386:シーフードカレー
「いただきます」
本日の昼食はシーフードカレーにスパイスを利かせた鮭のフライである。
辛みが大きな波となって押し寄せてくるが……うん、美味しいな。
なお、選んだ理由はなんとなくである。
「スバル。フロア9.5到達おめでとう」
「ヤスコか。そっちは……忙しそうだな」
「ええ。相変わらず忙しいわ。猫の手も借りたくなるような面倒事を運営が押し付けて来るのよ」
そこへハンネ……ヤスコが現れる。
その表情はヤスコにしては少々疲れ気味なものである。
どうやら運営からの依頼で色々とやっているらしい。
「こっちの『昴』の件か」
「ええ、そっちの『昴』の件よ」
俺は席に立てかけてあるケースに入った『昴』を小突きながらヤスコに話しかける。
まあ、実のところ、ヤスコが何をやっているかはだいたい分かる。
『第二次防衛戦』では陽泉坑道・プラヌライに入れるプレイヤーを限るという話はもう聞こえてきているし、許可されたプレイヤーの下にハンネがやってくると言う話も流れてきているからだ。
「まあでも、『タングススティック』や『プラチナムス』とかは素直に話を聞いてくれるから簡単だったし、『シルバーバック』や『アイアンボーン』とかも根掘り葉掘り聞こうとするだけで話自体は通じるから、そこまで問題ではなかったわね」
「だろうな。問題は『ネオンライター』に『英雄譚吟遊団』とかか?」
「その二つはそもそも素行が悪いから許可自体が下りてないわ。面倒だったのは捕まえづらい個人とか、『C』みたいな情報を得たいけれど、方法がよく分かっていない連中ね。苦労させられたわ」
「お疲れ様だ」
ただ、何処が大変だったのかは、俺の想像からは少しずれていたようだ。
だが確かに『ネオンライター』や『英雄譚吟遊団』にはそもそも許可が下りないよな。
プラヌライの騎士武装、ポリプーロの契約武装を得た際に手に入る力が圧倒的なものになり得るのは俺が証明しているわけで、そんな力を素行不良なものには渡せないし……渡した場合には相応の裏が動くだろうな。
「歓談中失礼するよ」
「……。本当に居た」
「ああ、そういえば今日だったわね」
「ん?」
と、ここで声がかけられる。
新たな声の片方は雲井さん。
そして、もう片方の声は聞き覚えはあるが、現実で聞くとは思っていなかった声だった。
「あー、もしかしてネルか?」
「……。正解」
声がした方には雲井さんともう一人……高校生くらいの女子と称して問題のない外見であり、ゲーム内で見かけている彼女から髪色などを少しだけ変えた女性が立っていた。
どうやら『Fluoride A』のメンバーの一人であるネルであるらしい。
「ほぼそのままのアバターだったんだな」
「……。リアルバレは一部の特徴的な部分だけ変えれば問題ない。だから体格そのままのが効率的」
「なるほどなぁ」
うん、それは納得がいく。
俺も似たようなものだしな。
「で、なんでネルは研究所に?」
「そこら辺は私から説明するわ」
「……。任せた」
さて、どうしてネルが伏屋研究所と言う一般人お断りの場所に居るのか。
それについてはヤスコから説明があった。
どうやら『第二次防衛戦』の日には、プレイヤーたちの安全を考えて、この辺りに居るプレイヤーの中でも有力な一部のプレイヤーを伏屋研究所に招くことになったらしい。
なので当日にはフッセやリツも他のプレイヤーと共に伏屋研究所に来るそうだ。
で、ネルは専業主婦で時間的に余裕があるため、今日の内に下見に来たとのことである。
「音流は相変わらずだね。最低限の説明だけだ。まあ、効率はいいけどさ」
「……。それは旧姓。今は沖」
「ああそう言えばそうだったね。沖先生は元気?」
「……。もちろん元気。今日も元気に授業をしている」
余談だが、ネルと雲井さんは同級生であるらしい。
年齢相応の外見をしている雲井さんと、今でも中高生で通じそうなネルが同い年と言うのには違和感を感じるが……まあ、ネルの外見については俺が気にする事ではないな。
後、ネルの旦那さんに関しては外見以上に気にしないでおく。
色々とツッコめそうな話が漏れ聞こえているが、俺には関わりがない事なので。
「しかし、『Fluoride A』の面々がリアルでも集合か。『第二次防衛戦』中に余裕があればオフ会でもやるか?」
「そこは『第二次防衛戦』終了後じゃないかい? 祝勝会も兼ねる感じでさ」
「……。雲井の意見に賛成。憂いなく出来る方が効率的」
「まあ、考えておいてもいいわね」
折角集まるならとオフ会提案をしてみたが……うん、通りそうだな、この感じだとな。
「ちなみにフッセとリツは未成年だし、その後の状況的にもたぶんお酒はないけど、その点については?」
「ん? 酒とか要るか? 俺は要らないんだが」
「……。酒は不要。現代では非効率的」
「要らないと思うよ。ここには危険物も相応に多いからね」
「じゃあ、開くなら酒抜きの方向ね。ふふふ、折角だから色々とふんだくってこようかしら」
なお、酒が出る事は無い。
俺たち全員、酒を飲む気はまるでないからな。
「さて、俺は第四坑道攻略に戻るか」
「頑張ってね。スバル」
「頑張ってくれ。虎蜂君」
「……。期待してるトビィ」
その後、昼食を終えた俺は幾らかの情報収集と精査をした後、スコ82にログインして、攻略を再開する事にした。




