565:幻想の否定者
「見つけた」
『ブン』
建物は見つけた。
だがここまでにさらにもう一度パドロック種からの封印を受けているため、自然回復で解除されるのは当分先になるだろう。
しかし、特殊弾が使えない封印状態のまま探索を続けるのは、ブラックパンプキンの核南瓜もあって極めてリスクが高い。
だから、ブラックハウンドに襲われるリスクはあるが、封印状態が治るまでは建物に潜んでいるしかない。
『ブブ。ですが、敵影です』
「まあ、何とかはなるはずだ」
ただ、建物の中には既に魔物の影が見えている。
赤を主体とした色合いの学者っぽい服装を身に着けた新顔の魔物だ。
それにレッドテントウの姿も見えている。
後、俺の位置からは見えていないが、どうせブラックハウンドは居るだろうし、ミスト種も割り込んでくる可能性は考えておいた方がいい。
まあ、俺としてはブラックパンプキンが居なければそれで……。
『トビィ!』
「いっ!?」
「「「ーーーーー!?」」」
突如として俺の背後から強烈な爆風が襲い掛かってきた。
ブラックパンプキンによる本日六度目の核南瓜だ。
俺のシールドがミリ残りとなった上で部屋の中に吹き飛ばされ、部屋の中にまで及んだ爆発によってレッドテントウたちのシールドもミリ残りとなる。
「ヒールバンテージ起動! サーディンダート! グレネード!」
「「ーーーーー!?」」
だがこのタイミングならピンチであると同時にチャンスでもある。
俺は即座にヒールバンテージを起動してシールドを回復させ始めると、サーディンダートとグレネードによってレッドテントウと学者風の魔物のシールドを割る。
「バウバウ!」
「やっぱり居たか!」
そして、当たり前のように居た電撃属性のブラックハウンドが俺へと飛び掛かってきたので、俺は素早く『昴』を構え、掬い上げるように振り始めて……。
「幻想ナドナイ!」
「っ!?」
『昴』から鱗模様が失われていく。
学者風の魔物がこちらを指さして、何かを叫んでいた。
「ガア……」
このままブラックハウンドに『昴』を叩きつけたらどうなる?
今の『昴』は手にしている感触からしてただの金だ。
この状態で竜命金と戦えるスペックを有するブラックハウンドの毛皮に『昴』の刃が触れたら……良くて通らない。
下手をすれば『昴』が折れる。
だが、俺の体は既に攻撃の体勢に入っていて、押し留めれば致命的な隙をブラックハウンドへ晒すことになるだろう。
「この……」
故に俺は『昴』を即座に体内に収納する事で消す。
そしてブラックハウンドについては……。
「面倒な真似をしてくれる!」
「ギャイン!?」
ヴァンパイアマントの機能の応用で空中を掴み、そこを支点として足を素早く前方へ出し、蹴り上げる。
与えたダメージは極めて微量。
だが、呪鉄・虚無製であるエクソシストレッグによる攻撃ならば、その微量に虚無属性の固定ダメージが乗って、ミリ残りであるシールドを削り取るには十分なダメージにはなる。
「おらぁ!」
「!?」
で、そこから普通に殴ってブラックハウンドにはトドメを刺す。
「ティガ。あの学者は?」
『ブーン。名称はレッドスカラー。金に変質した『昴』ですが、少しずつ竜命金に戻っているようです』
「スカラー……なるほど、学者か」
「マナ……ベギョ!?」
これで残る魔物はレッドテントウと、学者風の見た目をした魔物……レッドスカラーだけになったので、俺はレッドスカラーの懐から出したピストルによる攻撃を避けると、そのまま接近して殴り倒す。
レッドテントウもまた同様。
≪生物系マテリアル:肉・電撃を1個回収しました≫
≪生物系マテリアル:甲殻・時空を1個回収しました≫
≪白紙の設計図を回収しました≫
「学者だから幻想を否定して、実在のマテリアルに変化させるところか? 属性とかどうなんだとか言いたくなるな」
『ブン。確かにそうですね』
報酬が入ってくる。
これでインベントリが47/48。
あと一枠か。
『ところでトビィ。白紙の設計図が手に入ったようですが』
「白紙の設計図なぁ……。第五坑道・ネラカーンの攻略に使うなら……ニンジャレッグに特殊弾『首刈り一閃』でも乗せられるようにして見るか?」
『ブーン、持ち帰るという選択肢もあるのでは?』
「まあ、そっちの方がメインではある。だが、今この場で考えるなら、今回の攻略中にどう使うかだけ考えれば十分だ」
封印の状態異常は……まだ回復しないな。
だから部屋の中で待つしかない。
そんな部屋の中にブラックハウンドが湧いてくる様子も無し。
で、部屋の外から追いかけてきている魔物の姿は無し。
部屋の外に居る魔物については、最低でもパドロック種が一体、それと核南瓜の間隔的に今のフロア9にはブラックパンプキンが最低二体居る事にはなるか。
正直、ブラックパンプキンが湧き過ぎではないかと思ってくるのだが……そこら辺は俺の運だからな……諦めるしかないか。
「しかし、フロア9の殺意が高い。『昴』が折れても即死するわけじゃないが、火力が大きく落ちて、結果的に詰むところだったぞ」
『ブン。それはそうですね』
『昴』は……竜命金製に戻ったようだ。
どうやらスカラー種の能力は回避が難しく、一瞬で全体が変質する代わりに、コカトリスやバジリスクの変質と違って一時的なものであるようだ。
「何処かに外を移動しなくても済むような隠し通路でも……ん?」
と、封印の状態異常の回復待ちを兼ねて部屋の中を歩き回っていた俺は気づく。
足裏に何か違和感がある事に。
「んんん?」
『トビィ?』
そして、手で床を叩いて見て分かった。
この床の下には人が入れるだけの空間があって、しかも床には動く仕組みもあって、扉のようになっているようだ。
「えーと……これか」
『!?』
で、疑問を持って調べれば、床の扉から配線が伸び、壁の模様に隠されるようにボタンが付いているのが分かったので押してみる。
『ブブ。隠し通路ですか』
「みたいだな。本当にこのフロア9は激動だ……」
ボタンを押すと、ゆっくりかつ静かに床の一部がスライドし、その下に隠されていた階段が露わになった。
どうやら隠し通路のようだ。
「さて、折角だから向かうか」
『ブン。そうですね』
まだ封印の状態異常は回復していない。
俺は慎重に階段を下りて行った。
06/09誤字訂正




