395:多数の緋色
「はぁ……えげつないにも程がある」
『ブン。危うく直撃するところでしたね……』
俺はどこかに居るスカーレットドレイクからの射程フロアによるブレスを凌ぎつつ進んでいた。
と、言葉で言ってしまえば簡単だが、実態は中々に厳しいものである。
一度はパウダースノーで足を僅かに滑らせた瞬間に転移エフェクトが出てきた。
転移エフェクトに反応して飛び出したら、その先に竹藪があって、頭から突っ込んだ時もあった。
パウダースノーに隠れていた窪みでスっ転んだ瞬間に、と言うのもあった。
ぶっちゃけ、かなり危ない場面があったのである。
『トビィ。流石に疲れている感じですか?』
「だな。やっぱりヴァンパイアパーツの再生と『昴』の収奪を組み合わせるのは無理があったらしい。その上にドレイクって言うマトモに攻撃を受けるわけにはいかない魔物が相手だったからな。自覚できない程度には疲れて、戦闘終了で気が抜けたから表に出てきた感じだな」
まあ、俺は無尽蔵の体力を有しているわけじゃないからな。
無理や無茶をすれば、その分だけ疲れはする。
誰かを殴らせてもらえれば、それなりに気力は回復するのだが、スカーレットドレイクとの戦いはそういう暇もなかった。
だから、今抱えている微妙な疲れは仕方がない事である。
「さて、見えてきたな」
『ブン。見えてきましたね』
そして、疲れを抱えていてもフロア10の探索を中断するわけには行けないし、戦いを止めることも出来ない。
俺は視界に入ってきた、次の魔物が居る部屋の様子を観察し始めた。
「……。ドレイクは居ないか。黒キパもたぶん居ない」
『ブーン。スライムの有無は能力もあって分かりませんね』
次の部屋にはスカーレットモス、スカーレットポット、スカーレットイールがそれぞれ複数体居るようだ。
姿は見えないが、スカーレットスライムも何処かに居る事だろう。
総数は観測できた範囲でも7以上と多い。
どいつも亜人系の魔物と違って武装の類を持てない魔物であるが、代わりに俺が部屋へ突入すると同時に殺到してくることを考えると、トーチカに攻め込むのと危険度的には大差はなさそうだ。
「さて、相手の能力も考えると、通路に引き込んで、削りを入れつつ退いて、適宜トドメを刺していくのが本来なら正解なんだろうが……急がないとな」
『ブン。次のブレスが何時来てもおかしくないので、急いだほうがいいと思います』
この集団を無視し、迂回し、スカーレットドレイクあるいは黒キパを探すのは、この集団がそれらと合流してしまう可能性を考えると悪手。
倒せる魔物は倒せる内に倒しておいた方がいい。
だが、正直に真正面から挑むのは、今の俺でも返り討ちに合う可能性を否定しきれない程度には危険。
となれば、戦い方の選択肢は……実質一択だな。
「じゃ……行くぞオラァ!」
俺はまず二つのグレネードを部屋の入り口と中心へと投擲。
二つのグレネードに気づいた魔物たちは直ぐにグレネードから距離を取り、魔物たちが十分に距離を取ったところでグレネードは爆発。
特殊弾『煙幕発生』と特殊弾『焼夷ガス発生』によって、視界が遮られるほどの煙が生じる。
これによって、部屋の中は実質的に分断された。
「飛び込んで……」
そんな煙の中へと俺は一歩目で突入し、二歩目で直前の動向からスカーレットモスが多そうだと思った方へと飛び出る。
「「「モモモガー!」」」
「イルル!」
「ポトポットォ!」
見える範囲で居る魔物はスカーレットモス3、スカーレットイール1、スカーレットポット1。
妙に水量の多い湧き水が見えるので、たぶんスカーレットスライムも1か2で居る。
それと背後の物音からして、煙の向こうの魔物たちは煙を回り込むようにこちらへ向かってきているようだ。
「殴り撃つ!」
「モガァ!?」
ならば此処からは時間の勝負。
俺はまず一番隙だらけに見えたスカーレットモスの懐に飛び込んで、右手で殴り、『昴』を撃ち込む。
これだけでシールドを剥がせると思ったが……僅かに残っていたので、追撃の蹴りと斬撃で仕留める。
と同時に煙向こうの魔物たちが通りそうな場所へと追加の煙幕を展開して、突入を躊躇わせる。
「「「モッスゥウガァ!」」」
「2被弾。ならよし!」
こちらに居るのと、煙の向こうに居るもの、両方のスカーレットモスたちが部屋中に鱗粉を放ち、避ける余地を与えずに俺へとDoTを与えようとしてくる。
だが決まったのは2つだけ。
どうやら竜命金の状態異常を防ぐ性質が仕事をしてくれたようだ。
なので俺はDoTの回復はヒールバンテージに任せて、スカーレットモスたちを殴り、斬っていく。
「ウナッギィ!」
「スラァ……」
「「「ポットォ!!」」」
しかし、その間にも他の魔物たちが仕掛けてくる。
スカーレットイールの電撃が飛んでくる。
スカーレットスライムの奇襲も仕掛けられる。
煙の壁を踏み越えてきたものも含めて、スカーレットポットたちが突っ込んでくる。
俺はそれに順番に対処しつつ、スカーレットモスたちへの攻撃をさらに行っていく。
「……。ちっ、やっぱりそういう事か」
そして、それらの動きの最中に俺は気づく。
此処に居る魔物たちはこのフロアでこれまでに戦ってきた同種の魔物たちよりも少しだけ鋭く、力強く、何より堅い。
何故か。
「ブラックミノタウロスと同じ、味方を強化する能力をランダム強化で得た奴が居るな」
ランダム強化の影響だ。
魔物たちの動きから、どいつが指揮個体とでも言うべき魔物なのかは分かる。
だがそれでも今の俺と『昴』ならば倒す優先度を変えるほどではないと、俺は判断した。
だから俺はこちら側に居るスカーレットモスを全て仕留めると、煙の向こう側へと駆け出した。




