394:竜命金の昴
「ーーーーーーー!?」
スカーレットドレイクの理解できないと言わんばかりの叫び声が部屋中に響き渡る。
だが俺にしてみれば、この結果は至極当然のものでしかない。
ポリプーロの契約武装『昴』は破壊されると、俺のインベントリにあるマテリアルを消費して復活する。
インベントリにあるマテリアルだけでは足りないと言うならば、俺が操るゴーレムを構成しているマテリアルからも使えるものをかき集める。
では、『昴』の考える足りないとは?
それは、俺が殴れるだけ相手を殴りたいのと同じように、かき集めて蓄えられるだけ蓄えたいと言う事であり、設計図の記載通りなら2500個までは集められるなら集めて見せるだろう。
しかし、俺が必要ならば拳で殴る事を諦めて、『昴』を握り締めるように。
『昴』もまた、必要ならばマテリアルをかき集める行為を諦めるし、加減することも出来る。
『昴』には我慢をすることが出来る理性も、何が自分にとって良いのかを判断できる知性も備わっているのだから。
そんな『昴』だからこそ、俺のインベントリから取った竜命金・氷結を元にして、ヴァンパイアパーツで出来ている俺の右腕と胴体を修復可能な範囲で削り、己の糧にすることが出来ている。
そうして出来た『昴』は、既にただの竜命金製の剣では説明がつかないほどの力を備えている。
だから、俺がきちんと扱うならば、虹のランクの魔物よりも少し堅い程度だと思われるスカーレットドレイクの指を切り落とすくらいは出来て当然のことでしかないのだ。
「ーーー! グルウウゥゥアアアァァァッ!!」
「さて、余裕もないからな。斬れるところから斬っていくぞ」
スカーレットドレイクが怒りと痛みに任せるように暴れ始める。
だが、理性的かつ狙って振るっても届かなかった力が、感情のままに振るわれても届く道理はない。
俺はスカーレットドレイクの攻撃を避けると、すれ違いざまにその体を切り裂いていく。
初めは甲殻と甲殻の隙間と言う守りの薄いところから浅く。
肉に届かせ斬れると分かったならば、次は甲殻そのものを。
強い攻撃のために床をしっかりと掴む鉤爪を。
最も堅そうだと判断していた背中の棘すらも。
俺はより多くの竜命金で構成されることで刻一刻と強化されていく『昴』によって、難なくスカーレットドレイクの体に深い切り傷を、あるいは痛々しい切断面を作り出していく。
『トビィ。二重推進は控えてください。燃料の補給が間に合いません』
「分かった」
だが決して余裕があるわけではない。
貯め込んだ緋炭石は湯水のごとく消費されていくし、燃料も再生と戦闘の両方で消費する事で乱高下している。
スカーレットドレイクの攻撃は相変わらず当たれば致命傷。
『昴』に削り取られる腕と胴体はその分だけ強度を落としてもいる。
そしてなによりも、俺の腕と胴体を『昴』が削り取っていく感覚がかなりの不快感を伴っている。
その感覚は正に命を流し込んでいる……いや、吸い取られている感覚とでも言えばいいのだろうか?
『昴』によって肉が、骨が、皮が、神経が齧られ、むしり取られ、剥ぎ取られると同時に、刃へと大量の血と熱が流れ込んでいるような感じ。
戦闘中の高揚感をもってしても打ち消しきれない、嫌な感触があるのだ。
「ふんっ!」
「ーーーーー!?」
しかしそれでも他に手はない以上はこの力を使う他ない。
だから俺は、俺を噛み砕こうとしたスカーレットドレイクの頭を紙一重で避けると、お互いの速度を生かすように『昴』を振り上げて、スカーレットドレイクの右目を深く刻み、焼き、蝕む。
「ガアアアァァァァァッ!!」
「おいおい……」
そうして遂に右目までも失ったからだろうか?
スカーレットドレイクは傷だらけの全身を動かし、後ろ足で無理やり立ち上がると、ブレスの構えを見せる。
それもこれまでにはないの輝きを蓄えた、自爆覚悟であることが見て取れるブレスだ。
「それは即詰みだぞ」
「!?」
だが同時に、その姿はいっそ哀れなほどに隙だらけだった。
そして、それほどの隙を見逃す理由は俺にはない。
俺は三重推進で飛び上がり、スカーレットドレイクの首、甲殻と甲殻の隙間、分厚い皮の下に隠れる肉や血管、骨に神経と言ったものに比較的近い場所へと正確に拳を撃ち込む。
そうして拳を撃ち込み、返ってきた衝撃で俺の狙い通りの位置と角度であることを確認。
その上で撃ち込んだ拳の加速度が完全に消えるよりも早く『昴』を射出。
「ーーーーー!!?」
放たれた『昴』は進路上にあったものを全て引き裂いて貫通した。
スカーレットドレイクの皮も、脂肪も、肉も、太い血管も、骨と骨の間にある神経も、何なら頭から胴体の間にある魔力と呼気の流れも全てだ。
結果。
首が落ちる事こそなかったが、生命維持に必要な全てを断たれたスカーレットドレイクは傷口からブレスのためのエネルギーを猛烈な勢いで噴出させつつ倒れた。
「ーーーーー……」
「ま、折角だからちゃんと首は落としてやる……よ!」
殴っても有効打にならない以上、手早く終わらせる方が誰にとってもいいだろう。
そう判断した俺は射出した『昴』を手元に戻すと、倒れたスカーレットドレイクへと注意しながら近づき、先ほど付けた傷口へと両手で『昴』を振り下ろすことによって、スカーレットドレイクを完全に落とす。
するとそれがトドメとなったのだろう。
スカーレットドレイクの体は呆気なく消えた。
≪生物系マテリアル:甲殻・氷結を1個回収しました≫
≪生物系マテリアル:肉・氷結を1個回収しました≫
≪設計図:サルフリックポットを回収しました≫
≪鉱石系マテリアル:隕鉄・氷結を1個回収しました≫
≪設計図:特殊弾『ドレイクブレス』を回収しました≫
≪設計図:ドレイクヘッドを回収しました≫
≪生物系マテリアル:肉・氷結を1個回収しました≫
「よし」
ポケットアリーナが解除され、報酬のアナウンスが入る。
サルフリックポットは……硫酸入りポットで、他の特殊弾とパーツはドレイク由来。
後で確認したい奴だな。
「さて、これで転移エフェクトからのビームと言うかブレスは……」
俺は自分の状態を確認する。
手持ちの緋炭石の残りは100個だけ。
ヴァンパイアアームRとヴァンパイアボディの状態は完全な状態。
『昴』は竜命金100個ちょっとで作られている扱い。
どうやら、思った以上にヴァンパイアパーツの再生と『昴』の徴収によるコンボは燃費が悪いらしい。
おかげで仕様として許されていそうだとも思ったが。
それにまあ、スカーレットドレイクが斬れるなら他の魔物も斬れるわけだし、これ以上の強化が出来なくても問題はないだろう。
射程フロアの転移ブレスを使うスカーレットドレイクを倒したので、もうそれに煩わされる心配もない。
今の戦闘で時間をかけ過ぎた自覚もあるので、他の魔物たちの集合もたぶん終わっている。
これらを合わせて考えると、ここからは急ぐ意味合いは薄いな。
『トビィ!』
「……」
と、思っていた時がありましたとさ。
俺の目の前に転移エフェクトが生じ、そこから予告線がこちらに向かって伸びるまでは。
「ああそうか。あれほどの魔物でも所詮は雑魚扱いだから、複数体居ても何もおかしくは無いんだな。ふっざけんなあああぁぁぁぁっ!」
俺が叫びつつ回避行動を取ると共に、やはりビームにしか見えないブレスが放たれた。
大量の燃料を消費する上に多大な不快感を伴うため合法です。




