611:人類の英知
「逃ガスナ!」
「撃チ落トセ!」
「串刺シニシロ!!」
『トビィ!』
「分かってる」
開発の住処は見つけた。
だが、そこにたどり着くまでにはまだまだ距離がある上に、レキノーリ液の雲の中に潜んでいたブラックグリゴリたちが次々に復帰、俺への攻撃を仕掛けるべく動き出している。
ブラックグリゴリの数は……少なくとも30以上。
そして、その30体が8本ずつ突撃槍を生み出して飛ばしてくるのだから、200本以上の突撃槍がこちらに迫ってきている事になるだろう。
「使うか? いや、ここで切っているようじゃどのみちって奴だな」
俺は一瞬、低品質の特殊弾『神降・火之迦具土神』を使うかを考え……止めた。
ここで使っているようでは、この先に踏み込んだ時に戦えない。
「とりあえずヤケ食いクラッカー!」
「「「ーーーーー!?」」」
とりあえず代わりに前方に向かってヤケ食いクラッカーを投擲。
先ほどと同じクラスの大爆発を起こし、爆発範囲に居たブラックグリゴリと突撃槍を吹き飛ばしていく。
なお、俺自身は上手く爆風に乗ることで、レキノーリ液の雲が存在している層よりも完全に上の層にまで移動する。
「さて、ハンネは……」
と同時に、『虚の書』でハンネの今現在の思考を覗く。
そこにはこう記されていた。
『流石はスバル。あそこに行きたいのね。ブラックグリゴリと言う未知の魔物。情報は知りたいけれど、まずはこのためにしてきた準備で結果を。とりあえず……30セットほどブッパで。スバルがヘイトを買ってくれているから、その背中に全力で叩き込んであげましょう』
いつの間にかハンネの周囲にはミサイルポッドとしか言いようのない物体が30セット並んでいた。
あ、うん、これはヤバいですね。
俺も巻き込まれるという意味で。
『では、人類の英知、検証班の悪ふざけ、開発好きのロマン砲、その他諸々の検証も込めて……発射ぁ!』
「『高速推進剤』発動!」
「「「行カセルナ! 追エ!!」」」
俺は全力で飛んだ。
ハンネの周囲のミサイルポッドから、一基につき数発、合わせれば100以上の円筒形の物体が轟音と共に射出された。
存在理由の都合なのだろう、俺への攻撃を最優先事項としていたブラックグリゴリたちは自身の背後から迫るそれらに気づかなかった。
結果。
「「「ーーーーー!?」」」
『ブ、ブブ。トビィのヤケ食いクラッカーのような被害が出ているのですが……』
「人類こっわ……」
俺の背後で無数の大爆発が起こり、シールドを失っていたブラックグリゴリはもちろんのこと、シールドをまだ持っていた個体も次から次へと撃ち落とされていく。
しかも、見た目は似ていても中身は全くの別物なのか、ブラックグリゴリたちは自身に迫ってくるミサイルへの対処が上手くいっていないように見える。
これは……うん、瞬間的な火力でしかなく、リソース消費も多大なのは間違いないが、その光景は紛れもなく人類の技術だけで開発に一泡吹かせた瞬間と言えるだろう。
うん、突入に当たって何かしらの妨害があるだろうと思ってハンネに相談した結果ではあるのだけど、まさかこれほどのものが持ち込まれるとは思ってもいなかった。
「だがおかげでだいぶ近づいてきて……追加か」
『ブブ。当然かと』
さて、そうしてハンネによる支援を受けた状態で俺は飛び続け、爆発で押し退けられていたレキノーリ液の雲が徐々に戻っていく中、開発の住処がはっきりと見えるほどの距離にまで近づいてきた。
開発の住処のサイズは少なくともキロメートル単位。
形は海月型とでも言うべき形で、皿から出た触手は虹色の太陽とレキノーリ液の雲、その双方へと伸びている。
色は黒だが、なんとなく鱗模様のようなものが窺えるのを見ると、竜命金で出来ているのかもしれない。
そして、俺が十分に近づいたからだろうか、開発の住処……太陽にも雲にも触れていない触手から追加のブラックグリゴリが出てくる。
数は……30は確実に居るな。
「とりあえずまたヤケ食いクラッカー!」
「「「ーーーーー!?」」」
とりあえずまたヤケ食いクラッカーは放った。
大爆発が起き、レキノーリ液の雲が少しだけ押し退けられる。
『ブブ。これは……』
「ちっ、流石に慣れてくるか」
「「「恐レルナ。我ラニハ主ノ加護ガアル」」」
だが、地表が見えない程度の爆発でしかなく、シールドを剥がす事が出来たブラックグリゴリも僅かだった。
どうやら三度目にもなれば、耐えるための方策の一つや二つ程度は備えてくるらしい。
「こうなれば真正面から……ひゅっ」
正直かなり厳しい状況ではあるが、此処で引く選択肢はない。
だから俺はブラックグリゴリたちが準備万端で構えている開発の住処へと近づいていき……それに気づいてしまったせいで変な息が出た。
「サア、一斉攻撃デ奴ヲ……」
「ドウシタ? 何ガアッタ?」
「ン? 何ノ音ダ?」
ブラッググリゴリの背後には……いつの間にか虹色に輝く鮫とその背に跨る虹色の狂戦士が居た。
「「「ーーーーー!?」」」
「え、ええっ……何が起きて……」
レインボーシャークとレインボーバーサーカーと思しき魔物がブラックグリゴリたちに襲い掛かっていく。
訳が分からない。
確かに二体とも仲間の魔物を襲ってもおかしくない種類ではあるが、今ここで唐突に現れた理由も、俺ではなくブラックグリゴリを優先して襲っているようにしか見えないのも、何もかもが分からない。
「はっ!」
そしてこういう時こその『虚の書』であるが、そこに記されていた記述は極めてシンプルなものだった。
『自分たちを好きなように扱ってきた連中に反撃する機会。それが訪れたのに利用しない理由があるのかい? 私ならここで待つだなんて真似は出来ないね』
たぶんだが、下手人は虹色の太陽の中に居る何者かなのだろう。
それならば一応納得はいく。
俺が戦った黒鬼がそうだったように、魔物たちの中には開発に嫌々従っているものが居たはずだ。
そんな彼らが今この時を狙って一斉反撃に出たのであれば、目の前のような光景……いつの間にかシャーク種とバーサーカー種だけでなく、オニ種やエクソシスト種と言った魔物が虹のランクで現れて、ブラックグリゴリたちを一方的に殲滅していくどころかリスキルまで開始しているような光景にもなるのかもしれない。
なんにせよ、好機だった。
「『高速推進剤』……ラスイチ!」
「ーーー!?」
俺は最後の特殊弾『高速推進剤』を発動すると、ちょうど進路上に居たブラックグリゴリを突き刺し、押し込みながら、開発の住処へと突入した。
07/21誤字訂正




