524:暗中閃光
「っ!?」
『これは!?』
部屋に入った瞬間。
部屋の中にあった灯篭のようなものから光が放たれて、視界が白一色に塗り潰された。
「暗闇からの閃光……暗視の種類によってはカメラの焼き付きまでありそうな感じだな」
『ブ、ブブ。トビィの視界が戻るまでしばらくかかります……』
何が起きたのかは直ぐに分かった。
カメラのストロボのような強烈な光が灯篭から放たれたのだ。
その光によってゴーレムの目に多大な刺激が送り込まれ、処理しきれなくなり、白一色になってしまったのだ。
とは言え、この部屋に魔物が居ないのは確認済みで、聴覚は生きているから不意打ちの心配も……いや、不意打ちはこのフロアの魔物がニンジャ、オウル、ヴァンパイア、ゴーストと、どいつもこいつもその気になれば音を出さずに襲い掛かってこれるから、油断は出来ないな。
カメラが戻るまでは警戒しておこう。
「あー、戻ってきたな」
『ブン。そうですね』
視界が戻ってくる。
しかし、暗闇に目が慣れ切っているところに強烈な閃光か……消灯のハプニングだからこそのギミックだが、実に厄介なものである。
「シールドが微妙に削れてる」
『ブーン。先ほどの閃光は拒絶属性を含んでいたようなので、その影響だと思います』
「ああ、なるほど」
視界が完全に戻った。
また灯篭から閃光が放たれる様子は……ないな。
灯篭から閃光が放たれるのは距離や切っ掛けのようなものあるようだし、そうであれば、今後はそれらしき物体が見えた時にだけ注意を払えばいいだろう。
条件を完全に把握できれば敵の目を潰すことも出来るかもしれないが……無理に狙う事ではないか。
後はそうだな……シールドは割れていないなら、ヒールバンテージで直すだけだから問題なしだな。
「さてマテリアルタワーだな」
『ブン。隕鉄・拒絶のマテリアルタワーです』
「ようやくダマスカス鋼の上か」
さて、視界も戻ったところで回収だ。
この部屋にはマテリアルタワーが一本だけ立っていた。
隕鉄・拒絶のマテリアルタワーで、接触制限は3回、60秒となっている。
隕鉄は幻想系マテリアルで、魔物なら緋色相当なので、回収出来ればかなりの戦力増強を見込める。
見込めるが……。
「そうそう。竜命金が来たら『昴』に注ぎ込むとは言ったが、だからこそ隕鉄や玉鋼は来ても『昴』には渡さないぞ」
俺は腰の『昴』に釘を刺しておく。
そんな無体なと言う感じの反応を見せている気はするが、ここを譲る気は無い。
『ブーン? 何故ですか?』
「『昴』は優秀な武装だが、『昴』だけに良いマテリアルを回してもフロア8以降が安定しない。そうだな……フロア8以降は、少なくとも両腕と脚部の構成マテリアルだけは玉鋼か隕鉄にしておきたいところだな。それぐらいでないと、流石にきつい」
『ブン。なるほど』
「『昴』が竜命金を諦めるって言うなら、ここで即座に隕鉄に乗り換えるのもありではあるんだけどな。まあ、これについてはどっちを取るかと言う話だ」
『昴』は……なんだか非常に悩んでいる感があるな。
なお、両腕と脚部の構成マテリアルをよくしておきたいのは、胴体と頭部の構成マテリアルの質は多少悪くても立ち回りで補えるが、両腕と脚部の構成マテリアルが悪いと、赤以上の魔物相手では与ダメージも被ダメージも嵩んでどうにもならなくなるのか容易に予想出来るからである。
「ま、とりあえずは回収だな。60秒もあるんだから、全力で『昴』を叩き込んでいくぞ」
『ブン。分かりました』
まあ、それはそれとして隕鉄・拒絶の回収である。
折角だからと言う事で、俺は二重推進からの『昴』射出を三回叩き込む。
フロア全体に爆音が響き渡り、火炎属性のエフェクトによって周囲が赤く照らし出され、他の部屋から魔物を呼び寄せてしまいそうな事になっているが、その分だけ破壊力も上がっている。
で、肝心の結果は……。
≪幻想系マテリアル:隕鉄・拒絶を40個回収しました≫
「此処までやって40個か」
『ブーン。流石に仕方がないかと』
「まあ、格上のマテリアルだしな」
隕鉄・拒絶が40個。
50個あれば黒キパパーツの生成も視野に入ってくるんだが、ちょっと足りないな。
今後何処かで隕鉄のマテリアルタワーがまた来てくれるのをお祈りするしかないか。
「「「……」」」
「さて、派手にやった影響はありそうだな」
アドオン『オートコレクター』による回収が終わったところで、俺は次に向かおうとした通路の方を見る。
するとそこにはライムヴァンパイア二体に、ライムニンジャが立っていた。
どうやら割と近くに居たところで、先ほどのマテリアルタワー回収の音がして、近づいてきたようだ。
そして魔物たちは部屋の中に突入し……。
「「「!?」」」
揃って灯篭のストロボに目を焼かれ、のたうち回った。
なお俺は灯篭に背を向けて立っているので被害なし、シールドも減っていないので、直視しなければダメージにすらならないようだ。
「灯篭の発動条件は部屋の中に進入する、とかなのかもな。となると一番怖いのは壁をすり抜けてゴースト種が入ってきた場合かもな。不意に発動しそうだ」
『ブーン。そうかもしれませんね』
俺はライムヴァンパイアたちから武器を取り上げると、その武器を使ってサクッと魔物たちを仕留める。
それでもニンジャ種は多少時間がかかるが、ヴァンパイア種は拒絶属性弱点の癖に拒絶属性の武装を持ってきているから、本当にあっさりだ。
≪生物系マテリアル:骨・拒絶を1個回収しました≫
≪設計図:インダルジェンス・拒絶を回収しました≫
≪生物系マテリアル:骨・拒絶を1個回収しました≫
「ん? インダルジェンス……ああ、免罪符か。じゃあこれが拒絶属性対策っぽいな」
『ブーン。後で確認してみましょう』
「だな」
と言うわけで撃破。
俺は次の部屋へ向かう……前に、今居る部屋にバック走で侵入してみて、灯篭のストロボが発動する事を確認した。
どうやら発動条件は部屋の中へ入ることであるらしい。
それから改めて、俺は次の部屋へと向かった。




