586:ブラックキーパー・ネラカーンω・虚光-2
「試すか」
今、俺の周囲はミクヒィカζクラッカーが起こした爆風と霧によって視界が極めて悪くなっている。
だが、ヴァンパイアヘッドの暗視機能が働いているのだろう、最低限……どこに魔物が居るかと言うシルエットぐらいは見えている。
そして、その中には空からこちらの様子を伺い、次の狙撃タイミングを待っているデイムビーたちの姿も見ている。
うん、狙い目だな。
「ミクヒィカζクラッカー生成」
ではここで一つ、両腕がミクヒィカのキーパーだからこそ出来る技をやろう。
まず、ミクヒィカζアームRの効果でミクヒィカζアームRのSPを1消費して、ミクヒィカζクラッカーを3つ生成する。
「左手に移し」
次に生成したミクヒィカζクラッカー3つの内、2つを手近な魔物のシルエットに投げつけて牽制をしつつ、左手に移す。
「ミクヒィカδアームの能力発動。魔力属性付与からの巨大化」
そうしたらミクヒィカδアームLの能力を発動。
これまでに貯まっていた12のSPの内、1を使ってミクヒィカζクラッカーに魔力属性を付与すると共に性能を上昇。
続けて、残った全てのSPを消費して、ミクヒィカζクラッカーを巨大化。
指と指の間に挟めるサイズだったものを、手でしっかりと握る必要がある大きさにまで大きくする。
「第三に在りしは水。青々とした奔流よ。渦を巻け」
虚光の準備も進んでいるな。
五つの輪の三つ目に渦潮のようなものが発生して、他の二つの輪から生じている火と風の竜巻と混ざりあっているようだ。
そういう性質なのだろうけど、霧の中からでも本当によく見える。
まあいい、準備完了はこっちが先だ。
「右手に戻し……嫉妬全開!」
俺は巨大化したミクヒィカζクラッカーを右手に持つと、ミクヒィカζアームRの効果を発動。
今ある右腕のSPを全て消費して、次の右腕を利用した攻撃の威力を10倍以上に引き上げる。
「敢えて名付けるならこう名付けよう。ヤケ食いクラッカー!」
「ブブッ!?」
そして俺は霧の中で大きく振りかぶり……空中に居るデイムビーに向かって全力投擲。
放たれたミクヒィカζクラッカーは当たり前のように音速を超えて飛び、デイムビーに直撃する。
そうすることで条件を満たしたミクヒィカζクラッカーは爆発し……。
「「「ーーーーー!?」」」
「はははははっ!」
『ブブブブブ!?』
フロア12の空を覆いつくすような規模の大爆発が発生。
フロア全域に及ぶ爆風、寒風、魔力の渦、衝撃波、氷の礫、その他諸々が吹き荒れて、俺のシールドもいくらか削り取られる。
「ようし、これでまたしばらく狙撃の心配は要らないだろう」
『ブ、ブブ。そうですね……』
そして、俺の被害以上に魔物たちはダメージを受け、特に遮るもののない空中に居たデイムビーたちは一匹残らずシールドを剥ぎ取られたことだろう。
いや、それどころか衝撃による叩きつけのタイミングや角度によっては即死もしたはずだが……。
「ただまあ、ドクター種を片付けないと相手の戦力を削るのはやっぱり厳しいか」
『ブーン、と言いますと?』
「ハプニング発生のアナウンスからして、条件を満たした……つまり、魔物を倒したのなら、一瞬であっても、何かしらのエフェクトが発生すると俺は考えているんだよな。だがそれが無いってことは……」
『ブン。なるほど。致命傷を負った魔物もドクター種が助けてしまっている、という事ですか』
「推測だがな」
たぶん、一体も倒せてないな。
ドクター種が居る環境で死体の確認と消滅を知覚していないのに倒していないと考えるのは禁物だ。
もしかしたらハプニングにエフェクトが無い可能性もあるので、倒していないだろうと考えるのもそれはそれで危険なのだが、エフェクトの有無が確定するまでは倒せていないと考えた方がまだいい。
「第四に在りしは地。黄金色の砂塵は万物を飲み込まんとす」
「まあいい。とりあえず、敵の目を一時的にでも眩ませることが出来ている状況だからな。今のうちに一合でもいいから虚光を殴って、色々と確かめておく」
虚光の背中の輪に黄土色の砂嵐が追加され、これまでの三つと同様に混合される。
これで4カウントか。
何かあるとすれば、この次か、そのさらに次だろう。
距離があって、先ほどのヤケ食いクラッカーで虚光に与えたダメージを確認できていないのもあるし、一度近づくべきだな。
なので俺はまだ収まっていない霧の中を、暗視と周囲から伝ってくる振動を頼りに素早く駆け抜けていく。
「ブブッ!?」
「……!?」
「あ、遭遇したからぶっ飛ばす」
そうして駆けていたところ、塀の陰でほんの僅かな量のシールドしか持たないブラックデイムビーとブラックドクターに遭遇。
逃がす理由もないので、ブラックデイムビーには飛び蹴りからの『昴』射出で改めてシールドを割りつつ接近し、近くに居たブラックドクターもアッパーから『昴』でシールドを粉砕。
そこから体を回転させつつ『昴』を振るって、二体まとめて真っ二つにする。
死体は……うん、ちゃんと消えたな。
「「ユルサナイ、ユルサナイ」」
「おっと、ちゃんとエフェクトありか。それもずっと続く感じかこれ」
『ブン。そのようですね』
二体の死体が消えた直後。
俺の体にまとわりつくように緋色の人魂が現れて漂う。
どうやら積もる怨みのハプニングのエフェクトはこのようなものであるらしい。
被ダメージの増加量は……受けてみないと分からないか。
「第五に在りしは空。ただ在りしものによって四大は至天の道を切り開かんほどに高められる」
「おっと」
『ブブ。トビィ』
だが、そうして魔物を倒している僅かな間に虚光の背中の輪の五つ目に何かしらの力が生じ、それが他の四つの輪から生じているものと混ざり合うことによって力を増していく。
これで5カウント。
さあ、何が来る?
「故に逆巻け。在りしものが肥大するほどに、無きものもまたその域を広げるが世の道理。混沌反転し、虚無を招け、零に在りしものをこの地に招け」
「これは想像以上にヤバい……」
虚光の力の高まりを感じる。
見れば、背中の五つの輪から生じているものが虚光の手に集まって、光り輝く球体を形成している。
これは……直撃すれば、少なくとも問答無用にシールドそのものは吹っ飛ばされるし、シールドも対策も俺の体は消滅させられるな。
威力だけを問うなら、ブラックパンプキンの核南瓜の完全上位互換だぞ、これは。
「来たれ零に在りしもの」
そして世界を光が包み込んだ。




