561:ブラックパンプキン
『ブブ。トビィ、特殊弾『影渡り』を使っても移動先はありませんよ。ですので、ペナルティを受ける事なります』
「分かってる。だがそれでも元の空間に今居るよりはマシだ」
パンプキン種。
見た目は空飛ぶカボチャであり、実の部分の色がランクに応じて変化する。
戦闘能力は魔物全体で見ても高い部類に入り、単純な身体能力の高さもさることながら。
特殊能力としてランクに関わりなく、物理属性攻撃のほぼ無効化、蔓で出来た伸縮自在の両手による攻撃、口から放つ属性に応じた広範囲ブレス、カボチャ型の爆弾による攻撃と、多種多様な能力を持ち合わせている。
よって、分類上やステータスは確かに植物系の魔物だが、厄介さで言えば竜系の魔物と大差なく、出来る事なら戦いたい相手ではない。
それがパンプキン種に対する一般的な評価である。
『ブーン。影に潜る直前に見えた爆発ですか?』
「ああそうだ。アレを多段で受けるくらいなら、特殊弾『影渡り』のペナルティを受けた方がまだ生き残れる目がある」
さて、そんなパンプキン種はランクが上がっても身体能力が上がるだけなのだろうか?
他の多くの魔物のように新たな能力に目覚める事は無いのだろうか?
答えはNO。
パンプキン種も黒のランクになれば、新たな能力が追加される。
『それほどですか』
「それほどだ。と言うか、多段ヒットしたら確定即死攻撃だって聞いてる」
『ブブ……』
ブラックパンプキンになる事で追加される新たな能力のプレイヤー間での通称は『核南瓜』。
見た目はパンプキン種が普段使うカボチャ型の爆弾を二回りほど大きくしたもの。
ブラックパンプキン一体につき一回しか使えない特殊能力。
その効果範囲は露天であればフロア全域に及び、坑道でも爆発が通路を伝って数部屋に及ぶほどに広い無差別攻撃。
なんなら、フェイクウォールやビーバー種が作った簡易の壁もぶち抜いて広がる事もある。
効果も単純なダメージではなく、シールドが一定量以上ならばシールドをミリ残りに、一定量未満ならばシールドを強制的に剥がし、シールドなしでそのまま受けたならば掠っただけでも即死させると言う凶悪なものであり、そういう効果である以上は三発以上一度受ければ問答無用の即死攻撃になる。
しかも、この一定量と言うのは特殊弾『シールド発生』で言えば、鋼製のシールドが満タンなぐらいだそうなので、瞬時かつ簡単に上回れるラインでもない。
「そして現に少なくとも三発以上は放たれていたからな……逃げて正解だった」
『ブーン。そうですね』
そして、こんな能力を持つくせにブラックパンプキンは分類上は雑魚の魔物なので……普通に複数体出現する。
その結果が特殊弾『影渡り』を使う直前に見えていた、ハプニングによる細かな流星雨を掻き消すような大爆発である。
「さて、出来れば四体以上ブラックパンプキンが居て、そいつらが全員一斉に核南瓜を撃ってくれていれば助かるんだけどな……」
『ブーン……そう言えば無差別でしたか』
「ああ、無差別だ」
なお、核南瓜による攻撃は放った自身以外には無差別に効果を発揮する。
そして、核南瓜の爆発が広がる速さは音速の数倍ではあっても、光速ではないので、限界と言うものがある。
なので、四体のブラックパンプキンが同時に核南瓜を行使してくれていれば、爆発が届く範囲に居た魔物はブラップパンプキン自身も吹っ飛ぶことになる。
そうなってくれれば、とても楽であるし、元の空間に戻った時に楽でもあるのだが……流石に期待はしないでおくか。
「時間切れか」
『ブン。三秒間の移動不能です』
「周囲に敵影無し、細かい流星群が当たるような位置でもないなら、大した問題にはならないな」
ここで特殊弾『影渡り』で転移先を選ぶための猶予時間が終了。
俺の体は特殊弾『影渡り』を発動させた場所に引き戻されると同時に、三秒間の移動不能状態になって、その場から動けなくなる。
「ふむ……」
動けないのであれば、と言う事でだ。
俺は折角なので、自分が今居る小部屋をよく見てみる。
出入口は一つだけ、窓の類は無し、地下に繋がる階段のようなものも無し。
その他、荷物の類も無いし、爆発によって壊れたものもない。
どうやら最初の特大隕石のような攻撃から逃れるためだけにある部屋であるらしい。
「しかし今更なんだが、今回のフロア9は何なんだ? 宇宙空間にある何かっぽいとは思っているんだが、それ以上の情報がない」
『ブーン。こちらにも情報はありませんね』
ペナルティが終わったので動けるようになった。
なので俺は部屋の外の様子を窺う。
「流星雨は変わらず。来る方向がだいたい決まっているようだから、向きを考えれば対処は出来そうか」
直径十数センチから1メートル程度の隕石が部屋の外では降り注いでいる。
だが、その量は部屋の外で活動できない程ではない。
定期的に注意を払って回避行動を取る必要はあるだろうが、余裕がある状態なら当たる事はまずないだろう。
なお、着弾した隕石は粉々に砕け散って、速やかに消滅していっている。
『ブーン。魔物の姿はありませんね』
「まあ、最低でも三発の核南瓜が放たれていそうだったからな。外に居た魔物は全滅でいいだろ」
敵影はなし。
と言うわけで、俺は小部屋の外に出るとフロア9の探索を始める。
『ところでトビィ。その核南瓜ですが、マテリアルタワーへの影響は?』
「もちろんある。だから、このフロアでの補給はもう絶望的と思っていいだろうな。まあ、そうでなくとも新しいブラックパンプキンが湧く可能性を考えたら、一秒でも早く次のフロアに向かいたいところだが」
『ブン。なるほど』
俺は流星雨を避けつつ、手近な建物の中身を窺い始めた。
ちなみにですが、ブラックパンプキンの能力には元ネタがあります。
商人の方の黄金スライムが撃つ奴です。
そして、元ネタの方が恐らく凶悪です。




