536:黄金律のフロア7
「さてフロア7だが……これはまた……」
『ブーン。明らかですね』
エレベーターが降りていくが、既にエレベーターの外の光景は見えている。
見えているのだが……中々に特殊な光景だ。
基本の様式は岩で出来た神殿であり、壁や柱には髑髏や茨と言った装飾が施されているところまではおかしくないのだが、その全てが金で出来ているのだ。
で、そんな光景が出現しうるハプニングは……一つしかない。
≪黄金律。このフロアの金属はどれも金か竜命金のようだ≫
「やっぱり黄金律だった」
『ブン。そうでしたね』
そう、黄金律のハプニングだ。
「さて、折角の黄金律だ。少しでもいいから竜命金が手に入ってほしいところだな」
『ブン』
黄金律のハプニングは基本的にはプレイヤー側に有利になるハプニングだ。
手に入るマテリアルが金と竜命金の二択になるので、インベントリの枠の圧縮になるのは勿論のこと、その片方が竜命金と言うトップクラスのマテリアルなので、回収出来ればこちらの戦力を大幅に上げられる。
そして、敵が使うマテリアルも金と竜命金の二択になるのだが、竜命金になるのは黒のランクから、極稀に違う場合があっても緋色のランクからなので、敵が使うマテリアルはほぼ金と考えていい。
で、金は武装としては極めて弱いのだから、だいぶ戦いやすくなるのは確実だろう。
『ただトビィ。侵食属性は大丈夫ですが、出現する魔物の坑道予測は……』
「分かってる。タックスマンだな」
『ブン。燃料消費については注意してください』
さて、黄金律のハプニングについてはこれくらいにしておくとして。
今回のフロア7は侵食属性。
出現する魔物はランクについてはフロア6から引き続きで黄色、橙、赤。
種族については坑道予測で分かっている範囲だとシープ、アップル、タックスマン、マンティスで、???もあった。
シープ種はまあいい。
アドオン『睡眠無効』があるので、数が多いだけの魔物として扱える。
アップル種も何とかなるだろう。
動き回れないタイプの植物だし、重力増大の能力も果実に付いている目でこちらを見たなら発動なので、露天構造ならともかく今回の構造での脅威度は低い。
タックスマン種は……元々戦う気が薄く、使う武装も金なので戦闘能力はほぼ無しでいいだろう。
が、燃料消費を増やす能力は変わらずだし、その能力はレッドタックスマンからは薄くならフロア全域に及んだはず。
折角の黄金律のハプニングではあるが、無駄な長居はするべきではないな。
マンティス種は……普通の脅威だな。
黄金律のハプニングの影響を受けず、ランク相応のスペックで斬りかかってくるはずだ。
なので普通に注意し、普通に対処すればいいはず。
後は???の中身によっては何か考える必要があるが……こればかりは出会ってみないと何も言えないな。
「さて探索開始……ああ、レッドタックスマンは既に何処かに居るな」
『ブン。僅かですが、普段よりも燃料消費が増えていますね』
なお、レッドタックスマンのフロア全域への能力は重複しない。
それは複数体のレッドタックスマンが出現していても燃料消費が恐ろしい事にならないと言う点ではありがたいが、一体や二体のレッドタックスマンを倒した程度では能力解除が図れないと言う厄介な点でもある。
とりあえず現状で出来る対抗策は……出来るだけ走らずに、歩いて探索するようにするぐらいか。
と言うわけで、俺は最初の部屋から適当に通路に入ると、次の部屋に向かって歩いていく。
なお、今回のフロア7ではダメージを与えるギミックとして、茨や折れて尖った骨の装飾が各所に設置されていて、これに触れると物理属性と侵食属性を受けるようだ。
金で出来ているものなら大したダメージにはならないが、竜命金で出来ているものに触れてしまったら、想像よりも受けるダメージは多くなるだろう。
逆に、竜命金の茨に敵を投げ入れたら、かなりのダメージを与えられそうだが……狙ってやることではないか。
「さて次の部屋は……」
そうこうしている間に次の部屋に到着。
俺は通路の角から部屋の中を覗く。
「タタタ」
「マンティィス」
「……」
「おっと、早速か……」
『ブン。確かに早速ですね』
部屋の中に見えたのはレッドタックスマン、レッドマンティス、レッドアップルと言う赤一色な三体の魔物。
いきなりではあるが、中々の脅威になりそうな組み合わせだ。
レッドタックスマンが真っ先に倒したい相手ではある。
だが、レッドアップルの加重状態でレッドマンティスの攻撃を捌きつつ、レッドタックスマンを追いかけて倒すと言うのは、俺であっても、そのままではきつい。
少なくともレッドアップルの能力は阻止しておきたいところだ。
となればだ。
「使うべきは『焼夷ガス発生』だな」
俺は部屋の中へと特殊弾『焼夷ガス発生』を発動させたフググレネードを投擲。
「「「!?」」」
投げ込まれたフググレネードは正確にレッドアップルの根元に転がり込み、爆発。
焼夷ガスが発生して、レッドアップルは焼夷ガスによって焼かれた上に煙幕の中に捕らわれる。
これによってレッドアップルのシールドを削りつつ、能力も封じる。
「まずはレッドタックスマンだ」
それらを確認した上で俺は部屋の中に突入。
「マンティイイス!」
俺の突入と同時にレッドマンティスは両腕の鎌を振り上げて威嚇。
「タタタ」
対するレッドタックスマンは何時でも逃げられるようにと言わんばかりに、俺が使った通路とは別の通路へと向かう。
「アップアッ!」
「「「!?」」」
そして、直後に焼夷ガスに包まれたレッドアップルが何かをして、俺、レッドマンティス、レッドタックスマンの三人はダメージを受けつつ、その場ですっ転んだ。




