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『Scarlet Coal』-殴り魔は自らの欲を満たす  作者: 栗木下
6:集図坑道・ログボナス

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222/619

222:現実の変化

「ふぅ。とりあえず水を飲んで……」

 スコ82からログアウトした俺は準備が整った室内を歩いて台所へと向かい、コップ一杯分の水を一気に飲み干す。

 そして、その頃には既に俺の足元に『昴』が出現している。

 ミスリル・電撃と言うこの世には存在しないはずの物質で構築された『昴』が、だ。


「ケースに収めてっと」

 さて、レッドヴァンパイアに挑み始めてから十日経ったという事は、『昴』を持ち歩くために必要な諸々の準備を願ってから相応の時間が経ったという事でもある。

 で、この状況には流石の政府も機敏に反応してくれて、鍵付きの専用ケースと許可証はあっさり用意されたのだった。

 なので、この後の為にも俺は専用ケースに『昴』を収めると、背負う。


「スバル。準備は整っているかしら?」

「大丈夫だ、問題ない」

 と、ここでこの後の予定に同行するハンネ……ヤスコもログアウトしてきたらしい。

 俺に声をかけてくる。


「そう。それじゃあ、あちらの車も既に来ているようだし、行きましょうか」

「分かった」

 ヤスコの準備は……問題なさそうだな。

 そうして俺は政府が用意した黒塗りの車にヤスコと共に乗り込み、引っ越しが始まった。


 そう、引っ越しだ。

 『昴』関係で、今後の俺は政府ととある企業が共同管理する研究所に勤める事になる。

 その研究所と言うのが俺の自宅からは遠く、とても通える距離ではないという事もあって、費用全額向こう持ちで引っ越しする事になったのだった。

 そんな急な引っ越しのおかげで、スコ82のプレイには支障は出なかったが、それ以外はまあ、色々とあって……大変だったのが、俺のここ数日だったりする。


「あ、また一人亡命政府の高官が殺されてる」

「民衆か? 軍か? 魔物か?」

「今回は民衆みたいね。まあ、はっきり言って黒側っぽいし、自業自得って奴じゃないかしら」

 大変だったのは現実社会の情勢もだ。

 第一次防衛戦の敗北国がもはや人の住めない土地となり、そこに残っていた住民の生存は絶望視。

 国土の回復も現状を打開する方策が見つからない限りは不可能である。

 ここまでを、国連が宣言して、それに伴って、俺の住む国も流石に少々荒れた。


 だが、諸外国では大量の難民と、難民の皮を被った略奪者と侵略者によって荒れ、どちらに非があるが、どちらが被害者なのかは別として、ジェノサイドとして扱われるべき案件も大量に発生しているようだ。

 そして、そんな混乱の責任を押し付けようと一部の民衆が暴徒化して指導者層の人間を殺したり、助けてくれた国への侵略をしようとした亡命政府の高官が身内によって粛清されたりと言った流れも起きている。


 で、これは少々特殊な話だが……敗北国の大使館内部や大使館職員の自宅で魔物が発生し、数人だけ殺して魔物が消える、と言う事件もここ数日の間に何件か発生している。

 この件については、恐らくだが大使館の敷地が敗北国の領土として扱われるという話に関係していると思われるが……まあ、敗北した国に権利なんてない、という事なんだろうな。


 なんにせよ、現実世界は非常に荒れている。

 『Scarlet Coal』を今後もマトモにプレイできる国家はかなり限られることになるだろう。

 それはそのまま第二次防衛戦の際には敗北国の増加を招くという事でもあるが……。


「スバル? どうかしたのかしら?」

「いや、色々と予測は出来るが、結局俺が打たないといけない手はゲーム内に限られそうだなと思ってな」

「ああそういう事。まあ、そうでしょうね。私が調べて、関わった範囲だと、ウチの国の政府はかなりマトモな部類だから。私たちみたいな木っ端な一国民が作戦立案、実行、後処理の全てまで一人でこなさなければいけません、なんて事にはならないと思うわ」

「それはいい事だな」

「そうね。いい事よ。情報統制もヘイトコントロールも上手くいっているみたいだしね」

 まあ、特別に何か出来る事はないな。

 怠けでも、自虐でも、他のなんでもなく、俺はただの一国民なわけだし。

 俺を大局的にはどう使うかを考えるかは、俺より上の人間であって、俺じゃない。

 俺に出来るのは、与えられた役目をこなしつつ、殴りたいと思った相手を合法的に全力でぶん殴るくらいだ。


「さて、現地に到着するまでもう少しかかるんだよな?」

「ええ、車で二時間と言うところね。到着するまで寝ててもいいと思うわ。ああでも、ミスリルと普通の銀の違いをまとめている私に協力してくれてもいいけど?」

「そこはもう話をしたから、俺は寝る」

「じゃあ、お休みなさい」

 なお、先述の通りに今の『昴』はミスリル・電撃製である。

 そして、それが現実に出てきた時に、何処からかそれを嗅ぎつけたヤスコは銀の塊を持ってきた。

 で、両者を俺に叩かせ、俺の感覚に基づく両者の違いを調べ、言わせ、書き記したのである。

 今はそれを読みやすく、分かり易いようにまとめ直しているらしい。


 ちなみに同様の事は琥珀や銅でもやらされた。

 引っ越し作業の隙間時間にやらされたので、中々に面倒だったのは此処だけの話である。


 ま、何にせよ到着までもう暫く。

 俺は目を瞑り、眠ることにした。

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― 新着の感想 ―
[一言] “ミスリルで構成された昴”これがフレーバーで“現実に存在していなかった”って書かれた理由かよ!
[一言] 物質の組成を調べる機械みたいな仕事してるなぁ 金で作って売って呼び戻すのを繰り返す とか古式ゆかしい金策を思い付いたけどやったら刺されそう
[一言] >で、これは少々特殊な話だが……敗北国の大使館内部や大使館職員の自宅で魔物が発生し、数人だけ殺して魔物が消える、と言う事件もここ数日の間に何件か発生している。 きっと敗北国の関係者だけが殺さ…
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