215:質問会
「さて、質問会だが……」
夜。
俺は『Fluoride A』行きつけの店である『蛍石』で個室を借りると、昨日の第三坑道・アルメコウの配信を流し始める。
「先に言っておくぞ。リアル周りの話は基本的に無しだ。質問はゲーム関係のみで、どの質問に答えるかは俺が勝手に決める。質問でない上に荒らしと判断した奴は一発退場。覚えておけ」
そしてコメント欄を開く。
あー……うん、コメント欄の動きがかなり速いな。
これ、俺の目だと追いきれないな。
「ティガ。選別頼む」
「ブン。ブブ!? いえ、頼まれたからにはやりますが」
と言う訳で、質問を選ぶ役はティガに任せる事にする。
普段の配信でも時々コメントを拾っているようだし、たぶん大丈夫だろう。
「後は……ああ、来たか」
「来たわよ。トビィ」
そしてティガが質問の選別をしている間に、ハンネが部屋の中に入ってくる。
ハンネ曰く、トビィへの質問であれば、その一部は私にも関わってくるので、一緒に居たいとの事だった。
まあ、俺だと答えづらい質問も、ハンネならあっさり答えられるパターンもあるだろうし、居ても問題はないだろう。
「トビィ。質問の選別がある程度できました」
「分かった。じゃあ、答えていくか」
では、答えていくとしよう。
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Q1:トビィ嬢はどうしてそんなに殴る事が好きなのですか?
「どうしても何も生まれつきだしな……子供のころから殴るのが好きだったとしか言いようがない」
「耽溺、依存症、そういう類のものよね。私もそうだけど」
Q2:どうしてトビィはあれほど自由自在にゴーレムを操れるのですか?
「慣れ。いやハンネ、これについてはこうとしか……あー、出来ないと思わず、何が出来るかを実験して、それに従って行動している感じだな」
Q3:なんでマテリアルタワーや魔物を殴っただけで色々と分かるのですか?
「な……いや、これこそ慣れなんだけどな。それまでに殴ったものがあるものの感触とかを記憶しておいて、それとすり合わせて、なんて理屈は付けられるが、結局のところは慣れだぞ、慣れ」
Q4:トビィ嬢とハンネの関係性は?
「これはリアル関係になるんじゃ……まあ、答えるか。友人だな。何年か前から付き合いがあって、時々一緒にゲームをやっている感じだな。あ、スコ82もハンネからの誘いで始めた奴だ」
「私が誘いました。後、私が呼び捨てなのはどういう事かしらね?」
Q5:友人、選んだ方がいいのでは?
「ティガ?」
「ブブ。何故か紛れ込んでいたようです」
「Q5の質問者は覚悟しておくように」
Q6:トビィの一人称はどうして俺なの?
「こっちの方が喧嘩を売られやすいからだな。別に拘りは無いから……何だこの衣装と台本……いや、やらないからな。何処のかは知らないが、高校生の制服を着ていたのはもう何年も前の話だからな?」
Q7:殴った相手の事はどれぐらい分かるの?
「どれぐらいと言われると困るな……。その時の調子や相手の構成物質なんかにもよるし……」
「トビィ。虹蜂の動作は何秒くらい先まで読めてたの?」
「それなら5秒先くらいまでは読めてたな。とは言え、遠ければ遠いほどに精度は落ちるが」
「はい。こういうレベルらしいわ」
Q8:第一次防衛戦で得た『マレディクタス』って称号はどうして得られたの?
「ノーコメント」
「まあ、そうよね」
Q9:第一次防衛戦のラストで呟いていたのは何?
「あれは昔教わった心構えとかこうあるべきって話だな。一種の哲学でもあるのかも」
「ふうん。ちなみに誰から教わったの?」
「昔、近所に居た爺さんだな。他にも基本的な体術とか、体の鍛え方とか、そういう基礎的な部分を習った。あー、思い出補正も入っているかもだが、俺より強いと言うか……武器を用意して、遠距離型じゃない相手を吟味すれば、俺が昼にやられたレッドヴァンパイアを生身で狩れるんじゃないか?」
「……。それは人間なの?」
「ブブ……。人間ですか、それは?」
「正直、あの爺さんについては人間じゃなくても驚かないな。むしろ安心する。ちなみに今何処に居るかは知らない。フラッと現れて当たり前のように行方知れずになったからな」
Q10:『Fluoride A』についてはどう思いますか?
「理想の職場。ここまで好き勝手する事を許してくれる環境もそうないだろ」
「本音は?」
「え、今のが普通に本音なんだが。と言うかどうしてそこでさらなる追求をしてくるんだ?」
「なんか虹蜂関係で搾取疑惑がネットの一部から出ているらしいのよ。だからまあ一応」
「それだと、俺が何か言うのは、どう言っても逆効果じゃないか? あー、それでも敢えて口にするならだ。搾取されているのはむしろ『Fluoride A』の方だろ。俺なんかを雇ったせいで、色々トラブルを抱えていそうだし」
Q11:『Fluoride A』は何があってもフッセお嬢様とトビィ嬢を応援しています。ハンネ様も頑張ってください。
「ティガ。これ質問じゃない。あ、『Fluoride A』のサポートメイドさんたちはいつもありがとうございます」
「ブン。質問ではありません。が、その、割り込まれましたので」
「実際、『Fluoride A』の人たちを裏切る気にはならないのよね。いい人たちだから」
Q12:某ファンタジー戦争ゲームでトビィと言う名前のプレイヤーにアンブッシュされたことがあるんだけど、同一人物?
「ん? アレの話か?」
「アレの話でしょうね。私が作戦を立案して、トビィが実行した奴。100人くらい殴り倒したんだったかしら?」
「正確な数までは覚えてないが……ああ、もしかしたら同一人物かもな。あの時の誰かなら、スコ82でもやり合おうか」
Q13:プロゲーマーにならないの?
「なる気はないな。俺は癖が強すぎるから、『Fluoride A』以外に居場所があるとは思えない」
「ティガ? と言うか運営?」
「ブーン。その、あまりにも同種の質問が多かったので……」
「ハンネ。ティガは俺のサポートAIだから手を出すのは無しだぞ」
Q14:明日以降はどうするの? 第四坑道?
「とりあえずは集図坑道・ログボナスでレッドヴァンパイアを安定的に狩れるようになることだな。第四坑道は厳しいと聞いているから、それが出来てからでいいだろ。他は……第三坑道・アルメコウでマテリアルと設計図、第二坑道・ケンカラシで緋炭石集めだろうな」
Q15:トップ勢になることに興味はないの?
「トップになる事への興味は別にないな。実力が上の方が殴り甲斐がある場合が多いから、そういう意味で興味はあるが」
「基本的にトビィは殴る事にしか興味が無いと覚えておいていいわよ。他の武器を使うのも、殴れる状況に持って行くためか、自分の欲求を一時的に抑え込んででもしないといけない状況のどっちかだし」
Q16:来月、PvP大会が開かれるとまことしやかに囁かれていますが、何か知っていますか?
「何も知らないな」
「私も知らないわね」
「ブブ。公式からはそのような通達はありませんね」
Q17:運営や開発について何か知ってますか?
「運営が政府なくらいしか知らないな」
Q18:虹蜂戦での立ち回りで意識した事について教えてください。
「分かった。これは映像を見ながらやっていくか」
「そうね。それがいいんじゃないかしら」
「ブン。では流しますね」
……
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「だいたいこんなところか?」
「そうね。こんなところじゃないかしら」
「ブン。お疲れ様です」
その後も幾つかの細かい質問が続き、質問会は無事に終了となった。
いやはや、この質問会と言うのは……疲れるな。
質問の数が数だったせいか、時々変な質問も紛れ込んでいたしな。
「しかし、どうしてこんなに質問が集中したんだ?」
「そりゃあねぇ……」
「ブブ。トビィ。それは当然かと」
「と言うと?」
なお、俺は知らなかったのだが、虹蜂をソロかつ初見で倒したようなプレイヤーは、今現在だと俺以外には存在しないらしい。
それならば、騒ぎになるのもまあ、仕方がない事なのかもしれないな。
そんな事を考えつつも配信を終了し、俺はログアウトした。




