501:フロア1での回収
「ティガ。今の燃料状態は?」
『ブーン、82ですね』
「思ったより消費しているな……やっぱりウィルス種は積極的に戦いたい相手じゃないな」
ヴァイオレットボア3体とヴァイオレットウィルスの集団との戦闘は無事に終わった。
ウィルス種の能力による爆発で受けたダメージはヴァンパイアパーツの能力で十分に回復可能な範囲だったので修復済み。
だが、その能力による回復と戦闘そのもので合わせた燃料消費は……想定より少し多い。
『ブーン。コア『ドラゴネット』にした影響もあるのでは?』
「皆無ではないだろうな。コア『ドラゴネット』は全体的なスペック上昇と引き換えに燃費の悪化と竜種特効の対象になる事は現状でも確定しているわけだし」
まあ、これまでの第五坑道探索の経験上、フロア1に緋炭石のマテリアルタワーが無かった事は無いし、限定掘削のアドオン効果も合わせれば、これぐらいの燃料消費は許容範囲内だ。
と言うわけで、次の部屋に向かう。
「さてこの部屋は……ダマスカス鋼とフォッシルか」
『ブン。そのようですね』
次の部屋にあったのは二本のマテリアルタワー。
片方は表面に木目のような模様が浮かび上がっている鉱石系マテリアル:ダマスカス鋼・火炎のマテリアルタワーで、接触制限は45秒、2回。
もう片方は一見するとただの岩のようにもみえるが、表面に巻貝や牙、骨、植物の葉と言ったものが見て取れる生物系マテリアル:フォッシル・火炎のマテリアルタワーで、接触制限は10秒、5回。
性能的にはダマスカス鋼の方が上だが、接触制限の都合で取れる量はフォッシルの方が多くなりそうだ。
なので使い道としてはダマスカス鋼は『昴』に、フォッシルは体の更新に使うのが妥当だろう。
だが、ウィルス種が居る今回のフロア1で生物系マテリアルであるフォッシルを使うのは、感染のリスクを考えると問題があるので……更新自体がフロア1を降りる直前か、フロア2に降りた直後にするべきだな。
なお、フォッシルの性能は鋼と同じくらいである。
「回収するぞ」
『ブン』
俺は周囲に敵影がない事を確認すると、ダマスカス鋼・火炎のマテリアルタワーから殴り始める。
岩の拳でダマスカス鋼のマテリアルタワーを全力で殴るなど、本来ならばこちらの拳が一方的に割れるような行為だ。
が、今の俺はアドオン『限定掘削:第五坑道・ネラカーン1』を付けており、効果も適用されている状態であるため、問題なくダマスカス鋼のマテリアルタワーを打ち砕くことが出来る。
そして、ダマスカス鋼のマテリアルタワーを打ち砕いたら、次はフォッシル・火炎のマテリアルタワーを『昴』の射出も絡めて全力かつ素早く打ち砕く。
≪鉱石系マテリアル:ダマスカス鋼・火炎を41個回収しました≫
≪生物系マテリアル:フォッシル・火炎を101個回収しました≫
と言うわけで回収。
回収したが……少しフォッシルの方の採れた量が想定よりもちょっと少ないな。
まあ、殴った感触でも分かっていたことだが、流石に10秒と言う短い時間では、最高の一撃を5回出すのは無理だったと言うだけだな。
それに少ないと言ってもヴァンパイア一式を変えられるだけの量はあるので、問題はないだろう。
「じゃあ次の部屋だな」
『ブン。向かいましょう』
俺たちは次の部屋へと向かう。
これで四部屋目になるわけだが……。
「レコードボックスかぁ……」
『ブーン。またミミックですかねぇ……』
四部屋目には一見するとレコードボックスに見える物体が置かれていた。
いや本当にレコードボックスなのかもしれないし、そうじゃないのかもしれない。
どちらであっても設計図が手に入る事には違いない。
襲われずに手に入るか、襲われたのを撃退して手に入れるかの差でしかない。
うん、そうだ。
最近明らかになった事であるが、第五坑道にはミミックと言うレコードボックスに擬態する魔物が居るのである。
この魔物、倒せれば何かと美味しいのだが、強さも相応だし、他の魔物も呼び出してくると言うかなり厄介な魔物でもあるのだ。
なお、条件を満たすまでは絶対に動かないし、無敵状態でもあるので、判別する事は不可能と断言してもいい。
「ティガ。俺の勝敗は?」
『五戦全敗ですね。死に戻りしたのは初めて遭遇した時だけですが。それと一般的には本物とミミックの割合は3:1ぐらいと言われてます』
「……」
ちなみにここで言う勝敗とは、第五坑道で見つけたレコードボックスの内、開けることが出来たものの中でミミックだったのは何回かと言う話であり、ここで言う負けとは開けたらミミックだったパターンを指す。
つまり、俺は5回開けて5回ともミミックだったわけである。
なお、確率的には0.1%ぐらいの確率で起きるそうなので……まだなくはない範疇だろう。
そして、ここで更にもう一度ミミックを引く可能性は0.024%程度、か。
「よーし、挑むか。もうウィルス種が出てきたことも含めて、ハプニングが起きる前提で動こう」
『ブーン。これもある意味開き直りでしょうか……』
俺はレコードボックスに手をかざす。
で……。
「ミミガァ!」
「うおっと!」
表示された選択肢を見ることなく後ろに転がる事で、ゴーレムのコアがある場所に向かって薙ぎ払われた相手の攻撃を回避する。
どうやらミミックだったらしい。
「ミミミミミ……」
「さて何型だ? 後取り巻きはなんだ?」
正体がミミックだったレコードボックスが変形していき、戦闘のための新たな擬態を取り始める。
と同時に、転移エフェクトがミミックの周囲に三つ現れて、そこからミミックに引き寄せられた魔物が姿を現す。
『トビィ。ヴァイオレットミミック:カクタス型、ヴァイオレットボア、ヴァイオレットウィルス、ヴァイオレットテントウです』
「みたいだな」
そうして現れたのはカクタス種の姿を模したヴァイオレットミミック、既に突進の体勢を整えているヴァイオレットボア、そんなボアに素早く馬乗りになって仕込みを済ませたヴァイオレットウィルス。
それから菫色の甲殻を持つ大きさ50センチほどのテントウムシ……ヴァイオレットテントウだ。
「ミミックゥ!」
「さて戦うか」
では、予期せぬ戦いではあるが、戦うとしよう。
ミミックの出現ですが、適当な乱数生成ツールで特定の数字以下が出たならば出現と言う形で判定しました。
具体的には
乱数:1~100
出目が25以下なら出現
結果は16。
ガチの一発勝負でこれだったので、実にトビィです……。




