216:レッドヴァンパイア反省会
「はああぁぁ……本当になんで勝てねぇんだろうなぁ……」
その日、俺は『Fluoride A』行きつけの店である『蛍石』で個室を借りると、配信を続けた状態でため息をつき、机に突っ伏していた。
「トビィが十日間も勝てないとは相当ですわね」
「本当ね。NPC相手なら、三度目にはだいたい勝っているんだけど」
「しかも、割とガチガチに対策を組んで、この成果なんやろ? 本当にヤバいんやな……」
「……」
部屋にはフッセたち四人も居る。
今日は久しぶりに『Fluoride A』の五人で集まって、ここ最近の進捗について話し合う会を開こうと言う話になったからである。
で、その会の開幕に俺は十日間、集図坑道・ログボナスでレッドヴァンパイアを選択するも勝てなかったことを報告したのである。
「……。少し真面目に検討会と言うか、どうしたらいいかを話し合うのが、全体にとって効率がいい動きだと思う」
「と言うより、このままだと、何処かの防衛戦でレッドヴァンパイアが出てきた時点で莫大な被害が出るという話になりそうよね。私じゃ対応できないわよ」
「そうですわね。ログを見る限り、集団で挑めば対応できる。と言うタイプでも無いようですし、このままだと確かに拙いと思いますわ」
「せやなぁ。赤の魔物は総じてヤバい連中ばかりって話はウチの方にも入って来とるけど、ヴァンパイアは明らかに別格やで」
「助かる」
そして、この事態を受けてネル、ハンネ、フッセ、リツの四人は真面目に対策を練ってくれる話になった。
まあ、きちんと対策をした俺が勝てない時点で、スコ82に居るプレイヤーの半分……いや、下手したら8割は蹂躙されるだけになるだろうからなぁ。
第二次防衛戦の類がある可能性を考えたら、確かにここらで真面目に考えるべきかもしれない。
「ティガ。とりあえず此処十日間の戦闘ログを改めて開示してくれ」
「ブン。分かりました」
まず大前提としてヴァンパイア種は素のスペックがとにかく高い。
レッドヴァンパイア相手だと……。
攻撃面では、鉄のマテリアルで作ったシールドでは、一発攻撃が直撃すれば消滅。
防御面では、弱点を突かなければ碌にダメージが通らない。
速度面では、同格の素早い魔物たちに並ぶし、飛行能力もあるので立体的に飛び回る。
で、此処にシールド吸収能力に、心臓を潰されなければ再生する身体に、亜人らしく武器を扱う能力を持つ。
「あら、トビィ。黄色と橙を倒している日もありますのね」
「流石に対策込みで負けた日の次からは、先に下のランクから試す事にしたんだよ。問題なく勝てたけどな」
「……。効率的な判断」
「ああ、検証班のwiki情報の出所ってこれやったんやな」
「トビィ専属の検証班が居るらしいわよ。噂だけど」
だけでなく、黄色のランクからはピンチになると小型の蝙蝠の姿に変身し、シールドがある程度回復するまで回避主体で動き回ってくるようになるのだ。
この逃亡モードのせいで、イエローヴァンパイア戦は酷い鬼ごっこになった。
そして、そういうモードが存在すると分かっていたオレンジヴァンパイア戦では、逃げる事を封じるように戦ったら、逃げないで向かってきたので、本当に厄介な話である。
「……。とりあえず現状で勝つためには相手の選別は必須だと思う」
「やっぱりそうなりそうか……赤のランクの強化は酷いからな……」
「赤のランクの強化が酷いと言うより、ヴァンパイア種とのシナジーが酷い。と言うべきな気がしますわ」
で、素のスペックがひどいのに、赤のランクになると追加のランダム強化が入ってくるのがスコ82の魔物である。
ただ、検証班やプロゲーマーたちのおかげで、ランダムと言っても赤のランクの内は4種類の中から1つの強化項目が適用されるだけと言うのが、此処十日間のうちに分かっている。
「そうなると狙い目は……攻撃と防御かしら?」
「せやろな。トビィはんなら、その二つならまだ対応できそうな気がするで」
具体的には、攻撃、防御、シールド回復量、速度の四項目から一つだ。
この中から俺にとって都合がいいのは、ハンネの言うとおりに攻撃と防御だろう。
と言うのもだ。
攻撃はどの道直撃を受ければ一発。
防御は弱点を突く前提なので、そこまで影響は出ない。
シールド回復量は自然回復も吸収量も増えるので、手に負えなくなる。
速度はもはや論外で、自分が撃った矢玉に追いついて、格ゲーみたいなコンボを決められることになる、と言うか一戦目がそうである。
と言う事になっているからである。
「……。ランダム強化もだけど、武装も絞るべき。現状だと銃器と弓持ちはどうしようもない」
「一人面制圧からの即死コンボはエグイわよねぇ」
「格闘ゲームみたいにゴーレムが飛んどるもんなぁ」
「何が酷いって、トビィで無かったら、もっと酷い事になりそうな点ですわよね」
「まあ、近接武器のが対処できるのは事実だな」
レッドヴァンパイアの武装は大別すると4パターン。
連射が利くタイプの銃器、同時に何本も射れる強弓、剣や槍と言った一般的な近接武器、鉤爪あるいは敢えての素手と言う近接格闘。
でまあ、ネルの言う通り、前者は対応できず、後者は速度上昇の強化が入って無ければ一応対応できるというところか。
「これで相手の情報はだいたい全部か」
「そうですわね。これでだいたいだと思いますわ」
さて、問題は此処からどうしていくかだが……まあ、悩ましいところだな。
「これで赤のランクで無いと落とさないパーツの存在が明らかになっていなければ、ランクダウン攻撃も視野に入るのにね」
「それは言ったらアカン奴やろ。ハンネはん」
「……。それは赤で倒せるなら非効率だから。無しの方向で」
「まあ、普通の坑道で会ったなら有りじゃないか? 俺だってそうする」
「アレ、一発の消費がとても重いんですわよね……」
なお、ランクダウン効果を持つ特殊弾が存在している事も確認されている。
なので、俺以外がレッドヴァンパイアとやり合う時には、使用も考慮に入れていいだろう。
が、俺が倒したいのは赤のランクの魔物なので、それはなしで行くとしよう。
余談ですが。
集図坑道・ログボナスも探索モードマルチで入れますし、その場合は一日一回の潜る権利はリーダーの分だけ消費されます。
しかし、設計図が手に入るのもリーダーだけなので、戦闘が楽になるだけだったりします。
なお、レッドヴァンパイア相手に複数人で挑むと、よほどの手練れでなければむしろ戦況は悪化する模様。




