82:ブルーパンプキン
「ティガはドローンで背後警戒をしてくれ」
『ブン』
俺はブルーパンプキンに向かってステップを混ぜながら素早く近づいていく。
グレネード一発ではブルーパンプキンを倒せないと分かっているからだ。
「パンプキーン!」
「む……」
だが、グレネードの爆炎の名残である爆煙の向こうから、こちらに向かってきたブルーパンプキンの姿……正確にはシールドゲージの状態を見て、俺は思わず怪訝な声を上げる。
そう、ブルーパンプキンのシールドゲージはほぼ減っていなかった。
グレネードによる攻撃は熱と破片によるもので、恐らくだが熱は火炎属性、破片は物理属性扱いのはず。
このうち火炎属性については現実のグレネードがどのようなものであるかと、坑道環境が火炎属性になっていることを考えれば、無効化されるのは分かる。
しかし、ゼロ距離爆破でダメージが無いとなると……そういう事か?
うん、確かめておいた方がいいな。
「パッ、パッ、パンプ……」
「遅いな」
ブルーパンプキンが俺に向かって、火炎を纏った蔓を一本突き出してくる。
が、俺はそれを横にステップすることで回避。
続けてもう一本の蔓が突き出されるが、こちらは屈んで回避。
で、しゃがみ体勢のまま突っ込んで、ブルーパンプキンの懐に潜り込む。
「うおらぁ!」
「プキーン」
そして、敢えてシャープネイルを腕の中ほどにまで移動させてから、左腕でブルーパンプキンを殴り飛ばす。
感触はカボチャのような堅いものを殴った感触でもなければ、蔓のように柔らかいものでも無く、空気を殴ったに近い感触だ。
で、殴り飛ばされたブルーパンプキンは空中で回転しつつ離れていくが……シールドゲージは微動だにしていない。
「ちっ、極端な物理耐性なら普段よりも多く殴れてお得だが、完全に無効化されているんじゃ殴る意味はないな」
「ン、ン……」
『ブブ。本当にブレませんね。トビィは……』
どうやらブルーパンプキンと言うかパンプキン種は物理無効化能力を持っているらしい。
実に厄介な話だ。
だがグレネードでシールドゲージが微減したという事は、属性攻撃ならば通ると判断していいはずだ。
なので俺は、今度はナックルダスターとシャープネイルで攻撃するべく、ブルーパンプキンに近づいていく。
「カボオォチャアアァァッ!!」
「っ!?」
ブルーパンプキンの口から炎が放たれる。
俺は咄嗟に横に跳び、跳びながら炎の広がりを見る。
炎の広がり方は……かなりヤバい。
ブルーパンプキンの口を始点として、100度近い扇型に炎が放たれ、十数メートル先まで炎が届き、その場にあったパイプを焙って爆発も起こしている。
おまけにゆっくりとだが、ブルーパンプキンは俺の方を向こうとしている。
対処を誤ったら、これだけで死ぬな。
「流石は第三坑道かつ単独出現……だ!」
「プキーン!?」
だが幸いにして俺の対処は合っていたらしい。
横に跳んだ俺はブルーパンプキンがこちらを向くよりも早く接近し、相手の側面に回り込み、右のナックルダスターによるアッパーを叩き込む。
電撃のエフェクトと共に吹き飛んでいくブルーパンプキンのシールドゲージは……5%ぐらいは削れているか。
「ガンガン攻めていくぞ」
『ブン』
「パ、パ、パンプ!」
削れるなら倒せる。
浮いているせいで攻撃の度に吹き飛ぶのは厄介だが、それはその都度距離を詰めればいい事。
という訳で俺はブルーパンプキンの蔓による攻撃を避けて、反撃を何度も叩き込んでいく。
「ウリイイィィ!」
「まだ別の攻撃があるのか!?」
しかし、蔓とブレスだけがブルーパンプキンの攻撃ではなかったらしい。
ブルーパンプキンが突如として、頭と比べれば小さいカボチャを投擲。
嫌な予感がした俺は咄嗟にそのカボチャから離れ……次の瞬間にはカボチャが爆発、周囲に金属のように硬い果皮、熱風をまき散らした上に、爆発した場所とその周囲を激しく炎上させ、炎の壁を作り上げるる。
どうやら焼夷グレネードの類であるようだ。
「ン、ン……」
「させるかっ!」
ブルーパンプキンがブレスの構えを取る。
今の距離では横に跳んでもブレスの範囲外には逃げられない。
だが前では炎が燃え盛っている。
うん、此処は消耗を抑える方向で行くしかないな。
「カボ……」
俺は即座にそう判断すると目の前の炎に向かって飛びこむ。
炎の熱によってシールドが削れていく。
だが、ケットシーテイルによって俺の機動力が上がっていることもあり、シールドが削られ切るよりも早く俺は炎の壁を突破。
口から火の粉をまき散らし始めているブルーパンプキンの懐に入り込むことに成功する。
「折角だ。一つ試しておいてやる」
「オッ……!?」
で、物は試しと俺は左腕を縄状にして伸ばし、ブルーパンプキンの体に絡みつかせ、シャープネイルを食い込ませ、どこかに飛んでいく事がないようにした。
その状態で俺は右の拳を握りしめ……。
「うおらあぁっ! らあっ! どらあっ!!」
「プギュン!?」
殴る。
殴る。
殴る!
ブルーパンプキンに逃げることを許さず、攻撃を叩き込み続ける。
攻撃に怯んでブルーパンプキンがブレスを吐けなくなっていても殴り続ける。
殴って殴って殴りまくる。
やがてブルーパンプキンのシールドゲージがなくなって……。
「ふんっ!」
「パンプキーン……」
俺の一撃がブルーパンプキンの頭を粉砕。
ブルーパンプキンの姿は消え去った。
「はぁっ。一体目からこれとは。先が思いやられるな」
『ブブ。楽しそうに言うセリフではないと思いますよ。トビィ』
≪設計図:パンプキンレッグを回収しました≫
よし、若干の消費こそあったが無事に倒せたな。
「さて、次の部屋に向かうか」
『ブン。分かりました』
俺はヒールバンテージを試しに起動、シールドゲージの補給をしながら通路へと向かった。