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能力アフター  作者: 佐藤同じ
17/55

能力アフター3話01

二日酔いが

ツライです。

乱暴にベレッタM9のスライドを引きながら、黒いメルセデスのバンに乗り込む、黒の背広、スラックス、全身、黒ずくめの男、朧 理世。


彼のハンドガンは、能力ブースターの武器ではなく、単純な9ミリパラベラム弾を使用する実銃だ。

彼の特質には、それが合っており、好みでもある。

「なんだって、上の連中はいつも、唐突なんだよ!こっちの都合も考えろっての!」

不機嫌そうに、牙のような犬歯をガチガチさせる。


助手席に滑り込むのは、同じく黒ずくめ、ロングの黒髪の美女、不可視、超高圧分子の切断糸を操る、千里 詩吟。

「あんたが、それを言う?行き当たりばったりの理世くん。」

面白そうに笑う、詩吟。

「るっせー!よりにもよってこんな時によ!」

7人乗り、後ろの、最後尾、3人席の3人をにらみ、忌々しそうにグチる朧。


そこには楽しそうに、はしゃぐティーンエイジャー三人の姿がある。


正確には、真ん中、ウチのチームのオペレーター、

オレンジ頭の両サイドに、ミカンのような、お団子がついた、妙なヘアスタイルのポリグラム能力者、設楽 郁恵にじゃれつく、

白い一高のブレザー、緑の風紀委員の腕章のお客さん。フワリとしたブラウンのセミロング、名にし負うAAAの炎姫、爆弾女、野川那智と、


左に、我関せず、と知らんフリのプラチナのショートボブ、受信テレパスAクラスの冬木リンがいる。


「ガキの引率中に事件かよ!」


アルカの制定部隊、

つまり、民間の対能力者用の軍事警備会社だが、ここの警察、特殊捜査四課と同じくたまに、天宮四校から、風紀委員たちが、課外活動として、見学に来る。


優秀な人材にツバを付けておきたいのだろうが、現場にとっては、ただの迷惑だ。

遊び気分の抜けないガキの面倒などしてられるかって話だ。


「遊んでんなよ!爆弾女!郁恵!大人しくさせてろ!」

釣り上がった三白眼がさらに傾斜していく。


「や〜〜〜!おぼさん。怖い〜〜〜!」

きゃっきゃと郁恵に抱きつく那智。


「な、那智さん!早くシートベルト、してくださいです!」

なぜか知らないが、彼女は、この天宮一高の少女、野川那智に大変気に入られていた。屈託なく天真爛漫。輝くような明るい美少女だが、はっきり言って苦手だ。


朧 理世といったら、制定部隊でも大の男が避けて通るコワモテだ。

それを全く意に介さず、気にもしない。常人には理解し難い無軌道さだ。

それに、彼女が絡むと、大体事態が酷いことになる。巻き込まれて割りを食うのはいつも自分だ。

正直泣きたい。


アルファチームに同い年なのは自分だけ。接しやすいのだろう事は、判るのだが。


制定部隊、PMCナーブ本部は、東京湾の人工島、東アルカ、ほぼ中央の若干、上、

住宅区とオフィス区の間にある。


一号から四号練のビルを持ち、他に厚生練、隊舎、専門学校まで存在する。

設楽 郁恵は、そこの学生だが、十六歳にして正規部隊員に登録されるのは極めてまれだ。

彼女の優秀さの証明なのだが、野川那智に関わると、ただの少女に戻ってしまうようだ。


三号練の下、広々とした地下駐車場から、次々と黒塗りの車が滑り出して行く。国産から外車、セダンからバン、車種はバラバラだ。


「イクエちゃんの黒ワンピ、カワイーよね!MIBみたいなのじゃダサいもん!」

明るく、おぼろ達の服装をデスる那智。

何言ってんのこの子!青くなる郁恵。


黒のワンピース、胸にはエメラルド色のビーズと白いヒラヒラ、あと、袖も白。シックな装いだが、彼女に言わせると、これもどうかと思うのだが。


「んふふ〜〜〜」

不気味な笑いを浮かべて、振り返る、黒髪ロングの詩吟。

「でしょう〜!かわい〜よね〜〜〜!若い子のファッションは、アレンジ加えていかなきゃ!お姉さん、頑張って上と交渉したから!」


仲間をほめられて、嬉しいらしい。詩吟。

あなたですか!このクラッシックデザインの隊服の出どころは!

しずかに絶望する、郁恵。


「い〜〜〜〜かげんにしろっっ!!行くぞ!」

おぼろが、乱暴にアクセルを踏みつける。

カリカリにフルチューンされたターボチャージャー付きDOHC直列4気筒、総排気量3142cc最高出力1263psのエンジンが咆哮を上げる。

派手にタイヤを軋らせながら、光さす地上へ踊り出すメルセデスV220d。



東アルカ、研究学園区内、第三創薬基盤研究所、午後2時


敷地内に黒塗りの車たちが次々と乗り入れる。   

大まかに、三つに分かれる研究練だが、それぞれに、過不足なく配置されていく、制定部隊。


その様子を、少し離れた駐車場にて見物する影があった。

一般車両に混ざった、これもまた、黒いバンだ。


中にはきれいに剃り上げた禿頭、黒人のジノ フィッシャー、黒髪ショートボブ、エイダ レスターの姿も見える。

「しかし、驚いたね。あの真面目男のハリー君が、我々を裏切るとは、」

丸くて小さな黒いサングラスに隠れた目を細めて笑う。ジノ。


(真面目だからさ、

違法クローンの実験体など邪魔に過ぎない。司法取引の材料にして我が身の安全をはかる、と。)


耳のワイヤレスイヤホンから、不知火あらたの面白くも無さそうな声が聞こえる。

彼もまた、天宮学園一高、生徒会室でひとり、アンバーTYPE01の中継で、ここの様子を、モニターしているのだろう。


「まあ、私たちにとっては、好都合じゃない。予想通り、制定部隊が釣れてさ。」

赤ジャケット、黒いレザーパンツのエイダが話を受ける。

日本の警察相手では、まだ司法取引は一般的ではない。よって、PMCナーブを利用したのだろう。


そう、彼らの目的は、下部組織のここの研究所をエサに、アンバーTYPE01を

制定部隊に渡す事だった。


日本の、制定部隊は、ある男の私設軍隊といえる。その男の手に。


しかし、物事は思い通りには、進まない。


ドォオン、


腹に響く振動と共に、研究練の一角から、黒い煙が上がる。

「なんだ!」

ジノのぶ厚い唇がへの字に曲がる。


話は少し遡る。

「クソッ!クソッ!クソッ!」

グレイのオールバック、髭面、神経質そうな長身の白衣の男が、酷いスラング混じりにブツブツ、イライラと歩き回る。


ここは、研究練のD棟。メインのA〜C棟からは少し離れた、緑多い湖のほとりにある。小規模な研究施設だ。

現在、A〜C棟は、制定部隊に完全に包囲されていた。


「話が違うじゃないか!アンバーの引き渡しは、まだ先のはずだ!なんだってこんな、、、」

すっかり頬がこけてしまった、研究主任ハリースミスだ。例の違法検体を預かって以来、

神経をやられたらしく、ドラッグの常用の噂まである。


二人の助手が心配そうに見守る。PMCナーブとの取り引きが失敗したら、自分たちの身もどうなるか判ったものではない。

「理事長に連絡してみたらどうでしょう。主任!」

小太りの助手が、声をかける。


「簡単に、連絡がつくものか!やつら、この機にここの荒探しをするつもりだ!クソッ!」

乱暴に携帯を取り出し、通話するハリー


「どうゆう事だ!これは!秘密裡に取り引きするのではないのかね!これでは事態が公に!」

つながった相手に一気にまくし立てるハリー。

が、すぐに大人しくなる。

「わ、わかった。とにかく頼む。直ぐに、そちらに向かう。ああ、ああ、」


なんとか気を取り直し、助手たちに指示を告げようと振り向くハリー


しかし、二人は立ったまま、物言わぬオブジェと化していた。

凄まじい、火煙が人体のあらゆる所から立ち登る。生きたまま体内を焼き尽くされているのだ。肉のこげる匂いが辺り一面を覆う。


「うわっ、、、、、ウワアアアアアアアーーーーーーー!!」

いつの間にか、幽鬼のような長身の影が立っていた。


「いけないな。先生。組織を裏切っちゃあ、なぁ。」


黒いウエーブがかかった髪が、コケた頰骨にかかる。狂気が宿る鋭利な瞳。両耳に二つずつ、赤いイヤリングが仄かに発光する。能力ブースターだろう。

溝口征治。Bクラスの火炎能力者。


その薄いくちびるに張り付くタバコが、赤く、赤く、発火する。


それが、エリート意識に、こり固まったハリースミスが見た、最期の光景だった。


「なんだったんだ?今の電話。」

研究所、A棟のロビーで、受付に、ノンビリと身分証明書を見せながら、目つきの悪い、朧 理世が、となりの美女、詩吟にたずねる。ちなみに、制定部隊は警察と同等の公権力を持っている。


「今回のクライアントよ。すぐコッチに来るって。ビビりーの小心者ね。その上プライド高いって、始末に置けないわ。」

苦笑いをしながら、携帯をしまう詩吟。


ハリーと話していたのは、彼女らしい。

証拠の差し押さえ、内部調査は他のチームが担当している。

検体の受け取り役の、おぼろ達はノンビリしたものだった。


「各チームの様子はどう?郁恵ちゃん。」

左耳のワイヤレスイヤフォンで、後方のオペレーターに確認をする詩吟。


(順調です。、、、キャンセラーによる通信、能力妨害がある区域はありますが、、、、今のところどこも異常はありません。)


「キャンセラーだあ?なんで創薬研究所に、そんなもんがあんだよ!」

ぶ然とする、おぼろ。そのせいだろう、通信も安定しない。


「気を付けて、郁恵ちゃん。何かあったらすぐ連絡を。」

漠然とした不安にかられて、足を早める詩吟。

(了、、、解、、、、)

通信が途絶する。


ズゥウウン、ン、

それと同時に、足元を突き上げる衝撃が来る。


もともと騒然としていた研究所内に、悲鳴が混ざる。

「爆発だな、こりゃあ。何かあったな。」

嬉しそうに笑うおぼろ。


「D棟、クライアントの方向だ。急ぐよ。理世!」

消える二人。能力による、高速機動に移ったようだ。


ざわめくA棟の左、正面のロータリーに横付けした、メルセデスのバンの中に郁恵達はいた。

窓を完全に目隠しされた、後部座席は、コの字に座席が組み合わされ、横向きになった郁恵の完璧なオペレーションルームと化していた。

白い一高のブレザーの二人は、反転した中二席に座って、特にやる事もなく彼女を見学していた。


九つのチームが現場に展開しているのだが、彼女はその全ての動きを把握し、それぞれのオペレーターにフォローを入れている。

現在、一名の欠員があるそうだが、さすが、トップチームのオペレーターと言えるだろう。


「んふ〜〜〜。やっぱ、凄いね、イクエちゃん。」

向かって右手前、両手にアゴを乗せて楽しそうに那智が言う。

ここまで完璧なバックアップができるのは、一高の風紀にはいないだろう。

同い年の少女が一人前以上の社会人をやっているのだ。絶賛を惜しまない、那智。


「いいですから、おとなしくしていてください。」

若干、赤面しながら作業を進める、郁恵。

いつもなら、抱きついてくるだろう、彼女を警戒して、自分の隣、左手前にはひどく、無口な少女、冬木リンに座ってもらっている。


那智の、特に女性に対するスキンシップは、単なる、人懐っこさからくるもので、一高、風紀委員の中では男女問わず、天然のたらしとして、警戒されている。

彼女の無邪気な好意に、泣かされる、男子委員たちは、結構いる。


「そうだ、イクエちゃん。」

彼女を見ていて、とある白衣の少年を思い出す那智、


「アダムって、ハッキングできるの?」


言わずと知れた、月面にある、超古代のオーバーテクノロジー、稼働率1%に満たないながら、現在、世界中のほぼ全てのインフラを制御する、スーパー量子コンピューター、アダム、である。


「は?そんな事できるわけ、ないでしょう。そんな事例は皆無!可能ならこの世界、崩壊しますよ。」

事もなげに断言する、郁恵。


「だ、、、だよね〜〜〜〜アハハハハ。」

バツが悪そうに笑う那智。

やっぱりだ。あの大ボラ吹きめ。今度、とっちめてやる。

はた迷惑な決意をする少女。


郁恵は、ヘッドセットに繋がれたマイクで、詩吟と何やら、通話をしている。

何かのトラブルのようだが、よくわからない。


後方待機というのは、何かと手持ち無沙汰だ。

早い話、那智は、退屈していた。


ドォォオオン、ン、

そこに、バンのサスペンションを軋ませる衝撃が来る。


素早く、ドアを開けて、研究棟を見上げる、那智。

五月、後半の晴れた青い空、

A棟、右、向こうから黒煙が上がっている。

「リン!」

叫ぶ。


プラチナショートボブの少女の、淡い光彩の瞳が、ほのかに燐のような光を灯す。

「湖畔の施設、、、、、三人の犠牲者、、、、炎熱の能力者、、、、、止めないと、、、危険、、、」


湖畔の施設とは、D棟の事だろう。

「わ、、、、わかるんですか?」

あっけに取られて、すぐ隣の小柄な少女を見つめる、郁恵。


これは、常識外れの探知能力の証だ。

現在、全チームの知覚拡張能力者たちが、最新の電子機器のサポートを受け、全施設内のサーチをしているが、キャンセラー、EPの妨害を受け、情報把握には程遠い、状況だ。


しかし、彼女はこの広大な敷地内の、個人を特定。状況、細かなデテールまで理解してしまっているようだ。


もちろん以前の冬木リンでは無理だったのだが、最近、能力の底上げがあったおかげである。


さて、とにかくそれは、最強度のアンチ能力システムを引く軍事施設を持ってしても、彼女の前ではその有用性が、疑問視されるのを表している。


Aクラス、テレパシー能力者。


ここまで、違うものなのか、改めて思い知る郁恵。

ポリグラム能力、クラスC、

自分の能力だ。


オレンジのような頭のお団子のヘア飾り、能力ブースターの力を借りて、

他者の生理反応、皮膚電気活動を把握して、嘘か真実を言っているかの判別ができる力。


冬木リンの下位互換である事は、重々承知していたが、どうやら次元が違ったようだ。

ちょと泣けてくる。


ちなみに、能力ブースターだが、これはBクラス以下にしか効果はない。

Aクラス以上の、能力者の能力演算速度は、機械的、ブースター機器のそれを軽くを越えてしまい、

デットストック、足枷にしかならない。


よって彼らには、どんなサポートマシンも意味はなく、必要とはならない。


彼らこそが、正真正銘の超能力者なのだ。


なのだが、


「うし!行くぞ、リン!案内して!」

リンをバンから引っ張り出す那智。


何を言ってるんだ。こいつは!


「だ、だだだだだだだ、だめですよ!何言ってんです!那智さん!」

慌てて止める郁恵。

彼女たち二人は、絶対じゅん守の後方待機。さらに正規の隊員でもない。現場に立ち入るなど言語道断、越権、違反行為だ。


「人が死んでんだよ!止めなきゃ!」

言ってる事は正しいのだが。

常の明るい少女からは想像できない真剣さだ。


「んじゃ、イクエちゃんも同伴ならOKかな!」

が、ニッコリ笑う。

「何を、、、え、ええ?」


ほんの一瞬、瞬く間に、車外に連れ出され、那智の右脇に彼女は抱えられていた。

状況が把握できない。同じく左脇に抱えられた冬木リンが見えた。

彼女の表情は、諦観し、悟りきった、諦めが漂っている。


野川那智の突発的行動の被害者は、だいたい彼女なのだろう。


「キャアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーー!!」

ドン、

全身を襲う浮遊感。


黒いバンが、

駐車場の車が、

研究所前のロータリーが、みるみる内に、眼下に遠く、小さくなる。


A棟、研究練を軽く超え、三連の研究練、湖と緑の公園。敷地全体を睥睨できる、空高くに三人は舞い上がっていた。


「いやああああああああーーーーーーーーーーーーー!!」


ぬけるような五月晴れの空に、少女の悲鳴が溶けていく。


研究練から少し離れた、駐車場の黒いバンの中で、

ジノとエイダは、所内カメラ、通話記録、制定部隊の情報など、刻一刻と移り変わる情報を、アンバーTYPE01から受け取っていた。


「驚いたな、ミスター溝口が、思いのほか真面目に、仕事をするとは、ね。」

剃り上げた頭を、ペシリと叩く。

溝口は組織に飼われていた、使い捨ての兵隊だ。

ハリーのお目付役に、一応置いていたに過ぎない。


ハリーの行動を裏切りと判断し、始末している。他、数名の助手達を脅して、アンバーを

研究所から脱出させようと、動いている。


今となっては、余計なことだ。

「ヤーレンソーランが、足りてないのよ。ジノはさ。」

笑うエイダ。

(ホウレンソウだよ。エイダ)

あらたの、冷静なツッコミがワイヤレスイヤホンに入る。


「じょ、じょ、ジョーダンに決まってるじゃない!あらた!」

シドロモドロになりながら、話を続ける。

「それに、あの異常者が、まともに働くわけないじゃない!

あいつ、人を殺したいだけよ。仕事はついでじゃない!」


彼女の言っているのは、ある意味正しい。

たぶん、溝口征治はアンバーをエサに集まるPMCを皆殺しにするつもりだろう。


異常犯罪者が、ギリギリのところで、雇われ仕事をこなしているのが、現状の彼だ。


「片付けますか?」

あらたの胸の内を、読んだように、ジノがつぶやく。


面倒だが、その方が早いか、と思うあらたにアンバーが意外な情報を届ける。

当然ジノたちにもだ。

「おやおや、」

ジノがチビたサングラスを上げる。

「あらあ、まあ!」

エイダは嬉しそうだ。


(しばらく、様子を見ようか)

幾分、面白そうに、あらたが、告げる。


風紀委員、ナンバーワンのトラブルメーカーが、現場に到着していた。



「クソったれ!」

おぼろと詩吟は、研究練C棟にて、ケムリにまかれて、避難してくる職員たちに阻まれ、足止めを喰っていた。


ケムリのため視界も悪いし、通信妨害のためバックアップも受けられない。おまけに無計画な増築のせいか、各棟の連絡路が、上がったり下がったり迷路のような様相を呈している。

「マズイわね。これじゃ、一旦、外に出た方が早いかも。」

ハンカチを口に焦る詩吟、

他のチームが避難誘導を始めている。


「外ってどっちだ!」

うなる、おぼろ。

「さあ?」

首を傾げる詩吟。

アルファチームは迷走していた。


しかし、彼らはまだマシな方だ、最初からC棟の湖側にいたイオタチームは、最悪な状況を迎えていた。


アンバーがD棟にいるのを掴んだ彼らが、向かったところ、地下エレベーターから上がってくる医療カプセルを運ぶ、数名の職員と、その男。

黒のタートルネック、灰色のジャケット、痩身の、狂気をはらんだ溝口と鉢合わせしてしまった。


いわゆる、遭遇戦だ。

この場合、最優先されるのは、主導の原理、いかに先制できるかにかかっている。

チームの三人には溝口の情報はなかった。


いかに鍛え抜かれたPMCだといえ、対応は遅れる。

反対に溝口の狂気には、一切の躊躇は無い。


イオタチームの三人が、一気に燃え上がる。

「グワガアアア!」

しかし、大男の松田の能力、不可視のシールドが展開する。


携帯キャンセラーによる、能力阻害の力を持つ、能力の盾という極めて、めずらしい特質を持ったそれは、かろうじて、全ての溝口の炎を打ち消す。


他の二人はもう瀕死の状態だ。かろうじて生きているのは、対能力用、防弾、防刃、耐熱の全身黒尽くめ、評判、最悪の隊服のおかげだ。


「こざかしいぃ。」

ニタニタ笑う溝口。周辺に鬼火のような炎を、ばら撒き出す。


瞬時に直接攻撃は効果が薄いと判断し、蒸し焼き、または一酸化炭素中毒をねらったものだろう。

こんな室内の廊下ではたちまち酸欠だ。

しかし、彼はここの研究所の間取り、造り、構造を完全に覚えこまされていた。


恐ろしく、心配症のチームのオペレーターのおかげだ。その点では、アルファチームの天才ルーキー、オレンジ頭にもひけはとるまい。

「死ぬかよ!」

盾を展開し、左の壁を叩き壊す。

そこは湖側の道路に繋がっている。二人を抱えて転がり出た。


そこまでだった。

まるで待ち構える様に、炎の壁が四方八方、周囲を囲んでいる。ユラユラと湖の展望台が、炎の向こうに揺れていた。退路は絶たれたようだ。


「クソ、、、、、!!」

グバァン、


シールド能力が、はかなく消え去る。

圧倒的な範囲、物量の炎の前に松田の力は無力のようだ。


「フハハハハ!美しいだろう!オレの炎は!これこそが芸術!これこそが人生の喜びだ!」

まるで悪鬼の様な影が、炎に揺れる。

ジワリと圧倒的な天を衝く炎の城跡が迫って来る。


喉が焼ける。呼吸ができなくなる。


後悔があるとしたら、ひどく心配症な、娘ほどの年の離れたオペレーターの事だ。

一気に三人もチームメイトがおっ死ねば、さすがに彼女も落ち込むかもしれない。

気にやまないで欲しいものだが。


最後に、熱にイカれたワイヤレスイヤホンから、彼女の呼ぶ声が聴こえた様な気がした。


グワゴッッアアアアアアアアッーーーーーーーー!!!


世界を白熱が包む。


白く全てが焼き尽くされたようだ。視界が戻るまで随分とかかった様な気がする。


その少女は中空から、静かに舞い降りる。


何故かはわからないが、両脇に、これも女の子を抱えている。


松田は自分の正気を、疑った。ついにおかしくなったのかもしれない。

巨大な炎の壁は跡形もなく消え失せている。


「し、、、信じられない、、、炎で炎を吹き飛ばした、、、」

右脇に抱えられた、オレンジを乗っけた頭の少女がうめいている。


考えられるのは、爆風消火だ。強力な爆発エネルギーを利用し火災自体を吹き飛ばす。

大規模な森林火災、油田火災さえ、鎮火が可能だ。


しかも、これは周辺被害、人的被害がまったく、見られない。


恐ろしく、綿密、繊細、正確な能力コントロール、

なおかつ圧倒的な、それこそ、比類ない力を有していなければならない。

現在、そんな事が可能なのは、日本には一人しか存在しない。


フワリとしたブラウンのセミロング、

白い一高の制服に、緑のアルカ、風紀の腕章。

炎熱系頂点のAAA。

アジア最強を謳われる、美しき炎姫。

彼女、野川那智、ただひとりだ。


「なんだっ!なんだっ!!何をした!!きさま!オレの!!オレの炎をっっ!!」

狂ったように喚き散らす、溝口。


瓦礫を踏み越え外に出る。信じられないように周囲を見回す。美しい、最愛の、彼の命、彼の炎は消えていた。まるで初めから、何も存在しないように。


「なにをしたんだああああああああーーーーーーーーーーーーーーー!!」

絶叫する溝口。


「うぅううううるぅっっさあぁああああああいいいいっ!!」

怒髪天を衝く、

「お前ええええ!!自分がなにをやってんんのかわかってんのかああああああああーーーーーーーーー!!!」

炎による、残虐行為。目の当たりしてしまった那智は激昂する。

怒りが圧力を伴い、爆発したようだ。


地上に下ろされた、郁恵は腰を抜かしてしまう。


「ぜっっったい!!許さないぃいいい!!!」


ドン、!

地を砕き、戦闘を開始する少女。

圧倒的な、蹂躙が始まった。


わめきながら、必死の攻撃を繰り出す溝口の炎を、すべて後出しの爆裂で、より強く、より速く、まるで、マッチの火を吹き消すように、無慈悲に、容赦なく、残酷に、打ち消していく那智。


本来まったくの勝負にならない、実力の開きがあるのだ。男の全てを打ち砕きながら、追い詰めていく。その姿は、まさに鬼神。災厄の地獄の業火が地上に、顕現したようだった。


戦いの趨勢は、すぐに決まるものと誰もが思った刹那、予想外の事態がおこる。


遠い昔、

彼、溝口征治は、薄暗く、ジメジメした地下深い、スプロールスラムで少年期を過ごす。

両親など居ない。

物心つく前から彼は一人。残飯を漁り、泥水を啜って生き延びてきた。


その中でたった一つの唯一の味方。

己が能力の炎。

自らを守り、敵を退け、暖かな温もりをくれる。

それは、魂の拠り所、彼の中核を成すものになり、やがては彼だけの、絶対の信仰に昇華する。


信じられなかった。

その信じる炎の「それ」が、少女の形を取り、眼前でその人智を超えた、権能の猛威を、存分に振るう。

信じたくなかった。

自分は、これで、信じるもの全てに見放されてしまったのだ。

崇めたてまつる炎の「それ」は、一片の慈悲もなく、この身の信仰を焼き尽くそうとしている。

残るものは何もない。

感じたことのない、根元の恐怖が男を、焼き尽くす。


「ウワ、、、、ウワオオオオオアアアーーーーーー!!」

溝口の絶叫が、四方八方、炎の炎弾を滅茶苦茶に撒き散らす。


「ちぃいっ!!」

思いがけない攻撃を許した油断は自分の責任だ。

高速機動を続ける那智が、直接攻撃に転じようとした瞬間、それは起こった。


後方に散った、炎弾の一つが、D棟の影に隠れていた、医療用カプセルと、職員たちを直撃する。

轟音を上げ、崩れる外壁。倒れる職員たち。

ストレッチャーから外れ、地面に叩きつけられる医療用カプセル。

その中かから、見かけ上は意識のない、アッシュブロンドのロングのストレートヘアー。

手術着のみの美少女。

アンバーTYPE01が、投げ出される。


バコン、

アスファルを削り、足がめり込む。少女の動きが止まる。

「あ、、、、、あ、あ、、、、、」


信じられないモノを見たように首を振る那智。


炎に囲まれる、医療用カプセル。倒れる少女。

それは、彼女の過去の、心の傷、PTSDを掘り起こしてしまう。


「な、、な、、さん、、、どうし、、、て、、、」


助けられなかった、少女の名を呼ぶ野川那智。

彼女の姿が、アンバーTYPE01にオーバーラップする。


そのショックは、それでなくても、負荷のかかった、激情による能力戦の最中。彼女のキャパシティを超えてしまった。


彼女の心の危険をキャッチする、リン。

「那智、、、、だめ!」

全ては手遅れだった。


「ああ、、、、アアアアア!!」

地響きと共に、現時点での彼女の全能力が暴走、解放されていく。

超能力の異常暴走事故だった。


直径50メートルを超える、円筒の炎の筒が天高く立ち上がる。

いわゆる、火災旋風、炎の竜巻だ。上層部は直径、100メートルに達し、高度は虚空を越え、成層圏に到達する。


みず希しずくの竜巻と似てはいるが、彼女のそれは、気象操作によるエネルギーを利用したものであり、純然とした炎のエネルギーのみのこれとは、違っている。


オレンジからサンライトイエロー、そして、まばゆい白熱へ。

轟音をあげる竜巻は、そのエネルギーを天井知らずに上げていく。いずれ四方に爆散し、学園研究区画を消しとばし、東アルカ半分が消えて無くなるだろう。


現在、D棟半分を飲み込み、湖の半分と展望台を飲み込む、炎の竜巻。

湖が爆発するように蒸発し、水量を減らしている。


「火事で避難が進んでいて、助かりましたね。」

二つのオレンジ団子を頭に乗っけた、少女が松田を木の影に運ぶ。


「君は、、、アルファチーム、、の、、、」

「休んでいてください!最後まで、諦めないで。ヒロミが悲しみます!」

チームのオペレーターの名を呼び、汗を拭きながら、設楽 郁恵はかけて行く。


「情けない、、、話だ、、、子供に、、、励まされる、、、、なんて、な、、」

能力の暴走による、竜巻の中だ。本物とは違うが、やがて、高温のガスと炎で窒息死するだろう。そして、外側は輻射熱による、炎熱地獄だ。被害はどれほどの事になるか、想像がつかない。


しかし、彼女に絶望の色は、見えなかった。

人間は、思いのほか、強いもののようだ。



野川那智は、白熱に輝きながら、火災旋風の中心にいた。

意識のないトランス状態だ。無意識の炎弾が彼女を守るように、周囲を漂う。


フラフラとその前に現れる、溝口。

高熱を放つ彼女には、近づけない。ただ、その姿を見たかった。


彼にはわかっていた。

いや、彼だからこそ、誰よりも理解していた。


周囲を旋回する白熱の竜巻の巨大さを、

天を覆う火炎の本質を、


少女の前に膝を折り、コウベを垂れる。

「それ」の名を呼び、祈りをあげる。生まれて初めての、多幸感が全身を包んだ。


「神よ、、、、、!」

両手に抱えるナイフを自らの、喉に突き立てる。


ガキ、

それを蹴り上げる、リン。

こんなバカに構っている暇はない。


「何を、、、ぎゃっ!」

思い切り、手刀を当てて意識を奪い、遠くに溝口を放り投げておく。

そこに、郁恵がかけて来る。


「リンさん!テレパシーを!彼女を止められるのは、あなただけです!」

しかし、悲しそうに首を振る小柄な少女。


「だめ、、、、全然、応えてくれない、、、、」


普通でさえAクラスには、精神操作系は通用しない。さらに現状、那智の周囲は、精神パルスの渦の中だ。たとえ、発信型最高峰のテレパス、瀬里奈がいても何もできないだろう。


「、、、、、、何か、、、、、何か、、、、」

どんどんと呼吸が困難になっていく、喉がヒリヒリしていく。すぐに何も出来なくなってしまうだろう。

死にたくもないが、底抜けに明るい彼女に、大量殺害などやってもらいたくない。

自分はそれほど、野川那智を嫌ってはいなかったようだ。


「これです!」

ゴツン、

とリンのおでこに頭突きをする、郁恵。

「ゼロ距離の!接触テレパスです!これなら多分!!アタタタ、、、」

頭を抱える郁恵。

同じく、頭を押さえる、冬木リンが目をパチクリしている。

そして、柔らかく笑ったような気がした。


「ありがとう、、、、」

冬木リンが消える。那智に匹敵するブーストムーブだ。


彼女のテレパスの影響か、郁恵には、なぜかわかってしまった。最悪の場合、リンは那智を殺してでも、暴走を止めるつもりだったのだ。

バカな話だ。そんな事をすれば、リンは自分自身を決して許さないだろう。

私は、いきなり二人の友達を失くすじゃないか。ふざけるな!


「リン!がんばれーーーーーーー!!」

叫ぶ少女。


超高速度での、ジグザグのイナズマ機動。

接近するモノを無意識に迎撃する那智の小型の爆烈を紙一重で、避けながら

一気に距離を詰める。


バチコオォオオオオンン、!


高熱を発する少女に、

凄まじいスピードでチョーパンを決めるリン。

それと同時にプロビデンス サーチを展開。野川那智に干渉し、正気を引きずり出す。

常識外れの演算能力が、可能にする、一瞬の奇跡だ。


「ぎぃやああああーーーーーー!!」

頭を抱えてのたうち回る那智。


グウワバッガアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーン、


大気を激動させ、成層圏にその全エネルギーを放出し消滅していく、巨大火災旋風。


名残りの暴風が当たりの樹々を、千切れるように揺らし、湖に幾重にも波を立て、水しぶきをあげる。


「リン、、、、那智、、、!」

二人は無事のようだ。なんとか風に飛ばされないように踏ん張る、郁恵に笑顔が戻る。


あれだけの騒ぎで、人的被害はなさそうだった。D棟は滅茶苦茶だが、まあ仕方がない。


しかし、芝生に、頭を抱えて転がり回る、美少女二人、というのは、なかなかシュールな光景だ。


「何やってんのー?あんた達、」

長い黒髪を押さえながら、詩吟がやってくる。

「おー、おー。このお人形。アンバーってんじゃねーの。」

おぼろもいるようだ。


全チームが次々と集まってくる。負傷者、怪我人が、次々と搬送されていく。 

溝口も連行されて行くようだ。


「松田さん!豊洲さん!鈴森さん!」

向こうの方で、イオタチームの童顔のオペレーターが、大男の松田と、意識を取り戻した二人に抱きついて泣いている。

三人は無事のようだ。


「よかったね。ひーちゃん。」

湖畔の風が気持ちいい。事件はやっと終息のようだ。一つ大きく伸びをする郁恵。


ジャリン、とボロボロの歩道を踏む音が、後方からする。


「ああ?何やり遂げた感、カモしてんだ、テメェ。」

朧 理世だ。

「持ち場放棄に、命令違反。お姉さんは、悲しいよ。郁恵ちゃん。」

並んで詩吟。


遠くで、那智が、合掌して、頭を下げている。

そのとなりで、リンが手をヒラヒラしている。


ああ、わっかてますとも。説教でも、始末書でも減給でもなんでも、好きにすればいい。

最初から分かってたって。オチは大体いつもこうなんだ。


シクシクとおぼろと詩吟の二人に引きずられていく、郁恵。


ガンバレ郁恵ちゃん。

彼女の苦難は、まだ始まったばかりのようだ。


また来週。

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