564:ブラックミスト
「おらぁ!」
「ギャイン!?」
「バウバウッ!」
とりあえず倒すのはブラックハウンドたちだ。
新顔であるブラックミストは基本的なスペックも特殊能力も分かっておらず、倒すのにどれほどの時間がかかるかも分からない。
対してブラックハウンドは今の俺なら倒すのにそこまで苦労しないし、放置すると他の魔物を呼び寄せる可能性がある。
そういう理屈でもって俺は火炎属性のブラックハウンドを『昴』で斬り、拳で殴り、『昴』を撃ち込みとやって、一気に打ち倒す。
「ミスキィ……」
「おっと」
当然そうやってブラックハウンドに注視すると、ブラックミストが攻撃を仕掛けてくる。
氷の塊と魔力の塊を散弾のように放ってきて、俺はそれを大きく跳ぶことによって回避する。
だが、回避した先にも更に放ってきて、中々に鬱陶しい。
しかし、ここで一撃で打ち倒すのではなく、確実にこちらのシールドを削り取る事を目的としているような攻撃を撃ってくるとなると……増援が来るのを予想しているのかもしれないな。
ちなみにブラックミストの攻撃は射出系の攻撃ではあるが、速度がそれほどではないためか、認識加速が発動しない。
そういう意味でも鬱陶しい攻撃だな。
「バウバッ……ギャイン!?」
「おっと、ちょうどいい」
「キキキ」
まあ、認識加速は利用できなくても、攻撃は利用出来る。
俺はブラックミストが攻撃を放った直後にブラックハウンドが飛び掛かってきたので、ブラックハウンドの懐に素早く移動し、その腹にタックルを仕掛け、ブラックミストの攻撃を防ぐ盾になるように弾く。
結果、ブラックミストの攻撃が多段ヒットしたブラックハウンドのシールドは一気に削れた。
「おらぁ!」
「ギャイン!?」
「キキミス……」
なので、ブラックハウンドの背後に居るブラックミストを巻き込むように『昴』を二閃。
ブラックハウンドを始末しつつ、ブラックミストにもダメージを与える。
「……。なるほど、厄介と言うよりは鬱陶しいだな、やっぱり」
『ブブ。どういう意味でしょうか……』
「キキキキキ」
これで二体のブラックハウンドは始末し、残るはブラックミスト一体のみ。
だが、今の『昴』での攻撃の際に得た手応えから、幾つか読み取れることがあった。
「ミスキィ!」
「ミスト種はゴースト種と同様に物理属性無効で、それ以外の属性を使わないとダメージを与えられない」
『ブン』
ブラックミストが攻撃を放ってくる。
だが、前衛であるブラックハウンドが居なくなったためだろうか。
先ほどまで使っていた散弾の密度は下げて、代わりに大型かつ刃型の氷の塊を回り込ませるように飛ばしてきたり、時空属性の魔力を帯状に展開して漂わせると言った、周囲を気にしなくて済む分だけ厄介な能力の使い方をしてきている。
なので俺はサーディンダートで牽制しつつ距離を取り、氷の塊は『昴』で斬って弾く。
「で、理屈は分からないが、接触するとシールドと燃料を奪われるらしい。しかも奪った分だけブラックミストのシールドは回復する」
『ブブ!? でも確かに自然回復では説明がつかない速さで回復していますね。燃料も少しですが減りが多いです』
「キキキキキ」
しかし、ブラックミストの鬱陶しいところは多彩な攻撃手段と物理無効化じゃない。
理屈不明の、触れたらシールドと燃料を吸われて回復するという吸収能力。
それに霧の体であるからこその、壁はすり抜けられなくても隙間ならば幾らでも通り抜けられるという追跡能力の高さ。
こっちの方だ。
それでいてゴースト種のように脆かったりしないので、本当に鬱陶しい。
「たぶん、一番効くのは特殊弾『焼夷ガス発生』なんだろうが……流石に一対一では使ってられないな」
「キキミスゥ」
俺は『昴』を投げつけ、グレネードを爆発させ、サーディンダートを投擲し、虚無属性の効きを確かめるべく蹴りも入れる。
結果はどれも似たり寄ったり。
物理属性が効かない分だけ地味に耐久が高い。
だが、ブラックミストの方にも、もう新たな攻撃手段はないのだろう。
氷の塊の形を変えたり、時空属性の魔力で俺を弾いて距離を取ったりはしようとするが、全く新たな攻撃手段を取るような様子は見られない。
また、基本的な思考が遠距離よりなのか、吸収能力を積極的に活用するような動きも見られない。
となれば、戦闘の結果がどうなるかは明らかだった。
「キキィ……」
「よし、戦闘終了」
『ブーン。地味に消耗が進みましたね』
消耗と時間の経過はあっても、こちらの勝ちは揺るがない。
≪生物系マテリアル:肉・火炎を1個回収しました≫
≪生物系マテリアル:皮を1個回収しました≫
≪幻想系マテリアル:エーテル・時空を1個回収しました≫
『あ、トビィ。これで45枠です』
「いよいよもってインベントリがヤバいな……」
と言うわけで無事に勝利である。
で、敵の追加は……無し。
巨大隕石対処のために閉じられた扉も既に開いている。
何処かからか核南瓜の爆発が迫っているような事も無し。
変化と言える変化は、流星雨が降ってくる方向が変わったぐらいのようだ。
「ブラックミストが最初は削り優先で動いていたのが気になるが、まあ、気にし過ぎて動けない方がもっと拙いし、とっとと探索を再開するか」
『ブン。そうですね』
俺は塔の外に出て、周囲を一度見渡して直ぐ近くには敵が居ないのを確認。
その上で、まだ探索していない建築物の方へと足を向ける。
「ロック」
「げぇ!?」
『ブブ。パドロックの能力のようです……』
直後、俺の体を貫くように南京錠のロックがかかるエフェクトが発生。
封印の状態異常が与えられ、特殊弾が使えなくなった。
しかし、封印の状態異常をかけた魔物……パドロック種の姿は近くにはない。
これは……この露天のどこかにパドロック種が居て、部屋全域を対象に能力を使われたとかだろうか。
高ランクの魔物ならば普通にありそうなところだ。
「逃げるぞ。この状態で核南瓜が来たら拙い」
『ブン。そうですね』
だが近くに居ない以上、パドロック種を倒して、重ね掛けによる延長を防ぐことは出来ない。
俺に出来るのは、次の建物に向かって移動する事だけだった。




