼けるような日差しに、何車線におよぶ、荒れ果てた道路、伸び放題の街路樹。崩れた高架。廃ビルが照らされる。


その乾いたアスファルトの上に、ひとりの女生徒の立体映像が現れる。

サービス満点に、映像はズームし彼女。野川那智を映し出す。


ワアアア、

盛り上がるアリーナ。彼女の場合、女子の応援も多い。


生徒会室では、3Dでは無いが、ホワイトボードにアリーナの映像が映し出されている。

「那智ひとりで大丈夫かしら。」

誰に問うでもなく、つぶやく瀬里奈。

会議テーブルの彼女の隣では、葵がノートパソコンで書類の整理をしている。


「相手にAクラスはいない。瀬里奈君が出たら、あっという間に終わってしまうよ。」

淡々と応えるあらた。黒い役員用の机で、やはり事務作業をしている。


部屋にはこの三人しかいない。他は隣の会議室で作業をしている。


「我が学園の久びさのスターだ。アピールしてもらわないとな。」

まるで感情のこもらない声。

逆に言えば、Aクラスにとって、瀬里奈は脅威にならない。

ゆえに、データの少ない野川那智の対応力が観たくて、彼女を指定したあらただった。


アリーナ、スキャンルームAにはゲームセンターのような筐体のひとつに那智が座っている。

ヘッドマウントデスプレイをかぶり、全身をモニターされている。戦闘機のコックピットのようでもある。


これにより、リアルタイムに彼女の能力がフィールド場にシュミレートされる。

演算するのは、月の量子コンピュータ、アダム。世界の根幹を成すシステムだ。


隣りで、冬木リンが、彼女を見守る。表情からは、何も読み取れないが。


超研部(仮)

では、少年がパソコンのモニターで相手チームの編成をチェックしている。

「お〜。サバゲ部と能力アカデミー部の共闘か。構成はサバゲ部20人。アカデミーから、武術部門八人。ゴーレム使いがひとり。」


アリーナスキャンルームBには、計29人がスキャンデバイスの中にいることになる。


「野川さん、ひとりで相手するの?」

同年代の少女だ。当然の心配をする、しずく。


「問題ないだろ。まあ、観てろよ。」

軽く請け負う、しん。

「シミュレーターって、実銃、登録できんだろ。」

食いつく友樹。

「ああ、当然、サバゲー部は、モノホンのアサルトライフルやマシンガン、なんでも使うだろうな。」

「いいな〜〜。」

実際のガンファイトが体験できるのだ。羨ましがる友樹の気持ちもわからなくもない。


「そんな、、、、無茶苦茶じゃない、、、!」

悲鳴を上げるしずく。


戦闘シミュレーションが、始まった。


バララララ、

同時に、耳をろうする銃声の嵐が、フィールドに響く。


事前に周辺の廃ビル、高架橋に潜んだサバイバルゲーム部が、

M−16からM−14、AKー47からAKー74。数十のアサルトライフルから、NATO弾を狂ったように撒き散らす。

更には、複数の固定されたM2重機関銃が、絶大なストッピングパワーを誇る12.7㎜弾をたった、ひとりの少女の肉体を粉砕すべく集弾する。


「あ、、、、あ、、、」

絶句する、しずく。もはや、那智の姿は見えない。凄まじい砂ぼこりで車道は霞んでいる。

「おー。怪獣退治かよ。」

興奮するしん。自衛隊の集中砲火でも、想像してるのだろう。

「楽しそーだな。」

思わずため息を漏らす友樹。サバゲ部は全弾、撃ち尽くすつもりらしい。

耳をつん裂く銃声がいつ果てるともなく続いてゆく。


毎秒100発、毎分6000発の発射速度を誇るM2がついに、全弾を吐き出す。

標的が人間の場合、痛みを感じる前に、粉々に引き裂かれるという。


荒い息と共に立ち上がるサバゲ部、部員。足もとには、当たり一面に薪散った空薬莢。

むせ返る硝煙。痺れる両手。恐るべきリアリティにゴーグルをずらし目を擦る。


ビルさえ粉砕するエネルギーが、アスファルトを無残に削る。

しかし、彼らは薄れゆく砂埃の向こうに、信じられないものを見る。


「え、、、ええ?」

あっけに取られる、しずく。


三角錐の炎の壁、その表面は高速で流動しているようだ。その中心に霞む少女の影。


「カッケ〜〜ふぃんふぁんねO、バリアーや!」

妙に目をキラキラさせて喜ぶ、しん。


どうやら、那智は炎の壁で銃弾を防いだらしいが、どれほどの熱エネルギーがそれを可能にするのか、誰も信じられないだろう。


「まあ、大体ここらかな。」

のんびりと、エネルギーの収束に入る那智。

着弾から、敵の位置を逆算したらしい。小型の爆炎なら、数キロに渡ってばら撒ける彼女だ。

問題なく数百メートル内に潜むサバゲ部を一掃する。

廃ビル、高架橋が次々と吹き飛んでいく。彼女からしたら、のんびりと、だが、一般人の彼らからしたら、一瞬の内の全滅だろう。


「しょせん!牽制よ!」

炎の壁を解いた彼女に、屈強な大男達が襲いかかる。

幼少より、鍛え抜かれた拳と技。

それが、能力によって、スピードもパワーも倍増される。

能力アカデミー部の武術部門の精鋭。超実戦空手部の手練れ五人が

必殺の連携をもって可憐な少女を襲う。

まるで、爆発のような、裂帛の気合が炸裂する。


しかし、彼らは気付いていない。彼女は油断をして、障壁を解除したのではなかった。

向かってくる彼らに気付いて炎を収めたのだ。そのままだったら、彼らは壁に触れて焼失していただろう。


結構、付き合いのいい少女だった。


スチャッ、と変な構えで五人を迎え撃つ。

「来いっ!」

能力ブーストによる、格闘戦はカリキュラムでも一応あるが、その姿は護身術を少しかじっただけの素人女子だ。それでもマジに徒手空拳で、彼らに対するつもりらしい。


男の正拳突き。

「せいやあああああああ!」

鈍器の様な拳が、1225 km/hを突破、文字通りのソニックブームを爆発させて、人体を破壊する。

人中、喉仏、みぞうち、脊髄、後頭部、五方向からの回避不能な連撃。


「、、、、、、!!」

手応えが無い。少女の姿はそのまま、回避の空間など無いのだ、しかし拳が届かない。

鍛え抜かれた直感が異常事態を警告する。

離れろ。一刻も早く。


「ていやああーーー!」

気の抜けたかけ声と共に、少女の空手チョップがヒョロヒョロと彼らに向かう。

五人にしてみれば、悪夢の様な、永遠に感じるコンマ数秒だった。避ける事も、受ける事もできないのだ。


ポテッ、とヒットする。


瞬転、


ズガガガアアアンン、

五人の大男が音速で四方に吹っ飛んでいく。


そこからは、もう一方的だった。


閃光の居合の達人も、三節コンの槍術使いも、暗器使いの古武術家も

ヒョロヒョロの那智チョップの前にあえなく一方的に敗れ去る。積み上げた鍛錬の日々も信念もプライドも何もかも粉微塵にぶち壊されて。


「ふんす!」

スチャッと得意げに、変なポーズを決める那智。


「う〜ん。酷いな。」

流石にあきれる、しん。

「凄い、、、Aクラスってこんなに違うの、、、、」

同年代の少女が、別の何かに見えてしまう、しずく。

「あれは、別格だろ。AAA評価ってのは、実際、別次元だ。」

そう言う少年もかなり、ビビっているようだ。


「み、、、み、み、みみ見事だ!那智くん!」

中学生の様な小男が崩れかけの高架の上に、姿を現す。

能力アカデミー部の切り札の様だが、顔色が真っ青だ。


「だが!私のゴーレムは無敵無敗!勝負だ!とう!」

高架から飛び降りる男。

ズモモモモ、

彼を銀色の液体が包んでゆく。


ワアアア、

再び湧き上がるアリーナの歓声。


ズッドオオオン、

少女の前に、10メートルはあるだろう、銀色の巨人が立ちはだかる。


「我がG−1000は液体金属のゴーレム!どんな衝撃も破壊はできない!フハハハハハ!」

上の方から高笑いが響く。

よく見ると巨人のひたい部分に男の顔が浮かび出ている。


「なんか、やだなあ、」

相手にしたくないタイプと思う少女。


「、、、、、」

口をへの字にして、いやああな顔をしている、しん。

「な、、、なんかすごいよ!しん!ねえ!」

いつの間にか隣に来てウデを引っ張る、しずく。銀のロボットにテンションが上がってるようだ。


「最悪の相性だ。」

「??」

首を傾げる少女。

ほんとに、嫌そうに解説を始める、しん。

「しずく、ターミネー○ー2って昔の映画知ってる?」


「ん、、、?シュワちゃんの?」

見た事はあるらしい。途中で、ああ、成る程、と理解する。


「ボイル!」

那智の炎熱能力が一瞬にして、地上、数十メートル四方を灼熱の溶岩に変える。


「何!ヤメロおおお!ウワアアアアア!」

ブクブクと溶けながら銀色の巨人が溶鉱炉の海に沈みだす。


ボコボコと変形を繰り返しながらのたうち回る巨体。


「な〜んちゃって!」

しかし、ニヤリと笑い、

「脱出!」

額から抜け出そうとする小男。上半身が出てくる


「とー!」

上空に退避していた、那智の急降下キックが男の顔面に炸裂。

「ぎゃああああ!」

銀色の液体に沈んでいく男。


「、、、、」

那智も映画を知ってるのか、と、どうでもいい事を考えながら、陳腐な最後をながめている少年。

「ああ、アイル、ビー、バックになってる。」

すごすごと自分の席の戻るしずく。


映像は溶岩に溶ける銀色の手が、サムズアップする所で終了する。


ウイナー那智 野川 の文字が鮮やかに表示される。

それでも、盛り上がるアリーナ。

なんでもいいのか、コイツらは。


「はい、終いだ。終い!友樹、片せよ。」

「うえ〜〜い」

プロジェクターを片付けだす、茶髪メガネ。

全員、毒気を抜かれたようだ。

なんの事はない。少女が強すぎたのだ。戦いになっていなかった。


「う〜〜〜〜ん」

紅茶を飲みながら、気を取り直す、しずく。


「そういえば、ここ。顧問の先生は?やっぱり、化学部の?」

話題を変えようと思ったのだろう。


「うんにゃ。保健室のセンセーが引き受けてくれた。入学の時の検査から何かと親切なんだ。」

再びネトゲを立ち上げながら、答える、しん。

「そして!同じ白衣コスの同士だ!」

快心のドヤ顔、


「ふーん」

表情は判りにくいが、なぜか、不服そうな少女の声。


「あれはコスプレではない」

と誰も突っ込んでくれない。

一拍おいて、

「あの、綺麗な先生、、、よかったね〜」

ニコニコしながら、片付けを始める。しずく。


「あ、おい。まだ、」

飲みかけのコーヒーをもってかれる。

「片付かないでしょ。私、そろそろ部活に戻るね。」

笑顔。

「おい、、、」

隣接している天文部の準備室から帰ってしまう。


「なんだありゃあ!」

憮然とする少年が、冷ややかに自分を見つめる悪友に気がつく。

「おい、なんでお前、飲み物!」

彼の物は片付けてられてはいない。

無視してコーヒーを飲む友樹

「お前どこのラッキーマンだよ。保険の野川先生ったら、教員人気ナンバーワン。

オアシスの女神さまだぞ!」


こいつも中々この手の情報に詳しい。

「それに、しずくちゃん!あの子も磨けば光る、隠れた逸材だ!なんで、こんな奴に、、、、」


なにやら、ブツクサ言ってるが、

「ラッキーなわけあるか!マジで死にかけたんだぞ!走馬灯なんか初めて見、、、」


思い出す。

空を舞う、しなやかな少女

そして、ついさっき見せ付けられた、圧倒的、戦闘力。

野川那智。


同じくブラウンだが、落ち着いた少し長いソバージュの髪。いい香りの大人の女性。

保険医の野川智由先生。


「そういや、どっちも、野川か、、、、まさかな。」

考え込む少年。


1週間以内に、投稿するよ。

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