88:ブルーレイヴン
「ガアッ」
「おっと」
一体目のブルーレイヴンは嘴でこちらを突こうと急降下をしてきた。
なので俺は横に跳ぶ事で、攻撃を回避する。
「ガガアッ」
「ほっと」
二体目のブルーレイヴンは爪による攻撃を仕掛けるべく、俺の眼前で急停止しつつ両足を振り下ろす。
これを避けるために俺は横へ転がって、攻撃の範囲外に出る。
「ガガガアッ!」
「さて……」
三体目のブルーレイヴンは脚に付けた筒のようなものの栓を器用に抜くと、脚を横に振って、筒の中身である黒色の液体をばらまく。
液体の正体は不明だが、わざわざ受けてやる理由もないという事で、後ろへ素早く下がって躱す。
で、下がりつつ頭を回して周囲を確認すると共に、背中のドローンホーネットの視界も利用して、状況を確認。
液体が触れた地面が酸に触れたかのように溶かされているのと、一体目のブルーレイヴンが急降下の勢いそのままに俺の背中へと回り込みつつあるのを認識した。
「反撃……」
「ギャブッ!?」
という訳で、左腕を鞭のように伸ばし、前方に伸ばすための前動作……後ろに引くという動作に一体目のブルーレイヴンを巻き込み、その衝撃によって地面に叩きつけようと思ったが……沼地に落ちたな。
これは美味しい。
「だ!」
「ガアッ!?」
そして俺は左腕を前に出し、紐状にした左腕によって二体目のブルーレイヴンを拘束。
シャープネイルを噛ませた上で引き寄せて……右のナックルダスターで殴る。
するとナックルダスターが当たった場所から炎が上がり、周囲を明るく照らし出すと共に熱をばらまく。
鉄・火炎だけで出来ていることによって、火炎属性の効果が発揮された形だ。
「おっ」
「ガ、ガアッ……」
で、空を飛べる分だけシールドゲージの量が控えめだったのだろう。
拘束、引き寄せ、攻撃の三回だけでブルーレイヴンのシールドが割れた。
「ありがたいな!」
「ギャブ……」
「ガアッ!?」
なので、拘束しているブルーレイヴンを、最初に筒から黒色の酸をばらまいたブルーレイヴンに向かって投げ、当てて、体勢を崩した両者をまとめて殴ることで、片方のブルーレイヴンを撃破。
そして、撃破していない方は先ほどと同様に拘束からの攻撃によって始末する。
「一体目は……」
『ブン。溺れたようですね。落ち方が悪く、沼に絡め取られてしまったようです』
此処で俺はいつの間にか静かになってしまっている一体目を確認。
姿は見えず、羽音の類も聞こえず。
どうやらティガの言うとおりに溺れ死んでしまったらしい。
次は我が身と、沼に入るときは気を付けた方がよさそうだな、これは。
≪生物系マテリアル:骨・侵食を1個回収しました≫
≪生物系マテリアル:肉・侵食を1個回収しました≫
≪設計図:レイヴンレッグを回収しました≫
「レイヴンレッグは……まあ、使えるか」
『ブン。トビィに合うかはともかく、使える部分はあるでしょう』
はい、ちゃんと死亡確定。
では次の部屋に……いや待った、少しティガに確認しておくべきことがある。
「ティガ。露天マップだからと言って、敵がポップしない、なんてことは無いよな」
『ブン。ありませんね。魔物は普通にポップします』
あ、うん、ヤバい。
「急ぐぞティガ。このフロアに長居はしない方がいいというか、出来ない」
『ブン。分かりました』
俺は小島の外に出て、木製の遊歩道に足を乗せると、急いで渡り始める。
だが周囲の警戒は怠らない。
青い物体が動いていないかは特に注意を払う。
何故俺が急ぐのか、その理由は簡単だ。
「これは第三坑道・アルメコウの攻略難易度を挙げている原因の一つだな」
ポップする敵は基本的にそのフロアに出現する敵。
つまり、今回のフロア2ではゴブリン、オーク、それにレイヴンだ。
まだ見えていない魔物も居るが、今はレイヴンがポップ対象に含まれているのが拙い。
俺の想像通りならレイヴンがポップすれば……どこでポップしようが、俺の居る場所に向かって一直線に飛んでくるに違いない。
よって、今回のフロア2では、常に新たな魔物に襲われる可能性が存在し続けるフロアになっているのだ。
こうなると、戦闘に特化して何時襲われても大丈夫なようにするか、隠密に特化してそもそも襲われないようにするか、機動力に特化して逃げ切るか、いずれにせよ何かしらの対策が必要になるだろう。
「とはいえ、飛行敵がレイヴンだったのはまだ幸いな事か。これでデイムビーだったら今頃弾が何発飛んできているか分かったものじゃない」
『ブン。否定できませんね』
ただ不幸中の幸いと言うべきか、あるいは運営の手加減なのか。
とにかく今回のフロア2で出てくるブルーレイヴンは飛行能力は持っているが、遠距離攻撃能力を持っていない。
これで出て来ていたのがデイムビー、あるいは銃を持てる魔物なら……今頃は四方八方からスナイパーライフルによる攻撃を受けていたに違いない。
とりあえず運が良かったと思いつつも、急いで次のフロアに向かおう。
「お願いだからトーチカにエレベーターがあるなんて鬼畜は勘弁してくれよ……」
『トビィ、そのフラグ折り方法は前回失敗していませんでしたか?』
「今回はシンプルなお祈りだから大丈夫なはずだ。たぶん」
俺は次の小島に到着。
この小島には何もなかったので次の小島に向かう。
ただ、トーチカには近づきたくなかったので、トーチカから離れる方向の道を選択。
その道は半ば沼に沈んでいて、途中から通路、それに小島の輪郭に沿うように沼から葦が生えている道だった。
リスクはある。
が、今はまだブルーレイヴンを撃破した直後であり、新たなブルーレイヴンが出現している可能性が低い、ならば、今行く方がリスクは低いだろう。
「進むぞ。ティガ」
『ブン。分かりました』
俺は足元が泥によって若干滑りやすくなっているのを感じつつ、通路を進んでいった。