542:羊の群れ
「この部屋は……」
『ブブ。何もないですね』
竜命金・浸食を回収し、オレンジナグルファルたちを倒した俺は探索を再開する。
で、辿り着いた次の部屋は回収物も魔物も無し。
と言うわけでさらに次の部屋へ。
「こっちは金・浸食と緋炭石か。魔物の姿は無し。回収だな」
『ブン』
次の部屋には金・浸食のマテリアルタワーと緋炭石のマテリアルタワーがあった。
どちらも接触制限は3回、30秒。
魔物の姿もないので、全力で攻撃を撃ち込んで回収をする。
≪鉱石系マテリアル:金・浸食を52個回収しました≫
≪特定物質:緋炭石を109個回収しました≫
「来たか。三桁」
『ブン。『昴』が竜命金・浸食製になったおかげですね』
ここで回収出来た緋炭石の数が三桁に到達した。
アドオンや特殊弾の恩恵無しでこれなので、『昴』が竜命金製になった恩恵は思っている以上に大きいようだ。
なお、緋炭石に対して金・浸食の回収出来る量が少ないのは、金のレア度とか希少性辺りで、回収できる量にマイナスの補正がかかっているからだろう。
「この量で回収できるようになったのなら、だいぶ安心できるようになってくるな」
『ブン。そうですね。ただ、特殊弾『ドレイクブレス』を作ろうと思ったなら……』
「まあ、威力を考えれば、マテリアル100個製で作りたいし、それだと緋炭石も100個持っていかれるからな……」
では次の通路へ。
なお、ここまでの二部屋で魔物に遭遇しなかったので、俺の警戒度は高まっている。
アップル種が大量にポップして何処かで待ち構えているなら出会わないのも分かるが、そうでないなら、何処かで魔物たちが集まるなどしている可能性があるからだ。
「メエエェェ……」
「む。シープ種の声……レッドシープあたりか」
『ブン。アドオン『睡眠無効』があるので問題はありませんが、確かに声が聞こえてますね』
と、ここでシープ種の歌声が聞こえてきた。
本来ならば聞き続けたら睡眠状態になる危険な歌声だが、アドオン『睡眠無効』を入れている俺にとっては何処にシープ種が居るのかを教えてくれるビーコンのようなものだ。
で、肝心の声は……俺が向かう通路の先から聞こえてきているな。
そして、そちらの方に近づくにつれて声の数が増えているし、シープ種たちが歩く振動も増えている。
「……。これは通路での戦闘になるな」
『ブン。そうなりそうですね』
周囲を確認。
前の部屋に戻るには少し距離がある。
わき道にそれる通路はない。
ギミックの類は壁に幾らか金の茨が茂っている程度。
つまり逃げ場はない。
「「「メエエェェーベエエェェー」」」
「タタタ」
「うーん、流石に多い」
『ブン。そうですね』
正面から現れたのは赤、橙、黄のシープ種が合わせて15体。
たぶんだが、シープ種の群れ同士で合流を果たしているな。
そして、そのシープ種たちの後ろに羊飼いのようにイエロータックスマンが居て、既に手に持ったサブマシンガンを構えている。
「とりあえずくたばれ」
「チョーゼー! タア!?」
「「「メエエェェーベエエェェー!!」」」
シープ種たちが突っ込んできて、それに合わせてイエロータックスマンがサブマシンガンを撃ち始める。
対する俺は突進してきたシープ種たちをヴァンパイアマントの機能で飛び越えると『昴』を全力投擲し、イエロータックスマンのシールドを消し飛ばす。
そして着地と同時に追撃のサーディンダートを撃ち込んで、そのまま仕留めてしまう。
「「「メビャアッ!?」」」
その間に俺に突進を避けられてしまったシープ種たちは急ブレーキをかけようとして、群衆雪崩に近い状況になっている。
はっきり言って隙だらけだ。
「今更だが、黄金律のハプニングでシープ種が居るって、何処かの神話を思い出しそうな組み合わせだな」
『ブーン』
「「「メエエェェーベエエェェー!?」」」
シープ種のスペックは同ランクの魔物よりも低い。
で、四足獣と言うものは、自分の後ろへ咄嗟に出来る攻撃が限られていて、この通路の狭さとシープ種の数では反転する事も直ぐに難しい。
と言うわけで、俺はシープ種たちのシールドと命を刈り取っていく。
≪生物系マテリアル:肉・浸食を5個回収しました≫
≪生物系マテリアル:骨・浸食を5個回収しました≫
≪生物系マテリアル:皮・浸食を4個回収しました≫
≪設計図:シープヘッドを回収しました≫
≪設計図:アドオン『睡眠無効』を回収しました≫
「よし」
報酬が手に入った。
アドオン被りは……まあ、仕方がないな。
そもそも、イエロータックスマンもシープ種も今更欲しい設計図を落とすような魔物とも考えづらいし。
『ブーン。トビィ、このフロア。タックスマン種さえ居なければ、相当稼げていたのではありませんか?』
「だろうな。シープ種もナグルファル種も実質的に大量のマテリアルを落としてくれる魔物だから、黄金律のハプニングと合わせてかなり稼げたと思う」
俺はティガと話しつつ探索を続ける。
次の部屋は……はいはい、また何も無しと。
稼ぐ稼がないのどちらにしても、そろそろエレベーターの位置把握はしておきたいのだが……まあ、いつもの事ではあるか。
で、そんな事を考えつつ俺はさらに次の部屋と向かい……。
「おっとぉ……ここで来るか」
『ブン。そうみたいですね』
通路の角を曲がったところで見えたものを認識したところで、俺は思わず角の陰に体を隠していた。
「「「ーーーーー……」」」
見えたのは普段見ているものよりも大きなマテリアルタワーが……少なくとも三本、部屋の中心と思しき場所にある。
だがそれだけではない。
通路を出たところを殺し間にするかのように、腰ぐらいの高さの金色の茨のバリケードが設置されているし、バリケードとマテリアルタワーの間をレッドマンティスとレッドナグルファルが動く姿が見えている。
複数体のシープ種の声も聞こえているし、俺が思っている通りの場所ならタックスマン種とアップル種もたぶん何処かに居る。
そう、俺の視界に収まっている部屋の正体は……。
「トーチカか。さてどうしたものだろうな?」
トーチカとも呼ばれるモンスターハウスだ。




