545:トーチカ攻略・針金
「「「メエェーベエェー!」」」
「ふんっ! せいっ! おらぁ!」
突っ込んでくるイエローシープを『昴』で斬って浮かせてから、剣の腹で叩いて吹き飛ばす。
そして、その隙を突くように続けて突っ込んできたオレンジシープは蹴り上げ、レッドシープは一歩引いて攻撃を空振らせてから殴り、『昴』射出でシールドを剥がす。
こんな動きを続けることで、俺はレッドハリガネムシを警戒しつつも、出来るだけ被弾を避けつつ魔物のシールドと数を削っていく。
『ブブ。レッドハリガネムシは何処に……』
「寄生、別ルート、物陰。元が寄生虫である事とあの細さなら何処にでも潜めるだろうさ」
そうやって削りつつ俺はレッドハリガネムシの姿を探すが、何処にもその姿は見当たらない。
レッドハリガネムシが今何処に居るかは……他の魔物に寄生しているか、一度弾き返したところでトーチカの部屋経由で別の場所に向かうように動き始めたか、今回のフロアに多い茨などの装飾に身を潜めつつ動いているか……まあ、何処に居てもおかしくないと言うのが実情だろう。
だから俺は定期的に背後を振り返り、背中側から迫っている何かが居ないのを確認しているくらいなのだから。
「ナアアァァグウウゥゥ……」
「不思議な曲がり方をしてる……」
『ブン。そうですね……』
と、ここで、焼夷ガスが無くなった曲がり角にレッドナグルファルが現れる。
スペース的にはどう考えても無理があると思うのだが、ドリフトするように曲がり角に現れて、今はきちんと舳先をこちらに向けている状態だ。
死者の船だから案外体が柔らかいのか、フロアの壁に引っかかる部分だけ霊体になるような処理があるのか、フロアの側が何か忖度しているのか……とにかく、細かい部分については理解しがたい光景だ。
「ファイル!」
それはそれとしてレッドナグルファルが黄金の砲弾をこちらに向かって放つ。
「メエエェェーベエエェェー!」
レッドナグルファルの砲撃に合わせるようにレッドシープも突っ込んでくる。
「認識加速が入るから、敵後方からの援護射撃は実質バフってな」
『ブーン……』
その両方を認識加速に入ってしっかりと認識した俺は、砲撃の軌道上から身を逸らしつつレッドシープを『昴』で切り裂くべく刃をレッドシープの腹に入れ……。
「ハリワー!」
「キモッ!?」
「メギョ!?」
直後、レッドシープの胸部を突き破るように出現したレッドハリガネムシを認識。
金属光沢を持ち、赤のランクに相応しい硬度を有しているであろうレッドハリガネムシの穂先は認識加速が入っている世界でも十分な速さを持って、俺の顔面に迫ってきている。
攻撃を受ければろくでもない事になるのは、寄生されていたレッドシープの姿から明らか。
そして何よりキモイ、とにかくキモイ、気持ち悪い、生理的嫌悪感が凄まじい。
「く……」
そんな圧倒的な拒絶感が俺の対応を速めたのだろうか?
「る……」
俺はゴーレムの各部を人間には物理的に不可能なレベルで回転、あるいは動かすことで、レッドシープにトドメを刺しつつ、レッドハリガネムシの体に『昴』を触れさせる。
「ハ……?」
「な……」
そして、レッドハリガネムシの体を絡め取るように『昴』を高速回転させて、レッドハリガネムシの体を巻き上げ、眼前に迫っていた穂先を引っ込ませる。
「キモイ……」
「リ……?」
そうして長さ5メートル近くありそうなレッドハリガネムシを巻き上げ切ると、そのまま『昴』をバットのように振って、レッドナグルファルが放っていた黄金の砲弾との間で挟み込む。
「寄生虫……」
「ガ……」
だが打ち返すのではない。
打ち返したのではレッドハリガネムシに与えるダメージが足りず、また何処かに潜まれてしまう。
だから俺は『昴』と黄金の砲弾でレッドハリガネムシが潰されていく、その刹那の瞬間を狙って……黄金の砲弾を固定具のようにし、レッドハリガネムシを使い捨ての鞘にするかのようにし、『昴』を全力で引き抜き、斬る!
「がああぁぁっ!」
「ネエエェェ!?」
結果、全力射出でもないのに大量のダメージエフェクトがレッドハリガネムシの全身に生じてシールドは消失。
勢いが全く衰えていない黄金の砲弾にそのまま吹き飛ばされたレッドハリガネムシはトドメを刺されて消失した。
「やっぱり、敵後方からの援護射撃はバフも同然だな」
『ブ、ブーン。それどころではない技巧が発揮されていたような……』
「「「メエエェェーベエエェェー!!」」」
「「ナアアァァグルウウゥゥ……」」
ティガが何か言っているが、レッドハリガネムシは倒せたので、それで問題はない。
レッドナグルファルの後ろにオレンジナグルファルが付いていて、両者の器用な幅寄せによって両方が射線を確保しているとか、まだまだ数が居るシープ種たちが迫っているとかは些細な問題である。
「メェ……」
「よし」
と言うか実際、些細な問題なのだ。
ナグルファルが倒されると怯まないゾンビ、急所を突かないと倒せないスケルトン、壁をすり抜けるゴースト、小回りが利いて空を飛ぶアームズ、取り込まれればタダでは済まないスライム、庇う持ちであるリビングクロス、だいたい爆発するポットの中から複数体ランダムで召喚するが、通路ならばそいつらは基本的に真正面から来るだけ。
シープ種たちも同様。
これならば、先ほどまでと同じように適度に退きながら『昴』で斬って、両手で殴ってで無難に勝利できるのだ。
≪生物系マテリアル:甲殻・浸食を2個回収しました≫
≪生物系マテリアル:肉・浸食を6個回収しました≫
≪生物系マテリアル:皮・浸食を6個回収しました≫
≪生物系マテリアル:骨・浸食を7個回収しました≫
≪生物系マテリアル:木・浸食を1個回収しました≫
≪鉱石系マテリアル:金・浸食を4個回収しました≫
≪幻想系マテリアル:エーテル・浸食を4個回収しました≫
≪設計図:マンティスアームLを回収しました≫
≪設計図:ナグルファルアンカーを回収しました≫
「これで一段落だな」
『ブーン。それはそうですね』
と言うわけで殲滅完了。
報酬が手に入ったことからも分かるように、一段落ついた。
なお、手に入ったマテリアルと設計図の数からして、最終的に30を超える魔物を倒していたらしい。
「さて、残るはトーチカの中に引きこもっている連中だな」
『ブン。そうなりますね』
俺はトーチカの中が窺える通路の角にまで戻ってくる。
ピクトステッカーは既に剥がれてしまったらしく、消えてなくなっている。
さて、トーチカの中に残っているのは、根を張っているのでトーチカから出て来れないアップル種と、どうしてかトーチカから出て来ないタックスマン種だけのはずだが……。
油断せず、慎重に事を進めていくとしよう。




