表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『Scarlet Coal』-殴り魔は自らの欲を満たす  作者: 栗木下
2:第二坑道・ケンカラシ
23/619

23:第二坑道・ケンカラシへの進入

≪街坑道・ヒイズルガより通信が入りました≫

「ん?」

 第二坑道・ケンカラシへ向かってエレベーターが下降していく。

 と同時に、通信とやらが入った。


『突然の通信失礼。私の名前はヤマハ・カネヒロ。街坑道・ヒイズルガの長である』

 視界に移りこんできたのは、寂しい頭頂部ともじゃもじゃの鼻から下を併せ持つ、一言で表してしまうならドワーフっぽい男性だった。

 街坑道・ヒイズルガの長とか言っているし、重要NPCの類だろうか?

 普通こういうところは見た目の良い受付嬢的なものを持ってくるものだと思うが……そこはプレイヤー一人につき一体ついているサポートAIが受付嬢的なものの枠を埋めてしまっているから、置けないのか。

 それでもドワーフのおっさんなのは、俺たちプレイヤーの役割が鉱員に近いものであったとしてもどうかとは思うが。


『まずは第一坑道・レンウハクの踏破成功おめでとう。これで君はいっぱしのゴーレム使いとして認められた』

『あ、トビィ。スキップして構いませんよ』

「ん? いいのか?」

 話が長くなりそうだ。

 俺は僅かに感じ始めた眠気にそう思ったが、ティガの言葉で意識が覚醒にまで戻ってくる。


『ブン。構いません。どうせこの映像は録画です。校長や会長が式で長々と行う話よりも有益であるとは言いますが、文章で読んでも問題ない程度の話です』

「そうなのか。じゃあ、スキップで」

 ヤマハは何かを言っているようだったが、スキップして問題ないと言うならばスキップしてしまおう。

 俺は長い話を聞いていられないからな。


≪『第二坑道・ケンカラシ』に到着しました≫

「お、着いたな」

『ブン。実のところ、どの坑道に移動するにしても、かかる時間は特に変わらないのですよ。物理的に下にあるわけではありませんから』

「まあ確かに。でないと、同じエレベーターに乗ったのにレンウハク、ケンカラシ、ヒイズルガ、なんならコロマスンにも行けるのがおかしいもんな」

『ブン。その通りです』

 エレベーターの扉が開いた。

 俺はエレベーターの外に出ると、ティガの言葉に耳を傾けつつ、周囲を警戒する。


「なんと言うか……第一坑道・レンウハクと変わりがないな」

『ブン。ラボのエレベーターが通じているのは、それぞれの坑道の中でも比較的安定している場所であり、それ故に似通ってもいますから』

「ふうん」

 俺が立っているのは坑道の通路だった。

 道の幅、岩壁と木の柱、ランタンのような明かり、どれも第一坑道・レンウハクと変わりがない。

 だが、ティガの言葉が正しいなら、これは仕方がない事のようだ。

 逆に、第一階層から全く別物の空間に出る場合は……きっとそれだけ危険な坑道という事になるのだろう。

 そんな場所に挑むのは、当分先になりそうな予感があるが。


「ティガ。確認だが、他のプレイヤーが同じ階層に居る場合、居ると表示されるんだよな」

『ブン。表示されます。ただ、第一階層で遭遇することはほぼあり得ません。ラボから降りてこられるほどの安定性は、他プレイヤーと探索する坑道が一致するという不安定性とは相反するものですから』

「なるほど。じゃ、対人は基本的に第二階層からか」

 移動を開始。

 曲がり角では注意を払うが、それ以外では特に気にすることなく奥へと進んでいく。

 そして、部屋が見えてきたので、部屋の中の様子を遠くから窺ってみる。


「「グルルル……」」

「おー、容赦ないというか、本当にチュートリアルが終わってマトモな探索が始まったというか。そんな感じがするな」

『ブン。トビィなら大丈夫でしょうが、注意は必要でしょう』

 部屋の中には二匹のハウンドが居た。

 ただし、色は白ではなく紫、パープルハウンドだ。

 それはつまり、油断したり、回復する暇がないほどにボコられたりすれば、倒されてしまう可能性が一応存在しているという事だ。


「じゃあ折角だ。モロトフラックを試しつつ行くとするか」

『ブン。ご武運を』

 俺は背負子から岩で出来た瓶を一つ取り出す。

 すると瓶の口に火が灯り、中に入っている可燃性の液体が揺れる感覚を感じ取ると共に、油特有の臭いが俺の鼻にまで伝わってくる。

 持った感じとして、この岩の瓶は見た目以上に脆い。

 ある程度以上の勢いで投げたり落としたりすれば、簡単に割れて中の液体をまき散らすに違いない。


「すぅ……ふんっ!」

「「!?」」

 俺は部屋の中に向けて火炎瓶を投擲。

 狙い違わず飛んで行った火炎瓶は二匹のパープルハウンドの間の空間に向かって飛んでいき、自分たちに向かって飛来する物体がある事に気が付いたパープルハウンドたちは素早く左右に移動して回避。

 地面に到達した火炎瓶はそこで割れ、落ちた場所を中心に直径2メートルぐらいの広さに炎の海を作り上げる。


「結構いい感じの火力だ。じゃ、このまま前進だな」

 俺は狙い通りに炎の海が出来たことを確認すると部屋に向かって進む。

 パープルハウンドたちは通路に飛び込んでくるような真似はしていないし、音と臭いからして待ち構えても居ない。

 こちらを警戒しているだけだ。


「「バウッ!」」

 そうして俺が部屋に入るのに合わせて、左右同時にパープルハウンドが飛び掛かってくる。

 だが、狙いは違う。

 右のは足狙いで、左のは首狙いだった。

 これならすぐに終わるな。


「おらぁ!」

「キャイン!」

 俺は軽く体を屈め、四股を踏むように右足を上げる。

 そして、タイミングを合わせて右足を振り下ろし、右から来たパープルハウンドを踏みつけ、倒す。

 で、この間に首狙いだったパープルハウンドは俺の首があった場所を飛び越えてしまい、着地、素早く方向転換して俺に噛みつこうとしてきたが……。


「あらよっと!」

「ギャウウウゥゥン!?」

 素早く右フックで殴り飛ばし、まだ燃えていた火の海へとシュート。

 殴りと炎、両方のダメージによってあっけなくもう一体のパープルハウンドも死んだ。


≪設計図:ハウンドボディを回収しました≫

≪生物系マテリアル:肉を1個回収しました≫

「ま、菫キパを倒せたんだ。数が増えてもパープルには苦戦しねえよな」

『ブーン。そうだといいですね』

 そうして、俺は第二坑道・ケンカラシでの初戦をノーダメージで切り抜けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] うーん、トビィに対する特攻は「スキップ不可」だな 強制的にバステ付与できそうだw
[一言] いちいちプレイヤーに語りかけるとは無駄に気合入ってるな、と思ったら録画かw合理的ねw モロトフも岩?と思ったけど、そりゃ作った素材の瓶になるか。 ……肉の瓶とかいやだなぁw
[良い点] それを飛ばすなんてもったいない。 何度も聞いてる検証班もいるんですよ! 私はドワーフっぽいおっさんありだと思います。 [気になる点] 〈数が増えてもパープルには苦戦しねえよな 以前某ゲ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ