588:ブラックキーパー・ネラカーンω・虚光-4
『ブーン。それでトビィ。此処からはどうするのですか?』
「簡単に言ってしまえば、ハプニングを虚光に押し付ける。だから、その為にドクター種以外の魔物をシールドだけ剥いで放置する。見つけたぞおらぁ!」
「チクタッ!?」
俺は通りすがりに居たスカーレットクロックを殴り飛ばしつつ、ティガの質問に答える。
なお、殴ったスカーレットクロックについては殴り、『昴』を射出したらシールドを破壊できた。
やはり、虚光の耐久性能が異常なだけで、今の俺は緋色や黒の魔物を相手取るに十分すぎる火力を備えているようだ。
『ブブ。それは上手くいくのですか?』
「俺の技量的な意味でか? 虚光の能力的な意味でか? あるいはポケットアリーナの仕様的にか?」
『後ろ二つです』
「ドクターは死ねぇ!」
「ーーーーー!?」
続けてブラックドクターに接触。
殴り、『昴』を撃ちこむまでは変わらないが、吹き飛ばす先を俺の進行方向に調整して、シールドが剥げたブラックドクターに飛び蹴りをかまして始末までつける。
周囲に他のドクター種の姿は見えないので、これで大丈夫だろう。
で、俺に憑く怨霊が一体増えた。
「上手くいくかだったな。上手くいかせるしか勝算が無いってのが本当のところだ。ただまあ、虚光の奴がシールドを好き放題に貼り直せるなら、ドクター種が居る意味が薄い。ポケットアリーナの仕様にしても、虚光の奴が煽ってくれたからな。成否が確定するまでは待ってくれるだろうさ」
『ブ、ブブ、ブン。なるほど』
「デビュブ!?」
次は槍持ちのブラックデイムビー。
こちらに向かって突撃してきたので、紙一重で避けると、首を殴ってシールドを剥ぐ。
「第四に在りしは地。黄金色の砂塵は万物を飲み込まんとす」
「何がたち悪いって虚光の奴は俺のそういう考えを見抜いた上で乗ってきている点だけどな。アイツ、ハプニング込みでも負けないと思ってるぞ」
『ブーン。なるほど』
「コォォサゴッ!」
「おっと」
次は……ブラックコーラルか。
竜命金混じりであるらしい黒いサンゴの腕をこちらに向かって叩きつけてくる。
当然、その叩きつけは避けて、反撃を繰り出すのだが……。
「コサゴォ!」
「流石に生物と物質の中間に居そうな奴は堅い!」
殴りからの『昴』射出一回では削り切れなかった。
どうやら今回のフロア12の虚光以外の魔物だと、一番堅いのはコーラル種のようだ。
そして追撃も撃てなかった。
「チクター!」
「ちっ、仕方がない」
先ほどシールドを剥がしたスカーレットクロックが、まるでブラックコーラルを庇うように突っ込んできたからだ。
どうやらアドオン『停止無効』によって役目が果たせないからと、クロック種は肉盾要員として動き出したらしい。
この分だと、スカラー種も……いや、ランダム強化による指揮個体の存在を考えれば、全てのシールドを失った魔物は肉盾要員として立ち回ってくる可能性を考慮した方がよさそうだ。
他の魔物たちも集まってきているので、俺はブラックコーラルたちから急いで距離を取っていく。
「後、右腕のSP稼ぎも今のうちに並行してやっておく。眠れ!」
『ブン。なるほど』
「ワラッ……ZZZ」
そうして距離を取った先にはブラックストロドルが居た。
正直、ストロドル種は能力が危険なので倒してしまいたいのだが……そうも言っていられない状況なので、俺は特殊弾『睡眠』込みのサーディンダートを投げつけて眠らせる。
「「「コケエエェェコオオォォ!」」」
「ワス……ストロォ!?」
「お前の近くには長時間居たくない!」
勿論、眠った魔物が出現すれば、直ぐにターキー種が嘶いて叩き起こしてくる。
が、それによってζアームRのSPが貯まる。
ζアームRの嫉妬パンチの威力は虚光のシールドを剥ぐためには必要だから、可能な限り貯めておきたいところだ。
そんなことを考えつつも、ブラックストロドルの脇腹を殴って、シールドを破壊しつつ吹き飛ばしておく。
「「「……」」」
「数が多いのは好都合!」
その後も俺は魔物たちのシールドを剥ぎ取っていく。
だが第一に考えるべきは生存だ。
だから、周囲の壁や床から伝わる振動で事前に感知していたとは言え、ブラックニンジャの集団に囲まれて、四方八方から手裏剣の投擲をされた時は、まず全力で包囲の輪から抜け出し、それから一体ずつシールドを剥ぎ取った。
スカラー種はやはり肉盾になりに来たが、こちらは適当に捌いた。
ターキー種、デイムビー種、ブラックハウンドもシールドを奪った後は同様。
ただ、デイムビー種の狙撃銃だけは不意を突かれると危険であるため、奪った上で鈍器運用をしつつ、フロア内にあった池に沈めておくことで回収を遅らせる。
で、コーラル種はどう足掻いても移動しつつの一撃では削り切れないのでスルー。
そしてドクター種だけは仕留めていく。
「第五に在りしは空。ただ在りしものによって四大は至天の道を切り開かんほどに高められる」
「来るかっ!」
そうして再び虚光の五つの輪に力が満ちた。
「故に逆巻け。在りしものが肥大するほどに、無きものもまたその域を広げるが世の道理。混沌反転し、虚無を招け、零に在りしものをこの地に招け」
「ピクトステッカーからの……」
それを見て俺はピクトステッカーを近くの物陰に貼り付けると、虚光からも他の魔物からも出来る限り距離を取っていく。
「来たれ零に在りしもの」
「特殊弾『影渡り』」
虚光の手が輝いた瞬間、俺は大きく伸びつつある自身の影へと入り込んだ。




