543:トーチカ攻略・斥候
『ブブ。トビィ、トーチカに挑むのですか?』
「挑む。トーチカで手に入るマテリアルタワーは採掘の為に魔物の殲滅を要求されるが、代わりに普段のマテリアルタワーよりも数が手に入るはずだからな。見えている通りなら、緋炭石、金、竜命金のマテリアルタワーが揃っているし、回収しておきたい」
さて、折角なのでトーチカについては是非とも攻略したい。
得られるものがどう考えても美味しいからだ。
「挑むにあたって問題は……防御面だな。こっちの攻撃力は十分だが、防御が足りていない。特にアップル種の加重状態からタコ殴りにされると厳しいものがある」
『ブン。そうですね』
だがトーチカに突撃することは出来ない。
と言うか、突撃したら十中八九返り討ちに合う。
相手の数と能力を考えたら、流石に捌き切れない。
「後、タックスマン種が複数体居る可能性があるのも問題だな」
『ブーン。タックスマン種の同じ部屋にいる時の燃料消費能力は重複する、でしたか』
「そうそう。下手をしたら、燃料切れで死にかねない」
『ブン。それはあり得ますね』
特に危険なのがタックスマン種か。
此処からでは姿が見えないが、複数体がトーチカ内に居て、燃料消費の増加能力を何重にも重ね掛けされると……燃料消費が二倍三倍と増える事になるかもしれない。
そうなると、攻撃の手も回避の手も緩ませるしかなくなって、詰まされる事になるかもしれない。
『ブーン。ではトビィ。どうするのですか?』
「ま、こうなったら戦い方は実質一択だな」
とりあえず状況確認は出来た。
と言うわけで、俺は近くの壁に保険としてピクトステッカーを貼っておくと、部屋に向かって突撃する。
「ナアァァグウゥゥ」
「おらぁっ!」
通路を駆けていくと、偶々こちらに意識を向けていたらしいレッドナグルファルが茨のバリケードの向こうから大砲を撃ち込んでくる。
が、これは認識加速もあって容易に回避し、そのまま部屋の中に突入。
「「「タタタ」」」
「「「マンティィ……」」」
「「アップアッ」」
「「「メエエェェーベエエェェー」」」
「「ルウウゥゥフウウウゥゥゥアアァァァッ……」」
そして部屋の中を見る。
敵の数は……タックスマン種が各ランク1、マンティス種も各ランク1、レッドアップルにイエローアップル、シープ種は10以上、レッドナグルファルにオレンジナグルファル。
合わせて……最低でも20以上。
マテリアルタワーにレコードボックスが見えたのは今はどうでもいい。
茨のバリケードは金だけでなく竜命金製も少し混ざっているようにも思える。
「ぐっ……」
「「アプルゥ」」
で、既にアップル種による加重能力は加えられていて、俺の体は普段よりかなり重くなっており、とてもではないが飛んだり跳ねたりは出来ないようになっている。
「「「カッマァ!」」」
マンティス種たちは一斉に飛び上がり、鎌を振り上げ、こちらに向かってきている。
対処しなければ、為す術もなく切り刻まれるだろう。
「「「メエエェェーベエエェェー」」」
シープ種たちは俺には効果がないとはまだ理解していないらしく、睡眠状態を与えるための大合唱中。
「「「タタタ」」」
タックスマン種たちはそれぞれが手にした銃器を構えて撃ち始めている。
「「シッシャァ!」」
ナグルファル種たちも位置取りを調整してから、大砲を撃ち始めている。
「爆弾は……」
俺が部屋に突入すると同時に適当に投げたグレネードとフググレネードは……駄目だな。
どうでもいいところに落ちている。
そして、思った以上にアップル種の加重がきつい。
これは保険をかけておいてよかったようだ。
「特殊弾『影渡り』発動」
「「「!?」」」
攻撃が殺到する直前、俺は特殊弾『影渡り』を使用。
自分の足元に発生している影の中に勢いよく落ちる。
「移動先指定」
そして、真っ暗闇の空間の中で、移動可能な先として真っ赤に光る形で表現されている、先ほど張り付けたピクトステッカーを指定。
俺の体はそちらへと移動し、さきほどまで居た通路の陰にまで移動する。
当然、移動先に敵の姿はない。
死地からの脱出成功だ。
「ふぅ。危ない危ない」
『ブン。本当に危なかったですね。ですが、何故こんな事を?』
「そりゃあ決まってる」
で、脱出に成功した俺は直ぐに通路の陰から姿を現す。
すると当然ながら俺を仕留めるべく突っ込んできていたマンティス種たちは俺のことを認識するし、マンティス種たちが認識をしたなら、それにつられて他の魔物たちも俺の位置を把握する。
では、俺の位置を把握した魔物たちは何をする?
決まっている。
「「「ーーーーー!」」」
俺を倒すべく通路に突っ込んでくる。
それが魔物と言うものだ。
「トーチカから釣り出しての各個撃破をするためだ」
『ブン。なるほど』
まあ、トーチカの中でデバフを幾つも喰らいつつ四方八方からタコ殴りにされるのと、通路で敵がやってくる方向を真正面に制限してひたすら殴って斬るのだったら、後者の方が生存できる可能性が高いのは明らかだ。
「さて、逆トーチカで仕留めて行ってやる」
俺はレッドマンティスを先頭にして魔物の群れが通路に突っ込んできているのを認識すると、特殊弾『焼夷ガス発生』込みのフググレネードを足元に転がしつつ、通路の角を戻る。
フググレネードが爆発し、焼夷ガスをまき散らしたのはその直後だった。




