592:ブラックキーパー・ネラカーンω・虚光-8
(・ω・)(・ω・)(・ω・)(・ω・)<本日は四話更新となる。こちらは四話目だ。増殖している理由も含め、読んでいない話があったら気を付けて欲しい。
「一つ!」
残り78秒。
対する虚光は今俺が首を刎ね、消え始めた個体を除けば残り20人。
つまり、現状は一体につき4秒未満で始末しなければいけない状況という事になる。
「二つ!」
俺は一番手近に居た次の虚光に向かって二重推進で駆け寄り、首を刎ねる。
これで19人であり、時間は75秒。
だが、ここまでの三体の虚光を倒した感触から、俺はこのまま倒し続けても駄目だとほぼ確信した。
「三つ!」
倒した虚光たちの感触はバラバラだった。
最初のはちゃんと実体があるように感じた。
次のはスカスカだった。
今倒した三体目は一体目よりもむしろ高密度だった。
つまり、偽物の共通項は存在しない。
残り71秒。
「四つ!!」
残り66秒。
このまま運任せで目に付いた虚光を倒していって本物に当たれるか?
否だ。
俺の運でそれを期待すること自体が間違っている。
今斬っているのも、ただ黙って足と手を止めて考えているよりは、動きながら考えた方が勝率が高いと判断したからに過ぎない。
「五つ!」
いや、下手をすれば、そもそも俺が認識した21体の虚光の中に本物はそもそも存在しない可能性すらある。
なにせ相手は虚無属性を司るもの、虚構の存在。
ゲームとして成立させる以上、倒せない状態にはなっていないし、監査もそれは許さないだろうが、俺が認識できていない場所に22体目の虚光が生成されている可能性は普通にあり得る。
残り62秒。
「ふんっ!」
『トビィ!?』
「「「ほう?」」」
残り60秒。
一体一体確かめている暇などない。
本体を正確に判別して捉えなければならない。
そこまで考えが至った俺は自分の足元に向かって拳を叩きつけて、『昴』を撃ち込み、そして……目を瞑る。
「……」
地面に撃ち込まれた『昴』を起点にフロア12中の地面、壁、植物へと振動が伝わっていき、やがてそれは地面に着いた俺の手へと返ってくる。
その速度は大気中の音速をはるかに超えた速さであり、今のフロア12の状態を俺へと正しく伝えてくれる。
「見つけた!」
「「「何っ!?」」」
そして見つけた。
虚光が最初に居た玉座。
その陰に誰かが佇んでいて、他の虚光にはない極めて濃い魔力を練り上げていた。
いや、それだけではない。
そいつには感触通りの重さがある、息遣いがある、ブレがある。
それは他の虚光たちにはない特徴だった。
残り57秒。
普通に駆けては間に合わないし、俺が本体を発見したことを察してか、分身の虚光たちは斧を手にこちらへと駆けてきている。
「うおらあっ!」
だから普通ではない移動手段を使う。
全力で『昴』を投擲し、投擲された『昴』は音速を超えて虚光の本体へと飛んでいく。
それを認識した上で俺は特殊弾『影渡り』によって影の空間へと移動する。
「これは驚いた」
そして影の空間から『昴』の影へと移動することで、玉座の直ぐ前にまで移動する。
残り55秒。
「ぶっ飛ばす」
「そうか」
玉座の影に居た虚光の本体は他の虚光と違ってローブを身に着けた姿であり、手に持っているのも斧ではなくキセル型の短剣としか言いようのないものだった。
それはまるで、これまでの金属鎧を身に着けた姿は偽りであり、この姿こそが本来の姿であるかのようだった。
「そう簡単にやれると思うなよ?」
「っ!?」
だが、その動きはこれまでよりも鋭く、正確だ。
虚光は短剣を振るい、拳と『昴』……だけでなく、俺が投げたサーディンダートやグレネードと言ったものも弾いて、防ぐ。
残り50秒。
「ベリージャム使用。特殊弾『焼夷ガス発生』!」
「おっとこれは……」
ならば確実に倒す手段を取るまで。
俺は『昴』へとベリージャムを使用し、ランダムに選ばれた電撃属性を付与、威力の底上げをする。
同時に特殊弾『焼夷ガス発生』込みのフググレネードを連続投擲し、虚光の逃げ場を塞ぐように焼夷ガスを発生させつつ、上空に向かってグレネードも投げておく。
残り45秒。
「すぅ……」
これで逃げれば焼夷ガスによって肺腑を焼かれて死ぬ。
受ければ『昴』に重ねた属性追加ダメージが通って死ぬ。
微かな隙間で回避しようとも、落ちてきたグレネードの爆発で死ぬ。
俺の攻撃が直撃すれば……当然死ぬ。
故に、虚光がこの期に及んで取れる手段は仲間の下への転移か、俺を先んじて打ち倒すこと。
だが、前者は出来るならもうしている事からして、何かしらの条件付き。
恐らくは分身は対象に出来ないとか、そういうのだ。
そして先んじて倒すならば……。
「ならばっ!」
虚光は真っすぐに腕を伸ばし、真っすぐに俺へと向かってくる。
そう、先んじて俺を倒すならば、そうするしかない。
最速最短で向かっての一撃でシールドを剥がし、いつの間にか俺の背後に居て、斧を振りかざしている分身の追撃によって仕留めるのだ。
「遅い」
「っ!?」
だからもっと速い一撃を。
俺のとどめの一撃のために行う踏み込みの一歩目。
それが地面に着く前にヴァンパイアマントの機能によって空中に止め、役割を果たさせる。
時間にして僅か半歩分、距離、高さ、時間をほんの僅かに狂わせる。
そして、その狂いの差によって生じた隙間に……。
「斬る!」
「!? 『見事』」
『昴』による一撃を叩き込んで、様々な属性が入り混じったエフェクトと共に虚光の首を刎ねた。
「『しかし、少々甘くもあるな』」
「!?」
俺のシールドが打ち破られ、右脚が粉々に打ち砕かれたのはその直後の事だった。
「くっ……」
見れば虚光のキセル型の短剣からは煙が出ていて、それが俺の体に纏わりついていた。
ただの煙ではなく、濃密な虚無属性の煙。
それによって俺のシールドは打ち砕かれたらしい。
そして、今まさに消えていく最中である虚光の分身。
そちらは斧を振り下ろすのではなく、投げつける体勢を取っていた。
どうやら斧を投げる事によって、俺の右脚を打ち砕いたようだ。
勝ちを優先して、殴れるほどの踏み込みにしなかったツケか、これは。
「『くくく、まあそれでも、俺の試練は無事に突破した。褒美は後で現実に直接送っておこう。では、ここから無事に脱出できるか見させてもらうとしよう』」
「やってくれる……」
そうして虚光の姿は消え去り、それと同時に展開されていたポケットアリーナも解除された。
≪設計図:アドオン『虚無属性強化』を回収しました≫
≪設計図:アドオン『虚無属性耐性』を回収しました≫
≪生物系マテリアル:肉・虚無を17個回収しました≫
≪生物系マテリアル:骨・虚無を16個回収しました≫
≪生物系マテリアル:皮・虚無を10個回収しました≫
≪生物系マテリアル:甲殻・虚無を8個回収しました≫
≪生物系マテリアル:草・虚無を5個回収しました≫
≪幻想系マテリアル:竜命金・虚無を10個回収しました≫
≪幻想系マテリアル:隕鉄・虚無を3個回収しました≫
……
大量の報酬が入ってくるが……とりあえず虚無属性でない肉や皮は回収しなかった。
設計図についてはもはや確認していられないレベルである。
『トビィ。残り40秒。坑道の崩壊は止まりました』
「そうか。じゃあ、脱出を目指すぞ。生きて帰ってこその坑道探索だ」
『ブン』
俺は特殊弾『共食い整備』を発動して、脚をとりあえず身動きできる程度にまで回復させると、脱出ポッドがあるでろう屋敷の方へと向かった。
07/03誤字訂正




