能力アフター 1話 010
スーパーテンツOの
こころが、、、、
USAアルカ エアズホウル高、女子寮
「はー、面白かった。」
ノビをひとつする黒髪ロングのルームメイト。
「後半はよく分からなかったけど、やっぱりナチ ノガワね。
あのデトネーション、中々だったよね、アリコ。」
クルリと机から体を回し振り向くトバリ。
「なにを、、、、やっているの?」
ここで初めてガタゴトとキャリーケースに着替えやらを積み込んでいるアリコに気づく。
「ちょっと、日本に行って来る。」
ニッコリ笑う少女。
「は、、、、?」
異常事態だ。目が笑ってない。
この子がこんな時はロクな事にならない。
「ま、待って!今何時だと思ってるの?い、いえそうじゃなく!なんでそうなるの!」
慌てふためくルームメイト。
それはそうだろう。後半のあれを理解できるのは、世界で何人もいるまい。
いや、理解可能な人間がいるのが問題か。
見つけた。白衣のあのバカ。
とりあえずブチのめす。
「大丈夫。空港まで、飛んでくから、朝には発てるわ。」
にこやかな、アリコ マーレイ。
非常識な事を、事もなげに言っている。まずい、なんでこんな事に。
今にもベランダから飛び出しそうだ。
灼熱の熾天使を冠するアメリカを代表する高位能力者。
その彼女が異質の、青白い情念の炎を瞳に宿す。
「待って!待ちなさい!アリコーーーー!!」
夜の女子寮にトバリ リビングストンの悲鳴が響く。
UKEアルカ、郊外、放牧場、クラブハウス
まぶしい、朝の日差しが差し込むラウンジ。
会員制のここは、24時間体制で学生達を迎えてくれる。早朝にもかかわらず、数人の学生達が歓談している。
ランシィ フォンドリックとメリッサ カートも穏やかにメリッサ所有のタブレットにより、日本のバトルシミュレーションを食後の紅茶を楽しみながら観戦していた。
正確にはメリッサは、ただひたすらに、ランシィ様のウオッチングに励んでいた。試合などどうでもいいのだ。
ここで誤解のないよう記載しておくがメリッサの性別は正真正銘、女である。
美は性別を凌駕するが彼女の座名の銘のようで、ランシィのナンバーワンの追っかけ、ファン、グルービーを自負していた。
それは日々エスカレートしていき、いまや、危険な領域に差しかかってきているが、彼女は一向に気にはしていない。
とにかく、だ。
眼前には今世紀最強の奇跡の姫騎士と謳われる絶世の美少女。
たおやかな指がウェッジウッドのティーカップを運ぶ。
コクリと嚥下されるダージリン。
長い金色の眉毛がまばたきのたび、光を放つようだ。
しかし、幸福な彼女の時間は、唐突に途切れる。
ドン、
映像の終了とともに、世界がブレていくような、壮絶なプレッシャーが襲う。
パニック寸前のメリッサ。
背景が灰色に染まり、重力が何十倍になったような圧力が襲う。心臓がギリギリと握り潰されそうだ。
やっと原因にたどり着く。
これは、ランシィ様の、鬼気だ。
能力ではない。10年にひとりと言われる天才的剣技。その研鑽が生み出した殺気。それがコレだ。
相手を飲む。どころでは無い。彼女の周囲全てを圧倒。物理的、圧力すら纏い金縛りにする。
まれに、ランシィフォンドリックが真に怒る時に現れる現象だ。
メリッサが知るのは、ローゼンクロィツァーの活動で児童誘拐団、壊滅に参加した時だ。
彼女の怒りは周囲を呑み込み、同行した成人の数名、上位能力者達をも心停止寸前に追いやった。
完全に油断していた。高位能力者のメリッサにして、不意打ちは耐えられない。
ラウンジに居た学生達が次々と倒れていく。
理由がまったく分からない。彼女の様子は、いつもと変わらず穏やかで、美しかった。
フィルムがコマ飛びしたように、立ち上がっている美影。
クルリときびすを返し、ラウンジを去る。
薄れゆく意識の中、メリッサは、聞いた事のない人物の名前を、彼女がつぶやくいたような気がする。
「山下しん、、、、、、」
そして、
「殺す。」
それは、容易になされるだろう。
なんとしても、何が何でも、彼女を止めなければ。どこの馬の骨か知らないが、欧州の英雄、輝ける明星を絶対に、罪人に落としてはならない。
「ラン、、、シィ、、、さ、、ま、、、」
しかし声は届かない。
美しき影は、視界から消えていった。
一週間と数日後、
ゴールデンウイークの後、澄み渡る五月晴れの空の下、
ギブスと包帯まみれの、山下しんは、やっと、病院から解放、学園に登校することができた。
川崎から学園にアクセスするには、京葉線が便利だ。学園近くの天宮駅には、新都心環状線も入っていて、かなりの賑わいをみせる。
当然、千葉県民も京葉線を利用する。偶然、仏頂面の茶髪メガネ。只野友樹と合流する。
「来たな、犯罪者。」
ひどい言われようだ。
前回のシミュレーションの結果は、実際には、無効であり、勝敗はつかなかったのだが、
なぜか上機嫌のあらた生徒会長のはからいで、ペナルティーはオレの一週間の停学くらいで済まされた。
実質、入院期間だったのだが。
もちろん、盗撮データ販売ルートは、押さえられ二度と商売はできないだろう。
しかし、個人的に楽しむだけなら、バレないと思う。ナイショだが。
たまに見舞いに来てくれたしずくの話だと、オレは学園内では、何かやらかした、変態として有名になっているようだ。
オレの大切な嫁たちはというと、基本、無視だそうだ。まあ実際には、子供の頃のちょっとした友達というだけだ。
元カレとかそんな話ではない。彼氏持ちなどは、変にこじらせて揉めたりするそうだが、まあ、上手くやって欲しいものである。
「う〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。」
問題は幽霊のように、背後を歩く家のお隣の地味子さん、みず季しずくだ。
今回の事件で一番大変だったのは彼女かも知れない。
AAの高位能力者として、華々しくデビューしてしまったワケだ。
一夜にして世界が変わるのを地で行ってしまったらしい。
学園の超有名人に。生徒会からも勧誘され、行政からの登録、審査と休みなし。
少し生臭い話だが、Aクラス以上になると、国からのかなりの額の補助金が出る。アルカ内への引っ越し勧誘など、家族ぐるみで大変だったようだ。
しかし生徒会も、引っ越しも断ってしまったらしい。もったいない。きっと、特典満載だろうに。
で、問題なのは、そんな多忙な時期に、病院に来ては、オレの昔の嫁たちについて、根掘り葉掘り聞き出そうとする事だ。
恐ろしく、不機嫌に。
話せば怒るし、昔の取るに足らない事と言うと、それはそれで怒る。もう訳が分からない。
以来ずっと、不機嫌な地味子さんだ。
「お〜〜。だいぶ直ってる。よきかな、よきかな。」
半壊した校舎が見えてくる。
急ピッチに再建が進んでいる。最新のBMI、そして、モジュール工法により、後一週間もあれば、修復は終わるらしい。アルカならではだろう。
その間はリモートで済む学生は自宅で授業を受け、それ以外は、地下教室を利用したり、中等部の施設を間借りしたりしているらしい。
「なーにがいいのよ。アンタのせいでしょ。」
ショルダーバックを肩にかついだ、ブラウンのふわりとしたセミロング、
学園最強の炎姫、野川那智が後ろから、これも不機嫌に声をかけて来る。
その後ろに、まったく無表情の冬木リンもいる。
AからAAAまで、三人の少女が並ぶのは、ある意味壮観だが、どうもよろしくない。
なんで那智としずく、この二人は朝から、こんなに不機嫌なのか。
それに言っておくがオレが何もしなくても、あの状況では被害は出ただろう。
「なあなあ、那智、智由センセーに怪我の治療頼んでくれよー。」
彼女が治療してくれたら、こんなギブスも松葉杖も多分、すぐに必要なくなる。
「あ?ダメに決まってんじゃん。それ、罰則だから。」
血も涙もない事を言い放つ那智。
「そうです。君は少し色々、人生を反省して悔い改めてください。」
重ねて、しずくの説教が続く。
仲良いのか、この二人。
ではないらしい、すぐ、プイと視線を外す、那智としずく。
まあとにかくだ、
「ザ、ハーレムエンドだ!夢の嫁だらけの学園生活へレッツゴーだ!
ウハハハハハハハーーーーーーー!!!」
ドカン、
那智のショルダーバックが弧を描いて直撃する。
「死ね。」
吐き捨てる那智。
「バカ、、、、」
ジト目のしずく。
「、、、、、、」
1ミリも表情を動かさないリン
すっころぶしんを見てガッツポーズしている友樹
ケガ人をおっぽって行ってしまう、皆。
「まってクレーーーー」
五月晴れの空に情けない声が響いていく。
とはいえ、少年は自らの幸運に感謝しなければならない。
アメリカの至高、アリコマーレイ。
および、欧州の最終兵器とされるランシィフォンドリックという超人たちが日本に渡ろうとしていたのだが、人をブチのめすという訳の分からない理由では出国許可が下りず、来日に失敗していた。
もとより、国のミリタリーバランスを左右しかねない彼女たちである。出国審査はとても厳しい。
出入国管理局や官僚たちの地道な努力が、日米英の超能力大戦を水際で防いでいたといえる。
かくして、今日も名もなき人々の努力と労力によって、平和な日々は過ぎていく。
雲一つない抜けるような五月晴れの空に風が渡っていく。遠く。高く。
END
また来週。




