219:幸運を求めよ
「まあ、最初に言った通り、進捗は芳しくありませんわね。私様は第四坑道・ミクヒィカは現在フロア5までしか攻略できていませんわ。ネルはどうですの?」
「……。僕はフロア6まで。運に恵まれたからだけど」
フッセとネルが第四坑道・ミクヒィカのどこまで潜れたことがあるかを告げる。
どちらもフロアの数字だけを見るならかなり潜れているように見えるが……。
「フッセ。そのフロア5ってのは、ソロか? マルチか?」
「マルチですわ。視聴者の方も含めてランダムで募集して、その中で最も良かったのがフロア5まででしたの。ちなみに撤退理由は魔物とハプニングの内容が最悪の場面に遭遇し、撤退するしかなかった感じですわね」
フロア5だと敵のランクは緑限定。
そこで撤退するしかないような状況に追い込まれたのか。
フッセの実力で、フッセが良かったと言えるプレイヤーと組んで。
うーん、聞いた説明以上に第四坑道・ミクヒィカは厳しいらしい。
「もっと正確に言えば、迷路マップ、落盤のハプニング、グリーンヌリカベとか言う耐久と封鎖に特化した魔物の組み合わせだった。のよね、確か」
「ええそうですわ。他の魔物も耐久に優れ、時間稼ぎを得意とする魔物ばかりで、今思い出してみても悪辣極まりない構成でしたわね」
俺はフッセの資料を確認する。
ふむふむ、確かにグリーンヌリカベについて記載されているな。
通路しか存在しない特殊なフロア、迷路状の構造、壁に擬態することで通路を封鎖する魔物、制限時間、なるほどこれは嫌らしい。
俺でもたぶん撤退するしかないだろう。
しかも、ミュミドンバルカンのような攻撃面でのとっておきがあっても対処できないタイプの嫌らしさだ。
しかし、ヌリカベか……。
「なぁ、ヌリカベって妖怪だよな。ゲーム上の扱いはどうなるんだ? 最近は動物系とか色々あるみたいだが」
「その辺は……どうですの? ハンネ」
「検証班での扱いは物質系と幻想系の中間と言うところね。とりあえず第三坑道までは存在しなかった、第四坑道からの新種であることは間違いないわ」
ヌリカベがそうであるように、第四坑道・ミクヒィカには未知の魔物が大量に居る。
と言うか、現状では既知の魔物しか居ないフロアに当たる事は無いと言われるレベルで居る。
プレイヤーによって遭遇出来る魔物に偏りがあるとか、制限があるとかも言われているが、検証班及び有志からの情報提供をまとめると、種類の総数は1000を超える……らしい。
「なるほどですわ。ちなみに他の階もだいたい同じような感じですわね。未知の魔物とハプニングの組み合わせによって撤退するしかなくなったので脱出した。と言うのが、ここ最近の私様の状況ですわ」
「ここで無理せず帰ってきて、色々なマテリアル、設計図、情報をもたらしてくれる辺りが流石のフッセはんよなー」
「そうね。プレイヤーの中には最初から死ぬ気満々で、素潜りをするプレイヤーすら居るってのに」
「おーっほっほっほっ! 褒めても何も出ませんわよー!」
「と言いつつ、和菓子の追加注文ありがとうな」
「……。感謝」
そして、その魔物の中にはヴァンパイアのようにランク不相応に強いと言うか、他の魔物と比較してランク以上に強かったり、面倒な能力持ちの魔物も居るようだ。
そのせいで、浅い層であっても脱出できない状態に追い込まれる事があるらしい。
「あ、そう言えばトビィ。それに他の皆も。これ、ついさっき上がったばかりのホワイトドラゴンの蹂躙画像なんだけど、どう思う?」
「ホワイトドラゴン“による”蹂躙だな、これは」
「鋼製の弾丸が急所でないと通らないと言うのは酷いですわね」
「シールド無しなのに、シールドがあるみたいな耐久力をしとるわ」
「……。僕なら逃げてる」
例えばハンネが今見せているドラゴンなんかがいい例だろう。
どこかのプレイヤーがマルチで潜っている時に遭遇したらしく、ホワイトのランクなのに鋼の弾丸を弾き、鋼のゴーレムを引き裂き、炎のブレスによって溶かしている。
そうしている間に一人目が落ちて、ホワイトドラゴンがランクアップしてパープルドラゴンになり、更に状況は悪化していく、と。
ただ、素が強力過ぎるせいか、ランクアップによる強化幅は他の魔物よりも少な目そうだし……普通の赤の魔物が倒せるなら、青ぐらいまでは何とかなるんじゃないかなぁ?
直接殴ってみないと確証は持てないが。
「しかし、こんなのがうろついている可能性もあるのに、よくネルはフロア6まで行けたな」
「……。最初に言ったとおり、幸運だった。具体的にはフロア4は戦闘無し、フロア5はこっちにメリットのあるハプニングで場違いに強い魔物も居なかった。代わりにフロア6はワイバーンが居て、おまけに露天マップだったから逃げるしかなかったけど」
「それは確かに逃げるしかないな……」
ネルから資料が渡される。
ああうん、これは無理だ。
複数のワイバーンによって、上空から侵食属性っぽい黒い靄のようなブレスが雨のように降り注いできている。
これはもう逃げるしかないな。
「とまあ、こんなわけですので、私様とネルは当面の間は第四坑道・ミクヒィカの情報収集を行いつつ、自己強化に勤しむ予定ですわ。どうにも第四坑道・ミクヒィカからは戦闘に振り切るにせよ、隠密に振り切るにせよ、踏破の為には極めて高い水準を満たす必要があるようなので」
「なるほど。そして、俺がレッドヴァンパイアを倒せれば、その実力でもって助力もしてもらいたい、と」
「……。そういう事」
しかし第四坑道・ミクヒィカ。
これ、ある程度以上の実力を有する上に、相当の幸運を要求されるタイプっぽいな。
下手をすると、数か月単位で攻略者が出てこないこともあり得そうだ。
「さてこれで残すはハンネとリツですわね。二人の進捗はどうですの?」
「じゃあまずは私からで」
「それでええでー」
では次はハンネの進捗状況である。
なお、運だけではどうにもならない模様。
07/21誤字訂正




