603:『第三次防衛戦』の外で
「配信は……問題ないね」
「ええ、ちゃんと切れてますわ」
さて、此処からは雲井さんの話である。
と言うわけで、モニターに映っている内容も切り替わる。
「では改めて。今回の『第三次防衛戦』の最中にだが、『Scarlet Coal-Meterra082』の外でも作戦が行われる」
モニターに映し出されているのは現実世界で動いているゴーレムの姿だ。
それも災害現場で用いるような非武装のゴーレムではなく、ライフル銃、突撃用のランス、グレネードランチャーと言った殺傷能力を有する武装も装着された完全武装状態のゴーレムである。
「伏屋研究所でも研究開発に協力しとったリアルゴーレムって奴やな」
「……。やっぱり完成していた」
「まあマテリアルを現実に持ち出せ、ゴーレムが現実で再現できるなら、武装も、と言う当然の話よね」
「誤った使い方をされないことを願うばかりの話ですわね」
「で、これを何に使うんだ? そして、俺たちの何にか関わるんだ?」
まあ、俺たちが操るゴーレムが現実に出て来ているというのはちょくちょく話には聞いていたし、俺も再現に協力をしていたのだから驚くことはない。
それが何かしらの作戦を起こせるほどの数で量産されていて、何かをしようとしているというのは驚きだが。
「それは……」
「「「それは?」」」
「実を言えばアタシには分からない。こちらにまで情報が流れてきていないんだ。だから、アタシとしてはハンネ君に期待したいのだけれど……」
「申し訳ないけれど私の方も現実での作戦については情報なしよ。主導している部署を考えたら、流石に探るわけにはいかないし」
が、具体的に何をするかまでは雲井さんはもちろんのこと、ハンネにも情報が流れていない、と。
いや、ハンネの奴は知っているが喋らないのパターンか?
知ること自体が危険な情報ってのは色々とあるからな。
「でもまあ、現実で、それもわざわざ『第三次防衛戦』の最中にやるようなことなんて限られていると思わないかしら? しかも、私たちにやる事だけ伝えて詳細は教えませんってなれば、なおさらでしょ」
「なるほど。魔物に奪われた現実の領地の奪還か」
「それは……あり得ますわね。どこの領地をどうやれば奪還できるのかはまるで分かりませんけど」
「……。情報封鎖は難易度調整のために仕方がない」
「なるほど。こういう時にも、こっちの知識量で相手が強化されるって仕様が悪さをするんやな」
「流石はハンネ君たちだね。アタシが予想を話すまでもないか」
あ、うん、ハンネの奴、知っているが知らないフリだな、これは。
まあ、問い詰めないでおこう。
この場で気づいているのは俺だけなようだし。
「まあね。それと私たちが考えるべきは、現実でゴーレムたちが何をするかではなく、現実でゴーレムたちが動いた結果としてゲーム内で何が起きるかよ」
「……。確かにそちらを考えた方が効率的」
「そうですわね。どうせ私様たちでは現実の方には関われないわけですもの」
「せやな。けど、現実に連動して起きるって何が起きるんやろなぁ……」
それよりも今はハンネたちの話に参加するべきだな。
「具体的に何が起きるかを考えるよりも、それがプラスになるかマイナスになるかで考えた方が早い気がするな。実際何が起きるかの予想を詳細にするのは無理がある」
「そうね。で、こちらにとってプラスなら、魔物の数が減るとか、ランクが落ちるとかって話になるわね。ああ、イベント時間が短くなるのもプラスね」
「では、マイナスはその逆ですわね。何処かに詰めていた魔物が、その何処かが失われたことで街坑道・ヒイズルガまで押し寄せてくる……あり得そうなシナリオではありますわね」
プラスの内容は概ねハンネの言う通りだろうな。
ただ、イベント時間が短くなるのは、俺の用事的にはマイナスかもしれないが。
「となると、そこから連鎖的に突発的な指示が出るかもしれないから、心構えだけはしておくように、と言う話になりそうやな」
「高度な柔軟性を保ちつつ臨機応変に対応せよって奴ね」
「……。またの名を行き当たりばったり」
「現場に相応の裁量権を与えておいて欲しい奴ですわね。まあ、私様たちは裁量権の有無や状況の推移によらず、防衛一択なのですけど」
「まあ、何かが起きるかもしれないから備えておいてほしいと言う言葉があっただけマシだと思ってもらうしかないのかもしれないね」
なお、何が起きるか分からない以上、最終的にはこういう話になってしまうのはやむを得ない事である。
こちらで何かを想定して事前に動こうとしても、情報を持っていないのだから、動くことなど出来ないのだ。
「さて、『第三次防衛戦』について他に共有しておくべき情報や伝達事項は?」
「「「……」」」
俺は会議室全体を見渡す。
が、誰も発言の意思は見せない。
どうやら話しておくべき情報については一通り出切ったようだ。
「では、会議はこれまでですわね。残り三日、有用な設計図が見つかる可能性はもちろんのこと、資源の備蓄を進める時間は十分にありますわ。ですので、各自、怠りの無いようにお願いしますわね」
フッセの言葉に全員が頷く。
そうしてこの場はお開きとなった。
07/13誤字訂正




