512:再びのジャンク
「ジジジジジ」
「やっぱりジャンクだったか」
『ブン。そのようですね』
影の正体はやはりジャンクだった。
マテリアルについては相変わらずバラバラ、パーツについては……判別できる範囲だと脚部はムカデレッグ、頭部がフェアリーヘッドで確定。
胴体と両腕はトロールやオーガ辺りの大柄な魔物のもの。
武装は両手で握っている刃渡り3メートル超の巨大剣に、背中とムカデレッグの各所にスラスターが付いている。
なお、全長は控えめに見ても10メートルは優に超えている。
うーん、大きく、力強く、速い、厄介そうだな。
「「……」」
「「アンフォラー」」
「取り巻きはマッシュとポットが各2」
『ブン』
そして部屋にはジャンク以外の魔物の姿もある。
グリーンポット、ヴァイオレットポット、ブルーマッシュが2だ。
ジャンク合わせて、正直に言えば、殲滅戦でなければ戦いたくはない組み合わせだな。
上手くやっても、何処かで事故を起こしそうだ。
「とりあえずは取り巻きからだ……なっ!」
「「「!?」」」
「ジジジジジ!」
部屋の中の状況を確認した俺はグレネードを投擲。
取り巻きへのダメージを与えていく。
すると当然ながらジャンクはこちらの位置を認識し、突っ込んでくる。
その速さは……速い。
同じフロアに居るムカデ種の倍は確実にスピードが出ている。
そして、その状態で嘴か槍のように巨大剣を構えているので、直撃すれば虚無属性なんて関係なくシールドを剥がされそうだ。
「よっ……ここっ!」
「!?」
だが初見ならまだしも、ジャンクは既に何度か戦ったことがある魔物だ。
だから俺は冷静に突撃を回避すると、胴体の中から肉や骨で出来ている部分を殴り、それに合わせて拳から『昴』を射出する事で大ダメージを与えつつ怯ませる。
「そうら追加だ!」
「「「!?」」」
そして、ジャンクが怯んでいる間に更にグレネードを投擲し、サーディンダートを投げ、『昴』を突き刺すことによって取り巻きを効率よく片付けていく。
「ジジジジジ……ジャンクゥ!」
「それはもう見た。そして、その程度の速さだけで捉えられるつもりはない」
またジャンクが突っ込んでくる。
ムカデレッグと体の各所にあるスラスターの起動による超高速での突撃は確かに脅威ではある。
が、速過ぎるのだろう。
ジャンク自身も制御し切れているとは言い切れず、その動きは直線的だ。
だから俺は悠々と避け、反撃の拳を二度三度と叩き込んでいく。
だが四度目の拳を胴体に叩き込んだ時だった。
「っ!?」
『トビィ!?』
「ジジジ、スクラアァップ!」
まるで壊れない壁を殴ってしまったかのように衝撃が拳に返ってきて、大きく弾かれる。
その上でシールドゲージも半分以上消し飛んで、一気に危うくなる。
この結果が示すのは、今回のジャンクの胴体の正体。
そう、ジャンクの胴体は確率で通常攻撃を反射してくるサイクロプスボディだ。
確率と言っても10%も無かったはずだが、見事に引いてしまったらしい。
そして、こちらの体勢が崩れたのを見逃さず、ジャンクはエンジン種が鳴らす独特の音を響かせながら、これまで以上の速さで突っ込んでくる。
恐らくだが、体の何処かにエンジンユニットを追加して加速しているのだろう。
「舐められたものだな」
「ジャンク!?」
が、それでも想定の範囲内の速さ。
俺は地面を転がる事で距離を取りつつ、最低限の立て直しを済ませると、突っ込んでくるジャンクの巨大剣、竜命金で出来た剣先のすぐ後ろ、ただの銀で出来ている部分に拳と『昴』を叩き込んで弾く。
結果、ジャンクは先ほどの俺の比じゃない程に体勢を崩す。
「少なくとも頭と脚は殴れると判明しているんだから、そこで殴れば何も問題はねえんだよ」
「ジャンクゥ!?」
そして追撃。
だが、ジャンクのように防がれた時に体勢を崩すような無茶なものではなく、堅実に、復帰してきたジャンクが即応できないように、シールドゲージを削り取っていく。
そうして無事に削り切ったら、そのまま倒してしまうわけだが……。
「ジャンクゥ!」
「っ!?」
ジャンクを倒すためには、ゴーレムで言うところのコアを破壊する必要がある。
コアの位置は胴体であり、万が一の反射を考えるならば、頭を切り取り、切断面からグレネードを胴体の中へと投入するのが正着だ。
正着だった。
だから俺は『昴』でジャンクの首を斬り落とそうとし……そのタイミングでジャンクが頭部を変更してきた。
フェアリーヘッドからポットヘッドと呼ばれる、ポットの形をした頭に。
いや、変更したのは頭だけでなく、胴体も、両腕も、脚部もポット種から得られる該当部位のパーツになっていた。
そして、このポット系パーツの特徴は……中身を入れられることと、壊れる時に中身を周囲にまき散らす事である。
「ゴミニナーレ!」
「このっ……!?」
結果。
頭部の破壊によってばら撒かれた液体が爆発し、ジャンクの全身が破壊される。
その破壊によって他の部位からも中身がバラ撒かれる。
それらの中身も当然のように爆薬の類であり……。
周囲一帯を吹き飛ばすような大爆発が起きた。
「シールドが無ければ即死だった……」
『ブン。ネタ抜きにそうでしたね』
幸いにして俺のシールドは残っていたので、シールドが身代わりとなって体へのダメージはない。
また、吹き飛ばされた先も即死エリアとなる谷底ではなく普通の地面だったので、そういう意味でも助かった。
これならば、念のために作っておいた特殊弾『シールド発生』鉛を使う事でとりあえずは凌げるだろう。
「と言うかあれか? ジャンクは最後っ屁をしなければ気が済まない魔物なのか?」
『ブーン。何かが出来るならそうなのかもしれませんね』
≪鉱石系マテリアル:鉄・虚無を1個回収しました≫
≪鉱石系マテリアル:青銅・虚無を1個回収しました≫
≪生物系マテリアル:草・虚無を1個回収しました≫
≪設計図:特殊弾『胞子ばら撒き』を回収しました≫
≪設計図:カオティックポットを回収しました≫
とりあえず倒すことは出来たので、良しとしよう。
俺はそう判断すると、明らかに動く影が減っているフロア3の中を歩き、次の部屋に向かった。




