503:フロア1終了
「「「ヂュヂュヂュッ……」」」
「ヴィヴィヴィヴィヴィッ」
「テテテンテン」
「あ、この部屋は無理だな」
『ブブ。無理ですね』
次の部屋の様子を窺った俺は直ぐに踵を返した。
理由は単純。
中に居た魔物の面子と武装がちょっと相手をしたくないものだったからだ。
「ヴァイオレットゴブリンが6体も居る時点でどうかと思うのに、ヴァイオレットウィルスが居るのはなぁ……大惨事になる予感しか見えない」
『ブン。最悪、倒れるタイミングが被って、誘爆が発生する事も考えられると思います』
「そうなったら、シールドなしの現状だと即死まで見えてくるな……」
具体的には、銅製の銃器または盾を持ったヴァイオレットゴブリンが6体、その内の一体の頭にくっつくようにヴァイオレットウィルスが1体、何故かヴァイオレットテントウが1体。
計8体の魔物が居た。
数が多いのはゴブリン種、ウィルス種、テントウ種のいずれも個の能力が低い分だけ、1パーティ分の数が増えたからだろうが、その数の多さに銃器による全方位からの攻撃と、確実にしているウィルス感染による爆発を合わせたら、とてもではないが相手にしたい集団ではない。
それでも部屋の中にマテリアルタワーやエレベーターがあったら、どうにかして排除することを考えないといけなくなるのだが、今回はそんな事も無かった。
また、目の前の部屋を通らなければ入れない部屋と言うのも無さそうだった。
ここまで戦わない理由が揃っているなら、今後の為にも戦うべきではないだろう。
と言うわけで、俺は前の部屋に戻り、そこから別の部屋へと向かう。
「お、鉄だな。それに緋炭石」
『ブン。ブブ、トビィ、限定掘削のアドオンは効果が切れているので注意してください』
「分かってる。『昴』だけで掘削だな」
そうして訪れた次の部屋には鉄・火炎のマテリアルタワーと、緋炭石のマテリアルタワーがあった。
どちらも接触制限は30秒、3回。
アドオン『限定掘削:第五坑道・ネラカーン1』の効果は『昴』がダマスカス鋼・火炎製になったことで効果が切れているが、ダマスカス鋼の性能であれば問題にはならないだろう。
と言うか、彼我のマテリアルの性能差による補正を受けなくなる、と言う効果も失われることを考えると、むしろより多く手に入る可能性すらある。
「せいっ!」
≪鉱石系マテリアル:鉄・火炎を59個回収しました≫
≪特定物質:緋炭石を76個回収しました≫
と言うわけでサクッと回収。
鉄が59個か……これだけあれば、ヴァンパイアマントを筆頭とした、いつもの一式に特殊弾『シールド発生』も一発くらいなら作れる事だろう。
「今更なんだが、第五坑道のフロア1についてはだいぶ安定してきたな」
『ブン。確かにだいぶ安定してきたと思います』
他に回収するものは……無いようなので、さらに次の部屋へ。
ただ、俺の経験上、フロア1のマテリアルタワーはだいたいマテリアル3つに緋炭石1つで終わりなので、もう回収するものはないだろう。
確定情報ではないので口には出さないが。
「安定要因は……やっぱり『昴』か」
『ブーン。トビィ自身の実力が、だいたいの魔物を相手に初期状態でも戦えるというのも有りますが、それと同じくらいに『昴』が便利であるというのはあると思います。特に簡易ラボを使わずにマテリアルを変更できるのは、今回のような流れなら極めて有用ですから』
次の部屋は……何も無し。
なのでさらに次の部屋へと俺は向かう。
「エレベーター発見だな」
そしてエレベーターだけを見つけた。
『ブーン。簡易ラボを使うのはフロア2に着いてからですか?』
「そうなるな。簡易ラボの使用回数は抑えたいし、情報の取得範囲を少しでも広げたい」
俺は危険がない事を確かめると、エレベーターに乗ってフロア2へと移動し始める。
フロア1で簡易ラボを使わないのは……簡易ラボの使用回数を抑える事、いまいち頼りにならない坑道予測が2フロア先までしか映らない事、今回のフロア1にウィルス種が居るので生物系マテリアルを出したくない事、この辺の要素が合わさった結果だな。
勿論、リスクは相応にある。
フロア2からは菫だけでなく青と緑の魔物が出て来るし、簡易ラボを使う前にそれらに襲われる可能性もある。
厄介な仕掛けの存在や、危険なハプニングに遭遇する可能性だって当然ながら存在する。
実際、俺は全身岩のままフロア2に降りたら、落盤事故のハプニング、足止め特化構成な魔物たち、シンプルにエレベーターが見つからないの三重苦で見事に死に戻りしたことがある。
が、序盤なので、これぐらいのリスクは無視して踏み倒す。
遭遇したらシンプルに運が悪かったで笑って済ませ、再チャレンジすればいいのだ。
防衛戦と違って国家の存亡がかかっているわけでもないしな。
「さてフロア2は……」
そんな事を考えている間にフロア2へと到着。
えーと、今回のフロア2は物理属性の総岩造りで、俺が居るのは床や壁の一部に妙な造形の石筍がある部屋だ。
魔物の姿や危険な仕掛けは見られない。
しかし、何か妙な感じがあるが……。
≪空気の粘り気が強い。飛行や音に影響が出そうだ≫
「粘性空気のハプニングと言ったところか」
『ブン。そのようです』
どうやらハプニング増加チケットが早速仕事をしたらしい。
空気抵抗が少しきつくなっているし、音の伝わり方も少しおかしくなっている感じがある。
「ま、とりあえずは簡易ラボだ」
俺は簡易ラボを発動した。




