612:路伸坑道・ポリプーロ
「さて、此処はどこだ?」
開発の住処に突入した俺は、突入の際に『昴』を突き刺して一緒に突っ込んだブラックグリゴリの首をニンジャレッグの足刀で切り飛ばして始末を付けつつ、周囲の様子を確認。
『ブーン。地名情報については路伸坑道・ポリプーロとなっています。ですが……』
「フレーバーテキストの類はなし。まあ、開発の住処だって言うなら、俺みたいなプレイヤーが踏み込んでくることは想定の範囲外なのかもな」
そこはどこまでも続く道としか言いようがなかった。
それでももう少し詳細に述べるのであれば、俺が突入してきた場所を除けば、前後に向かって黒いタイルが敷き詰められた通路が果てもなく続いている。
通路には緋色の光が幾筋も走っていて、通路全体が捻じれていて、遠くに行くと今俺が立っている面が天井になって、さらに遠くに行けばまた床になっているように見える。
俺が知るものでこの場の雰囲気に一番近いのは……第五坑道・ネラカーンのフロア11だろうか。
まあ、あそこも開発の意図が強く出ていたようだから、此処が似た雰囲気になるのはおかしなことではないか。
『どうしますか?』
「当然進む。このまま待っている意味もないしな」
俺はアルバトロスウィングとヴァンパイアマントを交換すると、突入時の向きから考えて奥へと繋がっているであろう方向へと歩いていく。
なお、俺が移動を開始した時点で、俺が突入の際に開けた穴は塞がっていた。
どうやら帰り道は無いらしい。
「ふむ……」
さて、ティガの言う通り、この場所の名前は路伸坑道・ポリプーロだが、フレーバーテキストは確認できる範囲では無し。
では、『虚の書』を使ってみたら?
実を言えば、歩く時に足裏から伝わってきている感覚で、この場の仕掛けがどんなものなのかは既に想像が付いているのだが、答え合わせの為にも確認してみよう。
路伸坑道・ポリプーロ。
資格無き者を進ませないために存在している空間。
防衛機構の一つ。
空間を歪ませ、捻じ曲げることによって、永遠に続く通路を実現している。
解除コードは生体認証であるため、突入に用いているのが非生物であるゴーレムである時点で、偽装のしようもなく、突破は不可能である。
ふははははっ! くや……
「なるほど。無限に続く通路みたいだな」
『ブン!? どうするのですかトビィ!?』
おっと、不快なものが見え始めたので、思わず意識上にある『虚の書』を閉じてしまった。
まあ、それはそれとして、どうやって突破するか……。
力技で押し切るなら特殊弾『神降・火之迦具土神』を使ってしまえばいい。
たぶんだが、ギミックそのものも含めて、無理やり焼き切れる。
だが、ここはまだ自力だけで突破できる可能性があるのだから、使わないべきだ。
じゃあ、どうするか。
「そうだな……えーと、この辺か。ふんっ!」
『トビィ!?』
俺は何度か壁や床を叩き、一応だが『虚の書』も参考にして……そして、違和感がある場所を見つけ出すと、全力で殴り、『昴』を撃ち込む。
ただそれだけで……通路全体にヒビが入った。
『ブ、ブーン。どういう事でしょうか?』
「無限に続く通路を有限の空間で実現しようとしているんだから、それを行うための仕掛けは何処かにある。少なくとも繋ぎ目ぐらいはないとおかしい」
『ブ、ブン?』
「この空間の壁が壊せるのは確認済みだ。でなければ俺はそもそもとして、この空間に突入できていない。それと出口を作り出せるようになっていないと、ブラックグリゴリも外に出れない」
『ブン。それはそうですね』
「後、俺が開発だったら、罠にはまった俺を嘲笑うための仕掛けとか、死んだ後に回収するための準備とかを整えておく」
『ブーン。それも確かにありそうですね』
「それら全部が穴であり、此処が進むことも退くことも出来る空間であることを示している」
『ブーン? だから壊せると?』
「そういう事だな。まあ、ポリプーロの契約武装だった頃の『昴』ならともかく、虚無属性も有している今の『昴』なら十分に壊せる」
ヒビが広がっていく。
ヒビ同士が繋がって割れていく。
無限に続くはずの通路に限りが出現して崩れ落ちていく。
「ただまあ……」
そして、崩れていく通路の向こうから、それが姿を現し始める。
「開発に一人でもマトモと言うか危機意識を持っている奴が居るならば、万が一の備えを一つや二つ用意しておくぐらいは当然ではある」
それは壁も門も屋根も、それどころかかすかに見える樹木すらも金色あるいは銀色に輝く城。
通路の崩れ落ちていく範囲が限定されて、奥に進むための道全体を塞ぐように聳えている。
そして、微かに見える城の奥からは……この世のものではないとしか言いようのない気配が感じられた。
『ブブ。金と銀だけで出来た城とは、ちょっと趣味を疑いますね』
「まあ、俺の趣味ではないな。けれど、建てた奴の実力、特に思い切りの良さは侮れないと思うぞ」
さて、そんな奥に対して、城壁及び城門の前に立つのは、通路の横幅を埋め尽くすほどの数が居る黒の魔物。
種類は……獣はハウンド、ホーネット、リザード、ゴートなどなど、人型ならゴブリン、オーク、トロール、エルフなどなど、どうにも戦闘関係で厄介な特殊能力を持たない魔物が勢揃いしているような感じだな。
数の合計で言えば少なくとも千、下手すれば万か。
武装は近距離も遠距離もありで、属性もバラバラ。
この分だと、一時的に各サーバーへ戦力を送り込むことだって止めて、その分の戦力をこちらに回していそうだ。
まあ、それは俺にとって好都合なことであるし、この状況であれば……うん、使っていいだろう。
「「「ーーーーー!!」」」
城壁の上に居るブラックバーナコらしき影が攻撃を放つと同時に、魔物たちが一斉に向かってくる。
「さて……」
対する俺は一歩踏み込む。
「ヒノカグツチノカミ様。御身が力、親殺しにして神殺しの火の一芥を我が身に授けたまえ。起動。特殊弾『神降・火之迦具土神』」
そして、低品質の特殊弾『神降・火之迦具土神』を発動した。
07/22誤字訂正




