393:スカーレットドレイク
「グルアアッ!」
スカーレットドレイクが前足を振り上げ、俺を巻き込むように正面を薙ぐ。
「さて、どうしたものだろうなぁ……」
当然、そんな攻撃に当たる俺ではないので、普通に避けて、すれ違いざまに殴る。
「ガアアアァァァァッ!」
ブレスを吐かれる。
だがそれも、素早くスカーレットドレイクの背後に回り込み、スカーレットドレイク自身を盾とすることで難なく凌ぐことが出来る。
ついでに殴る事も『昴』を撃ち込むことも出来る。
「グルッ、ギグッ! ドオォォレエエェェ! ガアアァァァァッ!」
取り巻きを巻き込む心配がなくなったからだろう。
スカーレットドレイクの攻撃はパターンが増え、前足とブレスの二つだけでなく、長い首を操っての噛みつき、重量級の体を動かしてのタックル、太い尾による薙ぎ払い、場合によっては後ろ足で立ち上がってからのプレスにブレスまでやってくる。
しかし、そのいずれも脅威ではない。
直撃すればタダでは済まない攻撃ではあるが、スカーレットドレイクの速さでは、『赤魔滾り』による強化も受けている俺を捉えることが出来ないからだ。
だが、別の点が問題になっている。
「分かってはいたが、防御力は黒相当……いや、黒を明らかに超えているな」
『ブブ。黒以上と言う事は……』
「グルアアアッ!」
そう、今の俺にとって問題となっているのは、ただひたすらにスカーレットドレイクが堅い事。
その堅さは、ブレスを放つ隙を突いて、比較的柔らかいであろう甲殻の隙間を狙い、全力で殴った上に『昴』を撃ち込んでもようやくシールドが2%削れるかどうかであり、リスクを負って殴り続けてもようやくシールドの自然回復を相殺できるかどうかなぐらいなのだ。
「ああ、虹だ。素早さの件も考えると、虹1.5ぐらいには防御面は強化されていてもおかしくないな」
『ブブ……』
まあ、おかしな話ではない。
ドラゴンは同ランクの魔物と比べて2ランクは上のスペックを持っていると言われる。
であれば、ドレイクも総合的に見れば2ランク上でもおかしくないし、素早さが削られているならその分だけ攻撃と防御が強化されているのは順当なところだろう。
そして、この考えが正しいのであれば、スカーレットドレイクの防御能力は緋色の二段階ちょっと上、レインボーとレインボー2と称される魔物の中間点ぐらいでもおかしくはない。
で、そんな魔物であれば……まあ、竜命金で出来ている拳はまだしも、数で強化されているとは言え元は橙のランク相当であるダマスカス鋼・氷結製の『昴』ではマトモにダメージを与えられないのは当然と言えるだろう。
「ガアアアアッ!」
「口の中へのグレネードも駄目か」
ではどうやって倒すか。
スカーレットドレイクがブレスを放つタイミングで口の中に二つのグレネードを投げ込んでみたが、やはりランク不足なのだろう、マトモなダメージにはならなかった。
フェアリーパウダーによるバフはこういう時に限って防御強化や素早さ強化ばかりで、攻撃系統のを引けたと思ったら、ダメージ増加と言う相手の守りの影響を受けた後の部分を強化されるものであったりと、奮わない。
ならばとルビー・火炎製であるサーディンダートで攻撃して、物理面ではなく属性面で攻めてみたりもしたが、これもやっぱりまともなダメージにはならなかった。
「仕方がない」
であれば残す手段は二つ。
そして、ポケットアリーナの評価を考えると、その二つともを使うしかないだろう。
「ガアアアアァァァァァッ!」
スカーレットドレイクがもう何度目かになるブレスを吐く。
俺はそれをスカーレットドレイクの背後に回り込むことで回避すると、蹴りの姿勢を取る。
「特殊弾『魔払い』、発動!」
「!?」
光り輝く蹴りがスカーレットドレイクの後ろ足に触れる。
するとそれだけで、スカーレットドレイクのシールドは全損した。
これが特殊弾『魔払い』。
キーパーやムカデ種のような一部の魔物には効果はないが、魔術原理によるバフデバフの類であれば、シールドですら一発で解除してしまえる特殊弾だ。
「グルアッ!」
「っ!?」
殆ど反射的にと言った様子でスカーレットドレイクは俺に蹴られた足を動かす。
だが、そんなちょっとした動きであっても、スカーレットドレイクの体格と攻撃力ならば十分な脅威となる。
スカーレットドレイクの蹴りは効果に見合ったリスクだと言わんばかりに、不自然に長い硬直中であった俺へと向かってきて、俺に出来る事はギリギリで右腕を攻撃へ挟み込み、右腕と胴体で衝撃のほぼ全てを吸い込むことまで。
そして、特殊弾『魔払い』の効果によってシールドを失っていた俺は、受けた衝撃を無かった事にすることが出来ず、右腕と胴体に大きなひび割れを入れながら吹き飛ばされることになった。
『トビィ。燃料のみを消費して、ヴァンパイアアームRとヴァンパイアボディの修復を行います』
「ああ、分かった」
しかしこれでいい。
死ななければ安い。
燃料だけで直せるならばなお安い。
破格値とすら言える。
そんな値段でスカーレットドレイクのシールドを吹き飛ばせたのだから、本当にお得だ。
『続けて特殊弾『シールド発生』隕鉄を使用します』
「頼む」
「グルルルル……」
とは言え、これでようやくシールドを剥がせただけで、スカーレットドレイクの体自身はまだ万全な状態。
おまけにマトモにダメージを与える手段が限られているのも変わらずだ。
「さて『昴』」
だから俺はもう一つの手段も使う。
「事前の取り決め通りにやれよ。そうすれば、お前も俺も大満足できるだろうからな」
俺は右手で『昴』の持ち手を、左腕で『昴』の刃を強く、とても強く握りしめる。
すると『昴』からは興奮を隠しきれない様子が伝わってきた。
どうやら行けそうだ。
「喰らえ、ポリプーロの契約武装『昴』。竜の命を模したる金を!」
≪設計図:ポリプーロの契約武装『昴』の効果により、インベントリのマテリアルを消費して強制実体化します≫
≪事前規定に従いインベントリの竜命金・氷結だけでなく、現在のゴーレムを構成している竜命金の一部も消費します≫
俺は『昴』を握り潰し、握り潰された『昴』は黄金の輝きを放ち始める。
「グルアアアァァァッ!」
そして黄金の輝きは潰される前と同じ『昴』の形を取り……
「ッ!?」
「ーーーーーーー!?」
「いい感じだ」
スカーレットドレイクの前足の指をまずは一本、難なく切り飛ばした。




