505:粘性空気
本日は二話更新になります。
こちらは二話目です。
「さて、まずは粘性空気だが……やっぱり違和感があるな」
『ブン。空気中のはずですが、水中のような状態になっています』
さて、フロア2の探索開始だが、今回のフロア2は粘性空気とでも言うべきハプニングが起きている。
このハプニングは空気の粘り気が強くなった結果として、空気抵抗が増したり、音の伝わり方や範囲がおかしくなるようだ。
「試しに……まあうん、だいぶ射程は落ちるな」
俺は試しにサーディンダート、グレネード、フググレネードを投げてみる。
結果はいずれも俺が想定していた軌道よりもかなり手前に落ちる軌道を描いた。
おまけにグレネードとフググレネードの爆発範囲も、通常の半分以下に落ちてしまっている。
『ブーン。これは投擲物を使う事は出来ないかもしれませんね』
「そう考えておいた方が適切だろうな。水中ではないからサーディンダートやフググレネードの水中でも問題がないという効果も発揮されないし」
結論、今回のフロア2は近接戦闘をメインとするか、空気の粘り気が関係ないような手段で遠距離攻撃をする必要があるらしい。
では、確認を終えたところで探索開始である。
『さてトビィ。フロア2では稼ぐのですね』
「ああ。バッテリー種、エアコン種の名前があったから、それらの緑のランクから鉄は得られるはずだ。だから、稼げる範囲で稼いでおく」
『燃料については?』
「消費する燃料についてはアント種とオーガ種が居るみたいだからな。アント種は一度に出現する数が多かったはずだし、上手く回ればコンブティーによって燃料回復が図れるはずだ。だから、緋炭石による燃料回復のタイミングは50を切ったらで頼む」
『ブン。分かりました』
ハプニングの都合上、普段よりも音による感知は難しい。
一方で振動による感知ならば普段通りに出来るので、俺は定期的に壁や石筍に手を当てて微細な振動を感じ取っていく。
「居るな」
『ブーン。よく分かりますね』
そうして歩くこと少し。
俺は今自分が居る通路のすぐ横を何かが掘り進んでいるのを振動で感じた。
「ギギギィ! ギッ!?」
「はい、さようなら」
で、実際に体高1メートル程度の青い甲殻を持ったブルーアントが飛び出してきたので、俺は通路の壁を破って出て来たブルーアントの頭を殴って怯ませ、胴を殴ってシールドを剥がし、『昴』で両断して仕留める。
うん、フォッシルが性能的には鋼と同等で、『昴』がダマスカス鋼で出来ている事もあって、簡単に倒せるな。
≪生物系マテリアル:甲殻を1個回収しました≫
「しかし、簡易ラボに籠っている間にだいぶ掘られていそうだな」
『ブン。ただ、どれほど掘られていてもエレベーターに通じる道は確保されているはずです』
アント種は基本的な攻撃方法としては噛みつきとギ酸による攻撃を行ってくる。
その上で壁や天井に張り付く事が出来るので、どこからでも襲ってくる可能性があるし、何処で待ち伏せていてもおかしくはない。
だが重要なのは、特殊能力として、通常破壊不可能な坑道の壁や天井、床を破壊出来る事。
そのような能力を持つために、坑道内徘徊を始める黄緑より前のランクでも坑道内を徘徊する事がある事。
巣がフロアのどこかに存在していて、それが破壊されるまで高速でリポップする事だろう。
なので、俺が簡易ラボに籠ってゴーレムの調整をしている間にアント種はその数を増やし、坑道の構造を複雑化させているに違いない。
「だな。とりあえずエレベーターを見つけ出すぞ。稼ぎ作業はエレベーター近くでやるのが鉄則だ」
『ブン』
と言うか現に俺の前の通路は迷路のようになり始めている。
十字路が幾つも存在しているし、下り坂上り坂、何なら立坑も上下両方向に向かって存在している。
現状では元の通路の方が太く、綺麗な掘り進め方になっているので分かり易いが、時間が更に経てば、元の通路も部屋も侵食されて、訳の分からない構造になる事だろう。
余談だが、検証班によれば、アント種などによる穴掘りにはフロアごとに掘れる限界と言うものがあり、エレベーターに歩いて行けなくなるような構造だったり、穴あきになり過ぎて露天化してしまうような構造にはなったりしないそうだ。
「さてここは……部屋だな」
『ブン。部屋ですね』
「ザイ」
「「「ギギギギギ」」」
ようやく二つ目の部屋に到着。
部屋の中に居たのは棍棒持ちのグリーンオーガが1に、アント種が三色合わせて6か。
やっぱりアント種は多いな。
「ま、普通に狩っていくぞ」
『ブン』
部屋は既に壁、床、天井、いずれもアント種の働きによって穴だらけになっている。
そんな部屋の中をグリーンオーガは駆け、アント種たちはギ酸を吹きかけようと石筍に乗ったり、壁や天井に張り付いた上で尾部をこちらに向けてくる。
が、そのどちらも普段より遅い。
粘性空気の影響だ。
ついでに言えば、放たれたギ酸も遠くまで飛んで行かず、俺に届いていない。
どうやら魔物たちも粘性空気に慣れているとは言い難いようだ。
「ふんっ!」
「ザアアァァイ!?」
≪設計図:アントヘッドを回収しました≫
≪設計図:アントボディを回収しました≫
≪生物系マテリアル:甲殻を1個回収しました≫
≪生物系マテリアル:肉を3個回収しました≫
≪生物系マテリアル:骨を1個回収しました≫
と言うわけで、苦戦する要素も無かったので、さっくり終了。
報酬が手に入る。
手に入るが……。
「そう言えば設計図が手に入らなくなるアドオンとかあったな」
『ブン。ありましたね。ただトビィ』
「分かってる。付ける余裕はたぶんない。フロアが進むと緋炭石の消費も激しくなってくるからな」
使わない設計図も手に入っているので、ちょっと勿体なく感じるな。
まあ、これについては魔物からマテリアルを回収しようと思ったら避けられない話なので、仕方がないだろう。
俺はたぶん元からあったであろう通路を選び、次の部屋へと向かった。




