511:マッシュ
「こういう光景が見えると、基本的に部屋の外から中の様子が窺える露天マップにありがたみを感じるな」
『ブン。そうですね』
さて、次の部屋……の中が詳細に見える位置にまでやってきた。
具体的には通路の脇に立っていた柱の上によじ登り、そこから俺は部屋の中を観察している。
「「「ポット、ポット」」」
「ポット種は……虚無属性と合わさると、倒した後の爆発が怖そうだな」
『ブン。フラググレネードのように中身をばら撒かれたら、極めて危険だと思います』
部屋の中には魔物の影が幾つも見える。
まずはポット種。
緑2に菫1で、部屋の中を跳ね回ってる。
「チチチチチ」
「ムカデ種は後回しにすればよし」
『ブン』
続けてブルームカデ。
まあ、さっきグリーンムカデは倒したし、一対一なら問題はないだろう。
「「「……」」」
「で、キノコかぁ……」
『ブーン。マッシュ種ですね』
最後にマッシュ種。
膝下ほどの高さにまで傘を伸ばしているキノコの姿をした魔物であり、もう少し具体的に言えば、ベニテングタケと呼ばれるような毒キノコの傘の色をランクの色にしたような見た目をしている。
それが緑、青、菫で各1ずつ、部屋の中に生えて、胞子をバラ撒いている。
「ハンネから情報を貰っているから問題は無いんだが、知らなかったら、虚無属性との相性でまずヤバいし、殲滅戦のハプニングとの相性でもヤバかっただろうな」
『ブーン、ブン。そうかもしれませんね』
で、このマッシュ種だが……ばら撒いている胞子に生物原理DoT効果があるのはまあいいとして、知らないと、あのキノコ部分に騙されるんだよな。
そう、マッシュ種と言う魔物にとって、キノコ部分は幾らでも生やせる部位であり、吹き飛ばしてもシールドは削れず、倒せることもない部分。
マッシュ種の本体はキノコ部分の根元、地面に根を張っている菌糸部分なのだ。
もしも、この事実を知らなかったら……まあ、キノコ部分を排除して満足し、殲滅が進まず、ダメージが蓄積するようなことになっていただろうな……。
なお、菌糸部分が本体であるというのは、キノコと言うものについてきちんと考えれば、まあ、分からなくもない設定である。
キノコ部分は胞子をバラ撒く部分であり、植物で言えば花であって、根や茎ではないからな。
「さて倒し方は……とりあえずこうするか」
『ブン』
「「「マッシュー!?」」」
「「「ポットォ!?」」」
では戦闘開始。
俺は自分が今居る柱の上から、マッシュ種がいる場所に向けて次々にグレネードとフググレネードを投擲、爆破していく。
その爆破にはポット種たちも巻き込まれて行き、ダメージを受ける。
ブルームカデは……俺が攻撃を開始すると同時に部屋を飛び出してこちらへ駆けて来ているな。
「ほいほいほいっと」
「「「ポットォ!?」」」
「「「……」」」
やがてポット種はシールドを破られ、内容物をまき散らしつつ爆散。
今回の中身はガソリン、火薬、金属片であったらしく、部屋の中で戦わなくて良かったと思える光景が部屋の中には広がっている。
そうしてポット種が爆散している間にマッシュ種たちも沈黙。
ただこちらはキノコ部分が破壊され、攻撃能力を失っただけで、本体である菌糸部分は健在だ。
「セッチアアアァァァッ!」
「おっと」
と言うわけで、突っ込んできたブルームカデの攻撃を跳んで避けると、踏みつけ、足場にして部屋の中へと突入。
「まずは一つ」
「!?」
『ブン。シールドゲージもきちんと出て、失われましたね』
そして、ブルーマッシュが居た場所に駆け寄ると、勢いそのままに『昴』を地面に突き刺し、グリグリと抉る事で始末する。
で、倒すと破壊不可能ないつもの地面に戻ったらしく、『昴』が押し戻される。
「二つ、三つ……っ!?」
「マッシュー!」
同様にしてヴァイオレットマッシュも撃破。
残るグリーンマッシュも撃破しようとし……その前にグリーンマッシュがキノコ部分を再生、胞子をバラ撒き、バックステップが間に合わなかった俺は胞子に僅かに触れた。
結果、普段見るDoTの3倍ぐらいの速さでシールドが削れていくのが見えた。
「思っていた以上にヤバいな」
俺はさらに距離を取り、ヒールバンテージの起動によってシールドを回復していく。
今回の俺は生物系マテリアルであるフォッシルで体を作っているので、マッシュ種の胞子による生物原理のDoTが入るのは仕方がない。
だが、受けるダメージが想像よりもはるかに大きい。
やはり虚無属性は固定ダメージ系と言うか、一撃が重くなっても影響はないが、手数が増えればそれだけ受けるダメージも増していく感じか。
「セッチアアアァァァッ!」
「おっと。あー、なるほど。同じ虚無属性だからと防ぐことも出来ないのは、同士討ちを狙う分には好都合か」
と、ここで背後からブルームカデが迫ってきたので、ギリギリまで引き付けて回避する事で、ブルームカデをグリーンマッシュが放った胞子の中へと突っ込ませる。
するとDoTを受けたブルームカデのシールドゲージは、俺が受けた時と同じように勢いよく減り始める。
どうやら虚無属性は他の属性を軽減することは出来ても、虚無属性のダメージは軽減できないらしい。
つまり対抗策になり得るのは避ける事だけか。
攻めっ気が強いと言うか何と言うか……。
『トビィ』
「地道に攻めるぞ。ブルームカデは普通に殴り倒せばいいし、グリーンマッシュはキノコ部分を遠距離攻撃で吹き飛ばしてから本体を仕留めればいいからな」
『ブン』
「セッチアアアァァァッ!」
まあ、理解すれば苦戦要素ではない。
と言うわけで、俺は地道に戦って、そのまま撃破した。
≪設計図:メニーピースを回収しました≫
≪鉱石系マテリアル:鉄・虚無を1個回収しました≫
≪鉱石系マテリアル:真鍮・虚無を1個回収しました≫
≪生物系マテリアル:甲殻・虚無を1個回収しました≫
≪生物系マテリアル:草・虚無を3個回収しました≫
「さて、このまま行けば、未知の属性と言ってもこれ以上の苦戦はなさそうだが……」
『ブブ。そうも行かないようです』
「みたいだな」
俺は次に目指す部屋を決めるべく、周囲を見渡す。
そして見つけたのは……。
「アレはジャンクだよな。たぶん」
『ブン。少なくとも巨大生物系のパーツで構成されたゴーレム種ではあると思います』
長く、太く、大きい下半身の上に、巨大な武器を握っているように見える人型の上半身を持った魔物の影だった。
「ジャンクならこれ以上の放置は危険だな。行くぞ」
『ブン』
ジャンクなら時間経過に伴って、体を構成されるパーツはより強力になっていく。
俺は影が居る方に向かって移動を始めた。




