551:混沌のドロップ
「コオオォォォン!」
「っ!?」
戦闘開始と同時にレッドフォックスが鬼火を放つ。
ただし、橙までの火球型ではなく、全方位に幕を広げていくような形、基本的には回避が不可能な方法でだ。
そのため、俺も普通に巻き込まれ……少しだけシールドが削れる。
「こう言うのがあるから、赤以降の魔物は危険性が高いんだよ……なっ!」
「コーン!?」
が、それだけだ。
本来ならばフォックス種の鬼火には命中した相手に混乱と言うゴーレムの操作能力を奪い取る状態異常が含まれている。
だが、今の俺はアドオン『混乱無効』を付けているため、回避不可能になった代わりにダメージ量が大きく減ったレッドフォックスの特殊能力を実質的に無効化出来ているのである。
そして、レッドフォックスの能力が決まってから攻め込もうとしていたハウンドたちとスカーレットウルフを尻目に、二重推進でレッドフォックスに接近、殴りかかったのが現状である。
「ま、面倒だからとっとと仕留める事には違いないが」
「コ……コーン!?」
と言うわけで殴り、『昴』を射出し、吹き飛んだレッドフォックスに追撃で殴って、一気に仕留める。
やはり『昴』が竜命金・浸食218個製であり、右腕のヴァンパイアアームRが玉鋼・電撃製であるおかげで火力はフロア8以降でも十分に戦えるレベルになっているようだ。
「「「バウバウッ!」」」
「グルアッ!」
と、ここで様子見をしていたために反応が遅れていたハウンドたちが駆け寄ってくる。
ちなみにこいつらはレッドフォックスの初撃を受けていないが、見た感じだとレッドフォックスが巧みに鬼火を操る事ですり抜けさせていた感じだったので、こいつらの情報はまだ何もないも同然である。
第一坑道で出てくるようなハウンド種と言えど油断は禁物だろう。
「「「ガウッ!」」」
「ガアアァァッ!」
「っ、ほっ、これは……コア『ニンジャ』の影響だな。身のこなしがかなり良くなってる」
ハウンドたちは同時に、スカーレットウルフは一瞬遅れて俺に飛び掛かってくる。
どうやらハウンドたちが足止めをし、ハウンドよりもガタイが良く、攻撃力が高そうなスカーレットウルフが仕留めると言う動きをするつもりのようだ。
対する俺はハウンドたちの飛び掛かりは紙一重で避け、いなし、スカーレットウルフに至っては頭を掴みながら飛び越えて、簡単に避け切る。
これまでよりも動きをアクロバティックにした上で、滑らかになっている感じがするのは、コアを『ニンジャ』に変えた影響だろう。
「ガウッ!」
「バウッ!」
「バウバウッ!」
「グルアッ!」
「よっ、ふむ、反応速度も……上々、本当にいい感じだな」
ハウンドたちはさらに連続で、より避けづらく、俺の動きを止められるように牙を剥いてくる。
だがその悉くを俺は難なく避け切っていく。
ブラックハウンドとレッドハウンドには素早さ強化が入っているように見えるが、その二体の牙と爪すらも今の俺には当たらない。
本当に回避能力が大幅に向上していると感じる。
では攻撃能力は?
「ふんっ!」
「ギャウ!?」
ハウンドたちが攻撃を終え、スカーレットウルフが追撃を仕掛けてくる瞬間。
俺はスカーレットウルフにカウンターの拳を決める。
その拳は今までよりも速く、鋭く、深く入り、スカーレットウルフのシールドゲージを削りつつ、その動きを完全に空中で縫い留める。
なるほど、これもコア『ニンジャ』に変えた影響だな。
これまでよりも踏み込みが速く、深く、正確になって、その上で拳による攻撃にプラスの補正が入っているように感じる。
「吹っ飛べ」
「!?」
当然、スカーレットウルフには追撃の『昴』射出を決める。
で、トドメとして左手でオニキス・電撃製のサーディンダートを投げるが、こちらもまたこれよりも正確で、速く飛び、まだ吹き飛ぶ途中で空中に居たスカーレットウルフの頭を射抜いてトドメを刺す。
これで残すはハウンドたちのみ。
「「「バウバウバウ!」」」
「うーん、コア『ニンジャ』と俺の相性が良すぎて怖いレベルになってるな」
『ブン。本当ですね』
ハウンドたちは三体協力して攻めかかってくる。
だが、これまでも余裕で対処出来ていたものに、理由なくいきなり対処できなくなる事は無い。
俺は普通にハウンドたちの攻撃を避け、すれ違いざまにカウンターを決め、シールドを剥がした個体から順当に打ち倒していく。
流石にブラックハウンドは多少耐久が高めではあるが、それ以外に特筆する点もない。
「クゥーン……」
「よし戦闘終了」
と言うわけで、武装が十分である事、坑道内での一時強化も十分な事、コア『ニンジャ』と俺との相性の良さが合わさった事で、回避不可能攻撃以外は受けていない、完全勝利と言ってもいい結果で戦闘は終わった。
≪生物系マテリアル:肉・浸食を1個回収しました≫
≪生物系マテリアル:骨・浸食を1個回収しました≫
≪生物系マテリアル:肉・拒絶を1個回収しました≫
≪生物系マテリアル:皮・電撃を1個回収しました≫
≪生物系マテリアル:骨を1個回収しました≫
「おいこらちょっと待て」
『ブ、ブーン……これは……まさか……!?』
問題は戦闘終了後だった。
今俺が戦った相手は火炎属性のレッドハウンド、氷結属性のブラックハウンド、電撃属性のスカーレットハウンド、侵食属性のスカーレットウルフ、時空属性のレッドフォックスだった。
侵食属性は一体だけで、拒絶属性と物理属性は居なかった。
なのに手に入ったマテリアルの属性には侵食属性が二つあるし、拒絶属性と物理属性が含まれていて、火炎属性、氷結属性、時空属性は含まれていない。
それはつまりだ。
「魔物と魔物からの回収物の属性は別物って、嫌がらせ度がそれだけでも上がるんだが?」
『ブーン。どれを倒しても手に入る可能性があると前向きに捉えるしかありませんね……』
混沌属性のハプニングの影響下では、魔物から特定の属性のマテリアルを狙って手に入れることは不可能と言う事だった。




