567:強行軍
『さてトビィ。コメント欄は騒々しいですが、トビィが進むと決めたなら、ティガはそれをサポートします。しますが、勝算はあるのですか? ブラックパンプキンの核南瓜とパドロック種の部屋封印のコンボは決まったら脅威どころではありませんよ』
「まあ、流石に無策で挑む気は無いな。対策なしだと命が幾つあっても足り無さそうだし」
元の部屋に戻った俺は、部屋の中から窺える範囲に魔物が居ないかを確認する。
これで見える範囲にパドロック種が居れば、どうにかして部屋の方へと釣り出して倒すのだが……駄目だな。
何処にも姿は見えない。
なお、本当に配信のコメント欄は騒々しい。
帰れコールが湧いているくらいだ。
まあ、コメント欄はうるさいなら消せばいいだけだし、この程度ならBGMみたいなものだな。
現実から何かされる可能性は勿論考えなくていい。
強制ログアウトは探索失敗と同義だからな。
失われるものを考えたら、俺を止めたい連中にはそれは出来ない。
『ブーン。それで具体的には?』
「特殊弾『ダメコン・集中』を利用する。後四発しかないが、アレを活用すれば理論上は核南瓜を一発多く耐えられるはずだ。効果時間中に核南瓜が来るかや無駄使いに終わるとか、懸念事項はあるが、やらないよりはマシだろう」
『ブブ。となると封印は?』
「祈る」
『ブーン……』
まあ、俺の運で祈るのはどうかと言うのは分かるところだが、俺でなくヒノカグツチノカミ様に祈るならばもしかしたらがあるかもしれない。
損をするわけでもないのだから、祈れるだけ祈っておけばいい。
では、ピクトステッカーを壁に貼り、それから特殊弾『ダメコン・集中』を発動。
その上で俺は部屋の外に出る。
「早速か」
『ブブ。しかもこれ、一体や二体どころではありませんね』
部屋の外に出ると相変わらずの流星雨なのだが、数歩走ったところで南京錠のロックがかかるエフェクトが発生。
封印の状態異常に俺はなる。
そして、そのエフェクトは二重三重に重なってくる。
どうやら今現在、屋外に居るパドロック種は複数体のようだ。
「まあ、遭遇しないなら対処もしない。それと……」
「ギャイン!?」
「もうこのフロアでは魔物の相手そのものをする気は無い。とっととエレベーターを見つける」
『ブン。そうですね』
と、ここで建物の影からブラックハウンドが飛び出してきたので、走る勢いのままに殴り、『昴』を射出し、それ以上は何もせずに俺は駆け続ける。
インベントリ容量ももう限界であるし、今の状況で倒してなどいられないからだ。
「この部屋は何も無し……次」
次の部屋に到着。
が、何もないので、俺は直ぐに次の建物に向かう。
「バウバウッ!」
「邪魔!」
またブラックハウンドが襲い掛かってくる。
なので同様に殴り飛ばすに留めて無視。
先ほどの個体同様、起き上がったら追いかけてくるが、始末するのは必要な時でいい。
『ブブ。トビィ、特殊弾『ダメコン・集中』の効果が切れます』
「仕方がない。じゃ、適当な部屋に入って処理。封印明けまで待ちだな。おらぁ!」
「「ギャイン!?」」
と、ここで特殊弾『ダメコン・集中』の効果が切れそうなので、俺は近くにあった部屋に駆け込む。
で、そこに何もない事を確認した上で、俺を追いかけて来たブラックハウンドたちを手早く処理。
≪生物系マテリアル:肉・電撃を1個回収しました≫
≪生物系マテリアル:骨・電撃を1個回収しました≫
≪インベントリの枠が足りません。生物系マテリアル:肉・電撃はその場に破棄されます≫
「よし」
俺の足元にブロック状の電撃エフェクトを纏った肉が転がる。
どうやらインベントリの容量が不足していると、こうやって足元に転がるらしい。
となると……うん、二つほどの意味で拙いな。
一つはマテリアルタワーからのマテリアル回収で、さっきの隠し部屋では事前にインベントリを開けておいたから大丈夫だったが、もしも開けていなかったら120個も琥珀・時空が周囲に散らばっていたことになる。
それは被害的な意味でも回収的な意味でも大惨事になる予感しかしない。
もう一つは次のフロアでの話。
次のフロアではフライ種の出現が既に予測されているが、このフライ種と言う魔物はマテリアルに反応して動き、マテリアルに触れると、それを材料として三体に増殖したはず。
こうして足元に転がせていたら……大増殖して悲惨な事になるだろう。
となると、次のフロアに行く前にインベントリの掃除は必須。
だが、簡易ラボを使う余裕は回数と時間の両面で無い。
であれば……こういう時に捨てておくか、走りつつ捨てて行くしかないか。
「よし、封印が解けたな。次の部屋に行くぞ」
『ブン』
しかし、今はまずエレベーターを見つけなければいけない状況。
俺は再びピクトステッカーを壁に貼ると、特殊弾『ダメコン・集中』を発動した上で部屋の外へと走り出す。
当然、外に出ると直ぐにまたブラックハウンドが駆けつけ、何処かに居るパドロック種による封印も行われる。
だが、その上で走り続け、次の部屋を見つけたところで……。
「っ!?」
本日何度目になるかを考えることも煩わしい核南瓜の閃光がフロア全域を覆い、俺は部屋の中へと吹き飛ばされた。




