547:トーチカ攻略・擬態
「まずは……」
レッドミミックとレッドマンティスの鎌が横薙ぎの形で、高さを変えて俺へと迫ってくる。
片方は地面すれすれで、もう片方は安易に跳んだら絶対に当たるであろう高さ、そして、二つの鎌の間は俺の体を捻じ込ませるほどの隙間はないのが実に嫌らしい。
そして、赤の魔物の一撃である以上、マトモに喰らえばタダでは済まないだろう。
「『首刈り一閃』」
「マ……!?」
だが、これらの攻撃はイエローアップルたちの能力によって俺の体の重量が増え、自由に身動きが出来ない前提の攻撃。
しかし、現実には特殊弾『煙幕発生』の効果によってイエローアップルの能力は不発に終わってる。
だから俺はヴァンパイアマントを起動した上で跳躍し、俺の体に攻撃が届くよりもはるかに早くレッドマンティスの首を『首刈り一閃』を乗せた『昴』によって切断、首を刎ねる。
「ーーーーー!?」
「直ぐには消えないか。流石は昆虫」
首を刎ねられたレッドマンティスは昆虫と言う生物種特有の身体構造のおかげだろうか。
力尽きたと言う判定にならずに、首から上がないままに暴れ回り、鎌を振り回している。
しかし、刎ねられた首から色々と噴き出しているらしく、シールドゲージがものすごい勢いで減っているので、そう時間はかからずに力尽きる事だろう。
となれば、マンティス種には死後にハリガネムシを召喚する能力を持っている疑惑もある事だし、攻撃に巻き込まれないように距離を取って放置するのが正解だろう。
「ミミミッ!」
「おっと、こっちは……強いな。赤の1ランク上なら緋色なんだが、明らかに黒相当になってる」
『ブブ。それは厄介ですね』
だから俺はレッドミミックの鎌による攻撃を『昴』で受け止めつつ移動していく。
しかしここで想定外が一つ。
ミミック種は見た目を模倣するだけで、模倣先の魔物の特殊能力は使わない。
その代わりに基本的なスペックが上がっているという魔物なのだが……上がっているスペックが1ランク分ではなく、2ランク分になっているように感じる。
そのくらいには攻撃が重いし、体を構成しているマテリアルも金ではなく竜命金になっているように思える。
「ミミック、ミックゥ!」
「うーん、黄金律のハプニングが悪さをしたか?」
『ブン。そうかもしれませんね』
考えられる原因としては黄金律のハプニングによって構成マテリアルが変化した結果、緋色相当の隕鉄ではなく黒相当の竜命金になったというところだが……ミミックの能力自体がランクアップに伴って強化された可能性もあるか?
まあ、どちらにせよ、模倣先の特殊能力を使ってこないのは変わらずなので、対処は出来る。
「まあいい。ミミックよりもこっちがさっきだ」
「ミ!?」
俺は二重推進でレッドミミックから距離を取ると、そのまま煙幕の中に突っ込む。
「おらあっ!」
「「アップアッ!?」」
そして、手元に戻した『昴』をしっかりと握ると、突っ込んだ勢いのまま横回転。
煙幕の中で何も出来ないでいた二体のイエローアップルを切り裂く。
今の『昴』は竜命金・浸食208個製。
そのスペックは虹の魔物が使うマテリアルをも上回る。
そんな武装による連続攻撃に黄色のランクでしかないイエローアップルが耐えられるはずもない。
二体のイエローアップルは一瞬にして消し炭になった。
「ーーー……」
「レッドマンティスも落ちたか」
『ブブ。時間差があるかもしれませんので、注意はお願いします』
「言われなくても」
煙幕が晴れる。
と同時に、レッドマンティスが倒れ、その姿が消える。
どうやら減り続けていたシールドゲージが底をついたようだ。
「ミミミ」
「さて、これでとりあえずは一対一だな」
これで残すは鎌持ちスケルトンと言う独特な姿のレッドミミック一体のみ。
俺は『昴』を持ち直し、しっかりと構え直す。
対するレッドミミックもしっかりと鎌を握り、構える。
「ミーミック!」
「よ、ほっ、やっぱり鎌の相手は面倒くさいな……」
俺とレッドミミックは同時に距離を詰めると、ある程度詰まったところで共に武装を振るい、打ち合う。
武装のスペックで言えばこちらの方が確実に上。
だが、レッドミミックは適切に鎌を振るう事で、その刃先を俺の『昴』に当てることで、ランク差を詰めるのに十分な衝撃を与えてくる。
二度三度と打ち合っても、レッドミミックは的確に打ち返してくる。
ならばと多少無理やりに距離を詰めれば、足さばきと持ち位置の調整をする事で攻撃を凌ぎ、適切な距離を取るための時間を稼ぎ、元の状態に戻してくる。
部屋内にある茨のバリケードを利用しようとしても、相手もそれは把握しているので、引っかかるような事は無い。
「遠距離は……駄目か」
「ミミミッ!」
『ブブ。強いですね』
ならばと距離を開け、サーディンダートに二種のグレネードを投入してみるが、スケルトン種を模倣しているからなのか、普通の魔物よりも軽快な動きでもって効果範囲から難なく逃れ、平然と距離を詰めてくる。
中には掠り程度はするものもあるが……駄目だな。
鉄・火炎、オニキス・電撃では牽制以上の役割は果たせなさそうだ。
「仕方がない」
「ミミミッ!」
だから俺は一計を案じた。
バリケードを挟むように立ち位置を調整して、レッドミミックの鎌によって『昴』を上へと弾かせた。
すると当然のようにレッドミミックは俺への追撃をするべく、鎌の刃の向きを変え、振り下ろそうとする。
茨のバリケードの陰に隠れても逃れられず、横に跳んで避けても刃の向きを変える事で追撃も可能。
そういう動きを、俺の予想通りにレッドミミックはしてくれた。
「特殊弾『影渡り』」
なので俺は特殊弾『影渡り』によって自身の足元の影に入る。
「からの……」
「!?」
そして、即座に飛んだ先はまだ宙にある『昴』が生み出している影。
その影は『昴』がほぼ真上に弾かれた都合上、レッドミミックのすぐ後ろにまで及んでいた。
つまり、俺は鎌を振り下ろした直後のレッドミミックの背後に肉薄する形で現れた。
「『昴』!」
「!?」
故に俺は全力で掌底を叩き込み、手元に戻した『昴』を撃ち込み、茨のバリケード……より正確に述べれば竜命金で出来た茨のバリケードへとレッドミミックの体を叩き込み……埋める。
「もう終わりだな」
「ミミックウゥ!?」
こうなればもうレッドミミックに勝ち目はない。
俺が攻撃をする度に、自分が体を動かす度に、体に絡みついている竜命金製の茨のバリケードによって全身を切り刻まれ、碌に行動できないままにシールドゲージを失い、そのまま全身を打ち砕かれるだけだ。
≪生物系マテリアル:木・浸食を2個回収しました≫
≪生物系マテリアル:甲殻・浸食を1個回収しました≫
≪幻想系マテリアル:竜命金・浸食を10個回収しました≫
≪設計図:特殊弾『黄金障壁』を回収しました≫
「ふぅ、何とか終わったな」
『ブン。終わりましたね』
そうして俺の予想通りにレッドミミックは力尽き、戦闘は無事に終了した。




