589:ブラックキーパー・ネラカーンω・虚光-5
(・ω・)<本日は四話更新となる。こちらは一話目だ。
「虚光の攻撃そのものは防げる。が、しかしだな」
『ブン。ピクトステッカーは破壊されたようです』
影の空間に入り込んだ俺は、脱出先として準備しておいたピクトステッカーが虚光の攻撃によって破壊され消滅していくのを、影の空間から確認した。
やはり、虚光の攻撃を素で受けてしまったらどうにもならないらしい。
『トビィ、3秒の移動不能はどうしますか?』
「話術で誤魔化す。それが無理なら気合で凌ぐしかないだろう。まあ、最初はもっと確実な手段を使うが」
だが攻撃そのものを凌ぐことには成功したので、俺は元の空間に戻る。
「特殊弾『煙幕発生』」
「ほう。今回も凌いだか」
そして、元の空間に戻ると同時に特殊弾『煙幕発生』込みのグレネードを起爆、こちらの姿を隠すように煙幕を展開する。
「ああ、凌いだぞ。そして、お前は随分と沢山憑いたみたいだな。虚光」
「ああ、驚くほどに憑いた。こんなに憑いてしまっては、今後はフロア全域攻撃を迂闊に使うわけにはいかなさそうだ」
俺は煙幕の中からヴァンパイアヘッドの暗視機能も利用して虚光の姿を見る。
虚光に憑いている怨霊の数は……20は確実に超えているな。
どうやら俺の作戦は上手くいったらしい。
だが、そうして憑けたからこそ、これ以上は簡単には憑けさせてくれない、と。
なお、虚光の態度は余裕綽々としか言いようがないものである。
それと、シールドを発生させる指パッチンも今やったので、生き残っている魔物のシールドは復活したことだろう。
まあいい、3秒経ったので移動不能は解除された。
で、煙幕はまだ残っている。
「そうか。それはこっちとしては嬉しい話だ!」
と言うわけで、俺は煙幕の中から二重推進で飛び出すと、最後の特殊弾『睡眠』を込めたサーディンダートを投擲。
虚光の兜に真正面から当てる。
「む……ZZZ……」
「「「コケエエェェコオオォォォッ!」」」
ターキー種の声が少ないが響き渡り、ζアームRのSPを回収。
今は……10ポイントか。
そして、サーディンダートと言うこちらの攻撃手段の中では最弱クラスの攻撃が当たった事による虚光へのダメージは1%。
「ほう。驚いた。一分も削るのか」
たった1%ではない。
竜命金と何かによって出来ている虚光の鎧とオニキス・電撃製でしかない俺のサーディンダート、本来の彼我のスペック差からすれば、殆どどうでもいいような、それこそ避ける必要などないような一撃でもって、1%も削り取ったのだ。
これは非常に大きい。
「みたいだな。怨霊様々ってやつだ。なにせ、カス当たりでも1%なら……」
勿論、虚光のシールドの自然回復スピードを考えれば、1%程度なら数秒で元通りだ。
だがそれでもだ。
「数百発も掠れば、自然回復込みでもシールドが割れる計算が成立する」
「そういう事だな。いやはやハプニングと言うのは厄介だな」
殴り倒せるようになったことに違いはない。
だから俺は虚光へと駆け寄ると、その隙だらけの胸部に拳を叩き込み、『昴』も撃ちこむ。
「まあ、我を倒せるまでに数百発もかかるのなら、被弾前提で攻撃を当てにかかればいいわけだがな」
「っ!?」
だが、それ以上の追撃は撃ちこめなかった。
『昴』を撃ちこんだのに虚光は小怯みもせず、俺に向かって黒い炎を纏った右腕を伸ばして掴みかかってきたからだ。
そして、それを避けて反撃を加えようとしたら、今度は勢い良く踏み込んでタックルを仕掛けてくる。
そこから更に裏拳やローキックと言った、挙動としては素人のそれではあるが、込められている力の都合で掠ることも許されない攻撃が連続で繰り出されていく。
「っ、この、素人拳法の癖に!」
「はははははっ! 当てれば勝てるなら素人の動きでも十分だろう? それにだ」
それでも何とかして俺は反撃を当てていく。
サーディンダートを投げ当て、攻撃の為に伸ばした手を逆に打ち、素早く脇に入り込んで小突く。
そんな攻撃でも与えるダメージは虚光のシールド総量の1%で、虚光のシールドは削れていく。
だが、そうやって戦っていると嫌でも気づかされる。
監査が入っているせいか、虚無属性故か、虚光が元々そういう存在なのかは分からないが、殴った際の衝撃から得られる情報で組み立てた俺の脳内の虚光の動きと、実際の虚光の動きがどうにも嚙み合わない。
こちらの動きを見てから対処を変えられているのか、他の何かなのか……とにかく嫌な感じだ。
「この場に居るのは我だけではないぞ?」
『ブブッ!? トビィ!?』
「「「ーーーーー!」」」
虚光の言葉と共に戦いの場に近づいてきていたブラックターキー、ブラッククロック、ブラックコーラルが襲い掛かってくる。
「それは知ってるし、むしろ好都合なんだよ」
「ゴケェ!?」
「ヂクダッ!?」
「コォサンゴォ!?」
「なんだ気づいていたのか。まあ、そうでなくてはつまらないか」
が、それについては気づいていたので、ブラックターキー、ブラッククロックについては虚光の方へと殴り飛ばし、飛ばされた彼らを虚光は雑に打ち払って倒し、自身に憑く怨霊を増やす。
で、ブラックコーラルについては無視をして……。
「当たり前……だっ!」
「ーーー!?」
「そのようだな。いやはや困ったものだ」
そのブラックコーラルの影に隠れていたスカーレットニンジャは殴り飛ばして虚光送り。
虚光も虚光でやはり雑に打ち払って始末する。
「お前たち退け。居ても役に立たん」
「あ、ドクターは逃がさん!」
「何故バレター!?」
状況を鑑みたのだろう。
虚光は周囲の魔物たちを退かせる。
だが、機さえあれば虚光の指示無しでも襲い掛かってくるに違いない。
なお、そうして退く魔物の中にブラックドクターが見えたので、そいつだけは二重推進で素早く接近し、切り刻み、始末して、それから虚光の前に戻る。
ドクター種を残してしまうと、最悪、虚光のシールドを割った直後にシールド復活とか、下手すると虚光を倒したのに蘇生とか言う地獄そのものな展開になりかねないからだ。
ドクター種を倒している数秒で虚光のシールドが回復されてもなお、優先度はドクター種の方が上である。
「さて、こちらも何時までも得物なしと言うのもアレなのでな。『本来のものとは少し違うが、』使わせてもらおう」
「……。斧、それも戦斧とか呼ばれるような奴か」
俺が虚光の前に戻ってきた時点で虚光のシールドは総量の80%ほどだった。
それがトリガーだったのか、何か別の条件があったのかは分からないが、虚光の右手に黒い炎と黒い砂が集まっていく。
そうして作り出されたのは、巨大かつ燃え盛る刃が二つ付いた長柄の斧であり、その長さは虚光自身よりも大きく2メートルは確実に超えている。
監査の『本来のものとは少し違うが』と言う言葉は気になるが……とりあえず言えることがある。
喰らったら確実に死ぬ。
そう断言できるだけの力が斧からは漂っていた。
その威容は備えていてもなお、俺の身を強張らせるには十分なものでもあった。
「頼むから一撃で死んでくれるなよ? 一撃で死んだら、我も客もつまらないから……なっ!」
「っう!?」
背中の五つの輪から竜巻を放つことで急加速した虚光が両手で持った斧を振り下ろしたのはその直後のことだった。




