509:殲滅戦のフロア3
本日は二話更新です。
こちらは二話目です。
「さてフロア3だな」
『ブン。坑道予測では属性も魔物も不明でしたが……』
エレベーターが降下していき、それに合わせて次のフロアの様子が窺えるようになっていく。
「露天なのはまあいいとして……」
『ブーン……これは……』
今回のフロア3は多少の柱による遮蔽物はあるが、基本的には壁すらない露天マップであるらしく、フロアの端まで既に見えている。
ただ露天ではあるが、空に魔物の影は見えないので、少なくとも積極的に空を飛ぶ魔物は居ないようだ。
と言うか……もっと問題があるものが見えているのが実情である。
「なんだこの、バグった感じの世界は」
『ブーン……なんなんでしょうか……』
そう問題は露天である事ではない。
問題なのは岩で出来た床、星一つ浮かんでいない真っ黒な夜空、辛うじて遮蔽物になりそうな岩の柱、即死エリアであろう真っ白な谷底、そのいずれにもノイズとしか称しようのないエフェクトが時折走っている事だ。
そして、足裏から伝わってくる感覚は、薄いテクスチャを一枚挟んだ向こう側に死と同等かもっと恐ろしい世界が潜んでいるようにしか感じられない。
こんな光景はこれまでに見たことが無いし、こんな感覚を覚えたこともないし、どの属性でもこんな事になるとは思い難かった。
一体何なんだ、このフロアは。
≪先へ進む道が閉ざされた。敵を殲滅する事でしか道は開かれない≫
「殲滅戦のハプニング。つまり、この光景はハプニングによるものではございません、って事か」
ここでフロア3のハプニングが告げられる。
まあ、殲滅戦のハプニング自体はありがたいものだ。
どこかで引くのであれば、装備が整っている上に出てくる魔物がまだ弱いフロア3で引けるのは、幸運とすら言える。
だが、この異常な光景とハプニングは無関係となると……。
「ティガ、何か情報は? ハプニングでは無いわけだし、現地に着けば、流石に何かしらの情報は入ってくると思うんだが」
『ブーン。申し訳ありません、トビィ。何の情報も入ってきません。属性の欄には空白が表示されているだけです』
「空白? 空白と言う文字があるのと、スペースがあるだけなのとどっちだ?」
『ブーン? 後者ですが?』
「……」
ああうん、なるほど。
これはあれか、世界同時攻略によるリソース枯渇の影響が出てきたのかもしれないな。
ただ、枯渇させた結果として、もっとヤバいものを招いてしまった気配もあるな。
なんの魔物が居るのか坑道予測では全く分からなかったのも、その辺が原因か?
なんにせよ、空白のままでは認識に問題がありそうな気がする。
となると……。
「多少気取るなら、虚無属性ってところか」
『!?』
属性の名称が固定されたらしい。
俺の呟きによる名付けと共にティガが驚き、周囲のノイズが幾らか収まっていく。
とは言え、床のテクスチャ一枚下に終焉としか称しようのないものが潜んでいる感覚は変わらないが。
『トビィ、これは……』
「完全なる未知の属性、下手をすれば開発以上の招かれざるものってところだな。配信が生きているのが逆に怖いぐらいだ。今回凌いで、今後遭遇する可能性は……ぶっちゃけどうだろうなぁ……。とりあえず、何が起きてもいいように覚悟はするべきだろ」
『ブ、ブン』
ノイズはまだある。
だがこれ以上に落ち着く事は無いようだ。
なので俺は手近な柱に背中を付けて、見える範囲で周囲の様子を窺う。
「マップ構造そのものは谷系の露天マップ。部屋が幾つもあって、そこを通路で繋いでいるのも変わらず。魔物は……流石に距離があって判別しきれないが、長いの、人型、小さいので少なくても三種類は確実に居るな」
ヒノカグツチノカミ様からの干渉は……あっても分からないか。
だが、今の俺の落ち着きようや名づけのセンス程度になら関わっていてもおかしくない気はするな。
まあ、もしも本当に関わっているのなら、今回のフロア3のヤバさが更に際立つことになるのだが。
『トビィ、どちらに向かいますか?』
「殲滅戦だが、積極的に空を飛ぶ魔物が居ない以上は地道にフロアを巡る他ない。そして、未知の属性で何が起きるか分からない事を考えると……まずはマテリアルタワーだな。マテリアルを回収出来れば、そこから得られる情報があるはずだ」
『ブン。分かりました』
なんにせよ移動開始だな。
俺は柱から体を離すと、柱状の物体が見える方へと歩き始める。
遠目からではただの遮蔽物なのかマテリアルタワーなのか判別がつかないが、他の何かを目指すよりは得られるものがあるはずだ。
「ただまあ、そうは問屋が卸さないか」
『ブーン……』
だから歩いていき、見えていたのが部屋の中にある、ただの太めの柱だとはっきり判別できるところまでは来た。
「「ブヒィ」」
部屋にいた魔物は三体。
内二体はグリーンオークとブルーオークであり、その手にはそれぞれ真鍮製のショットガンと青銅製のショットガン、それも弾一発の威力よりも同時に撃てる数を優先したっぽいモデルのものに斧の刃を付けたカスタム品が握られている。
そして残り一体は……。
「セチチチチチ」
「此処で来るか。グリーンムカデ」
少しだけくぼんだ地面に伏せる事で、近くに寄るまで存在を悟らせなかったグリーンムカデ。
特殊弾を無効化する上に、竜種特効を持っていてコア:ドラゴネットを使っている俺にとっては天敵と言っても過言ではない魔物だった。




