518:逃走一択
「「コケエエエェェコオオォォォ!!」」
「「マッミイイィィ!!」」
「オウトゥウウゥゥッ!!」
俺を認識した魔物たちは直ぐに動き出す。
コカトリス種は距離を詰めつつ鉄化ブレスあるいは岩化ブレスを吐いてくる。
マミー種たちも距離を詰めつつ拘束の為の包帯を伸ばしてくる。
そしてライムロンは天井近くから霧状のブレスをこちらに向かって勢いよく吐き出してきた。
「やりあってられるか」
対する俺はコカトリス種とライムロンのブレスが当たらないように注意を払いつつ、二体のマミーが居る方に向かって駆け出す。
当たり前だが、時間制限がある状態でこんな魔物とは戦っていられない。
コカトリス種のブレスを受けてしまえば、全身のマテリアルの性能が落ちて戦闘能力が致命的に落ちる。
マミー種に拘束されてしまえば、他の魔物たちからタコ殴りにされて死ぬ。
ライムロンに至っては竜系魔物特有の2ランク上のスペック、基本位置が空中と言う戦いづらい位置、速度は遅めだが霧状に放たれて暫く滞留するブレスを持っている。
と言う具合に、どの魔物も厄介な能力を持っていて、安全に戦うのなら、かなりの時間を必要とするのが目に見えているからである。
正直、時間制限が無くても戦いたくはない。
「密度が薄い」
「「マミッ!?」」
では、それなのに何故、俺はマミー種の居る方に向かって駆けたのか。
簡単だ。
コカトリス種とライムロンのブレスは面攻撃だが、マミーの包帯は点あるいは線による攻撃であり、攻撃の中に避けられる箇所があるからだ。
だから俺はマミー種の伸ばした包帯を紙一重で避けつつ接近、十分に近づいたところでライムマミーを殴り飛ばして道を切り開くと、そのまま新しい通路に向かって駆けこんでいく。
「コケエエェェコオオォォ!」
「「マアアアァァァァッ!」」
「フォロロロロロ」
俺を追ってグリーンコカトリス以外の魔物たちも通路へと入ってくる。
ライムロンは空を飛んでいるので水音を立てないが、他の魔物たちは俺と同じように派手に水音を立てながら、出せる最大限の速さで追ってくるのが音で分かる。
なお、これは余談だが、地面が水浸しであるこのフロアでは、マミー種の足元は氷で覆われていて、体に水が染み込まないようになっているようだった。
『トビィ。エレベーターを見つけたらどうしますか? この状態で駆けこむのは……』
「そこは素直に特殊弾『煙幕発生』でも使えばいい。煙幕を張れば、だいたいの魔物は撒ける」
『ブン。分かりました』
閑話休題。
俺はとにかく通路を駆けていく。
そして曲がり角のところで後方を一瞬見てみたが、変わらず追いかけてきているのはライムコカトリスとライムロンの二体だけで、マミー種の二体は追いかけてきていない。
二体分の水音もしない点からして、マミー種たちは俺に追いつけず、見失ったようだ。
まあ、見失っただけでフロアの何処かを徘徊しているのは変わらないので、下手をすれば先回りされている事も有り得るのだが。
「さて次の部屋だが……」
それはそれとして次の部屋である。
エレベーターが無ければ即抜け、マテリアルタワーがあれば『昴』を投げつけて一回分だけ壊しておく、魔物は基本戦わない。
これがこちらの基本方針になるわけだが……。
「「テレレレ」」
「「「モモモ……」」」
『トビィ! テレスコープ二体! モールド三体です!』
「だから普通に殺意が高い!?」
次の部屋にはグリーンテレスコープが二体、グリーンモールド、ライムモールド、イエローモールドが一体ずつ居た。
そして全ての魔物が既にこちらを認識している。
俺はそれを認識した上で、相手の情報を思い出す。
テレスコープ種は三脚が付いた立派な望遠鏡の見た目を持つ魔物であり、まるで銃座付きの機銃のようにこちらへとレンズを向けていて、そのレンズには光が集まってきている。
その様子は以前見かけたビームを放つ直前のジャンクのようであり、実際にビームを撃ち込んでくるはずだ。
モールド種はケバケバしいスライムと言った見た目の魔物だ。
だが戦闘能力的にはマッシュ種に近く、周囲へ胞子によるDoTをバラ撒いてくるはずである。
なお、ゆっくりではあるが移動をすることも出来る。
では、この状況で俺が取るべき行動は?
「「テレッテース!」」
「今っ!」
俺はテレスコープのレンズへ最大限に光が集まり、ビームが放たれる瞬間を見計らって動いた。
一歩踏み込み、床を蹴るのに合わせて足裏から『昴』を射出する二重推進によって急加速。
直後、テレスコープたちの放ったビームは、俺が普通に走っていた場合に居たであろう場所を突き抜ける。
これがテレスコープ種の厄介なところで、奴らのビームはチャージが必要な代わりに、速度も精度も高度であり、偏差射撃までこなしてくるのである。
だが、偏差射撃が出来るほどに予測精度が高いが故に、二重推進のような急加速には、一度は対処できない。
今避けられたのはそういう事だ。
『トビィ、次は……』
「分かってるとも」
だが一度だけだ。
次から、このテレスコープたちは俺が急加速する事も予測に入れて撃ってくる。
だから、次避けられるかは運次第だ。
そして、後方からは変わらずライムロンたちは追いかけてきているし、モールドたちは既に胞子をバラ撒き始めている。
時間制限もあって、やはり戦えるような状況ではない。
「とにかく今回のフロア4は逃げ一択だ」
俺はテレスコープたちがチャージを終えるよりも早く、モールドたちの胞子によって少なくないダメージをシールドに負いつつも、次の通路へと駆けこんだ。




