まるで絵に描いたような
どうも比夜見野しょうゆです。今回が初投稿となります。この作品は皆さんが日常で思っている人間関係の悩みを、こんな解決策もあったんだーと思わせるっていうのをコンセプトにしています。これを読んでくださった方が少しでも幸せになれたのなら嬉しいです。
「幸せ」ってなんだろう。
友達と遊ぶことだろうか。自分の夢を叶えることだろうか。それとも、
大好きな人と結ばれることだろうか。
もしかしたら、近所の桜の蕾が開いた事にさえ幸せを感じる人がいるかもしれない。なら、俺にとっての幸せって何だろう。今までなんとなく生きてきた自分に、その答えは出せるだろうか。
俺はずっとそれを探している。と言っても、毎日普通すぎて何もないのだが。はぁ...まったく...もし神様がいるというのなら出会いの一つや二つぐらいくれよな。本当に。
_______________________________________________________
ピロピロピロピロロン♪ピロロン♪
音の出所に腕だけを伸ばし、画面の下側をトントントンと雑に叩く。布団から出る覚悟を決めいざ洗面台へ。顔を洗ったらご飯を食べ、制服に着替える。時計を確認し、そろそろだなと思い玄関に移動し始めると
ピンポーン
ちょうどインターホンが鳴る。そして、俺は次に何が起きるか分かっている。
「かーくん!迎えに来たよー!」
ドア越しだというのに、まるで耳元で叫ばれたかのような感じがする。俺がドアを開けると、目の前の少女は腰に手を当て自慢げに立っていた。
「今日も私の方が早かったね!」
ふんすッと言わんばかりの顔で俺を見つめる。
「あのなぁ美優...もう高校生にもなったんだからそういうのは...」
「え~つまんないの~。...まぁいいや!早く学校行こ?」
そう言うと美優は、俺の手を強引につかみ、自分の身体に引き寄せた。腕を組み、密着した状態になる。美優の身体の柔らかさが、はっきりと分かるぐらいには近かった。傍から見れば熱々のカップルのように見えるが、俺はこいつにそんな感情を抱いたことはない。
「学校につくまでには離れろよ。勘違いされたら困る」
「えー!なんでなんでー!」
顔をプクーっと膨らませ、瞳をうるうるさせながら、こちらに反抗の意思を訴えてくる。いつもの光景だ。環境が変わっても俺たちは変わらないままでいる。いつも通りの会話をしながら、俺たちは学校へと向かっていった。
------------------------------------------------------------
堤防を歩き続けていると、この前までは見事な桜色の道を作っていた桜が、半分以上緑に浸食されているのが目に入ってきた。道の端に落ちている桜の花びらを眺めていると、美優が口を開いた。
「かーくんは部活なにやるか決めた?」
「いや、まだ決めてないけど...」
高校に入学してからはや二週間。もう部活の入部届を提出しなければならなかった。しかし、俺にとってこれはそう簡単に決めていいものではなかった。というのも、中学時代は帰宅部だったため、高校はではなんとしてでも部活に入り、THE青春というのを味わいたいのだ。そのため今もこうして悩み続けている。
「早く決めないと先生に怒られちゃうよ?」
美優が顔を傾け、こちらを覗き込んでくる。
「あ~そうだな~早く決めないとなー」
何にするか考えたかったため適当に返事をした。すると、組まれている腕にギュッと力がこめられたのが伝わってきた。
「も~!真面目に考えてよね。そうしないと私も...」
美優は目を逸らし、うつむく。
もちろん美優が俺と一緒の部活に入りたいというのは気づいている。運動部ならマネージャーとして入るつもりなのだろう。だがしかしそれでは新生活が始まったという気がしない。何せ小さい頃から一緒にいるからな。そういうわけで、なるべく内密に決めたいのだ。
「はいはい分かってますよー。真面目に考えときます」
「本当に早く決めてよね!」
そう強く念を押すと彼女はより一層腕に力を込めてきた。
「ちょっ、流石に痛いって。てかもう学校だから離れろよ?」
そう言うと、美優は顔をムスッとさせながらこちらを睨みつけてきた。
「嫌です~!かーくんが部活を決めるまで離しませーん」
「はぁ?なんだよそれ?」
無理やり離そうと試すもまったく離れない。いや力強すぎだろ。まるで木につかまっているコアラみたいだ。そんなことを思っていると、いつの間にか学校についていた。
案の定周りからひそひそと何か言っているのが聞こえてきた。
「ねぇあの二人ってやっぱりそういう...」
「朝からお熱いですな~」
恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだ。さっきから振り払おうと頑張っているがやはり離れない。このままではますます誤解を生んでしまう。仕方ない。ここは折れるとしよう。
「分かった分かった!今日中には決めるから早く放してくれ!」
「絶対だよ!いい?絶対だからね?」
「はいはい約束します約束しますとも」
こうしてようやく美優から解放された。まったく...昔はこんなんじゃ...。昔はもっとこう...ひな鳥のように後ろをテチテチとついてくる感じだったんだけどなぁ。などと思い出にふけっていると、
「?」
俺はある特質な視線を向けられていることに気づいた。
ゆっくりと空を見上げていく。視線の方に目をやると、それは校舎の隅にある空き教室からのものだった。
視線の主と目が合う。その刹那、思わず息を吞んでしまった。
灰色...いや、もっと明るい色だ。見ているだけで消えてしまいそうな、儚げな感じがする髪。そして宝石のような輝きを放つ瞳。それでいて海の底に沈んでいくような重みも感じる。その一瞬、俺はまるで、湖畔から羽ばたかんとする白鳥を眺めているように感じられた。
「━━━くん!かーくん!」
「えっあっ、どうした?」
美優の呼び声で現実に戻される。
「どうしたはそっちだよ~。さっきから心ここにあらず~って感じだったよ」
「ご、ごめん。ちょっとボーっとしてただけ」
どうやら俺はすっかりあの人に見とれていたらしい。再び校舎の方に視線を送るが、もうそこには誰もいなかった。いやはや、まさか立つ鳥跡を濁さずというのがそのままの意味になるとはな。
隣を見ると、美優は不思議そうな顔を浮かべていたが、俺は何も言わず校舎へと向かって行った。
下駄箱でお互いに手を振り、それぞれの教室へ向かう。
教室に向かう途中、何度もあの光景が脳裏にちらついた。思い出すたびに波のように押し寄せてくる感情。
こんな経験は初めてだ。
あの人に会えば何かが変わる。何の根拠もないけど、そう、強く確信した。
-----------------------------------------------------------------
「よし。今日のホームルームはこれで終わりだ。入部届は早めに提出しとけよー」
その言葉と共に教室にガラガラガラという音が響く。周りからは、やっと終わったーだの、早く帰ろうぜーなど、様々な声が聞こえてくる。
朝から部活を何にするか考えてはいるものの、やはりそう簡単には思い浮かんでこなかった。何か心にグッとある部活があるとよかったんだけどなぁ。今思い浮かぶのは朝のあの光景。何か考えようとするたびに思い出される。そういえばあの人は部活とかしているのかな。もししているとしたら何だろう。運動部って感じじゃなさそうだし...。うーん。
などと頭の中でぶつぶつ言いながら俺は教室のドアに手をかけた。階段を降りて下駄箱へ向かう。ちょうど踊り場の真ん中に差し掛かったぐらいだろうか。俺は思わずあっ、という声が漏れてしまった。
あの人だ。今まさに目の前を通りすぎようとしている。どうする?と、とりあえず話しかけるか。でも何て?あなたに会いたかったんです?いきなりそれは気持ち悪いよなぁ。髪の毛綺麗ですね?ナンパでももっとマシな事いうぞ。って、もう移動しようとしてる!?
完全に話しかけるタイミングを失ってしまった。ここで話しかけなかったら心のモヤモヤが晴れない。仕方がないので後ろをついていくことにした。
なるべくバレないように、間隔を開けて、慎重に、ゆっくりと。
-----------------------------------------------------------------
しばらくついていくと、あの人は階段を登りきった所で止まった。ここは教室棟とは別の棟。しかも4階。普通なら用もなしにこんな所にはよらない。俺は手すりの陰に隠れながらそれを見ていた。
白髪の少女は壁に背を預け、腕を組んだ。何かを待っているかのような姿に違和感を覚えながらも、俺はそれを見守ることにした。
「あの、実は私...」
ほんの少し待っていると、何やら声が聞こえてきた。場所は察するに階段のすぐ隣りの教室だろう。あの人は眉一つ動かさずそれを聞いている。いったい何だろうと思っていると、今度ははっきりとそれは聞こえてきた。
「あなたのことが好きだったんです!!」
えええっ!?と心の中で思わず叫んでしまった。その時、驚きすぎてうっかり物音をたててしまう。
まずい。早く逃げなきゃと思い急いで下の階まで降りる。もう大丈夫だろうというところで一旦息を整えることにした。しかし何だったんだろう。あの人は告白のことを知っていたのだろうか。
だとしたら何で━━━━━━
「ねぇ、何しているの?」
「うわあ!?」
その人は音もなく背後から現れた。振り返って見上げると、そこには朝見た光景と同じものが広がっていた。
踊り場の窓から差す夕日が、彼女の長い白色の髪を照らしている。あまりにも幻想的すぎたそれは、俺の思考力を失わせるのに十分すぎるものだった。
「ごめんごめん。私よく影薄いって言われるんだよね」
そう言うと、彼女は少しだけ顔を傾け優しく微笑んだ。
「あの...あなたは...」
俺の問いかけに彼女は、
「私は2年の空下絵里葉。こう見えても私って結構有名人なんだよ?」
と笑顔で答えてくれた。でも影が薄いのに有名人?などというツッコミは置いておこう。それよりも知りたいことがある。あそこでいったいなにを...
「俺は一年の星宮奏多です。実は先輩に聞きたいことが━━━━」
「あそこで何をしていたか、かな?」
言い切る前に質問を当てられてしまった。先輩が階段を降りてくる。そして隣に並んだ。
「ここじゃなんだし部室で話そうか」
その言葉に俺は頷き、先輩の後をついていった。
-------------------------------------------------
部室につくと、そこには普通の教室となんら変わらない風景が広がっていた。一組だけ向かい合った机があるだけであとは全く一緒。部室のイメージからはかけ離れたものであった。
「えっと、じゃあそこに座ってくれるかな」
先輩は向かい合った机の席を指差した。
「お、お邪魔します」
俺が席に着くと、先輩は正面に座った。
「さっきあそこで何をしていたか?だったよね?」
「はい。たまたまあそこに行ったら凄いことが起きてて...」
口が裂けても尾行していただなんて言えなかった。俺の嘘を気にすることなく、先輩は真面目な態度でこちらを見つめた。
「実はね...あれは部活動の一環なんだよ」
「部活動の一環?」
先輩は淡々と言葉を紡ぐ。
「まぁあそこにいたのは個人的に興味があったからなんだけどね」
「えっと、つまりどういうことなんですか?」
見上げると、先輩は机に両肘をつき、顔を手に乗せていた。そして不敵な笑みを浮かべる。
「何を隠そう!この部活は人を幸せにする部活なのさ!!」
先ほどよりも音量ボタン2回押したぐらい大きくなった声が部室に響き渡る。今までの神々しい雰囲気とは違い、それは幼い少女のように感じられた。
「私は、彼女に告白するのにいい場所はないかと相談されてね。それであの場所を選んだんだよ」
そう嬉しそうに言葉を続ける。
「協力したんだし、その結末を知る権利ぐらいはあると思ってね。それであそこまで行ったってわけ」
なるほど。だからあんな人気のない所に行ってたのか。それは納得できた。でも他人を幸せにする部活だなんてよっぽどのお人好しじゃなきゃやらない。なのにこの人は嬉しそうにそのことを話す。
知りたい。この人が何で人助けなんかしているのかを。きっとそこに俺の心を動かす何かがあるはず。そう思うと同時に俺は口を開いていた。
「分かりました。でもなんで人助けなんかしているのですか?」
その問いに、彼女は少し考え込む仕草を見せた。しばらくすると、席を立った。席を離れ窓際に移動する。そしてゆっくりと口を開いた。
「私は...私は自分のために他人を幸せにするんだ」
「自分のため...ですか...」
その見た目や雰囲気とは対照的に、とても人間らしい答えに驚かされた。
「偽善者だとか何を言われようか関係ない。他人の幸せが自分の幸せなんだという、素晴らしい人がこの世に一人ぐらいはいた方が面白いと思うんだよね」
その言い切った先輩は今までで一番輝いていた。この人の美しさっていうのは見た目だけなんかじゃない。
内面に輝く素晴らしい思想から来ているんだと、そう、気づかされた。
「先輩...その考えとっても素敵ですね!」
俺の返事に少し驚いたような顔をしたがすぐに笑顔に切り替わった。
「そうか。ありがとう。私も君にそう言ってもらえて嬉しいよ」
やっぱりこの人には人を動かす力がある。そうと決まればとるべき選択肢は一つだ。
「あの先輩、俺、今の話にとても感動しました。なのでその...俺もこの部活に入りたいです!!!」
その言葉と共に深々と頭を下げた。顔を上げると、そこには両手で口を隠して心底驚いた顔をした先輩がいた。
「ほ、本当にいいのか?自分で言うのも何だけど、他の部活の方が絶対楽しいよ?」
もちろん返事は決まっている。
「いいえ。俺は先輩に惹かれたんです。そんな先輩がやっていることなんて、やりたいに決まっているじゃないですか」
そうきっぱりと答えると、先輩はそっと胸をなでおろした。
「なら良かった。そしたらまず入部届を出さないとだね」
「はい。今から書きますね」
バッグから入部届を出し自分の名前を記入する。そして部活の名前っと。あれ?そういえば部活の名前を聞いていなかったな。
「先輩、部活の名前って何ですか?」
先輩は満面の笑みをこちらに向ける。そして元気に部の名を叫んだ。
「幸せにしま部!だよ!」
こうして俺のTHE青春な高校生活が始まった。
どうでしたか?ここが読みにくいとかありましたら遠慮なくコメントしてください。あ、もちろん褒めていただけると喜びます。