602:『第三次防衛戦』への打ち合わせ
「さて、後三日で『第三次防衛戦』になりますわ。よって、今日は『第三次防衛戦』についての打ち合わせを行います」
『第三次防衛戦』まで後三日と迫った日。
俺たちは伏屋研究所の会議室に集まっていた。
「ああ」
「分かってるわ」
「……。了解」
「よろしゅうなー」
「一部事項を説明する為に参加させてもらうよ」
「お茶をお配りいたします」
「配信も問題なしのようですわね。では始めましょうか」
メンバーはいつも通り。
『Fluoride A』の面々に雲井さん、それから、メイドさんたちだ。
まあ、メイドさんたちはお茶と茶菓子、それと各種機器の準備をするだけで、基本的に口を挟む事はないわけだが。
「まずは『第三次防衛戦』についての基本的な情報の開示からですわね」
大型のモニターに資料が出されて、全員の視線がそちらへと向けられる。
『第三次防衛戦』
敵が出現する時間は午前0時……つまりは日付変更と同時にイベント開始。
終了は翌日の午前0時で、いつも通りにイベント期間は丸一日になるようだ。
イベントの舞台については前回から変わらず街坑道・ヒイズルガの全域。
なお、街坑道・ヒイズルガの拡張事業は順調に進んでいるため、前回以上に守りやすくなっているはずである。
具体的には堀やら段差やらが出来ていたはずだ。
防衛対象もやはり開示されていないが、裏切り者である『英雄譚吟遊団』のデンシティの皮を被った開発からの言葉によれば、各サーバーには現実との接点になるゲートがあるらしく、それが占拠されることによって、こちらの敗北になるらしい。
なお、ウチのサーバーのゲート位置については、開発によって情報が開示されると共に完全に秘匿され、ハンネですら知らないようだ。
「……。ルールが変わらないせいでマンネリとか言われそう」
「マンネリはあかんなぁ。スポンサーからの受けが悪くなりかねヘん。そうなると色々と拙くなるで」
「受けが悪いからって力を抜いたり撤退したら亡国だけどね」
「マトモな企業ならそこは大丈夫だろ」
その他ルールについては大きな変更点はなし。
相変わらず、こちらのリポップは使っているマテリアルの質と量次第だし、ギルドホームの防衛は欠かせない。
ああでも、裏切ってわざとギルドホームを落とさせたら、リアルでも罰則があるように法律の方が改正されたんだったか?
運営も務めている政府は実に大変である。
「さて、ここまでが全体の情報ですわね。そして、此処からは各自がどう動くかについてですわ。ハンネ、運営の方から私様たち『Fluoride A』に何かしてほしいという話は来ていますの?」
「もちろん来ているわ。プラヌライの騎士武装関連でね」
話は変わって『Fluoride A』の動きについて。
「トビィ」
「なんだ?」
「私とトビィはイベント開始と同時に陽泉坑道・プラヌライに突入。トビィを護衛として奥地へ向かい、私はプラヌライの騎士武装取得を目指すことになるわ」
「なるほど」
どうやら俺とハンネはイベント開始と同時に逆侵攻を始めることになるらしい。
そして、これがハンネによる、俺の目的を隠しつつ、陽泉坑道・プラヌライの奥地にまで進める方策でもあるようだ。
「しかし護衛なぁ……ハンネを連れていくのは構わないが、他のプレイヤーも付いてきそうな感じか?」
「そうね。一部は付いてくると思うわ」
「そういうのは振り切っても? と言うか、動きが遅いならハンネも置いていっていいか?」
「構わないわ。今のトビィの速さならどれぐらいの時間で辿り着けるのかと言うのも、今後の為に必要な情報だから」
「分かった」
だから、俺がハンネを置いていってしまうのも想定内と。
まあ、ハンネのことだから、置いていかれないように色々と事前準備を進めているだろうが。
「トビィたちについては分かりましたわ。私様たちについては何かありますの?」
「フッセたちについては何としてでも街坑道・ヒイズルガを守るように、と言う指示は出ているわね。それとトビィ。場合によっては私たちも突入を中止し、防衛に専念する場合があるわ」
「ん?」
さて、俺とハンネが外に出る以上、フッセたちは防衛に専念することになる。
しかし、その防衛についてはいくつかの懸念事項があるようだ。
それも場合によって突入中止にもなるような案件が。
「一つ、もしも敵戦力が初期から赤以上である場合は防衛に専念よ。最終的には黒の魔物が出てきかねないし、そうなったら街坑道・ヒイズルガそのものへ踏み込ませないように徹底する必要があるかもしれないから」
「分かった」
「そして、その場合にはフッセたちも出し惜しみなしで、24時間ほぼフルタイムの戦闘を覚悟してもらう必要があるわね」
「分かりましたわ」
「……。相手が赤以上ならそれは納得」
「赤以上やとウチとか時間稼ぎがやっとやけどな……」
なるほど、出てくる敵が強すぎる場合は確かにそうなるか。
しかも、デンシティの皮を被った開発の策略があったので、そうなる可能性は否定できるようなものでもない、と。
「もう一つ。無いとは思うけど、大規模ギルドが離反した場合や、中小ギルドが大量に落とされた場合も中止案件ね。落とされたギルドホームの奪還に戦力が必要だから」
「ああ、それもそうだな」
「……。中規模までなら防衛組が頑張れってこと?」
「そういう事ですわね。実際、最前線組はだいたい竜命金武装ですし、中規模なら何とかはなると思いますわ」
「一部はオリハルコンやアダマンタイト武装を使っとるレベルやしなぁ」
もう一つ、大規模ギルド……たぶん『C』とか、その辺が裏切ったら、その時も戦力が足りないので中止か。
とは言え、『英雄譚吟遊団』の件もあって、身辺調査と警護はどこのギルドもしっかりとしているだろうし、『タングススティック』や『プラチナムス』のような一般に大手と言われるようなところは今更裏切ったりはしないだろう。
「後は……『ネオンライター』含め、一部のプレイヤーがまた余所のサーバーに救援へ向かう予定ではあるわ。だから、そちらで看過できないような事態が起きた場合には、その事態に応じて何かしらの指示が出るかもしれないわね」
「それは……一応気には留めておく」
「ほぼ、何もないとは思いますわ」
「……。何かあっても防衛の方はやる事が変わらないと思う」
「せやな。自分のところを落とされないようにするのは最優先事項やと思うし」
この辺は突発的事態が発生するかもしれないから備えておいてくらいな話だな。
まあ、気にする事じゃない。
「さて、私からはこれくらいだけど、まだ話があるわ。雲井さん」
「そうだね。此処に居る面々には話しておこう。あ、残念ながらここからは配信できない話だから、申し訳ないが、配信はここまでだ」
ハンネの話はこれで終わり。
そして、ハンネと入れ替わるように、配信を終了させた上で雲井さんが口を開き始めた。




