585:ブラックキーパー・ネラカーンω・虚光-1
「満員御礼ってか!?」
ポケットアリーナの使用に伴って、発動条件を満たしたアドオン『闘技場の英雄は黒き魔の姿に勇み立つ』……『黒魔勇み』が発動。
俺の全身に黒いオーラが纏わりつくと共に全身の出力が大幅に向上する。
「ありがたい話だ!!」
そして、その高まった身体能力、ニンジャレッグの素の機動力、琥珀・時空製パーツからもたらされる運動能力向上効果、踏み込みに合わせて『昴』を足裏から射出する二重推進を組み合わせる事によって俺は前方へと一気に、姿勢を可能な限り低くして、地面を舐めるように、音を置き去りにしながら飛び出す。
と同時に、背後……俺が先ほどまで居た場所で爆発が起きる。
恐らくだが、フロアのどこかに居る狙撃銃持ちデイムビーたちによる狙撃だろう。
「だったら、魅せていかないといけないよな」
「!?」
でだ。
この時点での相手の初動は……。
虚光は玉座に座ったまま動いていない。
デイムビーは狙撃銃持ちは撃ってきた。
槍持ちデイムビー、ターキー、コーラル、ストロドル、クロック、スカラー、ハウンド、ドクター、要するに殆どの魔物たちはそれぞれの移動手段を用いてこちらに駆け寄ってきているのが、塀などの遮蔽物の隙間から見えている。
で、この時点で行動が見えていないのはニンジャ種のみである。
そんな状況ならば、ニンジャ種が何を狙っているかは容易に分かる。
最初の虚光の前口上の最中から移動を始め、デイムビーの狙撃を俺が避けた場合に、避けた先へ奇襲を仕掛けて刈り取る第二の矢だ。
そうと分かっているならば話は早い。
俺の初動の飛び出しは音速を超えており、魔物たちの予想を大きく上回るものだった。
結果、二の矢として、俺を取り囲み、刈り取ろうとしていたニンジャ種たちは包囲を完成させられないどころか、その動きを止めていた。
だから俺はとんぼ返りで、動きを止めていたブラックニンジャの背中、すぐ後ろに戻り……。
「まずはどうなるかを知らないと……なっ!」
「ーーー!?」
全力で……きちんと踏み込み、全身の力を右の拳へと集約し、殴り、殴る瞬間に合わせて『昴』を射出した。
結果は?
「おおっ、こりゃあまたとんでもない火力が出てるな」
周囲一帯を包み込むような火炎属性と浸食属性のエフェクト、それに爆音としか称しようのない音と共にブラックニンジャのシールドは木っ端微塵に吹っ飛んだ上に、その体も大きく吹き飛ばされた。
目測だが高さだけでも30メートルは確実吹っ飛んだので、何かしらの対策が無ければ落下死して終了だろう。
うん、ニンジャ種の防御周りの弱さ、こちらのアドオン変更を含む各種強化の結果なのだろうけど、とんでもないダメージが出ている気がするな。
これならば、直撃さえさせれば虚光以外の魔物はだいたい吹っ飛ばせる気がする。
「「「シノ……」」」
「さて、虚光は……」
ただ、一撃でシールドを吹き飛ばせるだけで倒せるわけではない。
相手にはドクター種も居るので、その内にシールドを再獲得して突っ込んできてもおかしくないし、ハプニングの内容的に敢えて俺に殺されることを選ぶパターンだってあり得る。
そして、どんなに素早く対処しても、全方位からの多段攻撃に俺は対処しきれない。
と言うわけで、俺は他のニンジャたちから素早く距離を取りつつ、他の魔物たちに囲まれないように移動を開始。
それと合わせて虚光の様子を観察。
ハンネたちの話から、ネラカーンのキーパーたちはだいたいが何かしらのバフを他の魔物たちに行っている……疑惑があったはずだ。
つまり、虚光も何かしらのバフを他の魔物たちにばら撒き始めていてもおかしくない訳だが……。
「第一に在りしは火である。赤く赤く燃え上がれ」
『ブブ。トビィ、なにか拙そうな気配をさせています』
「だなぁ。ただ、アレはバフと言うより、大技をぶちかますタイプのそれだな」
虚光の声がフロア全域に響き渡る。
それと同時に虚光の背中にある五つの輪の一つに赤々とした炎が灯り輝き、嫌な気配がこちらにまで漂ってくる。
合わせて敵の配置を確認。
改めて見てみれば、俺への攻撃と包囲を魔物たちは狙っているが、それ以上に虚光の下へ俺を行かせないように警戒をしているようにも見える。
此処から推測するに……虚光はバフ型ではなく、超長時間のチャージを行った後に高威力かつ回避が極めて難しい攻撃を行ってくる砲台型の方が可能性としては高いか。
ただ、問答無用のゲームオーバーとまではいかない感じだな。
そこまでの嫌な感じはこの方向で高まっている限りはしないと思う。
「どの程度時間があるかは分からないが……まずはこれだな!」
「シノッ……ZZZ」
なんにせよ、即時ではない。
それを理解した俺は特殊弾『睡眠』込みのサーディンダートを一番近くに居たスカーレットニンジャに投擲、命中させ、眠らせる。
「「「コケエエェェコオオオオォォォッ!」」」
「「「チクタック!」」」
「「「幻想ナドナイ!」」」
直後、眠らされたスカーレットニンジャを起こすようにターキー種たちの声が響き渡り、ここが狙い目であると言わんばかりにクロック種の能力によるエフェクトが何重にも出現し、スカラー種の能力も同時に行使された。
これで眠ったスカーレットニンジャは起き、俺は停止の状態異常になり、竜命金や隕鉄は一時的にだが劣化した。
未対策であったならばだが。
「ご苦労。おかげで俺の右腕は嫉妬塗れだ」
「「「!?」」」
クロック種とスカラー種の能力はアドオンによって無効化した。
そして、ターキー種の呼び起こしはむしろ狙って起こしたものである。
そう、それらの能力行使を俺が認識したことで右腕のミクヒィカζアームRが条件を満たしたとしてSPを15得た。
で、得たSPを3消費することで生成した9つのミクヒィカζクラッカーを、俺は素早く周囲に投擲。
俺の周囲は冷気と霧の爆風で満たされて、俺を追いかけ、先回りしようとしていたニンジャたちはまとめて吹き飛ばされた。
「第二に在りしは風。新緑のように舞い上がれ」
「……」
俺が周囲の安全を一時的に確保したのと同時。
虚光の背中の五つの輪、その内の一つから緑色の竜巻が起こり、火と混ざり始めた。




