591:ブラックキーパー・ネラカーンω・虚光-7
(・ω・)<本日は四話更新となる。こちらは三話目だ。
「ほう、正面から来るか。だが、デバフが重なったと言っても我を倒すにはまだまだ……」
俺は虚光に向かって駆けていく。
そして、駆けながらSPの状態を確認し、ζアームRは8、δアームLは30、SPが貯まっているのを認識。
虚光のシールドの残量は現在50%をわずかに下回る程度で、俺が接近した時にはちょうど50%になるところぐらいだろう。
これなら……行ける。
「手数がかかるぞ!」
俺と虚光の距離が詰まり、虚光が先制攻撃として斧を薙ぎ払う。
それを俺は……本当の紙一重、接触するか否かと言うレベルで屈み、避ける。
「それは真っ当にやればだろう?」
「むっ!?」
そうして虚光の攻撃を避けたことで生まれたほんの僅かな時間。
俺はそこで二重推進によって虚光に向かって飛び出し、即座に『昴』を足裏から左手に移動してδアームLの魔力属性付与と巨大化を発動、すぐさま再び『昴』を体内に戻す。
で、どういうことか俺の右腕を中心に赤い炎、黒い闇、緑色の渦が生じているが、俺はそれを無視してζアームRの嫉妬パンチを起動。
次の右腕の攻撃の威力を9倍にまで跳ね上げる。
「全力全開だ。消し飛べっ!!」
「!? 『ほうっ……』」
完全に決めた殴りからの『昴』射出による攻撃で、虚光のシールドは5%削ることが出来た。
今はその時から『昴』そのものに強化を加えた上で、威力を9倍にし、カス当たりでも数%削れるだけの怨霊も虚光には憑いている。
つまりだ。
計算上、虚光の今のシールドの量ならば、消し飛ばせるはずなのだ。
「ーーーーー!?」
フロア全域を覆いつくすような膨大な量のエフェクトが生じる。
凄まじい反動でもって、地面に付いていること叶わなかった俺の体が虚光から離されていく。
虚光のシールドは……ものの見事に消し飛んでいる。
どうやら計算通りにいったらしい。
「よしっ」
『ブン! これで後はトドメを刺すだけですね!』
「ぐっ……まさかのだな……」
エフェクトの向こうから虚光が姿を現す。
シールドの性質上、虚光の体に傷や損傷の類は見られないが、シールドが無い以上は首を落とすか頭を潰すか心臓を破壊すれば死ぬ……死ぬよな? うん、死ぬはず。
と言うか、ちゃんと死んでくれ。
監査入りでもそこら辺は守ってくれると信じたい。
てか、守れ。
守らないなら監査の監査が必要なので、ヒノカグツチノカミ様に全力でお祈りするしかない。
「まさか此処まで追いつめられるとは思わなかった」
俺は虚光に向かって駆けていく。
シールドを失った虚光が何かやらかしても困るからだ。
とっとと始末してしまった方がいい。
「ただ一つ言っておこう。情報は拡散する。だが、幾人もの手が挟まる以上、わざと否かを問わず……」
「死ね」
居合の要領で振り抜かれた『昴』が虚光の身に着ける鎧の隙間を通り、あるいは切り裂き、首を刎ねる。
虚光の首が宙を舞い、誰の目から見ても明らかに虚光の命は途絶えた。
「確実に」
だが、先ほどまでの想像がそうさせたのか、それとも俺の直感的なものか、俺は宙にある虚光の頭と、頭を失って倒れつつある虚光の体、その両方を『昴』の振り下ろしによって丸ごと両断する。
これで頭、首、心臓、何なら他の致命的な部位まで確実に破壊したはずである。
「「「虚構を伴ってな」」」
「っ!?」
だが虚光の言葉は続いた。
それも破壊した体からだけでなく、周囲の至る所から。
「おい待て、本当に待て。それは駄目だろ……」
『ブ、ブブブブブブブブブブ……』
「「「さて……」」」
俺は振り返る。
そこに居たのは……。
21人の虚光。
それは正に絶望としか言いようのない光景だった。
「いや待て、まさか……」
「「「貴様は我、虚光の障壁を奪い去ることに成功した。それは実に素晴らしいことだ」」」
21人の虚光は、その全員が先ほど切り裂いた虚光と全く同じ姿をしていて、全員が異口同音に話し、一糸乱れぬ同じ動きをしている。
「そういう事か。立ち直れよティガ。本物は一体だ」
『ブン!? ブ、ブン。分かりましたトビィ』
「「「その素晴らしさを称え、我も最終奥義を見せるとしよう」」」
その事に俺は疑問を覚え、先ほど斬った虚光の死体に足で触れたことによって確信を得る。
この虚光たちは本物ではなく、虚像である、と。
うん、流石に黒キパを斬ったものも含めて22人に増やすという馬鹿げた現象は起きていない。
監査本人ならやれたかもしれないが、少なくともゲームとして許容される範疇でそれは出来なかったようだ。
「とは言え……」
「『我が試練は新たな世界を開くか否かを見定めるがためのもの。そして、資格なき者しか居ないのであれば、終焉に至るがせめてもの慈悲である。人間よ。全力を尽くして、我が終焉に抗うがいい!』」
俺にだけ聞こえるように監査の言葉が混ざる。
ああこれは……本気でヤバそうだな。
「「「見るがいい。これが我が最終奥義! 止められるものならば止めて見せよ! 止められなければ……」」」
『ブ、ブブ。これは……』
「フロア全域への確定致死攻撃を行えるキーパーの最終奥義が碌なもののはずがないんだよな。だからそう、来るとしたら……」
世界を掴まれた。
意味が分からないと思うが、そうとしか言いようのない感覚を俺は覚えた。
そして、それに合わせるように虚光の体から漏れ出しているような黒い炎がそこら中の空間から漏れ出てくるようになり、本来ならば特定の方法でしか破壊出来ないはずの坑道内構造物である木や岩が端から砂へと変わっていく。
「「「世界は虚無の光に包まれて終焉を迎えるのだ!」」」
『トビィ! 坑道構造そのものへの攻撃が行われています! このままでは坑道が崩落します!!』
「発動したらゲームオーバー確定の攻撃とかだろうなぁ」
21人の虚光が散開してそれぞれに駆け始める。
ティガは俺の視界の隅に世界が終わるまでの推定時間……78秒と言う時間を示した。
俺は一番近くに居た虚光に向かって二重推進で飛び込み、その首を刎ねた。




