619:これからの『Scarlet Coal』
『陽泉坑道・プラヌライはレキノーリ液の雲の向こうに開発の拠点はあった。だがそこで見たもの得たものについて俺は多くを語る事は出来ない。言えるのは……あの場所は資格を得たものだけが足を踏み入れられる事と、状況の悪化を一時的に止める事は出来たという結果ぐらいだ』
『第三次防衛戦』の翌日。
実は色々なプレイヤーに目撃されていたらしい、俺の陽泉坑道・プラヌライでの行動について、俺が語ったのはこれだけである。
なにせこれ以外は俺が知らないか、喋れない事柄ばかりだったからだ。
「で、ハンネ。今後の防衛戦とかはどうなる感じなんだ?」
そしてさらに翌日。
『Fluoride A』のメンバーはスコ82内のギルドホームに集まると、反省会及び今後について話し合いをしていた。
「本当に知らないことは知らないのね。さて、今後の防衛戦は三か月に一度だそうよ。正確な日時は前後12時間の範囲内でブレるし、難易度や敗れた時のペナルティも変わらず。おかげで昨日のトビィの言葉が早速怪しまれてるわね」
「それはまあ、仕方がない」
今後についてその1。
防衛戦についてはおおよそはハンネの言った通り。
ただ、開発の手が加わらなくなった結果として難易度が低下する部分もあるだろうし、今回は上手くいかなかった人類側の領地の取返しも進む事だろう。
逆に油断したり、人員が不足したりした結果として滅びるサーバーもありそうだが……それは自業自得と言うものなので、各国自らで何とかしていただきたい。
なお、陽泉坑道・プラヌライとその奥については、今後も変わらず防衛戦の最中にしか立ち入れないようだ、
「では『Fluoride A』は今後も活動を持続ですわね。とは言え、これまでよりは状況が落ち着くでしょうから、私様なんかは息抜きに別のゲームをやる事などあるかもしれませんが」
「その時はウチはフッセお嬢様に付いていくわ。新しい分野の開拓も必要やからな」
「私は……どうしようかしらね?」
「……。僕はまだスコに留まるつもり。効率的に稼げる」
「ま、そこら辺は各自ご自由にって奴だな。俺は用事があるからもうしばらくはスコ82一本だ」
今後についてその2。
『Fluoride A』はこのまま五人で活動していくが、活動内容については各個人で色々だ。
まあ、元々がフッセのための実況グループであるし、俺は色々とフッセの実家含めて迷惑もかけているのだから、フッセが困っている時には手助けをするぐらいの協力意識はあるけれど。
「……。そう言えば第五坑道・ネラカーンを攻略したトビィは新しい坑道が開放されたと聞いた。教えて」
「そうね。私も参考までに聞いておきたいわ」
「ウチもや。商売のタネになりそうやし」
「私様もそちらは聞いておきたいですわね。第五坑道突破が何時になるかは分かりませんけど、その先を知っておくことは悪い事ではありませんもの」
「分かった。とは言え、俺もまだ連絡を受けただけで、詳細は見ていないんだよな。ちょっと待ってくれ」
今後についてその3。
開発が倒されて、ゲーム全体の管理が監査の知り合いの神とやらに移った影響なのか、第五坑道・ネラカーンを突破した極一部のプレイヤーにだけ開放される坑道と言うのが加わった。
当然ながら現状では俺だけが足を踏み入れる事が出来る坑道であり、そこで得られるものは莫大な利益を俺自身にも『Fluoride A』にももたらしてくれるに違いない。
そして、これがあるからこそ、俺はもうしばらくスコ82を続けるつもりでもあるのだ。
「えーと、新規開放された坑道は四つ。修羅坑道・シュトメイ。畜生坑道・ゲターナマ。餓鬼坑道・ショガノケ。地獄坑道・トォナリゴだな」
「修羅、畜生、餓鬼、地獄……仏教の六道かしら?」
「だとしたら天道と人間道が見当たりませんわね」
「……。その二つはこれまでの坑道が実質的にそうなのかも」
「あるいはまだ未実装かやな。トビィはんが突破したから急に実装した疑惑もありそうやし」
さて、肝心の新しい坑道だが……。
おっと、一気に視聴者数やコメント数も増えてきているな。
じゃあ、しっかりと詳細を見ていかないとな。
「詳細見ていくぞ。えーと、修羅坑道・シュトメイは……」
なお、この後については実際に踏み込んだ後の俺の感想も絡めて伝えよう。
修羅坑道・シュトメイ。
全フロアに殲滅戦のハプニングが発生している上に、フロア構造が第五坑道ネラカーンのフロア12のように、入口-戦闘場所-出口及びご褒美部屋で固定されている。
よって、1フロアにつき1回の戦闘を強要されるのだが……フロア数は驚異の99フロアとなっている。
まあ、持ち込み制限なしで、ご褒美部屋でオリハルコンのような虹相当のマテリアルと緋炭石も手に入るので余裕であり、戦いのワンダーランドで、非常に楽しいと言えた……のは途中までだった。
何をトチ狂ったのか、途中でミクヒィカまたはネラカーンのキーパーたちとの戦闘が数フロア続くようなのだ。
やっとの思いでミクヒィカβを倒したと思ったら、次のフロアでネラカーンδが出てきた時の絶望感は凄まじいものだった。
途中でアルメコウのキーパー三体同時もあったことを考えると、きっとミクヒィカとネラカーンのキーパー全員を倒せる能力を要求されることだろう。
畜生坑道・ゲダーナマ。
全フロアにこちらから魔物に対する与ダメージだけ0になる、逃走強要のハプニングが発生している。
持ち込み制限はネラカーンと同様で、岩スタートになる。
フロア数は12だが、ネラカーンよりもランクアップは早そうで、最終的には虹の魔物がフロアを徘徊する可能性が高そうだった。
つまり、魔物から逃げ回りつつ、必要な物資をかき集めて突破を図る、いわゆる逃げダンジョンと言う奴になる。
なお、逃げダンジョンの癖に当たり前のようにフロア中どこに居てもこちらを引き寄せられるカリュブディス種やアイビー種が出現するし、虹の魔物も出現するので、普通に死ぬ、死んだ。
餓鬼坑道・ショガノケ。
持ち込み制限がない代わりに、坑道内には緋炭石も含めて一切のマテリアルタワーが出現しない坑道。
つまり、中で必要になるであろう物は全て外から持ち込む必要がある坑道。
フロア数は12で、出現する魔物はフロア1の時点で赤、中盤からは虹の魔物が出てくるので……普通に死ぬ。
消費ばかりが進む坑道なので、突入した時点でほぼ赤字確定と言う意味でもアレな坑道である。
地獄坑道・トォナリゴ。
突入時に強制的にビギナー一式と言うゲーム開始時の岩製ゴーレムに戻された上で、『昴』は中で作り直す必要がある、アドオンは全部外されている、部類がパーツの設計図は『昴』以外一切持ち込めないと言う辺りから色々と察していただきたい。
もっともっーと不思議な……と言う奴なのだろう。
突破できるかどうかは完全に運である。
そして、これら四つの坑道を体験し終わった後、『Fluoride A』の各メンバーの感想は以下のものとなる、
「人間卒業試験にしてももう少しマイルドなのでは?」
「今のトビィが普通に倒されるとか、人間がどうにか出来るコンテンツに思えないんだけど」
「挑みたい一部のもの好きだけが挑めばそれでいい、と言う感じしかしませんわね」
「修羅坑道が一番美味しいと言う時点で色々とおかしいと思うで」
「……。全部を突破するプレイヤーが出るのは年単位で先だと思う」
どうやら監査の知り合いの神とやらは、開発なんて目じゃないほどに性格の悪い神であったらしい。
いや、『昴』のさらなる強化……ストロビハの憑依武装からエフィラニの現神武装に至るためにはこの四つの坑道の内、一つでも攻略出来ればいいのだから、優しい方なのか?
まあなんにせよだ。
「ま、俺が殴るものに困る事は当分なさそうだから、それで良しとしよう」
「まあ、トビィはそうよね」
「トビィらしいですわね」
「せやな」
「……。でもそれでいいと思う」
まだまだ『Scarlet Coal』と言うゲームそのものが終わる事はなさそうである。
『ブーン。トビィ、今日はどの坑道に挑みますか?』
と言うわけで、『Scarlet Coal』-殴り魔は自らの欲を満たす、完結でございます。
世界は平和になっていませんが、黒幕は打倒されたので、エンディングを迎えるには良い時でしょう。
これまでの応援、感想、ご意見などなどありがとうございました。
また機会があればお会いいたしましょう。
ボソリ(修羅坑道・シュトメイ 畜生坑道・ゲターナ 餓鬼坑道・ショガノケ 地獄坑道・トォナリゴ
この四つ攻略風景とか言う書いている本人にとってすら苦行になるのが見えているのをやりたくないと言う本音もございます。これらはゲーム映えはしても小説映えはしないのです。まあ、そんな情けない裏話はこの辺で。ではでは)




