560:宙にありしフロア9
「さてフロア9だな」
『ブン。時空属性の坑道です』
エレベーターが降下していき、エレベーターを囲う檻の隙間から次のフロアが見えてくる。
「なんか星空が見えるな」
『ブン。見えてますね』
それで見えたのが星空なのはまあいいのだが……月っぽい物とか、宇宙空間から見える地球っぽい物とかも見えている。
なんだか非常に嫌な予感がしてきた。
魔物ではなくギミックとかハプニング的な意味で。
「到着っと」
まあ、それはそれとしてエレベーターがフロア9に到着し、檻が消える。
周囲は……地面は白色の硬質な板で、壁や天井の類はある程度離れた場所に地面と同じ材質で出来ているらしい塔や建物が見えているくらい。
で、その塔や建物には根元に出入り口と思しき扉が付いている。
つまり、区分上は半露天だが、露天部分のが圧倒的に多い半露天のようだ。
そして、そんな白色の大地は少なく見積もってもキロメートル単位で伸びていて、少なくとも見える範囲には敵影はない。
何と言うか……超巨大なスペースシャトルやスペースコロニーの宇宙空間に接している側の表面に立っているようにも思える。
体の感覚からして重力はきちんとあるようなので、飛んだり跳ねたりしても問題はなさそうだが。
≪星々が降り注ぎ、大地にあるものを破壊しつくす≫
「はい?」
『ブーン。未知のハプニングですね』
と、ここでハプニングの通知。
ハプニングが発生するのは予定通りなので問題ないが、その内容がなんだか不穏と言うか、最初に星空が見えた時に感じた嫌な予感と相まって、この後の展開が非常に拙いものになりそうな気がしてならない。
「……。ティガ。あれは何だと思う?」
『ブーン……小隕石の類でしょうか……』
そして、そんな俺の予想が正しい事を示すように、この大地に向かって遠くの方、宇宙の彼方としか言いようがない方向から、何かが飛んできている。
その何かはものすごい速さで飛んでいるのだろう。
気づいた時には点のようにしか見えなかったはずなのに、今は既にはっきりと岩だと判断できる大きさになっている。
だが、岩そのものの大きさは分からない。
比較対象になる物が周囲に無いので、大きさの推測が出来ないのだ。
ただ……その……うん……少なくともメートル単位で表せるサイズなのは間違いないと思う。
だいぶ近づいてきたので、少なくとも俺より大きいのは理解できたし。
「退避ッ!」
『ブン! 急いでください! トビィ!!』
俺は全力で手近な建物に向かって駆ける。
二重推進どころかグレネードの爆発も利用した本気の移動である。
そうしている間にも隕石はこちらに接近してきていて、高さ数メートルは間違いなくある塔よりも大きく見えるようになってきている。
「ちくしょう! このフロアがどういうところなのか何となく想像がついたぞこの野郎!!」
隕石衝突の際の諸々が内部に入り込まないようにするためなのだろう。
俺が目指す建物の扉はけたたましいアラームと共に少しずつ閉まっていく。
だが間に合う。
このままのスピードで駆ければギリギリ建物の中に……。
「ヒュロ」
「っ!?」
そう思った瞬間に見えたのは、表皮が真っ黒なカボチャを頭にした魔物、ブラックパンプキンが扉の向こうで待ち構えている姿だった。
その姿を捉えた瞬間。
俺の脳裏には幾つもの情報と計算が思い浮かび、どうするのかが最適であるかと言う思考が巡った。
建物に入ってはいけない。
入れば、あの小さな建物の中で、最低でもブラックパンプキン一体と戦闘をする事になる。
それも相手が既にこちらを認識し、万全に身構えているという状況からのスタートだ。
勝てても被害は確実に大きくなる。
このまま建物の外に居てもいけない。
直径十数メートルの隕石が着弾するのだ。
その衝撃波と熱は余波であっても耐えられるようなものではない。
なんなら、坑道の床や壁だって、基本的には破壊不可能の性質がなかったならば、粉々に吹き飛ばされるに違いない。
ではどうするのが正解か?
俺が導き出した答えはこうだ。
「ピクトステッカー一枚、そして特殊弾『ダメコン・集中』!」
俺は足元にピクトステッカーを一枚貼った上で特殊弾『ダメコン・集中』を発動した。
「ヒュロロロ~」
建物の扉が閉まる。
ブラックパンプキンとその背後にレッドテントウ、それから見慣れぬ古代の学者のような風体の男の姿を見せながら。
『ブブッ!?』
どうしてか真っ赤な炎を纏っている隕石が、俺から多少離れた場所の地面に着弾する。
「!?」
閃光、衝撃、熱、振動。
ヴァンパイアマントの効果を切っていてもなお体が浮かび上がって吹き飛ばされ、数十回転を経てから地面に着き、地面が激しく揺さぶられる中、そこから更に転がされる。
「死ぬかと思った」
が、俺のシールドは一切削れていない。
特殊弾『ダメコン・集中』の効果によって、受けた全てのダメージはたった一枚のピクトステッカーに押し付けたからだ。
どうやら上手く行ったらしい。
『ブブ、トビィ。悪い知らせと良い知らせがあります』
「なんだ? 手短に頼む」
『悪い知らせは、最初の隕石に比べれば極めて小さいですが、雨のように隕石が降り注いできています。良い知らせは、今回のフロアに起きているハプニングの名称が流星雨のハプニングと名付けられました』
俺は立ち上がって宙を見る。
そこにはティガの言うとおり、今さっきのものに比べればだいぶ小さいが、幾つもの隕石がこちらに向かってきている光景が広がっていた。
「なるほど。生かす気ないな」
『ブン。そうですね』
俺は流星雨が降り注ぐ中、隕石が当たらない事を祈りつつ、巨大隕石をやり過ごしたことで再び開かれたらしい建物の扉に向かって駆けて行く。
そうして、俺が魔物の居ない建物の中に入り、事前情報からそれが来ると知っていたので特殊弾『影渡り』を使おうとした瞬間だった。
流星雨を掻き消すような、先の隕石にも決して劣らないような爆発が幾つも同時に起こった。




