521:消灯のフロア5
「ここでこう来るか」
『ブーン……』
≪照明が落ちてしまった。復旧の見込みはなさそうだ≫
着いたフロア5はほぼ完全な暗闇に包まれていた。
消灯のハプニングである。
「しかし消灯のハプニングか……。頭をエクソシストヘッドからヴァンパイアヘッドに変えれば暗視能力があるんだよな」
『ブン。けれどそこで頭部を変えれば、フロア5は拒絶属性なので弱点を突かれることになります』
ゴーレムのパーツを変える事はラボの外でも可能ではある。
ただ、インベントリからパーツを取り出し、今自分が付けているパーツを外し、該当部位を入れ替えるとなると、相応の時間がかかるし、隙も晒すことになる。
それが頭部ならなおさらだ。
そして付け替えた後も弱点が増える事になるので、厄介な事になるのは確実だろう。
と言うかやっぱり、プレイヤーが同じことをやり過ぎて、第五坑道側もそれへのメタを張ってきているように思えるな。
まあ、それはそれとしてだ。
「んー……何の魔物が居るか……と言うか、他の情報も足りてないな。ティガ」
『ブン。今回のフロア5は拒絶属性、構造は普通の坑道。出現する魔物はヴァンパイア種、オウル種、ゴースト種までは確定していますが、他の魔物も居るはずです』
視覚に頼れないという状況は弱点が増える以上に厄介なものだ。
なにせ何処から何が襲ってくるかの詳細が分からない。
第四坑道までの持ち込みによって万全の態勢で挑める状態なら、それでも何とかはなるが、第五坑道の万全でない状態だと、それは危険すぎる。
勿論、以前に消灯のハプニングに遭遇した時は床を叩いて色々と探ったし、とりあえず今もしゃがみ、床を軽く拳で叩いて、その音の反響や振動の伝わり方で周囲を探っているわけだが……オウル種やゴースト種相手だとこの方法では探り切れないな。
やはりパーツを変えるべきだろう。
「煙幕を張るか」
『ブン』
俺は特殊弾『煙幕発生』を使った上で、煙幕内でパーツを変え始める。
煙幕内では視覚が利かないが、それは消灯のハプニングの効果で元々なので気にする必要なし。
そして、パーツを変えるぐらいならば、手の感覚だけでも何とかはなる。
それよりも煙幕によって魔物に見つかる可能性が少しでも下がる方が有用だろう。
と言うわけで、インベントリからヴァンパイアヘッドを取り出し、エクソシストヘッドを外して、ヴァンパイアヘッドを付け直す。
なお、文章にしてしまえばこれだけだが……まあ、普段あっさり外れないようになっているだけあって、それなりに手間はかかる。
それでも何とかパーツの変更は終わり、同時に煙幕も晴れていく。
「さて……ギリギリセーフってところか」
『ブン。そのようですね』
煙幕が晴れた後、周囲には複数の魔物の姿が見えた。
「ヴァンピィ……」
「「ホウホウ」」
片手で持てるサイズの斧を持ったイエローヴァンパイア、羽音を立てることなく部屋の中を飛び回るライムオウル二体はまあいいとして……。
「……」
「ニンジャかぁ……」
『ブン。イエローニンジャですね』
黄色の鉢金を身に着けた、全身黒装束の男が、両手にクナイらしき物を持って立っていた。
どうやらニンジャ種と言う新たな種類の魔物がエントリーしたようだ。
そして、煙幕を展開していなければアンブッシュ……奇襲を許していたに違いない。
「ヴァンピィ!」
「おっと」
魔物たちが動き出す。
まず真っ先に動いたのはイエローヴァンパイア。
大きく飛び上がり、奇声も上げながら、手に持った斧を振り下ろしてくる。
「「ホウホホウ!」」
「ふうん……」
続けて動くのはライムオウルたち。
こちらも鳴き声を上げながら、拒絶属性が詰まっていそうな光の玉をこちらに向かって勢いよく飛ばしてくる。
その光は消灯空間を明るく照らし出し、イエローヴァンパイアの姿を非常によく目立たさせている。
「流石にあからさま過ぎるな」
「!?」
そんな目の前の光景に対し、俺は素早く横に跳ぶと、背後に向かって『昴』を一閃。
すると、『昴』とクナイがぶつかり合って、クナイが一方的に弾き飛ばされる。
クナイを投げた魔物が何者かは言うまでもない、イエローニンジャだ。
他の魔物たちが注目を集める中で、こちらが認識していないであろう方向から仕掛けてきたのだ。
「さて、ここまで分かり易く注意を引いてくると言う事は、奇襲成功でシールド貫通とかをしてくる類だな。ニンジャは」
『ブン。その可能性は高そうですね』
「ヴァンピイイィィル!」
「「ホウ、ホホウ」」
わざわざそんな事をする理由は……まあ、レオパルド種と同じで、ニンジャ種は奇襲によって何かしらのボーナスを得ることが出来るタイプの魔物なのだろう。
今もイエローヴァンパイアとライムオウルたちが仕掛けてくると同時にイエローニンジャは姿を眩ませるように陰から陰へと渡り歩くように、音もなく動いているようだ。
「ヴァ……ピギャア!?」
「しかし、今更だが、拒絶属性フロアに拒絶属性弱点のヴァンパイアが居れるのはどういう理屈なんだろうな? 何かしらの対策でもあんのか?」
あまり時間はかけたくない。
そう判断した俺は目の前のイエローヴァンパイアの斧を『昴』でパリィすると、素早く片手を潜り込ませ、捻り上げ、奪取。
そしてすぐさまイエローヴァンパイアの頭に叩き込む。
普通ならヴァンパイア種は拒絶属性が弱点なので、この一撃でシールド全損か八割くらいは持っていけるわけだが……。
「四割。なるほど、対策は有りそうだな」
「ヴァ、ヴァ……ピギュウ!?」
削れたシールドは最大値の四割だった。
とりあえず更に二発叩き込み、追加で蹴りからの『昴』射出で、逃げ出す暇も反撃する暇も与えずにイエローヴァンパイアは仕留めてしまった。
「「ホウホホウ!!」」
「……」
「さてこれで……」
これで残すはライムオウル二体とイエローニンジャ。
だがライムオウルはサーディンダートで牽制しつつ、時々突っ込んでくるところに攻撃を合わせればそれで済むだろう。
問題はイエローニンジャだ。
イエローニンジャはクナイをしまうと、空手に近い構えを取っていた。
何かしてくるつもりであるらしい。
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