何があろうと、今日も平和である。(だったらいいな。)
超能力の街の、落ちこぼれ。はじまる。
1話01
夜の工場区域に、いくつかの影が走り抜けて行く。
みょうに湿った風が、夜空を渡りみなもを走る。
埠頭に吹き付けるそれは、潮騒をまとい白、オレンジ、青、緑、絢爛豪華にライトアップされた、重厚な工業エリアを通り抜けていく。
「チッ、、、」
男の持つサイレンサー付きベレッタが、躊躇なく、吐息を洩らす。
バキィン、
その弾丸は影のような相手に、着弾したように見えたが通り抜け、工場のパイプを貫き派手に、白煙を上げた。
「加速能力者かよ。」
黒い背広の男は、いら立ちを隠さず、ガチガチと歯噛みする。
相手、
この、特区への不法侵入者は、身体強化をスピードに特化した変則的な機動で、彼、
この都市のガーディアンたる、制定部隊、おぼろ理世を翻弄する。
「ノロマ!理世、工場、壊すんじゃないよ!」
同じく黒ずくめ、黒髪、長髪、スレンダーな美女が、脇を走り抜ける。
「るせぇ詩吟!」
回避を予測した、ベレッタのつるべ打ちを難なく回避する、影。
長身。浅黒いスキンヘッド、鼻掛けの丸いサングラスを掛けた敵は、黒い翼を広げるが如く、レザーのロングコートをひるがえす。
奇妙な加速能力者だ。時おり身体の一部を現しながら、変則的な歩法で、おぼろを翻弄する。
奇抜さで言ったら詩吟と呼ばれた黒髪の女性の相手も、負けてない。
真っ赤なミニのドレスから、黒タイツの美脚がのぞく。
真っ白なコートを羽織り、目立つ事この上ない、黒いショートボブの美人である。
「ツッ」
鋭く息をもらす詩吟。
すべてを切り裂く不可視の糸。ナノミクロン超高圧分子の切断糸が高速で女を打つ。
しかし舞うように避ける赤ドレス。
ロングコートの男と同じ歩法らしい。所々身体が霞む。
2組、計4名の超人達の攻防は激しさを増す。
「うっとうしい!」
見かけに寄らず短気な長髪美女が、不可視の切断糸を一気に放出する。
「 百烈斬!」
詩吟を視界のスミに捕えながら、顔をしかめる、おぼろ。
ネーミングはともかく、全方位から標的を捕らえる彼女のそれは、
目標を文字通りバラバラの肉片に分断する。
後処理を考えた場合大変なのだ。
が、ショートボブの女の周囲に突如、水流のラインが迸る。
超高圧の水流。
ウオーターカッターだ。
「どうりで、、、」
うめく、おぼろ。
水流能力者だ。ジメジメと肌にまとわりつく、季節はずれの湿度は、こいつのせいだったのだ。
「あれ、、、」
焦る詩吟。
ウオーターカッターは、驚くべき事に、彼女の切断糸に拮抗し、絡みつき
その運動量を四方に撒き散らす。
グアアアア。
あたり一帯を滅茶苦茶に破壊しながらエネルギーを消費して行く、糸と水流の暴走。
はるか上空からバラバラになったパイプやハシゴ、工業部品が降り注ぐ。
「あれ、、、」
必死に糸を操る詩吟だが、破片、水流を避けながらでは、どうにもうまくない。
「てへ」
ペロリと舌を出す女。
「ざっけんなあああ!何が壊すなだ!テメェエエエ!」
叫ぶおぼろ、めまいのする様な損害を叩き出しながら工業ブロックの一部が半壊していく。
「!」
おぼろの顔が濃厚な殺意に、引きつる。
黒コートの男の目が、笑ったような気がした
刹那、コマ落としの様に眼前に迫る。
ドウ、
「ガッッッ、、、、、」
両手の掌底が、腹部を直撃する。人間離れした耐久を持つ彼にして
経験した事のない衝撃が、ゴムまりの様におぼろを数十メートル彼方に吹き飛ばす。
複雑に入り組んだ配管の中に突っ込んでいく。
トドメに瓦礫の山が降り注ぐ。
「ててて、、、やろお、待ちやがれ!」
常人なら数回は即死するダメージを受けながら、なんとかガレキをはね除け上体を起こすおぼろ。
その視界から2人の男女が消えようとしていた。
追撃は不可能だろう。
「理世〜生きてる〜?」
数分後ようやく、ガレキを乗り越え詩吟が合流する。
「追跡はどうなってる?」
常軌を逸した回復力で、骨折もほぼ完治し行動に支障はない。
「郁代ちゃんが追ってるけど、無理そうね。」
チームのバックアップオペレーターにインカムで連絡する詩吟。
「あんなのが堂々、入り込んでる様じゃ、アルカ自慢のセキュリティも
たかが知れるね。」
「かなりのバックがいるな、IDチップを偽装するなんざ、国家諜報機関レベルだ。」
「やっぱり、開設記念式典狙いかな。、、、にしても、ボロボロね。あんた。」
改めて、おぼろの格好を見て呆れる詩吟。強化した制服がボロ切れのようだ。
「クソが、月齢が満ちてたら、あんなハゲ、一撃なのによ。」
凶悪な目付きをさらに細め、犬歯をむき出しに唸る男。細身の全身から、野生の狼のような殺気を垂れ流す。
凄まじい怒気を全く意に介さずケラケラ笑う女。
「負け惜しみ〜完敗じゃない、理生」
「にぃおおお!テメェこそ、工場被害の賠償で、くくられやがれ!」
「ちょっ!不可抗力よね!フォローしてよー」
青くなる詩吟。男はもう、きびすを返し帰路につこうとしていた。
遠くでようやく、騒ぎを察した警察、消防のサイレンが鳴っている。
対岸に浦安のTDLが見え始める。本土と繋ぐ外環自動車道と東関東自動車道も時折大型トラックが行き交うぐらいで、車はまばらだ。
夜が明けようとしていた。
ここは、東京湾埋立地、76500haの人工島、東アルカ。
人口1000万を越す第二の東京といえる、大都市だ。
その最大の特徴は、ここ百年において、論理、実証された、PSI、超能力の開発、利用、研究、のため、日本で初めて認可された、
超能力者達のための自治特区、である。
そこに、空は無い。
しかし、ジメジメと止まない雨が、どこからか、舞い落ちる。
無造作に伸びた、鉄骨が絡まるように天に向かい、それに赤茶けたツタのよう配管が絡む。
何かの廃棄された地下線路の両サイドに廃墟のようなレンガの建物が並ぶ。
時に置き去りにされたような、地下繁華街だった。無ぞうさに出された飲食店のゴミの山を野良犬がついばみ、撒き散らす。
灯の消えた、古い酒場のドアが軋み、黒いロングコートの男と赤いミニドレスの女がすべり込む。
長身、長い癖毛の黒髪を無造作に結んだ、青年が迎える。
「散々だったようですね。ジノ。飲み物でも。」
どんよりとした目付き、灰色のセーター、あまりぱっとしない男だ。
「すまないな。ミスター。スコッチを」
男がカウンターチェアに腰を下ろす、体重にイスが軋む。
日本語はあまり上手くない。
「あたしは、ウオッカを、あらた君」
女は流暢な日本語を使う、やはりアジア系の東洋人だ。
「失敗でしたね。エイダさん。あなたの能力は、まだ知られたくなかった。」
精気の無いひとみが、向けられる。
「し、心配性ね、君は、、、ていうか、何故知ってるの?」
ゴクリと息を飲むエイダ。
「あれは、対能力者用民間軍事会社、制定部隊の内、アルファチーム、
現在は、欠員がある様ですがおぼろ理生と千里詩吟。」
スキンヘッドの男もわずかに、眉を動かす。
大した情報収集能力だ。
「現場の被害から、詩吟とあなたの能力の衝突が推測されます。」
攻めながらも、慣れた手つきでウオッカをいれる。
「ごめんなさい。気をつけます。」
イジイジとコップをいじりながら謝罪するエイダ。明らかに年下の青年に、頭が上がらない様だ。
「気をつけて貰えれば結構です。」
ニコリともしないで答える青年。
「ところで、学園の方はどう?生徒会長、あらた君」
とは言え、あまり深刻でも無い様だ、気にした風もなく話題を変える女。
が、この時初めて無表情な青年が笑う。
「制定部隊など比較にならない、怪物がゴロゴロしてますよ。計画の前に何とかしないとね。異常ですよ。アルカの天宮学園というのは」
話の内容より、彼の表情に驚くエイダ。
「楽しそうね、、、、あらた」
興味を持ったのか、スキンヘッドの男も話しに乗る。
「炎熱系、アジア最強と評される、野川那智と言うのは本物かね。一年に入ってきたのだろ?」
「へー、なんか渋そうな男子〜」
何を言ってるのかと、バーテンの真似事をしている暗そうな青年が女を睨め付けながら、
「女性ですよ。」
「あら残念。」
「本物です。アメリカのアリコ.マーレイに匹敵しますよ。冗談抜きで。
厄介な事に。」
少しも厄介では無さそうに笑う青年。
「そ、、、、そう、、、」
曖昧に笑うエイダ。いくら何でも話を盛りすぎだろう。と思ってるのだろう。
事実、能力開発において日本は諸外国に比べ、後進国と言っていい。
今年やっと自国のアルカが認可されるぐらいだ。
「それは凄い。あの戦略級クラスとは、、、」
スコッチを飲み干すスキンヘッド。いい酒のツマミになったらしい。
「学園生活を楽しみますよ。その日までね。そして、この都市は地上から消え去る。
実に待ちきれないですよ。」
青年の隠しきれない狂気が滲み出る。
埠頭を渡る風が、潮の香りを運ぶ。超能力者達の理想の自治特区。
近代科学の結晶たる巨大な人工島。
全ての夢が実現する、メガシティ。
東アルカに朝がやって来る。
「な〜〜〜にが、りそ〜〜の自治特区だ〜〜〜」
朝っぱらからブツクサ言いながら歩く少年は学生のようだ、身長は低い。
少し大きめの白衣姿。ガチャガチャと大きなケースを運ぶ。
アルカ学園区域に1番近い海辺。人工島、外縁部、波力発電システムの敷地内に無断侵入している。
波力発電施設はアルカ外周に沿って、ポツリ、ポツリと存在している。
手っ取り早く海水を取るには、ここが1番なのだ。なだらかな段差の先に外周を流れる海が見える。
半分は来ただろうか。冗談の様に広い護岸設備だ。約1キロ先の防波堤で悪友が手を振っている。何を言ってるのかは聞こえない。
早朝のため、通勤、通学の人もまばらだ、学生も居なくもない。
何故こんなに、広い設備が必要かといえば、巨大可動式フロートなどで、海流をコントロールして、波力発電の効率を上げるためらしい。満水時はここら一帯は海の底だ。
携帯が震える。
立体モニターは出さずに答える。バッテリーがもったいない。
『おーい、しん。調子はどーだー』
「うるさいよ、お前も手伝え。友樹。我らの部室のためだぞ!」
朝の潮風はそれなりに気持ちいい。塩害があるらしが、自分は、川崎方面からの通いなので、どうでもいい。学区の居住区に住めるのは、ある程度の高位能力者たちだ。
自分は増幅能力者だ。天宮第一学園、1年。山下しん。ブースター。しかもCクラス。単体では意味をなさず。
能力は微妙。
夢の学園生活はもはや、消化試合になり。4月末、現在はゴールデンウイークを
指折り数えるしか楽しみがない。
全てに置いて能力重視のこの街は、楽しい部活もままならない。
そこで自由に過ごせる自分だけの部活を立ち上げる事にした。
「先生!空いている、謎の準備室を貸して下さい!」
化学室に何故か2つある、使われていない、方の準備室に目をつけた。
自由に使えるマイ部室にするのだ。
「え、え〜ですよ。その代わり、化学部の手伝いをたまにして下さい。」
頭頂部の薄い、白髪の老教師は快よく承諾してくれた。
この化学部も廃部寸前の様なのだが。
で、水質調査を頼まれ、現在に至る。
『知るか〜オレはどーせ幽霊部員だ。部室なんかど〜でもいいわ〜』
なぜか、つるむ様になった、こいつは、只野友樹。
茶髪のメガネ。よくネトゲでチームを組んだりする。簡単なプログラミングなどをこなす、そしてオタク。
こいつに至っては、何の能力か分からないがEクラスと聞いた。
よく天宮に入れたもんだ。
家は千葉方面。木更津を田舎と言うとマジギレする面白い奴だ。
(チクショ〜コイツには、部室を貸してやらん!)
決意を新たに残り半分を走破し、海辺に到着する。
そして、
ケースからボトルを取り出し海水に浸した所で、予測不能な事態に見舞われる。
ウウ〜〜〜〜、
聞き覚えのあるサイレンの音。悪寒が走る。
最悪の事態だ。今日はまだ増水はないはずだった。予定変更は事前に周辺区域に告知される。
少年は知らなかったが、第一工業区で起きた事故。設備の破損。情報の混乱。ついでに、縦割り行政の弊害もつけて。
告知は徹底されなかったらしい。まあ、こんな所に無断侵入する方もマズいのだが。
「ウソだろ!ヤメロ!ヤメロ!ヤメロオオーーーーーーー!!!」
人間の叫びなど、打ち消す響きをさせながら、横浜方面から莫大な海水が怒涛の勢いで押し寄せて来る。
数キロに及ぶ津波は高さは無いものの、実に計算され加速した運動量を持って、人1人など簡単に飲み込んでしまう。
何処まで流されるか、いや後で発見されるかもわからない。
けたたましく振動する携帯を握りしめ、ボンヤリと走馬灯を開始しようとする少年。
灰色の波がひどくユックリと迫る、低いと言っても3メートルは越えている。
悪夢の様な光景だ。
しかし、ここで少年は気づいた。
「これが!ゾーンか!」
いわゆるクロックアップした思考の産物だ。高位能力者は自在にコントロール出来るという。
ああ、なんて超能力者っぽいんだ。感涙にむせぶ少年。
「何、喜んでんのよ。気持ち悪い。」
上空より声がかかる、
飛行能力者だろうか、かなりの距離のはずが、何故か彼女の声は鮮明に聞こえた。
(助けに?、、いや)
(逃げろ!間に合わない!)
思考に肉体が追いつかない。
「に、、、、、」
やっと声が出た時、前方が眩い炎の輝きで包まれる。
「エクスプローーージョン!」
脳内を走るニューロンが光速を突破し想定されるn次元に干渉しエネルギーを抽出する。
それによる、様々な奇跡が超能力とされる。
彼女のそれは、炎熱系初歩の力の行使だが、規模が普通じゃない。
一瞬で小型の炎球が数キロに渡って生み出され、莫大な水量に激突。
水蒸気爆発の連鎖による大爆発が起きる、しかし、計算された威力は波力設備を傷つける事なく、広大な津波のみを押し戻す。
文字どうり海原を穿つ能力だ。防波堤で目撃した友樹は腰を抜かしている。
その間に少年のえり首をつかみ、対岸に飛翔する少女。
よく見ると、身体のあちこちから炎が吹き出している。高機動飛翔を可能とする姿勢制御バーニアだろう。何げに恐ろしい演算力のタマモノだ。
眼下にやっと戻る事を許された海流がしぶきを上げ、朝日に七色の虹をかけ流れていく。
それを渡る二つの影。
フワリとした明るいブラウン、ウエーブしたセミロングの髪。
少しキツめだが、深いトビ色の瞳、整った目鼻立ち。身長は170弱、少年より頭ひとつ高い、発展途上だが、抜群なスタイル。
文句なしの16歳の美少女。
彼女が日本能力者最高教育機関、天宮学園、最強を謳われる炎姫。
炎熱系トリプルA、野川那智である。
頑張って1週間以内に、投稿するよ!